『アルスラーン戦記』×『ファイアーエムブレム Echoes』 “ヒロイックファンタジーを語る”(前編)

2018年4月で1周年を迎えた『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』のディレクター、開発会社インテリジェントシステムズの草木原俊行さんと、2017年末に小説「アルスラーン戦記」シリーズを書き上げた田中芳樹さん。ゲームと小説、ジャンルは違えど世界を構築されてきたお2人に、「ファンタジー世界」の作り方やその世界で活躍する英雄たちの魅力など、さまざまなことを話していただきました。ニンテンドードリーム2018年5月号で掲載されたものの再録になります。

※田中芳樹事務所にて2018年1月19日に収録

後編はこちら

・ネタバレを含んでいる場合があります。

田中 芳樹さん
1978年「緑の草原に……」で第3回幻影城新人賞を受賞して小説家デビュー。以後さまざまな作品を送り続ける。代表作は「銀河英雄伝説」「アルスラーン戦記」「ヴィクトリアン・ホラー・アドベンチャーシリーズ」等多数。

草木原 俊行さん
インテリジェントシステムズ所属。『ファイアーエムブレム 覚醒』『ファイアーエムブレムif』でアートディレクター、『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』でディレクターを務める。

31年の歴史を紡いだ「アルスラーン戦記」シリーズと28年の歴史を紡ぐ『ファイアーエムブレム』シリーズの共通点

2つのファンタジー作品が生まれたとき

── 田中先生、「アルスラーン戦記」(※1)完結おめでとうございました。

田中 ありがとうございます。

── 最初に「アルスラーン戦記」を完結されたときのお気持ちを伺いたいと思います。書き終えられたときには、どんなことを思われたんでしょう?

田中 しばらくぼーっとしていました。気づいたら30分ぐらいたっていたりして。ただただ、ぼーっと空っぽになっていました。

── 全てを出し切られたという感じなのでしょうか。本当にお疲れさまでした。今日は、ファンタジー小説「アルスラーン戦記」を書かれた田中先生と、ファンタジー世界を舞台にした“ロールプレイング シミュレーション”『ファイアーエムブレム』シリーズ最新作のディレクターを務められたインテリジェントシステムズの草木原俊行さんのお2人に、ファンタジー世界で活躍する英雄たちの魅力や世界の作り方などについてお話をしていただこうと思っています。「アルスラーン戦記」が31年間の刊行で16巻で完結、『ファイアーエムブレム』シリーズは第1作からスマホアプリ版の『ファイアーエムブレム ヒーローズ』まで含めると28年間で16作品ということで、ほぼ同じ時期に同じ数の作品が出ているところにも面白みを感じています。

※1:「アルスラーン戦記」
中世ペルシアをモチーフとした世界が舞台の大河ファンタジー小説。突如攻め込んできたルシタニアに祖国パルスを征服された王太子アルスラーン(イラスト・丹野忍)が、類いまれな知略を誇る軍師のナルサスや黒衣黒馬の勇将ダリューンなど、仲間たちと共に侵略者から祖国パルスを取り戻すまでが描かれた第一部。そして、チュルクなど新たに侵攻してくる国や、過去にパルスを恐怖で支配した蛇王ザッハークの復活を目論む勢力と戦いながら、良き王を目指して成長していく姿が描かれる第二部に分かれている。小説は全16巻(初刊行時:1986年~2017年)。コミックスやアニメーション、オーディオブックなどさまざまなメディアに展開している。

●小説
田中芳樹 著「天涯無限 アルスラーン戦記16」
/カッパ・ノベルス(光文社)

●コミックス
荒川弘 著、田中芳樹 原著「アルスラーン戦記 8」
/講談社コミックス(講談社)

草木原 インテリジェントシステムズの草木原です。僕は『ファイアーエムブレム』シリーズの中で、昨年の4月に発売された『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』というゲームタイトルのディレクターを務めました。田中先生のファンとして、「アルスラーン戦記完結記念イベント」(※2)も拝見しましたが、31年という長い歴史の終わりを見届けた気持ちになり感無量でした。

