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拡張コンテンツの域を超えた楽曲群! 『モンスターハンターライズ:サンブレイク』作曲者インタビュー

『モンスターハンターライズ:サンブレイク』作曲者インタビューのサムネイル

さらなる重厚感を目指した「英雄の証:Sunbreak ver.」

―― まずは「英雄の証:Sunbreak ver.」。何をイメージして曲を作ったの?

小倉 「英雄の証 – Rise ver.」は行進みたいな重みのある曲だったんですけど、今回はさらに西洋の堅いイメージとか重厚感みたいなものを出そうと思いまして。ずっしりとした重みを感じるようにしたいと思ったので、曲の入りでハーフテンポを採用してみました。

―― 作る時に映像はあったの?

小倉 映像は特になかったですが、「英雄の証」はテーマ曲なので、ディレクター側とサウンド側でコンセプトに齟齬がないよう言葉でしっかりとイメージをすり合わせました。テキストをベースにどういうイメージかを考えて、それを膨らませています。ただ、ゲームの開発は進んでいたので、ゲーム画面はある程度見て世界観は把握していました。

高台から見下ろすエルガド

―― 世界観って言っても、こういう風にシリーズが続いていると難しいよね。

小倉 オリジナリティをどう持たせるのかとか、今回の『モンハン』のテーマって何だろうとか、かなり考えました。

―― 昔の「英雄の証」はブラス(※5)がしっかりと出ててそこで音を作ってるイメージだったんですけど、今回のはストリングス(※6)が中心となっているように感じました。

※5. トランペットやホルンなど金属製のマウスピースに唇を押し当て、自分の唇を振動させて音を出す楽器。
※6. バイオリンやチェロなど主に弓で弾く弦楽器のことを指す。

小倉 今回はちょっと映画っぽい感じを目指したいと思っていたので、ファンタジー映画やイギリスっぽい映画、それらのトレーラーを見て勉強しました。

―― 今回はトランペットやたら無茶させてるよね。

小倉 いえいえ(笑)。でも確かに、『MHR』の時にあれだけ吹けた方なので、このくらいは吹けるだろうと思って書いてる節はあります。結果、見事に吹いていただけました。

―― そうなんですよ、見事に吹いていて。そこは感動しました。

 なかなかあのレベルで演奏できる方はいないですよね。

―― 逆にトロンボーンは控えめだなと思って。あと、木管(※7)はなかったよね?

※7. フルートやサックスなどリードを使ったり息を吹き込んで音を出す楽器。

 今回は木管なしです。実は『MHR』から木管をあえて入れてないです。

―― 『MHR』の時は和楽器が入るからないのかな、と納得してたけど今回はなぜ?

 個人的に木管はとても好きで入れたいと思ったのですが、木管を入れると曲が華やかになりすぎる気がしていまして。『MHR:SB』の世界観に対して木管の華やかさは合わないように感じたのであえて入れてません。

―― その分ブラスでいろいろこだわったりとか?

 特に特殊なブラス楽器は入れていなくて、響かせ方とか和音の組み方とかをオーソドックスというよりはもう少し壮大な響きになるように工夫しました。それに加えて特殊楽器を入れ込む、というところでこだわっています。

―― 構成は?

 トランペット3本、トロンボーン3本、ホルン6本です。加えて、バストロンボーンやチューバもいるので、多いです。

―― いいね、楽しいね。

 日本でオケをやるってなるとホルン4本が多いと思うんですけども、絶対「6本にして欲しい」とお願いをしています。4本と6本だとだいぶ響き方が違いまして。例えば4本だとフォルティッシモ(※8)で吹かなければいけないところでも、6本だったらフォルテにして音を少し柔らかい響きにしながらビッグなサウンドも作れます。そういう意味で、ブラスにこだわってますね。

※8. 音楽記号の一種。フォルテは「強く」、フォルティッシモは「きわめて強く」を意味する。

―― そうか、『モンハン』が進化する度にホルンが増えていくような感じがする(笑)。「英雄の証:Sunbreak ver.」ここを聴いてほしい、というところは?

小倉 曲のどこかに「とこしえなる潮風を感じて」のフレーズが入っているので見つけてみてください。

落ち着き感じる拠点曲「とこしえなる潮風を感じて」

―― 次は「とこしえなる潮風を感じて」ですね。センスのあるアレンジで、タイトルも良いですよね。

 ありがとうございます。タイトルは悩みに悩んでこれにしたんです。

―― えっ、自分で考えてるの?

