【インタビュー】WEB初公開資料も掲載! 『ストレイチルドレン』開発者インタビュー

ちょっとビターな童話風RPG『ストレイチルドレン』の開発者インタビューをお届けします! 開発初期の直筆資料や、キャラクターの描き下ろしイラストを掲載した豪華特集をお楽しみください。(ニンテンドードリーム2025年5月号掲載)
※本記事はネタバレを含んでいます。未プレイの方はご注意ください。
目次
おしえてオニオンゲームスさーん! 開発者インタビュー
木村 祥朗さん
オニオンゲームス代表。ゲームデザイナー。スクウェア、ラブデリックなどを経て、ゲーム開発者として多数の作品開発に携わった経歴を持つ。実は旅人。
倉島 一幸さん
オニオンゲームスのキャラクターデザイナー。ニンドリ連載コラム「倉ドリーム Picturediary」でおなじみ。今回は特別に、キャラクター「ケンケン」を描いていただきました。
主人公は、突然訪ねてきたおじさん「ケンケン」に導かれてとある部屋へ。ゲーム開発者の父が手がけたソフト『ミカヅキ』を見つけますが、ゲームの中に吸い込まれる事態に。「行方知れずのお父さんがこの世界にいるかも」と、父が作り上げた世界を冒険する旅が始まるのでした。主人公はさまざまな国を渡り歩きながら、襲いかかってくるオトナたちに立ち向かいます…。
開発初期段階から描きためていた直筆資料「世界地図」の存在
―― 主人公が冒険する世界はどうやって作られていったのですか?
木村 最初に全体の構成と地図、ゲームの流れを考えるんです。倉島さんも見たことないと思うんだけど、僕が描いた世界地図があって。
―― すごい。しかもかわいい!
木村 驚くのが、ゲームが完成した今と比べても地図がほとんど変わっていなくて。アイデアが揺れたときもあったけど、悩んでも結局同じことしか思いつかないんだなって思いました。
倉島 本当だ。ぶれてないですね。
ニンドリ5月号のインタビュー企画のために、特別に公開していただいた地図がこちら。しあわせの湖やバラの国など、主人公が訪れるいくつかのエリアが開発当初から存在していたことがわかります。今の『ストレイチルドレン』と見比べながら遊ぶとより楽しめそうです。

―― 倉島さんはこの世界地図を見るのは初めてですか?
倉島 見たことがないかも。なにも教えてくれないから、なにを作ってるのか途中までわからなかったです。
木村 ほかにも「対話で世界を広げる」「町に行くとこうなる」っていう設計図を書いたり。けど、うちのスタッフは誰も見たことがないですね。
倉島 あんまり見せてくれないんです。
世界地図を元にエリアをひとつずつ構築
木村 「コドモの国」は最初に作り始めた国なんです。「絵を描くには十分かな」くらいの指定を入れて、今とは全然違うセリフもありましたね。地図を作りながら、キャラクターや国のイメージを書いていきました。作業を並行しながら倉島さんにキャラクターを頼んで、背景担当の亮さん(※1)にグラフィックを頼んで、そうしてエリアをひとつずつ仕上げていったんです。
―― 『ストレイチルドレン』はこうして作られたんですね。
木村 物語を本番用に再構成するときは、もう一度キャラクターを眺めて倉島さんにストーリーを共有します。そこで倉島さんがピンときた顔をしたら作業を進めるし、つまらなそうな顔のときは「ネタ弱いのかな」って考え直したり(笑)。
―― 倉島さんの顔が判断基準なんですね。
木村 そうですね。そこから「キャラを描き直そう」ってなる場合もあったし、ひらめいたアイデアを元にセリフを書いて数時間後にイベントが完成するということもありました。
(※1)田崎亮さん…オニオンゲームスのテクニカルアート&背景担当。そして実は「リバーシクエスト」シリーズや、『THE GOOD OLD DAYS』のインディーゲームクリエイターでもある。
キャラクターこぼれ話:「キノコの国」のシラタ家は実は3人組じゃなかった!?
当初はキャラクターが1人で登場する予定だったところを、「多数決好きな人々がいたらおもしろそう」と誕生したのがシラタ家だったのだとか。なんでも多数決する彼らのエピソードは必見です。