田中 私もほっとしています。どちらかというと、運動会で障害物競争を走った我が子が何度も転びながらもゴールインした様子を見ている、親のような心境ですが。

※2:「アルスラーン戦記完結記念イベント」
「『アルスラーン戦記』完結記念!31年目のヤシャスィーン!」と題して2018年1月18日に渋谷で開催。田中芳樹さんをゲストに、創作の裏話などが語られた。

草木原 『ファイアーエムブレム』というゲームはインテリジェントシステムズと任天堂さんが共同で作っているのですが、インテリジェントシステムズの中に限定して数えた場合に、僕が7人目のディレクターということになります。実は歴代のディレクターたちも田中先生の「銀河英雄伝説」(※3)や「アルスラーン戦記」に影響を受けていると思われる節があって、ちょっと縁が深い感じを抱いていました。

田中 それは恐れ入ります。

※3:「銀河英雄伝説」
人類が銀河に進出してから10世紀後。専制主義国家の「銀河帝国」と民主共和制の「自由惑星同盟」に分かれ、150年以上も戦争を続けている状況で登場した2人の英雄が歴史を動かしていくスペースオペラ。小説は本伝全10巻、外伝4巻(1982年~1989年:初刊行時)。原作刊行中に、石黒昇監督の手掛けたOVAシリーズもリリースされた(現在Blu-rayBOXが徳間書店より発売中。全4BOX)。今もなお、コミックスやアニメーションなどさまざまなメディアに展開。新作アニメーションシリーズ「銀河英雄伝説 Die Neue These」が4月から放映された。

●小説
田中芳樹 著「銀河英雄伝説 1」
/創元SF文庫(東京創元社)
装画:星野之宣 装幀:岩郷重力+WONDER WORKZ。


草木原
 今となっては確認のしようがないものも多いのですが、作中世界の国名や、人名、登場する主要キャラクターの台詞にもそれっぽいものがあったり、キャラクターのデザインでも、先生の著作からインスピレーションを得て作られたものがあるように、個人的には思っています。「創竜伝」(※4)と同じく、竜に変身する種族の人間も登場しますし。古くからインテリジェントシステムズにいる大先輩のスタッフに聞いたところ、昔の開発スタッフの中にも田中先生の大ファンがいたらしく、積極的にディレクターに読ませていた、という話も聞いた気がします。

※4:「創竜伝」
「竜種」と呼ばれる竜の一族の末えいである竜堂家の4兄弟(始、続、終、余)が、その竜の力を狙う勢力の陰謀を退けながら自身の秘密を求めてゆく伝奇アクション。小説は講談社から13巻まで刊行中(1987年~)。コミックスやアニメーションなどメディア展開も行われた。

田中 『ファイアーエムブレム』に関しては、テレビCMが記憶に残っていますね。「手強いシミュレーション……」とみんなで合唱するシーン(※5)ですが。

草木原 ご存じでしたか。そのCMは第1作のファミコン版『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』のものになりますね。

田中 だとすると、もう28年ぐらい前になるんですね。それでも覚えているんだから印象はかなり強いですね。

※5:『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』CM
登場者がマルスをはじめとしたキャラクターたちをイメージさせる扮装をして、オペラのようにシリーズのメインテーマを歌っていた。

草木原 『ファイアーエムブレム』シリーズの内容について簡単に説明させていただきますと、兵器や兵士をユニット(駒)として使って戦うウォーシミュレーションゲームのユニットを、顔や名前、それぞれのバックストーリーを持ったキャラクターに置き換えて、RPGのように成長するシステムを組み込んだタイトルなんです。ウォーシミュレーションでは駒は多くの場合使い捨てなのですが、それを使い捨てにしないようにした結果、すごく思い入れができるようになったものなんです。

田中 ああ、なるほど。

草木原 家庭用ゲーム機ではそれまでこのようなタイプのゲームはあまりなかったので当時から異彩を放っていたんですが、一番特徴的なのは戦闘で死んでしまったキャラクターが二度と復活しないところなんです。シミュレーションゲームなので基本的に難易度が高くて、1つのステージをクリアするのに1時間くらいはかかるんです。そのステージの終盤で仲間が死んでしまった場合、リセットしてもういちどステージの頭からやり直すのか味方を失ったまま先へ進むのか…ということをプレイヤーがすごく悩んだりするんですね。