 ゲームによりますね。『MHR』や『MHR:SB』に関してはコンポーザー側で考えてディレクターに提案しています。「あっ、それ良いね」とか「もうちょっとこうなんない?」とか相談しながら決めている感じです。

―― そうなんだ、偉い。どこの海風を想定して作ったんでしょう?

 これはヨーロッパの中でも、寒い地域の穏やかな海辺がイメージの一部ではあります。ただ、音楽的に完全にそのイメージで作ってしまうとゲームで使った時に冷たすぎてしまうので、イタリアとかの温かさは出したくて。結果、いろいろなヨーロッパの良い要素を組み合わせたイメージで作っています。

―― イタリアとかスペインとかの地中海の雰囲気を多く感じたよね。

 まさしく、音楽的にはそういったものをイメージしています。ただこの曲は新しい拠点で流れるのですが、弦の音をそこに寄せすぎると拠点のストーリーに対して印象が明るすぎると思ったので、もう少し上の地方の弦の鳴り方をイメージして作っています。

エルガドの調査拠点である「騎士団指揮所」

―― 弦の組み立て方に関してはそうかもしれない。この曲を聴いていて、打楽器があってもいいのかな、とも思ったんだけどあえて打楽器をなくした理由は?

 楽器の響きをしっかり聴いてほしい、というのと、打楽器で前へ前へというよりはゆったりしたところで流れている音楽なので落ち着いてほしい、という思いからですね。ユーザーがそこに長く居ても心地よい音楽にしたいと思ったので、打楽器なしの構成にしました。

―― 打楽器はなくても、弦とかでリズムを作っているから、ちゃんと節目節目が感じられるよね。

 打楽器をなくすのって実はめちゃくちゃ難しいと思っているので、そこはすごく気をつけました。音楽を構成するリズムの要素を和音とメロディが担わないといけないので、それをアレンジの中で無理なくかつ無駄なくやらないといけなくなってくる。そこの調整はかなり大変でした。

―― ほかには何かある?

 この曲はクラシックギターで和音を録っているんですが、一般的にはあまり押さえないであろうコードや複雑なコードを使いつつ、パッと聴くだけでは難しそうに聴こえないという風にしています。

―― すごく大変そうなフレーズだったけど、ギターも弾いてもらってるの?

 弾いてもらいました。作曲する手順として、まずはピアノで作って、その後にギターでちゃんと押さえられるかなって確認して、大丈夫だと思ったのを譜面にして奏者さんに渡しています。奏者さんにも「ギタリストの方が作ってくれたので押さえやすいですよ」と言っていただけました。実際に録音するとかなり難易度の高いスコアだったので、難航しながらも良いプレイを収録できました。

―― 自分でちゃんと弾けるか確かめたっていうのはいいよね。

 やっぱりギターならではの弾き方ってあるので、ポジションごとの音色を探しながら作っていましたね。

―― ピアノだけで作っちゃうと、どうしてもピアノ曲になっちゃうからね。

 そうですね。ピアノって音が充実しすぎててほかが入る余地がなくなっちゃうので、今回はギターとバンドネオンとストリングスっていう構成で作りました。

―― この曲で特に聴いてほしいところは?

 ギターが好きな人だったら実際にギターを弾いてみてほしいです。ギターで弾くと響きがすごくキレイな曲なので。また、サビの部分のメロディを覚えておくと、ほかの曲でも使われているんだ、という発見があると思います。

―― いろんなところでフレーズを活かしているんですね。

同じメロディでもこんなに変わるお団子選択曲「ご注文をどうぞ!:Sunbreak ver.」

―― 次は「ご注文をどうぞ!:Sunbreak ver.」ですね。まずは『MHR』バージョンとの違いを教えてください。

小倉 『MHR』の時と一緒で、どのお団子を食べるかを選ぶ時に流れる曲です。一部の拍子の取り方は違いつつもメロディやテンポは基本一緒なんですが、西洋風にするために構成楽器を変えています。

カムラの里の出張茶屋

―― アコーディオンがすごく効果的に使われているな、と思ったんだけど。

小倉 実はこれアコーディオンではなく、バンドネオンでして。

バンドネオンの収録風景

―― あ、バンドネオンなんだ!