27年の歳月を経て生まれた唯一無二のRPG
―― 道中で展開される独創的な物語が印象的な『ストレイチルドレン』ですが、着想はどこから生まれましたか?
木村 そもそもオニオンゲームスは、最終的にRPGを作るために生み出された会社なので、そのためにいろいろなゲームを発売してステップを踏んできました。会社ができたころからふつふつと作ってみたかったRPGを形作っていって今に至ります。
―― 本格的にスタートしたのはいつごろですか?
木村 片鱗が見えてきたのは6年前くらいですが、27年前から心の底で始まっていたと思います。宿命として『moon』のようなテイストを求められるだろうとも思っていました。ただ過去作のハードルも案外大丈夫かも? と少々楽観主義的な感じで始めたのがこのプロジェクトでした。まず初めに「ゲーム開発者が作り上げた世界に入ってしまう話を作りたい」っていう案があって、そこに僕と倉島さんに共通する“ダークなファンタジー”を取り入れた作品を作りたかった。
倉島 全体的に『moon』よりダークめだと思います。
―― 「ゲーム開発者の世界に入る」というのが重要なポイントに感じました。
木村 僕が物語を書くときの昔からの特徴なのですが、「閉塞からの解放」っていうテーマがあって。限界の壁を越える、縛りから脱出する、そういう話が好きなんです。それは今回も同じで。大人も子供たちも閉じ込められてるし、プレイヤーも閉じ込められてる。でも『勇者ヤマダくん』みたいなギャグテイストでもなく『moon』とも方向性が違う、最初は悩んで書けなかった。今思えば一番苦労したかも?
倉島 そうだね。今回は難産だった気がします。
木村 体力の衰えもあるし、『moon』っていう壁もあった。そういう意味では難易度が高かったけど、そりゃそうだよなって。でも出来上がったものを見てみたら、作った甲斐があったなって思います。密度も高いし、言いたいことも作品に込められた。だから、真面目に作ってます。人生で一番真面目に作ったと思う。
―― すごくいいキーワードが出ましたね。
木村 そして、倉島さんから共感を得られるか真面目に気にしていました(笑)。
倉島 でも僕はうなずくだけ。基本的に共感してるよ。
「オマージュをみんなで楽しめたらいいなって」
―― 作中に数多くのパロディが登場しますね。連想しながらプレイするのが楽しかったです。
木村 『ミカヅキ』の開発者の子供時代が80年代なんです。僕らが青春時代に味わった80年代から今までのゲームをオマージュとして詰め込みたくて、それをみんなで楽しめたらいいなと思って作りました。

―― 作中に出てくるRPGの『ミカヅキ』自体が「30年前に発売中止になったゲーム」という設定ですもんね。
木村 今作は自分が影響を受けた要素のすべてを絶対に入れようと思ってたので、大小、いろいろ入っています。
倉島 気づく人は気づくかもしれません。僕がわかっていないのもあるかも?
―― 特に「カエルの国」はパロディ色が濃く感じました。
木村 見た目だけじゃなくてセリフにも力を入れました。今まで僕が出会った人たちの心を乗り移らせて書いています。たとえばケロダーのセリフを書くときに「この人だったらどうするかな」って思い浮かべたり。
倉島 なるほど。それって誰?
木村 僕ひとりの人格だと書ききれない世界でした。そういう憑依芸です(笑)。

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多彩な攻撃を繰り出すオトナのデザインのヒミツ
―― オトナのキャラクターデザインはどうやって生まれたのですか?
木村 最初の数体はラフを描いて倉島さんに渡していましたが、あとはオトナの特徴だけ伝えて、描いてもらったものから選んでいました。
倉島 基本は木村さんがしっかりとイメージを持っているので、キャッチボールをしながら仕上げました。
木村 僕のイメージがあやふやなときは、描いてもらってもしっくりこないんです。そういう時は倉島さんが紙一面に描いたイラストを見て、そこから調整していきました。
倉島 元絵にアイデアを足したこともありますが、特に苦労はなかったですね。最初に作ったオトナはカリカリじいさんだったっけ。
木村 カリカリじいさんとクレイジーピッグだね。最初は「ナントカじいさん」がたくさんいて、じいさんばっかりになるから一旦やめようって話に(笑)。


