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革命の、その先の冒険。『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』 開発者インタビュー

「物語」にも「遊び」にも彩りを与える「仲間との共闘」

物語にも親和する遊び、「モドレコ」の能力

―― 「モドレコ」は物語にも深く関わっており、ほかの能力とは性質が異なると感じました。発想の起点は物語、それとも遊びからきたのでしょうか。

藤林 遊びの部分からですね。まずは「モドレコ」のような機能があるとおもしろいだろうというアイデアがありました。物語は遊びの仕様がある程度固まった段階になってから詰めていくのですが、今回のお話のキーワードのひとつが「時」だったので、それを象徴する機能として「モドレコ」が使えるのではないかと考えたのです。実は「モドレコ」にはもうちょっと機能があったんですよ。ただ、その中で物語との整合性や親和性を考えて、どうすれば納得がいくものになるのかを詰めていき、「時を戻す能力」に大きく注目していきました。「モドレコ」がこれまでの『ゼルダ』に出てくる遊びとは少し異なるように見えるのは、そういう流れがあったからだと思います。

―― 発想は遊びのひとつからだったけれども、シナリオができていく過程の中で機能をシナリオに寄せていったのですね。

藤林 遊びの部分を害さなければ、物語との親和性を上げたほうが説得力が増していくと思いました。

青沼 「時間を戻す」という遊びは、実は『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』の試作段階でも試していた時期がありました。パラセールにも『スカイウォードソード』のパラショール(※1)という前例があるじゃないですか。今までのシリーズのものがいろいろと溜まっているんです。本作での新たな発想も、過去の蓄積から生まれているんじゃないかなと最近思います。

※1 『スカイウォードソード』に登場する、「パラセール」の前身ともいえるアイテム。パラセールとは違い滑空する機能はなく、高い場所から安全に着陸するためのもの。上昇気流で浮上できたりもする。ちなみに、同作では幼なじみの関係であるゼルダによる手作り品。

時空を超えたゼルダ姫。「モドレコ」と同じように「時」を司る能力を持つソニアと出会う

―― 「モドレコ」といえば、初めてお披露目された際の解説動画(※2)では空島に行くための手段として使用されていたのが印象的でした。そこから生まれた発想だったのでしょうか。

青沼 いえ、そこが主ではないです。あの動画で使われたのはわかりやすいからです。まず空に島があるとわかったときに「どうやって行くの?」と思うはずですよね。ほかにもいろいろな行き方がある中で、「モドレコ」を使って行けると見せれば「ほかにもこんなことができるかも」というイメージがどんどん膨らんでいくのでは、と思ったわけです。発想は最初に説明したような「時を操れたらおもしろいよね」というところからスタートしています。ただ、それらがだんだん空へのアプローチにまとまっていくのは、ゲームを作っていておもしろいなと思いましたね。

※2 任天堂公式YouTubeチャンネルで発売前に公開された動画。「プロデューサーの青沼英二がプレイする『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

「仲間との共闘」に込めた想い

―― 本作では冒険中のフィールドでも賢者たちと「共闘」しますよね。

藤林 『ブレス』のときは、リンクが「孤独」に戦うというテーマで作っていました。『ティアーズ』を作る際には、『ブレス』の続編といえども違うゲームにしたいという思いがあり、「孤独」とは逆の「共闘」をテーマにすれば物語的にもおもしろくなると思いました。物語的なテーマはもちろん、遊び的にも複数で戦うことによってフィールドでの体験が変わるため、とても相性がよかったのです。

青沼 プレイヤーが「賢者たちに戦闘の指示をする」という考えもあると思うのですが、あえてそのようなスタイルにはしていません。彼らは意思を持って動いているというスタンスにしています。賢者の末裔だからこその意思を持って共闘しているんです。彼らの動きを見ながら自分はどう戦闘するか考えると、自分で命令を出して動かすよりも、意外なことが起きたりしておもしろかったりするんですよね。このスタイルは『ゼルダ』というゲームに合っているなと感じました。

―― 魔物の集団に対してこちらも集団戦ができるし、討伐隊の人たちが攻め込んでいるところにリンクも参戦できますよね。

青沼 あれもまさにそうですね。

藤林 討伐隊にも「生きている感じ」を出したかったんです。こっちが指示してというよりは、何かやっている中で自分たちもいっしょになって混ざりたくなるような感じができたらいいなと。

