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NHK「シンフォニック・ゲーマーズ3」放送!番組ディレクターにその熱い思いを尋ねる

名作ゲームの音楽を、ゲーム世代の演奏家たちによる熱演と、ゲームを愛するゲストたちのトークで楽しむコンサート番組「NHK音楽祭 シンフォニック・ゲーマーズ」。企画、選曲などの形作りについて、番組ディレクターの齋藤琴子さんにお話をうかがいました。

NHK音楽祭2018 シンフォニック・ゲーマーズ3 -そして僕らは強くなる-
■放送:BSプレミアム 12月8日(土) 午後11時45分〜
■主催:NHK
■指揮:永峰大輔
■ゲスト:井上聡(お笑い芸人・次長課長)、大谷幸(作曲家・ピアニスト)
■司会:青木瑠璃子(声優)、塩澤大輔アナウンサー
■演奏タイトル:「アークザラッドII」、「スターフォックス64」、「モンスターハンター」シリーズ、「ワンダと巨像」、「UNDERTALE」、「星のカービィ スーパーデラックス」

第3弾となる今回のコンサートでは、上記の6タイトルの楽曲が、それぞれメドレー形式で演奏されました。
(詳しい曲目は、[ 公式サイト ]で確認できます)

番組ディレクターに尋ねてみました!

ゲーム音楽として定番の名曲はもちろん、なかなか演奏される機会のない曲まで、熱く繰り広げられるこのコンサート。
「シンフォニック・ゲーマーズ」の企画者であり、番組ディレクターを務めるのは、普段NHKのオーケストラ番組を制作している齋藤琴子さん。ゲーム世代としては「スーパーファミコンからNINTENDO 64」という、第1回制作当時27歳の女性の方でした。

いったいどのように企画され、選曲などの形作りが行われていったのでしょうか。お話をうかがいました。

Q:そもそもの企画のきっかけを教えてください。

齋藤:
まず「NHK音楽祭」というNHK主催のイベントがあり、そのなかの企画として、なにかできないかという募集がかかっていたんです。
ですから、「NHKホールで音楽ものをやる」という枠がそもそもあったんですね。
それで「シンフォニック・ゲーマーズ」のもととなる企画を出しました。というのも、私自身がもともとゲームにすごく育てられてきたんですよね。
私はスーパーファミコンやNINTENDO 64あたりのゲームを楽しんでいた世代なんですが、弟や男友達、その兄弟、いとこが多かったので、自分自身もゲームを多く遊んできました。
その一方で、幼稚園に入る前くらいからお稽古事でバイオリンを習っていたんです。
小学生からジュニアオーケストラに入り、ずっとオーケストラで演奏してきました。
そしてオーケストラの練習から帰ってきたら、弟と一緒に『星のカービィ スーパーデラックス』を遊んで…のような毎日を送っていました。
だからオーケストラとゲームは、習い事と遊びの時間というオンとオフの存在として身近にあったんです。
そういう経験をしてきたこともあって、オーケストラとゲームで何かできないかなと考えました。
それに、例えば「映画音楽」は、ジョン・ウィリアムズといった作曲家の功績もあって、ひとつのジャンルとして出来上がっているじゃないですか。けれど「ゲーム音楽」は、まだそれほど一般的に親しまれていないところを漠然と感じていて。
それこそNHKでは映画音楽やアニメソングを1ジャンルとして取り上げている番組があるので、であればゲームもやれると思ったんです。
だから、「ゲーム音楽」という1つのジャンルとしてやりたかった、というところもありますね。
それと提案募集がかかった2016年は、『ゼルダの伝説』がシリーズ30周年を迎えた年だったんですよ。これは本当に個人的な感想になりますが、私の中のゲーム・オブ・ゲームは、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』なんです。
ーー ゲーム音楽としてではなく、ゲームそのものがですか?
齋藤:
そうです。私のゲーム体験の原点は『時のオカリナ』なんです。
自分でオカリナが吹けた、吹いて謎が解けて、主人公のリンクになれて…という。
なので最初は、90分の特番まる一本『ゼルダ』で考えていたんです。
「ゼルダの伝説30周年だから、ゼルダの音楽をみんな聴いて!」
というのが一発目の企画書でした。
そこから企画会議をやっていく中で、まずは「ゲーム音楽」というものをちゃんと打ち立てていきましょうというふうになっていきました。それで第1弾のトリは『時のオカリナ』にしています(笑)。
『時のオカリナ』の音楽では、「森の神殿」のBGMが好きで。「森の神殿」のダンジョンも本当に最高傑作だと思っているんですけど、BGMも本当に好きなので、とにかくあれを鳴らしたかったんです。
ーー 「森の神殿」って、音楽というより環境BGMにも近い雰囲気ですし、独特の音も多くてシンフォニー系ではなかなかやらない曲だと思うので驚きました。
齋藤:
そうですね。もちろん「サリアの歌」とか「嵐の歌」とか名曲はたくさんあるんですけど、とにかく私のなかでは「森の神殿」なんです。
カメラリハーサル中、緑色の照明でNHKホールが森の神殿になって、オーケストラで曲が鳴ったときには、インカムしながら泣いてました。
※インカム=(テレビ番組の制作中においては)ディレクターから各スタッフへ無線インカムで指示を出すこと

