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【ニンドリ10月号 連動企画】サイバーコネクトツー松山洋社長インタビュー『戦場のフーガ』誕生秘話

福岡のゲーム開発会社・サイバーコネクトツーの初自社パブリッシングソフトとして、2021年7月29日に全世界同時に発売されたシミュレーションRPG『戦場のフーガ』。その続編である『戦場のフーガ2』が、2023年に発売されることが決定しました。
ニンテンドードリーム10月号では、そんな『戦場のフーガ』と『戦場のフーガ2』の製作総指揮を務めている、松山洋社長にインタビューを掲載。NDWでは、本誌に載せきれなかった『戦場のフーガ』誕生秘話をお届けします。

イバーコネクトツー代表取締役 松山洋さん
福岡を代表するゲーム開発会社・サイバーコネクトツー社長。愛称は「ぴろし」。開発タイトル代表作は『.hack』シリーズ、『NARUTO -ナルト- ナルティメット』シリーズ、『Solatorobo それからCODAへ』『ドラゴンボールZ KAKAROT』『戦場のフーガ』『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル R』などがある。
Twitter:@PIROSHI_CC2

 


サイバーコネクトツーの昔と今

ーー サイバーコネクトツー(以下CC2)は、プレイステーション(以下「PS」)向けにゲームを多く作っている印象がありました。まずはそのあたりの事情から伺わせてください。

松山 当時『NARUTO -ナルト- ナルティメット』シリーズの版元から「任天堂ハードはトミー」「PSハードはバンダイ」というように、プラットフォームが分かれていたんですよ。だからCC2が作る『NARUTO -ナルト-』のゲームはPS向けだったので、なかなか任天堂ハード向けに展開ができなかったんです。

―― ニンテンドーDSの『Solatorobo それからCODAへ』(以下『ソラトロボ』)が任天堂ハード初タイトルでしたっけ?

↑ニンテンドーDSで発売された『ソラトロボ』のメインビジュアル

松山 そうですね。今は版権ゲームのプラットフォームの指定とかはないですし、現在のCC2開発タイトルは基本的にワールドワイドのスーパーマルチで開発しています。

―― ここ最近は『ドラゴンボールZ KAKAROT』や『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』といったタイトルを開発されていますね。やはりCC2は「少年漫画を題材にしたゲームを開発する会社」というイメージが強いですね。

松山 CC2は設立以来、PS向けに『テイルコンチェルト』や『サイレントボマー』、そしてPS2向けに『.hack』シリーズという、オリジナルIPをゼロからシステム・脚本・世界観など全部自分たちで組み上げるという作りがもともとの源流にあります。私がCC2の社長になる前、最初の4年間は「サイバーコネクト」だったんです。その時は同級生が社長をやっていて、私はいちアーティストでした。『テイルコンチェルト』『サイレントボマー』を作り終え、いよいよ『.hack』を作るぞという時に社長が失踪してしまって…。その時、私が代表になり、会社もCC2にして、いちアーティストから代表ディレクターになって、『.hack』や『NARUTO -ナルト- ナルティメット』シリーズを作っていきました。ですので、CC2になった時が弊社の転換期だったんです。

―― 新社長になった松山さんはどうしていこうと考えたのでしょうか?

松山 もう新しい戦略を打ち立てるしかなかったですね。今から20年以上前、当時のゲーム業界を4年間アーティストとして見ていましたが、間違いないと思ったのは「自分たちの最も得意な必殺技で勝負」をすることです。これがエンタメの真髄だなと感じたんですよ。

―― 「得意な必殺技」ですか。

松山 はい。ふと考えた時に、CC2って設立当初のメンバーもそうだったんですけど、「少年ジャンプ」を含めて漫画が大好きなんです。ゲームクリエイターがゲームを見ながらゲーム作ったってしょうがないじゃないですか(笑)。もちろん勉強しますし、たくさん遊びますけど、やっぱり私が一番好きなのは漫画です。次に映画やアニメときて、4番目ぐらいにゲームです。

