• HOME
  • インタビュー
  • プロジェクトスタッフに聞く 「クラシックミニ」シリーズ誕生秘話(後編)(2017年11月号より)

プロジェクトスタッフに聞く 「クラシックミニ」シリーズ誕生秘話(後編)(2017年11月号より)

2016年にファミリーコンピュータ、2017年にスーパーファミコンと、世間を席巻した「ニンテンドークラシックミニ」。ニンテンドードリームで行われたインタビューを再掲載。企画が立ち上がったきっかけから、未発売になっていた『スターフォックス2』の収録決定まで、ハードとソフト、ライセンス契約のスタッフが参加したプロジェクトの全貌に迫ります。
前編はこちら

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。
・ネタバレも含んでいる場合があります。
プロジェクトメンバープロフィール
任天堂 企画制作本部 清水隆雄さん
1986年入社。『新鬼ヶ島』(FCD)や『スターフォックス64』(N64)、『スーパーマリオギャラクシー』(Wii)など、数多くのタイトルを手掛ける。「クラシックミニ」では主に本体のユーザーインタフェース関連を担当。

 

 

任天堂 技術開発本部 丸山和宏さん
2000年入社。今までに「Pokémon GO Plus」をはじめ複数のハードのプロダクトデザインや商品開発を手掛ける。「クラシックミニ」ではプロジェクトリーダーを務め、本体のプロダクトデザインを中心に担当。

 

任天堂 業務部 西 和良さん
2010年入社。サードパーティのゲーム制作窓口に所属。「クラシックミニ」では収録タイトルの選定や許諾の交渉、契約など開発以外を担当。商品化にあたり任天堂の営業・製造セクションとの調整役も務めた。

 

プレイヤーの思い出がたくさん詰まった、
当時を象徴するタイトルをコレクション

―― 「クラシックミニ」はどのように収録タイトルを決めていったのですか?
西 当初は任天堂のタイトルだけでまとめようという意見もありました。
清水 「ニンテンドーコレクション」という商品名も候補にありましたが、ライセンスの関係で収録が無理なタイトルがあったりして、コレクションにならないのでは? という話になって、それはやめましたね。
西 ええ。そして、この商品は当時のユーザーさんの思い出を形にした、時代を象徴するような位置付けだとも思いましたので、やはりソフトメーカーさんのタイトルは欠かせないですよね。プロジェクトが動き出してすぐに選定と交渉にあたりました。
―― 具体的にはどのように選定していったのでしょうか?
西 ミニファミコン、ミニスーファミともに、収録候補のタイトルは数多くありました。そのなかでも基本的には人気のあるタイトルやユーザーさんの評価が高いもの、遊んでいた方の思い出に刺さるものを中心に、ハードの初期の頃から終わりの頃までまんべんなく、ジャンルやプレイ人数、メーカーさんのバランスも考慮しつつ選んでいきました。
―― ミニファミコンの30タイトル、ミニスーファミの21タイトルという本数はどのように決まったんでしょうか?
西 ミ二ファミコンについては開発期間が短かったこともあり、本体に組み込む作業や交渉にかかる時間など、当時のROMカセットの価格などを踏まえて30本という目標が自然と決まっていった形です。ミニスーファミについては、ゲーム自体のボリュームが増えてクリアするまでの時間がかなり長くなったことや、当時のROMカセットの価格もファミコンとは違うので、それを踏まえて当初は20本を予定していました。
清水 で、任天堂のタイトルを決めるわけですが、まずこれまでスーパーファミコンのバーチャルコンソールには『スターフォックス』や『ヨッシーアイランド』『ワイルドトラックス』といった、「スーパーFXチップ(※3)」を使っていたタイトルは配信されていませんよね。今回、ミニスーファミに『スターフォックス』をはじめとしたタイトルたちが無かったらすごく残念だし、逆にその3タイトルが動作するなら、幻と言われていた『スターフォックス2』だって収録できるよと言ったんです。そうしたら、ミニスーファミのプロデューサーの1人である島田(健嗣さん)と、『スターフォックス』と『スターフォックス2』のディレクターだった江口(勝也さん)が、宮本(茂さん)に『スターフォックス2』の収録についてOKをもらっておこうよって言いだして。