Q:「ゲーム音楽」を題材にすることが決まったあとは、まずは齋藤さん自身の好きなタイトルや楽曲を詰め込んでいくところから始めたのでしょうか。

齋藤:
そうですね。
当時の番組スタッフには、プロデューサーもカメラマンも、ゲーム音楽のわかる人がほとんどいませんでした。
だからディレクターの私が「照明はこういう感じにしてほしい」とか、「ここはこの奏者さんを撮ってほしい」とかスタッフの皆に説明をするわけですが、その通りに番組を作ってもらうためには、「この曲のここが格好いい」とか「これが大事な曲」ということを確固たる自信をもって言えないといけなかったんです。
たとえそれ自体が個人の独断と偏見であっても、それこそNHKホールを使ってあれだけのお客さんを前にするのですから、半端な仕上がりになってはいけないなと思って。
だから演奏される曲は、年代やジャンル、RPGやアクション…というバランスも考慮しますが、自分でプレイして本当に面白いと思ったものだけです。
それは譲れないところですね。

Q:実際に企画を進めるにあたっては、編曲者なり演奏者なりが必要になってくると思うのですが、どういうふうに見つけていったのでしょうか。

齋藤:
第1弾と第2弾は、JAGMOというゲーム音楽専門のオーケストラ団体に演奏をお願いしています。というのも、当時のJAGMOのプロデューサー(泉志谷忠和さん)と、もともと友達で。それで、アレンジャーやオーケストラについてアドバイスをもらって…。
たまたまそういう友人がいたということではあるんですが、今思えば、そういうつながりがないと出来なかったですね。
MCの青木瑠璃子さんも、実は高校時代からの友達で、放課後に一緒にゲームを遊んでいた仲なんです。その彼女が今ゲーム好きの声優として活動をしていて…。
本当に偶然の巡り合わせですね。
私自身が音大の出身なんです。オーケストラで楽器を弾いていた経験から、音楽関係の仕事がしたいと思って音楽関係の大学に進んだんです。
演奏家になった大学時代の友人が結構いるので、声かけをしていったり…。
自分の持っているつながりを全部使ったような感じなんですよね。
ーー ゲーム好きの人と、音楽のプロの人。両方が身近にいらしたんですね。でも音楽の専門の方よりも、最終的にはゲーム好きの方のほうが形にしてくれたのかなというふうに感じました。
齋藤:
そうですね。それこそ普通にオーケストラ番組をやるとしたら、それはNHKにルーツというか脈絡があるわけです。
いつもNHKでお願いしてるオーケストラを呼んで、編曲家さんに曲を書いてもらって…。やろうとすれば、なんてことはなく番組はできると思うんです。NHK番組でずっとキャリアを積んできている方たちに頼めるわけですから。
でも、それでは何かつまらないなと思って。本当に好きな人たちで、決して効率的じゃなくても多少手間暇をかけて、ひとつ生み出すことをしてみたかったんです。
「ゲーム音楽」で何かしようというエネルギーみたいなものを、大事にしたいなと思いました。
ーー そういう思いは、音楽の権利をもつ各メーカーさんにも伝わっているのではないでしょうか?
齋藤:
そうですね。公共放送だからということもあってか、思った以上に協力してくださるようには感じていて、それは第1弾のときからすごく感謝しています。
でも私が「作品のファンなんです!」っていう気持ちを押し付けすぎて、「こいつうっとしいな」みたいに思われたりしてるのかなと思ったりもします(笑)。
ただ、この曲をどうしてもやりたい理由とか、そういうものを話すとちゃんと聞いてくださって。やっぱり小さい頃から自分を育ててくれた音楽、作品に関わってくださっている方々なので、メーカーの皆さんのことは基本的にリスペクトしていますね。
人が好きなものを語っているときって、説明としては言葉が足りなかったりもするんですけど、これはきっと楽しいゲームなんだろうなとか、この敵は本当に強くってしんどかったんだろうなとか、「この人は本当に好きなんだな」と伝わるものがあると思っています。
だから青木さんのMCとかも、ときどき本当にただのゲーム好きみたいになっているところがあるんですが、この企画にはハマったんじゃないかなと思っています。