小倉 はい、バンドネオンの生演奏です。この曲にメインで使っているわけではなくて、「とこしえなる潮風を感じて」で使うのが決まっていて。拠点と近しいところにお団子を食べられる場所もあるので、共通性を持たせたいと思ってこの曲にも使いました。また、『MHR』バージョンは三味線でとても和風に仕上げていたので、その個性みたいな部分をバンドネオンに担ってもらっています。バンドネオンのボタンを左も右も使っていて、難しい箇所は別録りで対応しています。

―― すごく音域が広く感じたけれど、同じバンドネオンを使っているの?

小倉 同じです。私もビックリしたんですが、音域がとても広いんです。すごく低い音域から高い音域まで、全部の帯域を持っているんじゃないかと思う音色でした。

―― 演奏の要望はどう伝えたの?

小倉 基本は自分で作ったラフの音源と譜面をお渡しして、収録時にニュアンスもお伝えした感じです。自分たちが思っていたよりもバンドネオンの演奏方法が幅広くて。「これをバンドネオンで弾くんだったら、こういう弾き方のがそれっぽいです」と奏者さんの方から提案いただき、適宜調整した感じです。

―― ほかの楽器は何を使ってる?

小倉 ルネサンスハープです。

ルネサンスハープの収録風景

―― えっ、そうなんだ。普通のハープとルネサンスハープの違いは?

小倉 音や大きさが全然違うんです。今回持ってきていただいたのは、1メートルくらいのサイズでした。

―― 弾き方は一緒?

 弾き方は一緒なんですが、弦の張り方がちょっと不思議なんです。グランドハープの場合一列になっているんですが、今回使用したルネサンスハープは右側と左側で2列に張られていて、右と左で弾くのが違うんですよ。複雑な倍音(※9)も出せるんですが、物自体の構造はかなりシンプルなので、グランドハープよりも倍音は少なめで素朴な響きですね。

※9. ある音(基音)が鳴るときに共鳴して出てくる音。実際には基音と倍音を含めて一つの音と認識している。

―― ちょっとハープの音が違うとは思ってたけど、録音の仕方じゃなくて楽器が違うなんて。

小倉 もう一楽器、クラシカルフルートも使っています。本当はトラヴェルソ(※10)を使いたかったのですが、この曲はトラヴェルソだと吹けないということがわかりまして。一番近い楽器としてクラシカルフルートを持ってきていただきました。

※10. 木管楽器の古楽器で、フルートの元となった横笛。

クラシカルフルートの収録風景

―― クラシカルフルートは何が違うの?

 基本的な構造は一緒なんですけども、クラシカルフルートはいわゆるモダンフルートと違って倍音の出方がもう少しシンプルで、突き抜ける音というよりはもう少し丸くて柔らかい音色になります。かと言って、木製のモダンフルートともまた違った独特の丸みがあります。

―― この曲のここを聴いてほしい、というところは?

小倉 楽器の違いを聴いてほしいのはもちろんのこと、「とこしえなる潮風を感じて」と合わせた感じにしているので、流れで聴いたときのスムーズさを感じていただけたら良いな、と思っています。

―― 「とこしえなる潮風を感じて」を聴いてから「ご注文をどうぞ!:Sunbreak ver.」を聴いた方がいいのね。

 雰囲気はガラッと違う場所にはなるんですが同じエリア内で聴けるようになっています。使っている楽器やモチーフは近いので、共通点を感じていただけるんじゃないかな、と思います。

コンポーザー目線での『MHR:SB』の楽しみ方

―― 最後に一言お願いします。

 『MHR』と『MHR:SB』でゲームの雰囲気もがらっと変わり、それに合わせて音楽もがらっと変えています。馴染みの曲が違うように聴こえたり、和と洋でどんな風に音楽が変化したのかを楽しんだり、見た目の変化だけでなく音楽の変化にも着目してほしいです。じっくり音楽を聴いてみるというのも、『MHR:SB』 の楽しみ方のひとつなんじゃないかな、と思います。

小倉 私も注目してほしいのは『MHR』との違いです。超大型拡張コンテンツなので続きの作品ではありますが、別の作品1本分くらい新たに増えた 『MHR:SB』 の曲の中から、お気に入りの1曲が生まれてくれると嬉しいな、と思います。

―― 曲が本当にすばらしいので、ぜひ皆さんにも違いがわかるまで聴き込んでほしいと思います。読者の皆さんも、ぜひお2人の名前を覚えてください。本日は本当にありがとうございました。


音楽面の超進化も楽しめる『MHR:SB』の詳細は各種サイトにてチェック可能です。

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あらためて『MHR』を振り返る、『MHR』ディレクターの一瀬さんに実施したインタビューも掲載中です。

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