―― 意外にもゲームは4番目なんですね。

松山 日常で使っている時間を考えると、やっぱりそうなりますね。だったら私自身が持っている一番得意な漫画の領域展開、これで商品を作っていくべきだなと思いました。今でもCC2という会社は、お預かりしているIPとオリジナルの両方がありますけど、どっちも共通しているのは漫画とアニメです。やっぱりここに源流があって、これをやっぱり漫画みたりアニメみたりしながら「これをゲームで動かしたらすごくね?」というようなところから、インスピレーションを受けてものを作っています。それはお預かりしているIPでもオリジナルでも変わってないです。そこを中心に仕事をするって決めてから、ある意味CC2の会社の色になって、スタジオ的にも軌道に乗ったかなと私は感じています。

―― 松山さんたちが推すケモノ世界(イヌヒト・ネコヒト)の魅力について聞かせてください。

松山 前身のサイバーコネクト時代の一番最初に手がけた『テイルコンチェルト』という、イヌヒト・ネコヒトが暮らす世界でアクションアドベンチャーを作りました。あの当時、3Dポリゴンである一定の世界を自由に冒険するゲームは、まだ少なかった時代です。時期的にはまだスーパーファミコンの延長線上で、『鉄拳』や『バーチャファイター』など3D対戦格闘ゲームが大流行していた頃です。我々が開発を始めた頃、任天堂さんからNINTENDO 64で『スーパーマリオ64』が発売されまして。

―― 1996年6月に発売された、箱庭探索型ゲームの元祖ですね。(下記リンクはCC2開発者がプレイする動画です)
Part 1/3「全クリするまで帰れニャい!『テイルコンチェルト』開発者生放送」 – YouTube

松山 当時もいろんな会社から3Dアクションゲームが作られていましたけど、みんなわからないなりに一生懸命作っていましたよね。我々の認識もそうだし、業界の認識も『スーパーマリオ64』が出る前と出た後で大きく変わったと思います。「技術的特異点」というシンギュラリティという言葉があると思うんですけども、それが起きたのってやっぱり任天堂さんなんですよね。

―― 『スーパーマリオ64』は作り手も遊び手も大きな影響受けたタイトルですね。
松山 3Dアクションゲームの金字塔、お手本のようなタイトルになったのが『スーパーマリオ64』ですよね。今でこそ左スティックでキャラクターを動かして、右スティックでカメラ操作というのは当たり前ですけど、当時のPSにはアナログスティックすらなかったですからね。

―― 家庭用ゲーム機でアナログスティックを採用したのはNINTENDO 64でした。

松山 『スーパーマリオ64』のカメラは、プレイヤーの行動で動きに合わせて自動的に追いかけてくる仕組みですよね。我々が『テイルコンチェルト』を作っている最中は、横にNINTENDO 64と『スーパーマリオ64』を置いて、研究しながら作っていたんですよ(笑)。

―― えっ、そうだったんですか!

松山 発売元のバンダイ(現:バンダイナムコエンターテインメント)からも期待されていましたね。「『スーパーマリオ64』のような3Dアクションゲームが作れるなんて」って(笑)。私たちも売れると思って、全世界で15万本ぐらい販売されました。売れてないとは言わないですけど…期待値は30万本ぐらいでした(苦笑)。時間を掛けて、『スーパーマリオ64』を研究して、「ゲームとドラマの融合」がその時に我々がやるべき「少年漫画の文法」がカチリと決まりました。

―― 松山さんの少年漫画愛も活かして。

松山 ドラマを少年漫画として楽しむだけだったらそれは漫画でいいじゃないですか? 漫画の熱量とゲームシステムが一つになった時に、新しいゲームエンタメが作れるんだと思いました。CC2のゲーム作りって今もそれが目標で、どのタイトルもそこをテーマに作っています。『テイルコンチェルト』は、ドラマとゲームの融合というものを果たすことができた最初のタイトルだと思ってるんですよ。

―― その『テイルコンチェルト』を開発していた時、一番苦労されたことは?