Q:第1弾は初めてのことばかりだったかと思いますが、そのときの思い出やエピソードを教えてください。

齋藤:
照明やカメラのカット割りは、事前に編曲家さんからもらった打ち込みのデモ音源で考えます。ここは水色のライトで、ここでフルートのソロをズームインで撮ってとか。
考えてはいるんですけど、この番組は基本的に1日でリハーサルから本番まで行うので、お客さんが入って実際に収録する3、4時間前のカメラリハーサルで初めて、実際の照明の色とオーケストラの音があわさるんです。
自分が舞台にのせるものの実体が、収録直前までわからないんですよね。
10か月くらいかけて準備して、今日が収録です、これが最後ですっていう日になって、ようやく「へー、こんなふうになるんだ!」と実感するという。
だから「森の神殿」では、感極まって号泣したんですよね。
普段はクラシック音楽のオーケストラの番組を担当しているのですが、クラシックは同じ曲を何百年も、何度も何度も演奏しているんです。ベートーベンの交響曲なんてCD検索をしたら膨大な数がヒットするんですよね。
そういう、ずっと皆が聴いてきた音楽を再び撮るという仕事をしてきたので、今まで誰も聴いたことのなかったものを撮って1本の番組にするということが本当に新鮮でした。
それから、普段はお客さんがお金を払って来場するコンサートにお邪魔させていただいて、番組を収録する形なんです。
「シンフォニック・ゲーマーズ」の場合は逆で、番組の収録にお客さんを招いて、観覧してもらう形になります。
テレビに映したときにゲームの世界をどれだけ表現できるかというところを優先して考えられるので、またちょっと違う映像の撮り方に気づかされたところがあります。
それにゲーム音楽はアップテンポな曲が多いじゃないですか。照明も映像も細かく切り替えていかないといけないので、普段のクラシック番組と違う、もっとエンターテイメントというかポップス系のカメラマンや照明スタッフに担当してもらったりもしました。

それぞれのゲーム音楽シーンにあわせた、映像や照明の演出も

Q:ゲームをテーマにすることで、普段オーケストラをご覧にならない方が興味をもって見るということも意識しているんでしょうか。

齋藤:
それは大いに意識していますね。
私としては、同じ世代の、普段のクラシック番組ではチャンネルを止めてもらえないような人たちに「オーケストラいいじゃん!」って思ってもらいたかったんです。その思いは、これを企画する前から…それこそ音大に行っていた頃からありました。
「シンフォニック・ゲーマーズ」は1回目を放送したときに20代、30代の方からの電話がNHKのコールセンターにたくさんあったらしく、普段無い客層からの声をたくさんいただいていますという知らせをもらえたので嬉しかったですね。
ツイッターのトレンドワードをほぼうちの番組が占めるようなこともまずあり得ないので、そういう反応を得られるのは新鮮だったし嬉しかったです。