田中 それは悩ましいところですね。

草木原 はい。そこでやり直さずにそのまま先に進むことを選んだ場合、1人倒れ、2人倒れと味方が減っていくことになります。死ぬときに、それぞれのキャラクターが死に際の台詞を残したりするので、先へ先へとプレイしている間もずっと頭のなかに過去倒れていった仲間のことが残り続けるんですが、もうゲームの中には帰ってこないんです。そして最終的にゲームをクリアしたときに、エンディングでは生き残った味方のその後が文章で簡単に書かれるんですが、死んだ味方についても「〇〇平原で死亡」のように表示され、プレイヤーそれぞれが歩んできた歴史のようなものが感じられるところがすごく面白いところだと思っています。プレイヤーごとのプレイ結果が、それぞれの歴史になるというか。だから、同じゲームを遊んでいるのに、皆思い出がバラバラになったりするんですね。

田中 そうですか。

草木原 僕がディレクターを担当した『Echoes もうひとりの英雄王』は、1992年に発売された『ファイアーエムブレム外伝』というシリーズ2作目のリメイクになります。オリジナルはファミコン版でしたのでゲームの容量はとても小さくて、0.4メガバイト程度しかありませんでした。今の3DSのゲームカードだと4ギガバイトくらいのデータは余裕で入りますので、容量として1万倍くらいになります。原作版のファンの方も多いので、その少ないデータで作られたオリジナル版で遊んだ印象を損なわずに現代にちゃんと蘇らせるというのは、ぜひ実現したいテーマでもありました。結果、ある程度上手くいったと思っていて、結構苦労もありましたが面白い経験ができました。最終的に『Echoes もうひとりの英雄王』のデータは1.6ギガバイト程度になっています。また、最近のシリーズ作ではゲームとしての間口を広げるために、仲間が死なないモードも取り入れています。もちろん従来の死んだキャラクターが帰ってこないというモードもしっかり残しています。

田中 ずっとシリーズが続いているのはすごいなと思っております。

草木原 ありがとうございます。


『ファイアーエムブレム外伝』メインイラスト

── それでは、田中先生についても「アルスラーン戦記」シリーズの執筆を始められたきっかけを伺えないでしょうか。

田中 そうですね。「銀河英雄伝説」は思いも掛けず読者のご支持を頂いたのですが、スペースオペラ的なものについては自分に書ける範囲のものを全て書き尽くしてしまったので、今度は別のものを書きたいなと思っていたんです。でも、編集部からは次もスペースオペラを書いてほしいと言われ「タイタニア」という作品をスタートしたのですが、スペースオペラばかりを書き続けていくのはつらいと感じたんですね。

── それでどうされたのでしょうか?

田中 はい。こうなると他の出版社の仕事を引き受けない限りスペースオペラ以外のものは書けないということになってしまいます。それまでは徳間書店さん一社でいろいろ書かせてもらえればそれでいいやと思っていたんです。仕事の量も増やしたくないですし。

一同 (笑)

田中 でも、はなはだ不本意ながら仕事を増やさなきゃならないわけでして。それで、角川書店(現:KADOKAWA)と講談社の編集者さんにお会いすることにしたんです。

── お会いしたときにどんなお話をされたのでしょうか。

田中 実は、角川書店の編集者さんとお会いしたときも最初は「スペースオペラを書いてほしい」と言われまして。なのでお断りをして席を立ちかけたときに、「じゃあ、なにが書きたいのですか」と問われて答えたのが「アルスラーン戦記」の始まりです。講談社の編集者さんからは現代を舞台にしたものを書いて欲しいと言われました。「そういえば現代物って書いてないな。だけどリアルな現代物ってのもつまらないから、とんでもないものを書いてやろう」と、そう思って書いたのが「創竜伝」になります。

キャラクターの生きざまについて

草木原 田中先生が「アルスラーン戦記」や「創竜伝」をスタートされたころ、僕は中学生でした。実は、僕個人が田中先生の著作に触れた一番最初のものは「創竜伝」なんです。