松山 ゲーム開発をもう26~27年近くやってますけど、それは「全部」なんですよ。ぜんぶ全力で作るので。頼まれて作ったことは一度もないんです。全部自分たちで「これで世界を変えようぜ!」って作ってきているので、すべて戦略タイトルなんです。でも、1本思い入れのあるタイトルを選んでって言われたら、やっぱり『テイルコンチェルト』になるわけですよ。

―― やっぱり一番最初に作ったゲームが思い入れ深くなっちゃいますよね。

松山 サイバーコネクトの始まりのタイトルですし、自分たちで生み出した世界観にはこだわりがありますね。大ヒットではなくて中ヒットですね、っていう状態で、あの『テイルコンチェルト』の世界をあのまま終わらせたくない気持ちがあって。開発が終わってすぐに私は新しい企画書を作ったのですが、そこには「リトルテイルブロンクス」って書いたんです。

―― それはどんな内容だったんですか?

松山 『テイルコンチェルト』から始まるあのケモノの世界観、これを同一世界観とみなして、その数年後を描いた『テイルコンチェルト2』だったり、全く別の大陸で起きている冒険と主人公というものを『ソラトロボ』と呼んだりという感じです。

―― なるほど。

松山 そして時間軸は違いますけれども、そこにも『戦場のフーガ』があります。この3タイトルは、全部同一世界観の「リトルテイルブロンクス」という世界観の上に成り立っているんですが、その時に構想として作ったんです。何度も当時のバンダイに『テイルコンチェルト2』の提案をさせていただいたんですけど、当時の担当者からは「中ヒット企画の続編も持ってきてどうするんだ」と言われて。

―― パブリッシャーの立場から見たら、そういわれますよね(苦笑)。

松山 少なくともそれは『テイルコンチェルト2』じゃないよって。「それよりも漫画作品のゲームを作れ!」って言われました(笑)。それを断って「ちゃんとひとつ実績を作ります!」って言って生み出したのが『.hack』なんですよ。『.hack』も結局完成までに3年以上掛ったんですけど、全4巻で面白い仕掛けをいろいろやって話題になって、お陰様で大ヒットと言えるものになったんです。

―― 『.hack』はTVアニメ版も放送されたのを覚えています。(※シリーズ展開の経歴は公式サイトをご覧くださいね)

松山 その大ヒットの実績をもって、いよいよIPを預からせていただきます! ということで『NARUTO -ナルト-』のゲームを手掛けさせていただくことになりました。それからCC2は『.hack』と『NARUTO -ナルト- ナルティメット』シリーズのゲーム会社という印象が出来たのかなと思います。

―― CC2は今見てもそのイメージが強いですね。

松山 それでもずっと「リトルテイルブロンクス」の新作を虎視眈々と狙っていました(笑)。結局『ソラトロボ』を発売するのには10年掛かりました。

―― 発売されたのが2010年10月28日でしたね。

松山 当時バンダイナムコゲームス(現:バンダイナムコエンターテインメント)の副社長だった鵜之澤伸さん(※1)に企画書を持って行ったのですが、「いらない」って言われました(苦笑)。

※1 1981年バンダイ入社。元バンダイナムコゲームス代表取締役社長

―― 鵜之澤さんは、はっきり物を言うタイプの経営者ですもんね。

松山 「『.hack』と『NARUTO-ナルト-』のゲームで売れた会社が次にやりたいって持ってくる企画じゃないんだよ!」「次にお前らが持ってくるのは『ドラゴンボール』の企画だろう!」って突き返されました。

―― 20年前に『ドラゴンボール』のゲームって言われたんですか!?(※2)

※2 当時PS2やPS3などで『ドラゴンボール』のゲームを主に作っていたのは、ディンプスやスパイク(現:スパイク・チュンソフト)など。CC2が『ドラゴンボール』のゲームを初めて作ったのは、2020年1月16日発売の『ドラゴンボールZ KAKAROT』(PS4/Xbox One)。2021年9月22日にはSwitch版が発売されました