Q:そのように第1弾が好評だったという結果が、第2弾、第3弾へとつながったのでしょうか。

齋藤:
第1弾は、再放送もしてもらえて。
視聴者の方から「この曲もやってくれ」という声も上がっているし、私も「今回どうしても出来なかった『ドンキーコング2』というゲームがあってですね…」とプロデューサーのところに言いに行って。
「もう1年これをやらせてください」って申し出たんです。
第1弾のころのプロデューサーは、カタカナのタイトルとメーカー名の区別もつかないような、ゲームを全く触ったことのない人でしたが、それでも第1弾ですごく反響をいただけたので、「やってみたら良いんじゃない」と言ってもらえました。
第1弾のときはまさか第2弾ができるとは思っていなかったので、『スーパーマリオ』と『ドンキーコング』と『星のカービィ』を、『大乱闘スマッシュブラザーズ』でまとめて紹介しようと思ったんです。
限られた時間のなかで演奏タイトルを絞り込んだものの、マリオとドンキーとカービィをスルーするなんてゲーム番組であり得ない! と思って。だから唐突に『スマブラ』が入っていたんですよ。
でも、そうしたら第1弾を観た視聴者の方から「ドンキーはあれだけ?」みたいなつっこみが届いたんですよね。
それで、やっぱそうなるよね…と思って。じゃあ『ドンキー』をやるためにもう1回やろうと。
だから第2弾は『スーパーマリオ』と『ドンキーコング』をラインナップに入れて、今回の第3弾でようやく『星のカービィ』もしっかり出せました。
やっぱりゲームファンの皆さんには好きな曲がたくさんあるので、そういうリクエストがたくさん来るんです。それもこの番組の特別なところですね。
だから、自分の中に「これをやりたい、聴かせたい」という気持ちがあるのと、それ以上に視聴者の方から「これが聴きたい」という声が届くので、その二つが合致した曲を選んでいます。

Q:第3弾を企画するにあたっては、まずゲームタイトルを決めるところから始めたのですか?

齋藤:
そうですね。それこそ「森の神殿」のように、絶対にこれはやるぞという曲・タイトルを決めるところがスタートです。
それがまず『星のカービィ』シリーズなんですが、私の中でカービィと言ったら『星のカービィ スーパーデラックス』だったんですよ。
ーー お稽古事が終わってから、弟さんと2人で遊んでいたという。
齋藤:
はい。で、もっと言えば私の絶対外せない曲は「ギャラクティック・ノヴァ」っていうシューティング面です。あの曲を絶対にやろうって決めて。
ーー それは…(激しい曲調が)オーケストラ泣かせの(笑)。
齋藤:
そう! そう! そう!
これやったらどうなるかなっていう気持ちもありつつ、絶対に外しちゃいけないだろうというのがあって。
まず自分の中のマストの1曲があり、その後は良いなぁと思ったゲームの曲、ものすごくプレイしていたなというゲームを一旦全部書き出すんです。
それを眺めて、どうしようかなと考えていきます。
だから今回は「ギャラクティック・ノヴァ」からちょっとずつ曲調のバランスを見ていき、カービィでかわいい系のビジュアルのタイトルが1つあるから、リアル寄りなビジュアルイメージのタイトルも入れたいと思って『ワンダと巨像』を入れたり、ザ・RPGみたいなのもほしいと思って『アークザラッドII』を入れたり…と選んでいきました。
『UNDERTALE』はこの番組で取り上げるものにしては最近のゲームだったんですけど、ゲーム音楽としても注目を浴びていますし、MCの青木さんも『UNDERTALE』をすごく推していたんです。
「あれはめっちゃ良いよ」と言うので、私もプレイして、「良いねやろう」ということになりました。
そんな『UNDERTALE』と『ワンダと巨像』の並びが見えたときに、コンサートのサブタイトル「そして僕らは強くなる」を決めたんです。
どちらも、ただ単に「敵を倒したー! やったー! 」というゲームじゃないじゃないですか。
もちろんベースにはそういうストーリーもありますけど、そうじゃないところを問いかけるもので。
それからゲストとして井上聡さん(お笑い芸人・次長課長)に来て頂くことになっていたのでやっぱり『モンスターハンター』は外せませんし、すると『ワンダ』に『モンハン』と、なんとなく大地に根ざした感じのカラーが強いから、『スターフォックス』で大空へいこうと考えて…(笑)。この6タイトルが決まっていきました。
もちろん、どれもゲーム自体に強い思い入れのあるタイトルです。