※3:スーパーファミコン本体では処理が難しいポリゴンや3Dグラフィックを描写するためのチップ。スーパーファミコンのROMカセットに内蔵された

―― 宮本さんに聞きに行かれたんですね。
清水 ええ。ちょうど『スターフォックス ゼロ』(Wii U)の発売前後の頃でした。そのときは「あれは幻のままでいいんじゃないの?」とも言われたのですが(笑)、とりあえず「スーパーFXチップ」の開発を進めていいという了承を得ました。ですので、NERDにはミニファミコンと「スーパーFXチップ」を並行して開発してもらうことになりました。
―― 実際にミニスーファミに「スーパーFXチップ」が搭載されているんですか?
清水 ハードが追加されているのではなくて、ソフト的な対応ですね。今年に入るくらいまで対応可能かどうかわからない状況でしたが、最終的に「スーパーFXチップ」に対応可能となりました。収録タイトルは西が検討しました。
西 はい。「スーパーFXチップ」はスーパーファミコンの特徴的なもののひとつではありますが、いっぽうでお客さまがどのようなタイトルを遊びたいのか、ゲームのジャンルも含めて考慮した結果、泣く泣く『スターフォックス』と『ヨッシーアイランド』の2本のみを「スーパーFXチップ」搭載タイトルとして選びました。『スターフォックス2』に関しては、これを含めて20タイトルにするかどうかを悩んでいたのですが、社内で数十人が集まってテストプレイを行った結果、評価が高かったのでプレゼント的にプラスワンにすることを決めました。ただし、ゲームとして先に『スターフォックス』を遊んでからプレイしてもらうほうが良いと思ったので、ロックをかけています。(※4)

※4:『スターフォックス2』は、『スターフォックス』の最初のステージをクリアすればプレイ可能に


清水 私は『スターフォックス64』のディレクターを担当しましたから、そういう意味では『スターフォックス』と『スターフォックス2』は絶対入れなければいけないと思っていました。また、『ヨッシーアイランド』もすごく出来がいいし、当時のスタッフが苦労していたのも知っているのでなんとか入れたいっていう気持ちがあったんですよね。まあ『ワイルドトラックス』は、『スーパーマリオカート』と『F-ZERO』という、レースが2本あるなかでもう1本は入らないのはわかるんですが決定については噛みつきました(笑)。
丸山 西はいろんな所から噛みつかれていましたね。
西 誰にとっても100点満点という選定ができないことは分かっていましたので、こういう指標でやりますという方針を示したうえで、ご意見をお受けする形にしました。海外も含めていろんな意見を伺っていくと国内と海外では微妙にタイトルが違う結果になったのですが、同じタイトルを収録すれば開発の手間が減ったりしますので、そういったものとのバランスを見て、海外特有のタイトルや国内専用のタイトルを考慮しています。また、タイトルが複数出ているシリーズも、どれを入れるかもすごく悩みました。
―― 『ストリートファイターⅡ』(以下『ストⅡ』)シリーズはスーファミだと3タイトル出ていますし。
西 そうなんです。『ストⅡ』なのか『ストⅡターボ』なのか、『スーパーストⅡ』なのかというのは、海外では『ストⅡターボ』が人気だったりするので、いろんなメンバーの意見を聞きました。
―― 『ファイナルファンタジー』(以下『FF』)シリーズも好みが分かれるところですね。
西 個人的には『FFⅤ』なんですが、いろいろ考慮した結果、『FFⅥ』を収録させていただきました。
―― ミニスーファミの方が2人プレイ対応のタイトルが多い印象を受けたんですが、そこは意識されたのでしょうか?
西 全体的にファミコンの頃よりも2人プレイ対応のタイトルが多く発売されていたこともありますし、価格とのバランスを考えてぎりぎりまで検討していましたが、コントローラーの同梱数を2個にすることで、親御さんが買われてお子さんと遊ばれたり、お友達同士で遊んでいただけるように今回は2人プレイ対応のタイトルをできるだけ入れています。いっぽうでRPGの全盛期でもありましたので、多くRPGも入れてバランスを取っています。
清水 ミニファミコン開発の最終段階で島田とテストプレイをしていたら、セレクトボタンで並び替えられるソートの項目に「2P」って表示はあったのですが、2人同時プレイが出来るゲームがどれかは直ぐにわからなかったんです。2人プレイは「2人同時プレイ」や「交互」などさまざまだったので「2人同時プレイ順」という表記にして、「2人同時プレイ」「交互」「1人プレイ」の順に並ぶようにしてあります。ミニスーファミ収録タイトルの『聖剣伝説2』や『FFⅥ』でも2人同時プレイができるので、そういう遊び方もしてほしいと思っています。