田中 ああ、そうなんですか。

草木原 中高生時代という一番多感な時期に先生の作品に多く触れたので、いろいろな面ですごく影響を受けているのは間違いないと思います。今でも、「創竜伝」に書かれていた竜堂兄弟が通っている学校に「自律」という標語が掲げられていて、自律という考え方がいかに大事なことであるとか、三国志に登場する蜀の軍師である孔明は、当時は諸葛亮孔明と多くの作品で呼ばれていたのですが、本当はその呼び方は間違いで、諸葛孔明が正しい。と指摘されていたことなどを鮮明に記憶しています。

田中 それはそれは。

草木原 本当に、僕にとっては親の教えを聞いているような感じで読んでいました。

田中 (笑)

草木原 実は僕、当時からわりと最近まで、大河物とか戦記物とよばれるジャンルが大の苦手だったんですね。なぜかというと、戦記物の場合、好きになったキャラクターがだいたい死んでしまうからなんです。個人的に、小説などを読むときにものすごく気持ちが入り込むタイプだったので、思い入れがあるキャラクターが死んだときなどは、もう、一日中手が震えて、何もできなくなるくらい衝撃を受けてしまうんです。

田中 ああ、それはすごい感情の入り込みですね。

草木原 なので、「創竜伝」は戦記物っぽくなかったことと、当時出始めたばかりでまだ誰も主要なキャラクターが死んでなかったので抵抗なく読み始めることができました。それから数年後に角川書店の劇場版アニメーション「アルスラーン戦記」を見たことをきっかけにして、同時期に小説も読み始めるんです。最初は、ほとんど仲間が死なないので安心して読めていました。

田中 はい。最初のころはそうでしたね。

草木原 なので、当時から主要な人物がほとんど死んでしまうということで有名だった「銀河英雄伝説」は読んでいなかったんです。避けていたと言ってもいいですね。そういう気持ちが変わってきたのは比較的最近のことです。2012年に発売された『ファイアーエムブレム 覚醒』(※6)というタイトルの製作中に、イラストレーターさんとの打ち合わせのため渋谷にいたのですが、ちょうど東北地方太平洋沖地震に遭遇したんです。

田中 ああ、そうだったんですね。

※6:『ファイアーエムブレム 覚醒』
ニンテンドー3DSで2012年4月19日に発売された、シリーズ第13作。神竜ナーガと人を滅ぼす邪竜ギムレーが司る世界が舞台。自警団を組織するイーリス聖王国の王子クロムと妹のリズは、記憶喪失の若者「ルフレ」を助けることになる。天変地異とともに現れた「屍兵」や邪竜を信奉する隣国「ペレジア国」、強大な軍事力を誇る「ヴァルム帝国」との戦いの中で、ルフレは軍師として頭角を表していく。そして、存在しないはずの2本目の宝剣ファルシオンを携えた、いにしえの英雄王「マルス」を名乗る謎の剣士の出現をきっかけに、クロムたちは人類の未来をかけた大きな騒乱に立ち向かうことになる。

草木原 渋谷は震源地からは遠かったんですが、かなり強い地震だったので震度4から5くらいの横揺れが結構長い時間続いたんですね。打ち合わせの場所は地下にある喫茶店だったんですが、地上に出たほうが安全だろうとみんなで移動したんです。外に出たときに目にしたのが、渋谷の狭い通りを取り囲んでいる高い建物がぐにゃぐにゃ揺れている光景でした。そのときに、これはもう、どこにも逃げ場なんてなくて、死ぬときは死ぬなと思ったんです。

田中 ええ、ええ。

草木原 そうしたらちょっと人生観が変化して。人間はいつかはみんな等しく死ぬんだから、キャラクターに対しても、死ぬところまで含めてその人の生きざまなんじゃないかと思えるようになりました。で、今の気持ちなら「銀河英雄伝説」も読めるんじゃないかと思って原作小説を読んだところ、ものすごくハマってしまいました。

田中 それはどうもありがとうございます。

草木原 中でも、個人的にはロイエンタール(※7)の生きざまを見て、本当に、なんとこの人はロイエンタールっぽい死に方をするんだろうと、大変感動しました。

田中 (笑)

※7:「ロイエンタール」
「銀河英雄伝説」に登場。銀河帝国軍ラインハルト麾下の名将。僚友ミッターマイヤーと共に「帝国軍の双璧」と呼ばれていたが、策謀に陥ったことをきっかけにラインハルトに反旗を翻す。
(銀河英雄伝説 Blu-ray BOX:徳間書店)