Q:『スターフォックス64』の曲をコンサートの生演奏で楽しめる機会は、かなり貴重だと思いました。詳しく聞かせてください。

齋藤:
『スターフォックス64』は演目として、たぶん今回一番ハマった…というのも変な言い方なんですが、満足度が高いんです。
NHKホールという3千人のお客さんが入る空間のスケール感と、作品の舞台となっているライラット系といった銀河のスケール感とが、ビジュアルの規模感として完全に合ったんですよね。
『スターフォックス』って、宇宙戦争という分かりやすい世界観もあるし、スターフォックスのメンバーは完璧な格好よさではなく、ちょっとスレてるところがあるじゃないですか。
ーー そもそも主人公がキツネですし、仲間にカエルがいたりしますね。
齋藤:
そうですよね。そんな彼らが何だかんだ言いながら悪いやつをやっつけて、でもそれを鼻にかけることもなくまた去っていく…。あの格好いいストーリーをNHKホールでやるというのが、まず1つハマったなと思っています。
ちなみに『スターフォックス』シリーズの中でなぜ『64』にしたかというのは、「惑星ゾネス」が絶対にやりたかったからなんです。
あのゾネスのエピソードって、結構ぐっと来ると思うんですよ。「これがあのゾネスか…?」ってセリフがありますけど、かつて美しかった海の星が、汚染されてこんな姿に…って。
『スターフォックス』って、宇宙を戦闘機で飛んで敵をやっつけるという世界観がはっきりしているだけに、単純に空を飛んでピュンピュン撃ち合っているだけじゃないというゾネスは、すごく思い入れがありました。
ーー 音楽も勇ましいものが多い中、ゾネスは切ない感じですよね。
齋藤:
『スターフォックス64』の編曲は、すごくシンプルにしてもらったんですよ。余計な隠しメロディーやアレンジは入れないで、それぞれの曲を素直に繋げてもらうという感じにしたんです。
だから今回の6曲の中で一番原曲に忠実なメドレーになっていると思います。
『スターフォックス64』のゲーム中で聞こえる音楽には、コンピュータが出している、トランペットぽかったり、グロッケンぽい音がありますよね。それをオーケストラでは、実際にトランペットやグロッケンの音で鳴らしています。
当時ゲームで聞いていた音と、今オーケストラで聞いてみた音のギャップの幅。
NINTENDO 64の時代のゲーム音楽がどういう仕組みかまでは分からないのですけど、このくらいの頃のギャップが一番面白く聞こえるんじゃないのかなと思いました。そのまんま過ぎず、変え過ぎないというか。
これが、この番組で一番やりたかったことなんです。
ーー コンピュータの疑似的な楽器で鳴っていたものが、生の楽器で楽しめるという感覚でしょうか。
齋藤:
はい。オープニングのドラムのタッタカタというリズムはあのリズムのまま、進軍のトランペットっぽい音はトランペットの音で聞くことができます。
生身の人たちが音を出しているオーケストラで聞くことが、想定内と想定外のちょうどいいバランスになるというか。プレイした方には特に楽しんでもらえるのではないかなと思います。
そのあとに続く『モンスターハンター』や『ワンダと巨像』は、ゲーム中の音楽自体がオーケストラの録音だったりするので、想定内の方に寄っているんですよね。
ーー オーケストラでの正解の音を、最初からユーザーが知っていることになりますよね。
齋藤:
そうなんです。
反対にスーパーファミコンの『カービィ』に遡ると、電子音の印象が強いじゃないですか。もちろんそれが『カービィ』の音楽のカラーとしても成り立っているので、それをオーケストラに置き換えるということは、想定外の幅のほうが広くなります。
だから、それらのちょうど間のものとして、『スターフォックス64』が入って良かったなと思いました。
ぜひ放送を見て聴いて頂きたいと思います。