―― ボスキャラで苦労したデザインはありますか?
木村 ローゼンハイムのボスが大変でした。あの顔、形になるまでが長かった。
倉島 確かに。ラフ画をいっぱい描いた記憶があります。
木村 ドレスを着ている性別不明の人物っていうイメージが難しくて。言葉で言うのは簡単なんですけどね。

―― オトナのデザインを作るときは、攻撃方法とセットで考えるのでしょうか。それとも攻撃方法を思いつくのが先ですか?
木村 先にキャラクターを作ってから、そのイメージに合った攻撃方法を考えています。
―― そうなんですね!
木村 最初はキャラをガンガン描いてもらったほうがスムーズなんです。その後に、攻撃ルーチン担当のLuCK氏(※2)にモンスターの名前と淡い攻撃イメージを伝えて、相談しながら作りました。
―― 攻撃パートはまた別のスタッフが作っているんですね。
木村 LuCK氏が次々に攻撃を繰り出す技を作っているのを見て、いろいろオマージュネタを豊富にして、作り込めそうだな! となりました。やっぱり全部の敵ごとに違う攻撃にしたかったので、粘り強く作ってよかったなと思っています。けっこう強敵もいますが。
倉島 たとえば「ガヤガヤシマイ」はエンカウント直後に怒ってることが多くて。しかも怒り状態の攻撃に「ねむり」の状態異常がついてるタイプだから、そういうオトナに出会うと「ああ眠らされる〜」って。
木村 すみません(笑)。
(※2)LuCK氏…『ストレイチルドレン』ではバトルプランナーを務める。そして、エンドレスシラフの同人ゲーム作るマンでもあるのだ。

―― お説教で攻撃してくるパターンもありますよね。説教後は「コトバ」で謝るのですが、選択次第で説教が長引くという。
木村 そういう大人、いそうじゃないですか。
―― 確かに。それがバトルで味わえるのは新鮮ですね。

「オトナが“変な生き物”に見えるんです」
―― 道中で数多くの敵と出会いますが、オトナが敵として登場するのはなぜですか?
木村 昔から大人が“怪物”のような変な生き物に見えることがあって、それを作品に取り入れたいと思いました。学校の先生や親もそうですし、真面目な人でもお酒を飲んだら実は変な人だった、みたいなこともありますよね。いろんな大人といっしょに生きてきたからだと思います。
―― 不思議な感覚ですね。
木村 あとは、一体なんの影響なんだろう。永井豪の漫画で「ススムちゃん大ショック」いう作品があって、ススムちゃんが家の外に出ると大人という大人が襲ってくるんです。それを学校の図書館で見つけて読んだときのショックがまだ宿っているんだと思います。
―― それは衝撃的…!
木村 世の中には、社会的な大人になれないことは悪じゃないけど「ダメな大人は嫌だな」って共通認識がありますよね。現実世界では対話で決着をつけていくし、武器で叩くのはいけないこと。でもこれはゲームで、バトルなので。そういう感覚を落とし込みました。
―― それがバトルシステムの「たたかう」「コトバ」に繋がってくるんですね。
木村 変な話、僕も倉島さんも随分大人なのに、ゲームを作っているせいかずっと子供のままなんです。倉島さんのインスタも…。
倉島 おもちゃだらけだしね(笑)。
木村 ゲーム開発者は心が子供のままな人が多い気がします。そんなこんなで、大人を怪物にしてみました。
個性的なイベントは実体験とアンチテーゼから生まれた
―― 物語に登場するイベントシーンはどんなところから着想を得たのですか?
木村 今作は全体的に架空の世界のようで架空じゃないというか。空想では埋めていない場面もあります。僕の子供時代の思い出や昔おじいさんたちから聞いた話など、自分の経験から作った話も多いです。
―― 「ピラニア占い」もエピソードがあるんでしょうか?
木村 あれは僕が子供のころの話ですね。近所にすごく工作がうまいお兄ちゃんがいて、彼が部屋でピラニアを飼ってたんです。
―― めずらしいですね。
木村 宇宙戦艦ヤマトの工作を触らせてもらった記憶もあります。懐かしい思い出です。
倉島 そのお兄ちゃんも『ストレイチルドレン』遊んでくれてるといいね。