草木原
 今日の対談が決まったときに、田中先生に、なんであんなにキャラクターを殺すんですかということをぜひお聞きしたいと思っていたんですけど、「アルスラーン戦記」の16巻を読み終えたり「アルスラーン戦記完結記念イベント」のトークショーを拝見して、死ぬところまで描ききるのがキャラクターの生きざまを描くことだと田中先生が考えていらっしゃるのかなと感じました。

田中 やっぱり最初のころは、「なぜ、あのキャラクターを殺したんだ」とか、「SFなんだから生き返らせてもいいじゃないか」というような、意見も頂いたりしたんです。けれど、人間は一度死んだら絶対に生き返らないので、あるシーンで死んだけどあとで生き返ったということになるのは、かえって命を軽んじることになるのではないかと。まあ、偉そうに言えば、そういう考えでいます。

草木原 すごくわかる気がします。

田中 人が生き返るんだったら、死ぬのは惜しいとか、そういうような思いもなくなってきますよね。そういうのはちょっと、人間の感情ではないなというように思ったので。人間は絶対に生き返らせない、というのは自分なりのルールとしてずっとやってきております。

草木原 それです。失われるから、大事だと実感できるんだと思います。『ファイアーエムブレム』シリーズの初代ディレクターも、よくインタビューで「戦争というのは人が死ぬものだ」、「人が死ぬ。という現実を伝えたいんだ」ということを答えていたんですが、その姿勢は今でも『ファイアーエムブレム』シリーズに受け継がれていると思っています。我々の作ってきたものと、先生の間に通じるものがあるとわかって嬉しくなりました。

田中 今も中東などで起きていますけど、子供が死ぬ、女の人が死ぬ、そういうのは人道的に許されることではないんだけども、現実に戦争になるとそういう人が亡くなってしまう。だから、戦争っていうのはしちゃいけないんです、ということですね。もし、悪い奴だけが死んでいくんだったら、戦争していいんじゃないか、というような極端な考えも浮かびますけどね。実際はそういうわけにはいきませんから。

草木原 キャラクターの死に関するシーンの思い出ですが、「銀河英雄伝説」でヤン(※8)が亡くなった後でユリアンがイゼルローン要塞の公園のベンチでヤンを追想するシーンも、僕のなかではすごく印象に残ってます。

田中 ああ、そのシーンですか。

草木原 でも、そこには事故的なものがひとつあったんです。一気読みの弊害で、ヤンが亡くなる巻を間違えて飛ばして読んじゃったんですね。で、読んでいるとすでにヤンが死んでるんですけど、何が起こったかわからなくて。前の巻でヤンが死ぬことがわかって悲しかったですね。その巻を読むときに、いつ死ぬんだろういつ死ぬんだろうってページをめくるたびにつらかったです。

田中 その前の巻くらいから死亡フラグをさりげなく立てるようにしていたんですが、どこかの書店さんがその巻を発売したときにでかでかと「ヤン・ウェンリー死す」という告知を出したので、今でいうところの“炎上”をしたそうです。

一同 (笑)

※8:「ヤン」
「銀河英雄伝説」に登場。自由惑星同盟の智将。無料で歴史を学ぶため士官学校に入学、軍人となる。ユリアンはヤンの被保護者であり後継者。
(銀河英雄伝説 Blu-ray BOX:徳間書店)


草木原
 田中先生の作品では、悪人や敵側の心理についても的確というか詳細に描かれるので、そちらにも感情移入できるのが面白いですね。子供のころはそうでもなかったんですが、今見ると印象が変わって見えるキャラクターもちらほらいて、最近はやっぱりギスカール(※9)にすごい感情移入してしまう自分がいたりするんですよね。年齢を重ねてきて気持ちがわかるようになったというか、こういう環境にいて、こういう経緯だからこの人はこうするんだろうなっていう動機にすごく納得がいくところがあって。いわゆる勧善懲悪的な視点だけでなくて、いろんな立場での視点は、田中先生に学ばせていただいています。