松山 そう言われたんですけど…、私たちは『ソラトロボ』をニンテンドーDSで作りたかったんですよ! バンダイナムコに断られたから、任天堂さんの所に行ったんです。

ーー それが初めての任天堂訪問になったんですね。

松山 CC2はPS向けゲーム会社のイメージがあるかもれないですが、全然そんなことないですし、むしろニンテンドーDSでやりたいんですよ! …って話をしに行ったんです。そしたら任天堂さんからも驚かれて。

―― まぁ…それはビックリしますよね(笑)。

松山 「すごく壮大なオリジナル作で、しかもDSに特化した内容になっているのでいいですね。…でもバンダイナムコさんは大丈夫ですか?」って。そしたら案の定ですけど、任天堂さんからバンダイナムコの鵜之澤さんのところへ話が行き「サイバーコネクトツーさんが来て、ロボットとケモノのゲーム企画を持ってきたんですけど」って報告がいって。

―― そうしたら?

松山 鵜之澤さんはブチギレて、副社長室にすぐ呼び出されて「お前ね〜、そういうことはするな!」って言われました。そして「いいよ、やらしてやる。その代わり、オリジナルIPの時代じゃないから、予算はこれだけしか出さないよ。」…って言ってくれたんです。

―― そんな経緯で『ソラトロボ』が誕生したんですね。

松山 バンダイナムコから見れば、「お預かりしているIPでまともにゲームを作れない会社がオリジナルを作るな!」って言いたいんですね。『.hack』は売れたからやっていいと言われましたが「そんなにオリジナルIPをポンポン生み出すもんじゃない」って。

―― バンダイはもともとおもちゃの会社で、IP商品を作って売る玩具会社ですもんね。
松山 「オリジナルをゼロから提案するなんて10年早い!」って。だいぶお叱りを受けながらも、結果的には『ソラトロボ』はやらせいただけて、限られた予算は1年分しかなかったんですけど、完成までに3年掛かりました。2年分は自分たちの資金を持ち出しで作りました。

―― そうだったんですか!

松山 ここまで準備と時間をたっぷり掛けたので、もう諦められないわけです。『テイルコンチェルト』から数えて10年分の思いがあるので、ある種の呪いのような思いで『ソラトロボ』を作り上げ、自分たちの中ではこれ以上の物にはならない最高のソフトを作り上げました。鵜之澤さんがGOを出してくれたから無事発売されましたけど、「スケジュールは守らない、予算は守らない、言ってた内容と全然違うじゃないか!好き勝手やりやがって!!」って言われました(笑)。

―― 鵜之澤さんの懐の大きさに助けられたんですね。

松山 その分、内容はスゲーと言ってくれましたね。バンダイナムコとしてもそれなり以上の宣伝費をかけて、TVCMを100本作って「8時間で100本100通りのCM放送」でギネス世界記録に認定されました。ヨーロッパでは任天堂で販売を行いましょうとも言われて、すごくタイトルにとってのポジティブな提案を出してくれました。

↑当時のTVCMはバンダイナムコエンターテインメントのYouTubeで現在も100本すべて見ることが出来ます

―― 欧州では任天堂から発売されたんですね。

松山 そうです。先日、3年ぶりにフランスで開催された「JAPAN EXPO 2022」(※)に行ったんですけど、今でも『ソラトロボ』のパッケージ版を会場に持ってきてくれたファンがいて、サインをくださいって言われました。今回は『戦場のフーガ』のプロモーションで出展したのですが、『戦場のフーガ』はダウンロード専用ソフトでパッケージがないから、弊社がサインシートを用意して、それにサインを書かせていただきました。フランスは戦略的な拠点としつつ、ヨーロッパ全域にもう少し広げていければなというふうに考えております。
※ 日本と日本文化に恋する人たちが一堂に会するフランスのイベント。2022年は3年ぶりの開催で7月14日~17日にパリで行われました。

―― そして、『ソラトロボ』発売から10年経った2021年7月29日に『戦場のフーガ』が発売されたんですね。

松山 まさに10年に1本かよって状態ですね(笑)。だけど今回大きく違うのは自社開発・自社パブリッシングでやっていくので、続編がまた10年後ということにはなりません。そこだけはご安心ください(笑)。

