宮本茂さんに聞く“マリオたちの名前の由来”

宮本　最初に言い出したのは、NOA（ニンテンドーオブアメリカ。アメリカにある任天堂の子会社）のスタッフなのか、NOAに行っていた日本の社員なのかはわからないんですけど、アメリカにマリオという人がいて、その人の名前から付けたんです。たしか、借りていた倉庫のオーナーがマリオさんで。それで、僕が決めるより先にみんなが「マリオ」って呼んでいるのを聞いて、「それいいんやないの」って。もともとイタリア人だと思って描いていましたし、イタリアにはマリオなんちゃらさんていう名前のデザイナーが多いので、「マリオ」って聞いても違和感がなかったんですよ。それに僕はマルディロ（イタリアのイラストレーター）の絵が好きで。彼の描くキャラクターは、鼻が大きくてヒゲがあるんですよ。それから、僕が好きだった「ひょっこりひょうたん島」のドン・ガバチョとか、「鉄腕アトム」のお茶の水博士とか、必ずみんな鼻が大きくてヒゲのあるキャラがいたんです。そういった背景もあって、自分の中で大きい鼻とヒゲというのが結びついたんでしょうね。だから、イタリア人系かなって思ってマリオを描いてました。

宮本　よく言われている「マリオにそっくり＝類似」だからルイージ、でもいいんですけど（笑）。実際はね、マリオに対して一番そばにいておかしくないイタリア人の名前として考えたんですよ。ルイジなんちゃらさんっていうデザイナーもいっぱいいるんで、ルイージがいいかなと。

宮本　ピーチ姫はなんだったかなぁ。（すごく考えて）お姫さんといえば女の子。女の子といえばピンクとか、そういうところからのネーミングだったと思うけど。うーん…。

宮本　当時の僕は、クッパという食べ物が焼き肉の種類だと思っていたんです（笑）。なので、クッパって焼き肉だから力がありそうだし、勇ましくてカッコイイなぁと思って名付けたんです。そしたら、だんだんとクッパはお粥らしいってわかってきて（笑）。でも、せっかくクッパを食べ物から付けたので、ほかのキャラもいくつか食べ物シリーズで決めることにしたんです。だから、ゲッソーなんかはクッパがいたから決まった名前なんですよ（笑）。

宮本　キノコをもじって付けたかったっていうのと、あとは語呂もいいし、覚えやすい名前ですから（笑）。でもピノキオと間違える人も出てくるだろうなって思いながら付けてましたね。

宮本　開発中からヨッシーと呼んでいたんです。ヨッシーのデザインをしていたスタッフの名前をもじって（笑）。なので、そのままヨッシーと。ネーミング会議もやるんですけど、ほとんどの場合は開発中の名前のままで決まりますね。

宮本　クリボーも開発中に呼んでいた名前なんですけど…。あのね、クリボーは本当はキノコなんですよ（笑）。でも、プログラマーが栗に見えたみたいでクリボーって呼んでいて。僕はキノコを描いたんですけど…どう見てもしいたけでしょ。気づいたら周りも言い出すし、もうそのままにしといてあげようと（笑）。そのあと、シリーズによっては栗のような絵になったりもしましたね。

宮本　ノコノコはのこのこ歩いてる。パタパタはぱたぱた飛んでるので（笑）。繰り返す名前が多いのは、手塚（卓志さん）が自分のことを「てんてん」って呼ぶからなんですよ。愛称が幼児っぽいんですけど、それが面白いと思って（笑）。それで繰り返しシリーズというのを作ったんです。

宮本　ジュゲムは手塚が描いたキャラですね。『スーパーマリオ』の中じゃ一番哲学っぽいキャラです（笑）。食べ物シリーズや繰り返しシリーズとは違うシリーズの名前が欲しいなぁと思って、一番長い名前を付けることにしたんです。一番長い名前といえば、やっぱり落語の「じゅげむじゅげむ」でしょって（笑）。もう即決で決めました。ちなみに、ジュゲムが落とすパイポのネーミングの由来もここからきています。（早口で）「じゅげむじゅげむごこうのすりきれ…（中略）やぶらこうじのぶらこうじ、ぱいぽぱいぽ…」ね（笑）。

宮本　最初はプクプクじゃなかったんですよ。食べ物シリーズの名前で、最初はテッチリーでした（笑）。けど、繰り返しシリーズに変えようと。テッチリーでもよかったんですけどね。プクプクはフグやし、プクプク〜って膨らむのもいいかと。わかりやすい名前でいうと、ヘルメットだからメットだし、トゲがあるからトゲゾーってのもやね（笑）。

宮本　シャークマウス（ティース）って言うんですが、当時よくこういうサメの顔が戦闘機に描いてありましたよね。で、それを大砲の弾に描いたら、なんかキラーな感じがするでしょ（笑）。だから、最初からキラーって名前でした。