▲ソートはプレイ人数やメーカー名以外にも、最近遊んだ順など全6種類
―― 編集部でも人気なんですが、パズルで対戦できる『パネルでポン』も入っていますね。
清水 私も『パネルでポン』が入って良かったと思っています。コンピューターとの対戦で負けたときにリプレイ機能を使うと、なんで負けたのか見直せるのがすごくいいんですよ。普通はコンピューターとの対戦で相手の手をじっくり見ることってことはほぼ不可能じゃないですか。それが見られるので作って嬉しかったです。

▲どんなゲームでも、ミスになった原因がわかれば対処方法が研究できる

プロジェクトメンバー3人の心に残っている
スーパーファミコンの思い出は?

―― 最後に、スーファミが出た当時の思い出やミニスーファミに収録されているタイトルにまつわるエピソードを教えてもらえますか?
清水 すでに任天堂に入社していましたね。当時はマリオクラブ(※5)が無かったので、デバッグは開発が佳境でないチームのスタッフが協力していたんです。ちょうど『スターフォックス』を開発しているときは、私は佳境ではなかったので、朝出社してから終電まで毎日ずっとデバッグを担当していたんです。普通、それだけプレイすれば全部クリアできるじゃないですか。でも、レベル3だけクリアできなかったんです。それで宮本に「会社に入ってクリアできなかったゲームは初めてですよ」って言ったら、「そんな簡単にクリアできたら商品にならへんやんか」って言われたのが印象に残っています。デバッグ中は、もし自分が作るならという視点でプレイしていました。そのときに、難易度が高くて先に進めないなら、上手になったら難易度が高いステージに自動的に分岐するような仕組みを作ったらどうだろう? と思ったのが、後に『スターフォックス64』のディレクションに生かされています。

※5:任天堂のデバッグなど品質管理を行っていた部門。現マリオクラブ株式会社

丸山 僕は学生でした。当時、スーファミは友達の家で遊んでいた記憶があります。収録タイトルにまつわるエピソードとしては、ミニファミコンの開発当時は、コントローラーの操作性を作り込むために『グラディウス』と『ダウンタウン熱血行進曲』『ダウンタウン熱血物語』『ドクターマリオ』を本当に長時間、開発のメンバーとずっとプレイしていたんですが、ミニスーファミの開発時は『ストリートファイターⅡ』をプレイしていました。コマンドを入力するときにコントローラーのボタンをフルに使うんですけど、特に十字ボタンの斜め入力が難しかったので、それがちゃんとできるように開発のメンバーと作り込んだのが印象に残っています。
西 私はスーファミが自分用に初めて買ってもらったゲーム機で、ゲーム機で一番思い入れがあるのもスーファミになります。私はアクションが得意ではなかったのですが、父親と『がんばれゴエモン』シリーズを一緒に遊んだときに、父のプレイが上手くて尊敬したことを思い出しました。ですので、『がんばれゴエモン』シリーズには思い入れがあります。タイトル選定の立場で思い入れがあるタイトルは、『スーパーフォーメーションサッカー』です。ユーザーさんの評価が高く、遊んでいた方の思い出に刺さるものとして選んでいるうちの1本です。


<関連リンク>
ニンテンドークラシックミニ SUPER FAMICOM
ニンテンドークラシックミニ FAMILY COMPUTER


(C) 2017 Nintendo

関連記事