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FE無双 風花雪月 キーマンインタビュー 〜もうひとつのフォドラ戦記を尋ねて 前編〜

Nintendo Switch『ファイアーエムブレム 風花雪月』のもうひとつの世界を描いた本作の魅力を、2回に渡って開発陣にお聞きしました。

アクション×シミュレーションの新しいゲーム体験を訊く

前編では新たに紡がれたフォドラの物語についてや、前作『FE無双』を踏まえて本作はどのように進化したのか、アクション×シミュレーションの新しいゲーム体験についてなどなど、開発秘話をたっぷりとうかがっています。(ニンドリ2022年8月号より)

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キーマンインタビュー 〜もうひとつのフォドラ戦記を尋ねて 後編〜

インタビュー登壇者プロフィール(左から)


開発プロデューサー 鈴木 英生
早矢仕さんや岩田さんの架け橋役を担う。『進撃の巨人2 -Final Battle-』(Switch/PS4ほか)にてプロデューサーを担当。『FE 風花雪月』で最初に選んだのは青獅子の学級。理由は「王道の正義溢れる騎士感の描き方が気になって」

プロデューサー 早矢仕 洋介
前作『ファイアーエムブレム無双』や『ゼルダ無双』シリーズなど、任天堂IPとのコラボを数多く手がける。『FE 風花雪月』で最初に選んだのは黒鷲の学級で、理由は「赤かったから」。「三国志のイメージで、世界統一しそうだと思いました」

ディレクター 岩田 隼人
内容全般のディレクションを担当。これまで『ワンピース海賊無双4』やゲーム『進撃の巨人』などのコラボタイトルに数多く携わる。『FE 風花雪月』で最初に選んだのは金鹿の学級で、理由は「単純に可愛い女の子が多かったので(笑)」


「べレトとべレスを別角度で見たら、どれだけ魅力的で怖いか」

3社共同制作で繋いできた『FE無双 風花雪月』実現の道

── まずは『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下、『FE無双 風花雪月』)の開発に至った経緯をおうかがいします。いつ頃から『FE 風花雪月』で『無双』を、と構想されていたのでしょうか?

早矢仕 1作目の『FE無双』の制作の際、初めて任天堂さんとインテリジェントシステムズ(以下、IS)さんにご協力いただき開発をさせていただいたのですが、作っている最中に「次のFE本編もご一緒しませんか」というお話をいただき、それが『FE 風花雪月』に繋がったんです。『FE無双』が終わった直後ぐらいから『FE 風花雪月』の開発がスタートしました。それが終わった時、せっかく3社で長くご一緒してお互いの考え方や強みも理解していて、「『FE無双』の続編をやりましょう!」というお話になったんです。最初は『FE無双2』という仮名称で、いろんな方向性の話し合いをしていたんですけど、『FE 風花雪月』の評判が良かったことと、各社が協力したからこそできた世界観でそこが強みにも繋がったので、当時の担当スタッフにも入ってもらって、『FE 風花雪月』の世界を『無双』にしましょうか、と。鈴木と岩田も交えて話し合ったうえで、それが一番お客さんが求めていることだよね、と結論づいて、今の方向性に決まりました。『FE無双2』を作ろうとしたら、最終的にこの形になったというのが経緯なんです。

鈴木 幻の企画書になりました(笑)。方向性は変わりましたが、我々も『FE 風花雪月』のいちファンでもありますから、むしろあの世界観で『無双』を作らせてもらえるという喜びの方が強かったです。

── 前作『FE無双』は複数のタイトルからいろんな英雄たちが登場して、お祭りゲームとしての楽しさがありましたが、今作は違うな、という印象を受けました。

鈴木 『FE 風花雪月』を題材にする以上、その魅力のベースはシリアスで重厚なストーリーにあると思ったので、お祭り的なゲームとは異なる方向で、というのは3社で意見が一致していました。我々も原作ファンですので、あの重厚な世界観で『無双』を作るのはかなりのチャレンジでしたが、我々のやりたいことをやらせていただけたなと思っています。

岩田 『FE 風花雪月』で作ろう、となってはいたのですが、とはいえ他の歴代タイトルのキャラも出したらどうか、という話もあったんです。ただ、そこは任天堂さんやISさんと話をしながら開発が進んでいくなかで、『FE 風花雪月』に絞って「あの世界であったかもしれない話」の1本にフォーカスして作った方が絶対におもしろいものになるよね、となりまして。自然と『風花雪月』の世界を描くために必要な要素に絞られていきました。

鈴木 コラボ系タイトルは、元のIPを大事にするというのは当然踏まえなければいけないことですから、『FE無双』のようにシリーズ全体ではなく、1つの作品にのみフォーカスできたことで、今作はすごく作りやすかったと思っています。

── 原作にも関わっていたからこそ他のコラボ作品と違っていたり、逆にやりにくかった部分などはありましたか?

