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CEDEC 2018に宮本茂さん登壇!「響き合う人同士で話し合えばアイデアは出てくる」

パシフィコ横浜にて開催されたゲーム開発者向けのカンファレンス「CEDEC 2018」。8月22日(水)の開幕日に、基調講演として任天堂代表取締役・フェローの宮本茂さんが登壇されました。
今回は“どこから作ればいいんだろう? から10年”と題し、この10年間で任天堂や宮本さんが作ってきたものや、ゲームを取り巻く環境の変化など、お話が盛りだくさん。
ここでは、当日の模様とお話の内容を、簡単にお届けします。

“どこから作ればいいんだろう? から10年”

宮本さんのCEDEC登壇は10年ぶり。
講演は9:45開始にもかかわらず、会場受付が始まる9時直後からすでに長蛇の列ができていました。最終的にはメインホールが満席となり、別室でのライブビューイングを見るしかない人も出るほど大盛況。まさに“貴重”講演となりました!


『スプラトゥーン』や『Nintendo Labo』など…任天堂の10年間の名作

Wii、Wii U、Nintendo Switchとハードも変遷した10年間。まず宮本さんは、任天堂のソフトでも特に話題の『スプラトゥーン』について言及されました。「一般的なシュータータイプのゲームの銃をペンキを撃つ銃に置き換え、自分が塗ったエリアをスイスイと気持ちよく移動できる操作感で独自性が混ぜ込めたと思います。これを僕ではなく若い開発のメンバーが作ってくれているのが、僕も安心したところです」。
また「遊ぶ人のクリエイティブがゲームのクリエイティブにもつながっていく」という考えから、草原を走るだけでも楽しい『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』と、小さな目的を自由に探す遊びを追求した『スーパーマリオ オデッセイ』を紹介。「これらはどちらも同じ構造で作りました。環境が楽しければ、プレイヤーがいろんな目標を作って遊んでいけるんですね」。
さらに自由度が高いエディター系のゲームとして『スーパーマリオメーカー』のお話も。「長年僕と一緒に『マリオ』を作ってくれている手塚卓志さんが本当にうまくまとめてくれて。作ってる途中も楽しいし、普通のビルダーじゃ作らないコースが一般の方から投稿されてきたり、非常に面白い展開をしています」。
グローバルなものづくりとしては、『Nintendo Labo』を紹介。「これは親が子どもと一緒に遊ぶテレビゲームで、国民性はあまり関係ありません。これも若い人たちが作っていて、まだまだこれから世界中に頑張って広めていきたいなと思っているところです」。

スマホの普及に『Minecraft』の登場。10年間の悔しい思い

10年間の内にはスマートフォンが普及。初代iPhoneが発表された当時はタッチ画面が話題になりましたが「タッチならDSの方が先なんですけど」と宮本さん。当時はDSに「世界で一番安い携帯端末」としての可能性を感じていたそうですが、「DSをすべてのネットワークに繋いで売るより、携帯電話をスマートフォンに差し替えることがずっと簡単だったと悔しがってます」と語られました。しかし携帯端末としてのDSに向けて作ったソフトの集大成である『ニンテンドー3DSガイド ルーヴル美術館』は今もルーヴル美術館で好評。引き続き美術館にて端末の貸し出しが継続されているとのことです。
また他社のソフトとして『Minecraft(マインクラフト)』が人気になったことも「悔しい」と宮本さん。「ブロックを積み上げて何かを作るという試みはNINTENDO 64の頃からやっていましたが、それを使って作るべきはレースゲームか、アドベンチャーゲームか、結局収集がつかなかったテーマです。『Minecraft』では、ユーザーがYouTubeにコンビニを作る動画を上げているのを見て、ここまでシステムを理解されてトコトン遊びこなす人が出てくるところまでできているのが本当に凄いと感服しました」。
スマートフォン向けには任天堂も『スーパーマリオ ラン』を制作。こちらは1,200円払えば全ステージが遊べる「売り切り型」の販売方法で配信されました。ゲームを遊ぶことに対して「少しでもお金を払ってほしい」という思いと、繰り返しチャレンジする『スーパーマリオ』というゲーム性に、都度お金とることはふさわしくない、という考えからです。
しかし「他のゲームの課金率よりずっと高いかと言うとそうでもなく、採算は取れてはいるものの、そんなにうまくいったとは言えません」。ゲームの内容も、誰でもクリアできるよう簡単に作ったつもりが、モニターを取ると多くの人がステージ3でプレイを諦めていたという状況に驚いたのだとか。
その現実を受け入れ、リリースの半年後には「リミックス10」というモードを追加。「上手でも下手でもどんどんステージが進んでいくけれど、パーフェクトを取ればスコアが狙える二重の構造のわんこそばのようなモードです。プレイヤーの様子を見ながら新たな開発をしていけるということは、面白い環境だなと気が付きました」。
買い切り型モデルについても、「これからもチャレンジしていきます」と意気込みをアピールされました。