魔物の討伐に参加するハイリアの人々。どこか頼りない装備だけど存在が心強い

―― 青沼さんも前から孤独なリンクをなんとかしたいなと思っていたのですか。

青沼 リンクがひとりで黙々と戦うというのをなんとかしたいなあっていうのは「ゼルダのアタリマエを見直す」というテーマ(※3)の中にはありましたね。そのひとつのアプローチが今回の「共闘」ということです。

※3 「ゼルダのアタリマエを見直す」=2013年1月23日に放映されたニンテンドーダイレクト「Wii U Direct Nintendo Games 2013.1.23」の中で青沼さんが発表した、『ブレス オブ ザ ワイルド』の開発コンセプトのこと。

―― リンクと仲間たちが「手と手を繋ぐ」シーンも印象的でした。このことに関してはどんな想いを込めたのでしょうか。

藤林 「共闘」を表現する際に言葉ではなく、できれば万国共通の表現で伝えたいと思ったんです。これは『ブレス』を開発し終わったあとにとくに感じたことなのですが、プレイヤーが自分のプレイを積み重ねてエンディングを迎える喜びはゲームならではの体験だなと感じたんですね。やはり自分の手でプレイして蓄積してきた体験が最後に昇華される瞬間って、その人だけの感動だと思うんです。「手と手が繋がる」という表現はすごくわかりやすいですよね。象徴的に共感や感動を引き寄せるものだと思いました。

青沼 しかも、手を握るところはコロナ禍の真っ最中に作っていましたから「今は握れないよなぁ…」って思ったり。

藤林 そういう時期もありましたよね。人と人との距離が空いちゃっていたというのもあるので、せめてゲームの中では人と人の近い距離が体験できたらいいのかなって思っていた部分はあるかもしれません。

絶大なインパクト、ミネルのゴーレム

―― ミネルのゴーレムもインパクトが大きかったです。どのようなアイデアから生まれたのでしょうか。

藤林 ミネルのゴーレムもウルトラハンドやスクラビルドの遊びのひとつでもあるので、何をくっつけたら飛べるのか、速く歩けるのか、と考えて楽しめるようにしています。

青沼 もはや『ゼルダ』じゃないと思えるほどのインパクトですよね(笑) 。

藤林 ミネルのゴーレムのアイデアは賢者の中ではあとのほうに生まれたものでした。ほかの賢者については、どこから行ってもいいように作ってあるので出会う順番も人それぞれですが、ミネルは最後に出会うほうが比較的多いであろうと想定していました。なのでミネルのゴーレムもまた、多くのプレイヤーにとってゲームの中盤以降に求められるものであるようにしています。

―― ジャンプが苦手だったり…。でも、そのちょっとした不便さが逆に愛嬌にも感じられてくる気がします。

ミネルのゴレームは背に乗れる。瘴気を避けることができるが、動作はちょっとスロー

青沼 ゴーレムは万能なゾナウ文明の最たるものですが、ミネルのゴーレムを快適にし過ぎるとずっと乗ってしまいますよね。なので、ちょっとどこかいびつな感じを入れています。例えば歩くのが遅かったりしますが、その加減がギリギリ楽しめるぐらいに設定しています。これもまた最後まで調整していましたね。

藤林 ゲームの後半にもなると、それなりの装備が整っていると思いますので、不便な部分はあえて残しておきました。それに、見た目もミネル本人からかけ離れているので、少し不便なくらいのほうがギャップも感じられておもしろいと思いまして。また、開発がだいぶ進んでから出てきた問題が「瘴気」と「ゾナウギアの使い道」でした。ゲームの中盤以降は、地底の瘴気をもう少しどうにかできたらいいのに……と思うだろうし、いろいろなゾナウギアを使いこなせるようになってきたタイミングで、ほかに使い道があったらいいな……と考えるかなと。そこでこれらの要素をミネルのゴーレムに取り入れて、ゲームの後半に手に入る能力として価値が作れると考えて機能を集約していきました。

―― 自由にカスタムができる乗り物としても楽しめますよね。

藤林 そうですね。シナリオでもミネルはなにかに憑依する魂の賢者で、ゴーレムに憑依した姿で現世に現れることはすでに決まっていたので、それらをひとつにまとめていきました。デザインを決めていく中でインパクトを重視して大きくしようと決まると、じゃあ乗れるようにすれば瘴気も回避できて楽しいものになるんじゃないかと考えたんです。

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