早矢仕 任天堂さんとISさんとは『FE無双』でもご一緒していたので、圧倒的にやりやすかったです。

岩田 開発チームの中に原作に関わったスタッフがいるというのは、やはり非常に大きくて。ストーリーやキャラクターなどのIPのコアな部分に関しては、原作スタッフがいることで絶対に方向性を踏み外さないだろう、という安心感はありました。それに加えて、任天堂さんやISさんにもしっかり監修に入っていただいたので、本当に心強かったです。

鈴木 そうですね、やりにくい部分というのはなかったですね。

早矢仕 いや、ひとつだけあった! 社内に『FE 風花雪月』に関わったスタッフがいるから、社内チェックがとにかく異様に厳しいんです(笑)。

鈴木&岩田 あー!(納得するかのようにうなずく)

早矢仕 「こんなのは『FE 風花雪月』じゃない!」みたいなコメントが来るんです。

鈴木 開発途中のバージョンを広く社内でプレイしてもらって意見をもらうというのをやっているのですが、確かに手厳しいなって思いましたね。

岩田 バージョンの検討会とか、本来そういうタイミングではない場面で、直接意見が飛んでくるっていうのがあって(笑)。

鈴木 「このままではリリースしてはいけません」みたいな(笑)。

早矢仕 身内が一番手厳しいという(笑)。いい意味で鍛えられました。

鈴木 社内で納得できるものが作れれば、ファンの皆様にも自然と納得していただけるものに繋がるんじゃないかと思って制作していました。

フォドラの世界観はそのままに、より深く“戦乱”を描きたい

── 本作は原作同様、国によって3つの物語が展開しますが、各ルートの物語はどのように制作されたのでしょうか。基礎となったルートなどはありますか?

岩田 本作はシナリオライターも『FE 風花雪月』の担当ライターをそのまま起用していまして、基本的には進行はそちらに任せていました。最初に基本となるコンセプトは詰めたうえで、肉付けや詳細化に関しては、IPを一番理解しているそのシナリオライターに全面的に任せているんです。制作の仕方は、原作の際もそうだったようなのですが、基準となるルートや制作順などは決めず、3ルートとも並行して進めていました。

── 最初に話したコンセプトとは?

岩田 『FE 風花雪月』と全く同じ展開ではただの焼き直しになってしまい新鮮味がないので、そこは変えたいな、というのはありました。ベレトとベレスを敵にしましょうなどは、まさにそういう狙いからきています。べレトとべレスの扱いは、本作における大きな柱でした。

早矢仕 最初の話し合いで、IFの話にしましょうっていうのは真っ先に出ました。

岩田 もうひとつは、『FE 風花雪月』は戦乱を扱っているタイトルではありますが、原作に関しては主人公である先生と生徒たちの関係性に重きを置いて描かれていた部分が強いと思いますので、戦乱そのものへのフォーカスに関しては語られていない部分も含めてさらに深く描く余地がありそうだなと思っていました。なので今作は、そういった「軍記物・戦記物」という部分に関して、さらに厚みを持って描いていこうという話をしました。そのうえで、たとえばクロードなら「謀略の寵児」と呼ばれてはいたものの原作では善人寄りの顔が出る場面が多かったので、状況によっては厳しい謀略を巡らすような、描き切れなかった一面を本作では見せようねと決めたり。それぞれの国のコンセプトをより深掘りしていこうという形で進めていきました。

── たしかに、本作のストーリーはより「軍記物」感を感じたといいますか、キャラクター同士の絆の描き方も原作とは違う目線であると思いました。

岩田 そうですね。そこはライターも意識して書いてくれてました。

早矢仕 『無双』はそもそも、とある戦場をタクティカルアクションとして体験して、自分の手で逆境を覆す…という遊びなので、ゲーム自体をもっと戦場や争いにフォーカスさせようという話をしました。なのでキャラと仲良くなる期間といいますか、原作でいう士官学校の期間はほぼすっ飛ばしてしまって、より戦場に重きを置いた形になっています。

原作の主人公“灰色の悪魔”が最大の敵になったワケ

── 最初のコンセプトの時点から、原作の主人公であるべレト・べレスを敵に、という構想があったそうですが、そうしたアイデアはどこからきたんでしょうか?