―― イベントの「へんてこチチしぼり」も衝撃的でした。
木村 おもしろいかなと思って作ってみました。普通はあんなことできないですよね。
倉島 本当にやったらお腹壊しちゃうよね。

木村 でも適当に作ったわけじゃないんです。あれってハードルが高い行為じゃないですか。「それアリなの?」っていうインモラルを感じつつも、あれができたら確かにフレンドですよね。
―― 「カエルの国」のイベントもインモラルな要素がありましたね。
倉島 僕は「なんで女性パターンのキャラも作るんだろう」って。よくわからないまま作りました(笑)。
木村 あれも「こういう話を表現してはいけない」っていう壁を破ろうとして作ったところがあります。人間だったらタブーじゃないですか。でもカエルだったらアリかなって思って書きました。

もっとおしえて! Q&Aコーナー
Q. お気に入りのキャラクターは?
木村 ケンケン。ゲーム冒頭の主人公の家に来るシーンが大好きで、彼みたいな大人がいたらいいのにって思います。プライベートを考慮してくれない一面もあるけど、僕は面倒見のいい大人たちに育てられた感覚があるから、その人たちがいなかったら孤独だったと思うんです。
倉島 僕は苦手なタイプですね。リアルに玄関に来たら「困ります」って言っちゃう。
木村 それはそうだけど(笑)。
木村 あと、おえかき姫も好きです。スランプだった彼女が覚醒したときのセリフが好きですね。「自分を見つめて、作品を作る勇気が足りなかった」っていう、そういう姿勢が大事だなって思います。

Q. お気に入りの場所は?
倉島 主人公の家です。実は昔、住んでいたマンションにそっくりで。見るたびに懐かしい気持ちになります。
木村 デザインがよかったんですよ。

倉島 あとは空に浮かぶ城の、天気の部屋。あのテンポ感が好きなのですが、少し先のエリアなので、実際に遊んで探してみてください。
Q. 好きなBGMは?
倉島 天使の国のBGMが一番好きです。
木村 ピコピコ音がいいよね。僕はさばきの城のボス戦の音楽です。
倉島 それは2番目に好き。
木村 あのボスの設定は曲を聴いた後に出来上がったんです。まだアイデアが固まってないときに音楽作りを担当しているセロニアス・モンキース(※3)から曲が上がってきて、いい曲だったので曲をベースに設定を練り直しました。確か『moon』の時もそんなことがあったかな。
(※3)セロニアス・モンキース…安達昌宣さん、谷口博史さんの音楽ユニット。『moon』をはじめ、オニオンゲームスと所縁の深い数々のゲームミュージックを手がける。
Q. ゲームを作り終えたときどんな気持ちだった?
木村・倉島 死ぬかと思いました。
Q. 『ストレイチルドレン』の反響について
木村 プレイしてくれた皆様、ありがとうございます。発売以来、ゲームバランスや不具合について沢山の正直なご意見をいただきました。厳しい意見の中にも「大好きです」って書いてくれた人、僕たちが奮い立つような意見を送ってくれた人がたくさんいました。本当に感謝しかないです。すべてのアンケートに目を通して、どうにか今はいい感じに調整できてきたと思います。このゲームの骨子を守りながら、バグ修正とバランス調整しましたので、ぜひ遊んでみてください!
Q. 冒険を楽しんでいるチルドレンたちにメッセージを!
木村 みなさんの感想、いつも読んでいます。アンケートフォームやSNSでぜひ感想を書いてほしいです!
倉島 もし『ストレイチルドレン』を気に入ってくれたら、僕が毎号見ているニンドリのイラストコーナーにイラストを送ってくれるとうれしいです!
<商品概要>
対応機種:Nintendo Switch
配信日:2024年12月26日
価格:ダウンロード版:4,840円(税込)
CERO:C(15歳以上)
メーカー:オニオンゲームス
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