『戦場のフーガ』が誕生するまで

ーー そんな『戦場のフーガ』が誕生の経緯についてお聞かせください。

↑『戦場のフーガ』1作目のメインビジュアルは結城信輝さんによるもの

 

松山 CC2は現在27年目の会社です。今から6年前、設立20周年を迎えた時に、業界が大きく変わった時期でした。もっとはっきり言うと、インターネットの普及とゲーム機のネット接続率が上がったことです。

―― ダウンロードソフトの販売や購入が当たり前になってきたってことですね。

松山 例えばPS2時代(2002年)って、インターネットに繋げている人ってだいたいは『ファイナルファンタジーXI』を遊んでるけど、そうでない人はオフラインでゲームを遊んでいたと思います。そしてそれから10年経った2010年代(Wii/Wii U、PS3/PS4の頃)になってようやくゲーム機にインターネットに接続するのが当たり前の時代になりました。

―― 任天堂ハードではSwitchの時代になってから、一気にデジタル販売が加速した印象があります。

松山 昔のゲーム市場ってパッケージ販売しかなかったので、日本で作って、それをアメリカやヨーロッパやアジアに持っていって売るといっても、自分たちで直接は売れなかったんですよね。販社に商品を売ってもらうことをディストリビューターっていうんですけど、当たり前ですが日本で自分たちが直接売るのと、海外で販社に売ってもらうのでは利益率が明らかに違うんです。だから薄利多売になっちゃうんですよね。

―― 販社の彼らも数を売らないと利益が上がらないですし。

松山 なので、我々の規模の会社がパッケージソフトを自社パブリッシングでやるにしても、力量に見合わない状態だったんです。それがダウンロード販売で世界中にソフトを売ることが出来るようになると、日本に居ながら世界でソフトが売れるパブリッシャーになれるんですよ。

―― ここ5~10年でゲーム業界が大きく変わったことですね。

松山 そしてお客様がゲームをダウンロード購入して遊ぶということを覚えていただいたので、世の中が大きく変わりました。もう1点は、CC2自体の変化ですね。弊社は設立20年を迎え、『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズやバンダイナムコさんのおかげなんですけど、世界中で「CC2といえばこれだよね!」って言ってもらえるような存在感のあるタイトルが、いくつも作れるようになってきたことです。『.hack』『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズ、『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトルR』『ドラゴンボールZ KAKAROT』、アニプレックスさんとでは『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』、そしてカプコンさんとやった『アスラズ ラース』など、どれも一定の存在感がありますよね。

―― 確かに。

松山 いわゆる固定ファンがちゃんと付くようになってきたので、我々が直接物を作ってお客様に届けるタイミングって、もう準備はできたんじゃないかって思ったんです。なので自社パブリッシングタイトルをこれから作っていきましょうと、CC2のゼロから生み出す世界観の中で、また勝負をしていき、改めて世界のゲームファンに対して「CC2はこういうもので勝負をしたいと思っている!」というのをちゃんと提案しようとしました。

―― それが『戦場のフーガ』の1作目だったんですね。

松山 本当は私が1から10まで全部やる予定じゃなかったんです。若手を育てる意味でも、社内で企画のコンぺをいっぱいやりました。100以上ある企画案の中から、いろんなクリエイターの観点でまず10本に絞り、その中から1本目としてCC2の自社初パブリッシングタイトルにするタイトルを決めようってしたんですが…。

―― 何かマズいことがあったんですか?