鈴木 最初に言ったのは早矢仕ですね。

早矢仕 本作に関して、「『FE 風花雪月』を遊んだ人が原作との違いを楽しむ」というものではなくて、『FE 風花雪月』の根源のテーマを別の形で体験してもらいたいなという思いがありまして。『FE 風花雪月』って、ルートを選ぶことでかつては学友だったり仲間だったりした人と戦わなきゃいけない、殺さなければいけないというジレンマが発生して、それを3つのルートを遊ぶことでより物語に立体感が出る仕組みになっているじゃないですか。

── 三つの国のどれもがそれぞれの正義と信念があって、どちらが正義でどちらが悪とは言い切れない、というような。

早矢仕 そうです。皆がそれぞれ信じてる道を進めば、敵対することも味方になることもあるんだ、ということが描かれています。そんな複雑な人間関係のなかで、ひとりだけ常に一番いいポジションにいたのがベレトとベレスだったんです。

鈴木 ベレトとベレスは「自分」ですから、どのルートでも、その時その時の味方と一緒に歴史を変えていく、という立場になりますよね。

早矢仕 ただ、この人とにかく強くてばんばん敵を倒すじゃないですか(笑)。べレトとべレスが「自分」である時は、自分が正義だと思って3つのルートをクリアしたと思うんですが、敵対する側から見たらこの人って圧倒的に怖い存在で、文字通り“悪魔”に見えるんじゃないかなと。これなら『FE 風花雪月』を3ルート遊んだ時の葛藤というか、みんなそれぞれ信念があって生きていたんだなということを改めて再体験してもらえるんじゃないかなって。

敵として対峙した際の威圧感は、まさに悪魔!?

── あのジレンマをもう一度新鮮な形で味わえる、と。

早矢仕 別主人公にして“灰色の悪魔”は倒さなくてはいけない敵、という設定にすれば一番感情がかき乱されるというか。「『FE 風花雪月』で感じた葛藤」というのをもう1回感じてもらえるのでは、と考えて「絶対ベレト・ベレスを敵にして倒す形にしようよ」とみんなに聞いて回りました(笑)。原作に関わったうちのスタッフに「ベレト倒していい?」って聞いてみたり。

一同 (笑)

早矢仕 そうしたら、『FE 風花雪月』を担当されたライターが「やります。面白く描いて見せます!」という心強い反応をしてくれたんです。やはりあの葛藤こそ『FE 風花雪月』が皆さんを一番惹きつけることができたテーマだと思っていたので、ここは逃げずにやりきりました。ただ、『FE 風花雪月』をやり込んだ人ほどベレトとベレスに感情移入していると思うので、公表するのは大変怖かったです(笑)。

岩田 その話が上がった時、絶対面白くなるだろうなとは思いつつも、言い知れぬ恐怖は感じてました(笑)。

早矢仕 やはりベレトとベレスは特別な存在なので、蔑むような描き方ではなくて、あくまでベレトとベレスを別角度で見たらどれだけ魅力的で怖いか、というような…そういう存在として体験してもらいたいなと思い、形にしています。

岩田 開発の初期段階から任天堂さんやISさんとも、「ベレト・ベレスとして、生徒をはじめとする仲間と絆を育んだ経験を否定するようなものにはならないようにしよう」と3社で意見を固めて制作を進めました。

鈴木 『FE 風花雪月』を遊んでいない方がこのゲームをプレイすると、すごく『FE 風花雪月』をプレイしたくなるはずです。私がそうなので(笑)。『FE 風花雪月』を遊んだ方からすると、最初は「主人公がベレト・ベレスじゃないのか」と思うところはあるかもしれませんが、『FE 風花雪月』の根本の魂みたいなのはちゃんと宿ったゲームになっていると思うので、そこはぜひ体感して確かめていただきたいです。

「自分」であり常に「味方」であり続けたべレト・べレスが敵になることで、原作で感じたむずがゆい感情をまた違った形で感じることができる

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