田中 おそれいります。私もギスカールを書いているときは、最初は悪の親玉、ラスボス的な存在ですから悪辣に書いてやろうと思ってたんですけども、書いていくうちに「こいつも苦労したよな」と、だんだんと感情移入していきました。…誰が苦労させているのかというのは措いといてですが。本来、彼が長男でルシタニアの国王にすんなりなっていれば、多分侵略など考えなかったかもしれないですしね。

※9:「ギスカール」
「アルスラーン戦記」に登場。パルス王国を侵略した宗教国家ルシタニアの王弟。有能で現実感覚と実務的才能に富んだ実質的なルシタニアの支配者。

草木原 確かに、大司教ボダン(※10)に言われて他国のパルス(※11)を攻めるなんてことはなかったかもしれませんね。

田中 ええ。

※10:「ボダン」
「アルスラーン戦記」に登場。ルシタニア王国国教会の大司教。イアルダボート神の名のもとに異教徒の大量虐殺や焚書などを行う。
※11:「パルス」
「アルスラーン戦記」に登場する国。アルスラーンの祖国。大陸公路が領内を通るため古くから交易で栄えてきた商業国。文化面でも先進国で、パルス語は周辺諸国の共通語となっている。

草木原 一方で、ボダンは、僕が全く感情移入できない悪役でした。

田中 あれはもう、悪というより狂信でしょうね。今の国際的なテロにも、あるいは国家の姿勢の一部にも見られる傾向ですが、自分が正しいと思い込んだら、意識しての悪よりもひどいことをして後悔も反省もしない、そういうのが狂信の恐ろしさですね。

草木原 昔作中に書かれていることが、今の世の中にあてはまることが多いような気もしています。例えば、ナルサス(※12)が主人公に与える教えの中にも「人の世に完全を求めることはなさらぬように。完全を求める政事は、多くの罪人をつくりだし、密告を増やし、人の心を暗くいたします」とありますが、これも最近のSNSなどで見受けられる風潮に通じるものがあると思いました。今でこそこういったことを考えている人は多いように思うのですが、1980年代にそんなことを考えていた人がはたしてどれほどいたんだろうと。あのころって、まだ今ほど個人を尊重しない雰囲気だったので、そのなかでこれを言わせるのは素直にすごいと思います。

※12:「ナルサス」
「アルスラーン戦記」に登場。大陸に並びない知略を誇るパルス王国の軍師。博識者で剣の腕もたつ。唯一の欠点は、趣味で描く絵がおそろしく下手なことに自覚がないこと。(イラスト・丹野忍)


田中
 恐れ入ります。私は、のたーっとのんびりとしていたいほうなので、こら怠けるなと厳しく言われると反発してしまいます。やっぱり、適当に息抜きしながらやっているほうが、結果的にいいんじゃないかな、などと自分で理屈をつけているわけです。

草木原 じゃあ、あれはご自身の心情が表れた台詞だったんですか?

田中 はい。「四角い部屋を丸く掃く」ということわざがありますけども、塵一つない清潔な部屋というのは、かえって住み心地が悪い。まあ、ゴミ屋敷は論外として、適当に片付いてないほうがなんか落ち着くんじゃないかなと昔からずっと思っております。

(後編に続きます)

『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』

●ニンテンドー3DS ●2017年4月20日発売

●CERO12歳以上 ●パッケージ版、ダウンロード版ともに5378円(込)

辺境の地ラムの村で暮らすアルムと、ノーヴァの修道院で暮らすセリカの2人が主人公。それぞれの信念のもと、戦乱にあえぐバレンシア大陸に平和を取り戻すため立ち上がる。2人の主人公の異なる視点から、大陸全土を巻き込む大きな戦いの物語が紡がれていく。

セリカ(左):ソフィアに起きた異変の真実を知るため旅立つ。
アルム(右):平和を取り戻すためにソフィア解放軍に身を投じる


<関連リンク>
『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』

「有限会社らいとすたっふ」


(C) 2017 Nintendo / INTELLIGENT SYSTEMS
(C) 2012 Nintendo / INTELLIGENT SYSTEMS
(C) 1992 Nintendo
(C) 荒川弘・田中芳樹/講談社
(C) 田中芳樹・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ・らいとすたっふ・サントリー
(C) 加藤直之

トップへ戻る