松山 ちょっと恥ずかしい話なんですけど、CC2はある種の病に掛かっていて。みんなが挙げてきた企画というのが、どれも予算が10億~20億規模の内容だったんです(苦笑)。

―― 今までの感覚で大作志向になっちゃっていたんですね。

松山 バカなの? って(笑)。今回は自社でやるんだから大予算は使えない代わりに、一方向に尖った戦略的なタイトルで勝負するって言ったのにね。

―― 近年は開発規模が2~3年掛かるタイトルが多かったですし。

松山 『ソラトロボ』以降、少人数で1年~1年半ぐらいの開発期間でスマッシュヒットがちゃんと狙えるタイトル作りを社内スタッフに体験させてなかったのも大きいです。これは私自身が企画して、お手本を示すしかないと思いました。小規模の企画の作り方を学べば、あとはみんなに任せていけるかなってことで、1本目の企画は私がやるよって。

―― それで『戦場のフーガ』が誕生することになるんですね。

松山 そうです。CC2がゼロからまた新しいこと始めるなら、やっぱり一番最初に作った『テイルコンチェルト』や、世界観を共有する『ソラトロボ』に連なる「リトルテイルブロンクス」の世界で勝負したいって気持ちがありました。今回はどうしてもそれは外せなくて。

―― ある意味、CC2の原点回帰でもありますね。

松山 イヌヒトとネコヒトの子どもたちが暮らす世界、そこは戦争中。悪い敵国の軍人が攻めてきて、大人の家族はさらわれ、子どもたちだけは逃げます。困って山の中に行ったら、そこには遺跡があって。その中にはよくわからない古代戦車があり、子どもたちは戦う力はないけど、その古代戦車に乗って戦車の中で洗濯をしたりご飯を食べたりと、衣食住をやりながら旅をして敵と戦いながら冒険していきます。ただ、その戦車にはとんでもない兵器が1個あって、そこで命のジレンマを持った状態で進むRPG。とんがった企画ってこういう風に作るんだよって言いました。

―― 製品版『戦場のフーガ』の内容まんまですね!

松山 はい(笑)。とんがった企画の作り方ってこういうことだよって言った所から作り始めたんですけど、それはある種の骨子になり、最後まで変わらず『戦場のフーガ』は制作することができました。ですが…、全部順風満帆とはいかず、開発期間は1年~1年半で作り、予算も限られているって言ったのに、結局完成まで3年掛かってしまいました。また完成まで3年掛かっているのかよ! って(笑)。

―― 丁度その頃CC2は『ドラゴンボールZ KAKAROT』や『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』を開発していた時期でしょうね。

松山 そうなんです。結局予算も時間も想定の2倍以上掛ってしまいました。作り始めたはいいけど、若いスタッフも入れたということもあって、小規模タイトルの作り方を学び直しながらの開発だったんで、なかなかうまく形にならずに何回も作り直しました(苦笑)。予算とスケジュールはゲーム開発において絶対守るべきなんですけど、開発期限がきたから完成度が低い、予算が尽きたのでその時点で完成って言うんだったら、ゲーム業界で生きるのをやめろって話です。私の社長としての悪い癖が出ちゃいまして、「金と時間は俺が何とかしてやる。だから作れ!」って言いました。

―― カッコいい…!

松山

松山 「もうこれ以上1円もお金を出せないって言ってたのに!」って、スタッフに思われているかもしれませんね(笑)。みんなが「いいんだったらやりましょうよ」、と。3年近く時間を掛けて出来たのが『戦場のフーガ』です。今の我々が持ちうる26年分の力を結集した、最高のタイトルができたなと思っています。私も開発後半のデバッグやパラメータ調整まで、全部やりましたから。「とんでもなくおもろいものができたぞ!」と、武者震いのような感覚でテストプレイをしました。

―― ちなみにタイトルの「フーガ」に込めた意味や理由について教えてください。

松山 ご承知のとおり、実は「フーガ」って音楽用語なんですよ。「追走曲」って意味です。で、音楽の言葉を実はこの「リトルテイルブロンクス」っていう世界観の中では、コンチェルトという言葉だったりとか、「それからCODAへ」だったりとか、必ず音楽用語がタイトルに使われているんですよ。