宮本さんがべったり関わらなかったことが“ラッキーだった!?”『ポケモン GO』

Niantic配信の『ポケモンGO』についても言及。開発当初はNianticのジョン・ハンケさん、野村達雄さん、ポケモンの石原恒和さん、任天堂の岩田聡さんが携わっていたそうですが、2015年のゲームの制作発表会から宮本さんが代理として携わることに。しかし発表当時も、翌年のE3でのお披露目後も、話題は数日しか続かず「寂しい反応でした」と語られました。
しかし2016年7月、アプリリリース開始と同時期に物凄い勢いで話題が広がり、Nianticに取材も殺到。
「2年経った今でも、近所のオバチャンが娘さんやお友だちと一緒にやっていますね。鳥取でイベントがある時には車を飛ばして行くとか、親子・コミュニティで一緒に遊んでもらってるという微笑ましい使い方をされているようです」。
なおゲーム開発には、宮本さん自身はあまり立ち会わなかったそうですが、それが逆に功を奏したとも。「あまりにもシンプルすぎる、充分楽しめないと、いろんな意見が出てました。僕自身も立ち会っていたら同じことを言っていたはずですが、それをしなかったのが幸いで、いまだに大勢の人に遊んでもらっています。開発当時はコミュニティができるとか、GPSを使ったサービス自体が面白いとかいうイメージがなかなかできないので、パッケージソフトを作っている人間だけが見ると、どうしても見誤ります。僕にとっては本当にラッキーでした」。

宮本さんのアイデアの源とは?

講演の後半では、アイデアの出し方の話についても言及されました。「誰でもみんなアイデアは考えてるわけで、それを良いアイデアだと思うか、イマイチだと思ってボツにするかというだけのことです」と宮本さん。人が集まるといろいろなアイデアが出て、ポジティブな意見やネガティブな意見も出ます。結果的に使えなくても、自分の中のアイデアの引き出しに仕舞うとき、なぜダメかというラベルを付けることが重要だと宮本さんは語ります。
そしてアイデアを出し合うときには、響き合う人同士で話し合うのだそう。「僕と長年一緒の手塚さんや、エス.アール.ディーのエンジニアである中郷俊彦さんと話していると、お互いの中にある引き出しが似ているので、良いアイデアが閃いたときには、1つのアイデアの問題が2、3個同時に解けています。共通の引き出しを持っていたり、たくさんの引き出しを持っていたりする人同士の方が響き合います」。
また、アイデアが浮かんでくるのはお風呂に入っているときなどリラックスした時間なので、1日の中にリラックスした時間を作るのが大事だと言います。ただし引き出しを普段から一杯にしておかないとただのリラックスになってしまうので、普段から引き出しを一杯にしておくことが大切とのこと。

今、宮本さんは何を作っているのか?

現在、任天堂において「代表取締役・フェロー」という役職の宮本さん。特定の部署に所属せず、将来会社に必要なものや自分の興味のある開発だけに専念しているそうです。そこで現在はユニバーサル・スタジオ・ジャパンのテーマパークの仕事や、イルミネーション・エンタテインメントと共同でマリオの映画の開発を行っているのだそう。
「いろんなことを楽しくやってます。ゲームを作るのは辛い仕事に決まってるんですけれど、皆さんも楽しく仕事をしましょう」。
これからの10年へ向けて聴講者へのエールも送られ、今後宮本さんが作る新しいエンタテインメントにも期待が高まる、ワクワクいっぱいの講演でした。

(取材・文/平原学)



京都のお話も!


CEDEC 2018では、「明快で軽快なUI 『Nintendo Switch 本体機能』の制作事例」と題したセッションも。
ゲームを起動するHOMEメニュー、ゲーム機本体の設定といった『Nintendo Switch 本体機能』は、「明快(ひと目でわかる、迷わない)」「軽快(動作が軽い、テンポがよい)」を満たすUIを目指してつくられました。その背景、実現にむけた取り組みについて、事例を交えて紹介されました。

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