Q:『モンスターハンター』は、最新作の『モンスターハンター:ワールド』を演奏したい意図があったんでしょうか?

齋藤:
『モンハン』は第1弾のときに一度やっているのですが、その時に泣く泣く出来なかった曲を今回入れました。そこに『モンハンワールド』をプラスしたのは、単純に最新作を入れたというよりは、「いろんな生き物が生きているこの世界を称えよう」みたいな印象のメドレーにしたかったんですよ。
『モンハンワールド』の「禁断の地へと誘う獣らの囁き」。瘴気の谷という、これがまた独特な世界観のフィールドなんです。
死というものが取り憑いている、でも生き物がいる場所というか。絶対誰も避けて通れない、死というものを彷彿させるような…。
『モンスターハンター』の世界は、モンスターを狩って武器を強くして楽しむだけじゃなくて、いろんなものが生きていて死んでいく世界も描いているんだということを、このフィールドが登場したときに、あらためて強く感じることができたんです。だから、それを曲目でも表して、聴く人にも感じてほしかったという意図があります。
メドレー最後の「星に駆られて」は、お客さんをちょっと演奏に巻き込みたいなっていう気持ちがありました。
第1弾と2弾のときは、奏者さんにハンドクラップをしてもらうシーンを入れていたんですよ。それは奏者が演奏の方法として手を叩くっていうアレンジで入ってたんですけど…。
せっかくあれだけのお客さんに来ていただくので、本当に一瞬で良いからお客さんとそういう事が出来たら良いなぁって。
ただそれを無理矢理やろうとすることによって、原曲のイメージと変わってしまうとか、聞きに来たお客さんに”ちゃんと曲を聞けなかった”という印象を持たれてしまうことは避けたいので、今回は曲のラストのアレンジに、手拍子で一緒に参加してもらうという終わり方にしました。
本当は私自身が、コンサートに行ってお客さんも一緒に…みたいなのがあんまり好みではないんですよ。なんで一緒に叫ばないといけないんだ、曲を聞きに来たのに…みたいに思っちゃうから。
だから、もともとの音楽のあるべき姿を壊さずに、お客さんにどう関わっていただけたら自然なのかなということを考えながら、試しにやってみたんです。
ーー これも、普段のクラシックコンサートでは無いことですよね。
齋藤:
無いですね。
せっかく2千人の人たちがおなじものが本当に好きで集まっているので、そのエネルギーが、何かになればという気持ちがありました。
今回のコンサート全体として見たときに、良かったと思えたので、自分の中では気にいってる瞬間です。

Q:『UNDERTALE』は編曲の凝り方も面白かったですが、ゲーム性をどのように演出しようと考えたのでしょうか?