―― そうだったんですか! なるほど。

松山 これはもう私が世界観を作る時のある種のテーマです。そういうルールで作っているので、まず最初に調べるのは音楽用語辞典からなんですよ(笑)。

―― これがCC2オリジナルゲームのタイトルの付け方、という訳なんですね。

松山 戦車に乗って旅をするというところは決まっていたので。戦争を描くのは事実だし、子どもたちが旅をしながら前に進むと言うのは昔サンライズのアニメで「銀河漂流バイファム」とかありましたよね。往年のロボット少年漫画というか、本作もそういうノリを持った作品なので、どういったものがふさわしいのかなって考えていった時に「フーガ」という言葉が目に残ったんです。商標登録を調べてたら、まだゲームの領域では取られていなかったので、それで『戦場のフーガ』っていう、もうそのまんまストレートに決めました。

―― 松山さんはストレートにタイトルを決めるタイプなんですね。

松山 そうですね(笑)。タイトルを決めたらちゃんと商標調査を行い、日本以外の世界各国でも取れたので、じゃあ『戦場のフーガ』でいきましょうということになりました。

ーー 作品のテーマに「戦争」や「復讐」を取り入れた経緯も聞かせてください。

松山 弊社がヒットを狙うタイトルというのは、一方向にとんがったもので、アクションの領域とRPGの領域っていうのがあります。今回はどっちへ行くかを考えた時に、久々にRPGの方で勝負しようと選びました。だから今回はアクションはダメだと言いました。そんな線引きを最初にスタッフたちに説明をしました。

―― それでジャンルがRPGの方向で決まったんですね。

松山 次に、RPGで戦車が左から右に進むってことは、右から左に進んだりはしないし、奥に進んだりもしないようにしました。『戦場のフーガ』は戦車が中心だから、生活もパラメーターも全部ここで管理するし、バトルも戦車で戦うと、とにかく戦車を中心に据えようと決めました。その代わり、それ以外のゲームの進行は、子どもがゲームをプレイしても迷わない作りにしました。例えば難易度選択は、最初からモードでイージーやハードとかを決めてもらうんじゃなく、ゲームの中でお客さんがルートで選択してもらう風にしました。

―― 常にプレイヤーが好きに選択できるようにしたんですね。

松山 そうです。これは創設メンバーで当時本作の制作プロデューサーを担当していた新里(裕人さん)と話をして決めました。あとRPGとしてのテーマって何だろうと考えたのですが、それは多分「命の選択」をする以上は選択がテーマだよねって思ったんです。なのでゲームの進行に関しても、安全な道と普通の道と危険な道、いろんな難易度のルートがあって、どれを選ぶかをプレイヤーに選択してもらおうとしました。

―― それであの形になっているのですね。

松山 ルートは選んだら戻れないようにして、戦争の過酷さという意味を選択に持たせました。仮にやり直しが出来るんだったら、選択に意味がなくなってしまいますので。なので『戦場のフーガ』はルートの選択、生の選択、というような、選択をテーマにしたRPGにしました。今後出る『戦場のフーガ2』など、連なるシリーズでもテーマ自体が変わることはないですね。

ケモノ好きさんへメッセージ

松山 『戦場のフーガ』は完全新作ですので、『テイルコンチェルト』と『ソラトロボ』を知らなくても遊べます。ニンテンドーeショップで体験版も配信中ですので、まずはそのあたりからこの世界に触れていただければ、その瞬間に「一味違うなこれは!」と感じてもらえると思います。まずはちょっと試すぐらいの気持ちで、体験版を遊んでいただいて、気に入ったら製品版を買って続きを遊んでいただければと思います。もう戻れないと思いますよ?(笑) あとは『戦場のフーガ2』の発売を楽しみに待ってほしいなと思うのと同時に、『戦場のフーガ』は三部作です。すべてに衝撃の展開が待っていますので、ぜひこれからもサイバーコネクトツー、そして『戦場のフーガ』をよろしくお願いいたします。


ニンドリ10月号では、松山社長が『戦場のフーガ』で活躍する12人の子供たちの魅力や、『戦場のフーガ2』の新要素についてたっぷり語ってくれました。
こちらもぜひあわせてご覧くださいね。

 

関連リンク
『戦場のフーガ』 公式サイト
『戦場のフーガ2』 公式サイト

©CyberConnect2 Co., Ltd.
©Bandai Namco Entertainment Inc.

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