齋藤:
あれは正直、私は何もしてないんです。編曲家さんにお願いして…。
自分としては、
「びっくりするほど近い距離を飛んで渡らせてくれる鳥」
「枕の上にミントチョコレートも置いていない宿泊施設をホテルと呼んでよいものだろうか」
という、長いタイトルのこの2曲…。
曲の良さはもちろんなんですけど、この曲名をテロップで出したかったんです。
この曲名は『UNDERTALE』のユーモアのセンスのド直球じゃないですか。テレビ番組なので、これをテロップで出して曲を聞かせれば、『UNDERTALE』のユーモア精神が伝えられるかなと思ったんです。
ーー 番組の演奏中に出せる文字情報として、曲名で訴えかけたんですね。
齋藤:
はい。もちろんその前後は「アズゴア」とか「夢と希望」とか、格好いい曲を格好よく聴かせたいというところもありました。
ただ『UNDERTALE』のメドレーに関しては、最後をどこに持っていくかを迷ったんです。シナリオに関係する話でもあるので、あまり語るとネタバレになっちゃうんですけれど…。
番組のテーマとしては、戦って倒すことではない強さみたいなものに最後は結実させたかったので、編曲家さんには「どういう経過を辿っても良いから、最後は『SAVE The World』に落ち着いてください」というところだけお願いしました。
それで「デモ音源、出来ました」って譜面とデモ音源をもらって、それこそ視聴者の皆さんと同じような状態で「どう来るよ」と思いながら初めて聴くわけです。
聴いて「わあー」と感動して、何も言い返すこともなく、ただただ「ありがとうございます」と言って。編曲家さんが工夫して仕上げてくれたので、この番組でやってくれているアレンジャーさんは本当にすごいなと改めて思いました。
だから自分としては、テレビ番組ではテロップで曲目を出すのがマストなので、逆にそこをうまく使おうと思って頑張って「枕の上にミントチョコレートも置いていない宿泊施設をホテルと呼んでよいものだろうか」の文字を打ちました(笑)。
「間違ってないよね? 枕じゃなくて机だったらどうしよう」と原稿を確認しながら。
(シンプルな曲名の)『アークザラッドII』の「怒り」との、このギャップ!
ーー そう思いながら曲名に注目してみると、「LAST BATTLE」というのも同名の曲がこの頃には何曲生み出されてきたことか…みたいな思いにもなりますね。
齋藤:
だから時代を経てこうきた、という感じ方もありますよね。

Q:最後に、これから番組を観る方へのメッセージをお願いします。

齋藤:
今回放送される6タイトルにプレイしたことのある作品があれば、そのときの思い出をちゃんと振り返ってから聴いていただけたら良いなと思いますし、反対にプレイしてないまっさらな状態で曲を聴いて、「あっ、これ良いなぁ」と思ったら、ぜひ調べてプレイしていただけたらと思っています。
もちろん曲そのものもかっこいいんですけど、物語やキャラクターなどの世界があってこそのゲーム音楽であると思いますので。長い曲目も、文字で出しますから(笑)。
一度プレイして、そのうえで、この番組を録画してまた聴き直してもらえたら良いなと思います。
それと、この番組ではゲームの映像を出すのはなるべく少なくしようとしているんです。
やっぱり、自分の手と喉を動かして音を出してくれている演奏家の姿も、ゲーム音楽に負けないくらい格好いいんですよ。なので、ぜひ合わせて見ていただけたらと思います。
ファンの方たちの熱狂的な空気を感じるということは、そのジャンルを「体験」することにつながると思うんです。今回の会場に集まってくださった方々みんなが、「ゲーム音楽を楽しもう」という気持ちをもった空間になったと思うので、そんな雰囲気が画面を通して伝わって、ゲーム音楽とそれを楽しむ人というのをトータルで楽しんでいただけると嬉しいです。


(編集部より)

別の記事「ゼルダの伝説 コンサート 2018 開催記念 指揮者・竹本泰蔵さんインタビュー(ニンテンドードリーム1月号より)」でも、長年ゲーム音楽の指揮者を務める竹本さんが、「聴く側と演奏する側が一緒になってゲーム音楽を楽しむ、いちばんいい時代が始まったと思います」と語ってくれています。
そのとおり、ゲームとオーケストラに懸ける信念で作られたコンサート番組「シンフォニック・ゲーマーズ」は、その幅をまた広げてくれました。
貴重なゲストとのトークも含め、たっぷりのボリュームで展開される「シンフォニック・ゲーマーズ3」。BSプレミアムで12月8日(土)午後11時45分より放送予定です。

シンフォニック・ゲーマーズ3 公式サイト

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