【インタビュー】プロデューサーに聞く! ゼロから作り直した新たな世界の魅力『マリオカート ワールド』

新しく生まれ変わった広大な世界、多彩なコース、数々のテクニックはどのようにして作られたのか? 気になるあれこれについて質問してきました!(ニンテンドードリーム2025年9月号掲載)
目次
毎回ハプニングが起きる展開が「マリオカート」らしさ
▼プロフィール

「らしさ」を残しつつ一からすべて作り直した
—— インタビュー当日の今日は『マリオカート ワールド』発売から1週間ほど経ちました。これまでのユーザーの反響を見て、ご感想はいかがでしょうか。
矢吹 世界中からたくさんの反響や感想をいただけていて、ありがたい限りです。とても長かった開発期間中、今何をしているかをお話しできなかったので、開発スタッフ一同、こうして発売できて、プレイしていただいている姿を見られるのが、本当にうれしいですね。
—— 『マリオカート8 デラックス』の追加コースと同時並行で開発されていたんですよね。
矢吹 はい、そうです。
—— 『8 デラックス』が今も売り上げランキングの上位にいて、さらに新作も遊ばれているというのはおもしろい現象ですよね。両方プレイされている方も多そうです。
矢吹 『8 デラックス』を長く遊んでくださっている皆さんには、本当に感謝しかありません。そういう方々が『マリオカート ワールド』では、「何がどう変わったのか」と分析してくださっているのを見ると、ありがたいですし、すごいなと感じています。
—— 細かいところまで含めて、変わっている部分は数えきれないほどありますよね。
矢吹 はい。すべて一から作り直していますので。当然、細かいところも全体のバランスも、すべて新しくなっています。
—— でもすべて新しくなっているのに、ちゃんと「マリオカート」なんですよね。
矢吹 そうですね。ひとつひとつの要素をすべて分解して再構築しながらも、多くの方のイメージとズレないように、ちゃんと「マリオカート」らしいと思っていただけるように作っています。
—— 「マリオカート」らしさとは、具体的にどのようなものだとお考えでしょうか。
矢吹 言い出すとキリがないのですが、私たちが言うよりも、プレイヤーの皆さんがそれぞれのイメージを持っていると思うんです。ある人にとっては毎日走って0.1秒を縮めるゲームかもしれないし、ある人にとっては家族や友達と休日に遊ぶもの、年末年始に遊ぶタイトルかもしれない。長く続いているシリーズだからこそ、人それぞれのイメージがあって、それを裏切らないようにしたいと考えて制作しています。
—— ユーザーの反響を見て、走り方や遊び方などで「これは意外だった」と思われたことはありますか?
矢吹 それはもう「すべて」ですね。ひたすらオンライン対戦をしている方もいれば、フリーランでいろんな場所へ行って写真を撮っている方、ご家族で楽しんでいる方もいる。いろんな遊び方を想定して用意したつもりでしたが、実際に見てみると本当に多様で、ありがたいなと思っています。
—— いろいろなテクニックを駆使したショートカットが毎日のように発見されているのもおもしろいです。ショートカットの場所ややり方は、開発の段階で全部想定されているのですか?
矢吹 基本的にはそうですね。1本1本のレールや電柱の位置、壁と壁の距離など、「どのくらいならトリックがつながるか」を考えて設計しています。
—— タイムアタックのゴーストを見ていると、驚くような走り方もたくさん発見できて。
矢吹 ショートカットも、「あ、もうそこに気づくんだ!」という発見があって、見ていて楽しいです。

—— まだ見つかっていないショートカットもあるんでしょうか?
矢吹 コースとコースの間のルートは数が多い分、ひとつひとつのコースに比べると、まだ遊び尽くされていないところもあるかもしれません。そこは今後、差がついてくる部分かもしれませんね。
—— 反響と言えば、「ウシ」の話題もすごかったですね。
矢吹 正直、あれほど世界中で盛り上がるとは思っていませんでした。皆さん、本当にウシが好きなんですね(笑)。驚きました。
—— 最初の「マリオカート ワールド Direct」で発表されたときから、ウシの話題になっていましたよね(笑)。
矢吹 昔から「マリオカート」に出ていたウシが、こうしてちゃんと注目していただけたのはよかったなと思っています。

▼ウシの歴史はこちらをお楽しみください

開発の経緯について
—— 走れる場所がこれだけ増えたことで、ちょっと想像しただけでも、これまでの「マリオカート」よりも非常に大きなスケールの開発だったと思われます。
矢吹 すべての要素を作り直す必要がありましたので、開発をスタートさせる段階から、これまでとはまったく違っていました。新しい世界を作るためのチーム構成をしていくことが必要でした。
—— そうですよね。
矢吹 もちろん最初は少人数で作り始めて、規模に応じて協力スタッフが増えていく流れでした。結果として、これだけの期間とボリュームになり、ものすごく多くのメンバーに協力してもらいました。ここまでの規模で作れるというのは、ありがたいことだなと思いながら開発していましたね。
—— 想定していたボリュームと、実際に完成したものに違いはありましたか?
矢吹 規模が大きくなること自体は予想していたので、「これもやろう」「あれもやろう」「きっと遊んでくれる方は喜んでくれるだろう」と思いながら作ることができたのは楽しかったですね。
—— 開発にあたって、これまでの「マリオカート」と特に違った点はどこでしょうか。
矢吹 もう、違うことだらけでした。特にミクロなところで言えば、やはりひとつひとつの“コース”の作りですね。「マリオカート」では走って気持ちいいコースを作りたいのですが、少し変えただけでも、別の方向からの走り方が変わってしまいますから、影響が大きいんです。
—— これまでは基本的にコースは一方通行でしたが、今回はどこからでも通れる場所が多いですし。
矢吹 そうなんです。そのひとつの変更による影響を毎回確認しながら、チーム内で話し合い、修正して進めていく。その繰り返しの日々でした。
—— 少しずつ変えて、問題があれば直す。その積み重ねだったと。
矢吹 現実の道も、みんなが通るところは自然と大きな道になっていきますよね。それと同じように、世界や地形が段々走りやすくなっていくような感覚でした。
—— 実際には、道はどのあたりから作り始めたのでしょうか? マップの中央にあるピーチスタジアムを拠点にして、周りを広げていったのかなと想像していましたが。
矢吹 そうですね。4車線でぐるっと回れる道路など、中心になる場所はわりと早い段階で用意して固めていきました。
—— 「開発者に訊きました」に掲載されていた最初のコンセプトアートを見たときは、改めてテンションが上がるようなワクワク感がありました。ひとつながりの世界というアイデアは、『マリオカート8 デラックス』の次を作ろう、となった段階で生まれたものですか? それとも以前から、いつかやってみたいという想いがあったのでしょうか。
矢吹 スタッフのみんなの中に「いつかやってみたい」という想いはあったと思います。あのコンセプトアートを描いたのは、今回の地形をまとめてくれたスタッフなんですが、イメージがすごく具体的に出ていましたし、チームを団結させる絵になっていましたね。
—— あのコンセプトアートの段階で、ピーチスタジアムやその下側にある大きな橋など、細かい部分まで描かれていましたよね。
矢吹 細かいところまで気づいていただけて、うれしいです。
—— 実際に制作するにあたって、「この部分だけは絶対採用しよう」というポイントはあったのでしょうか。
矢吹 中央とそれを取り囲む部分、あと「大きな山をふたつ用意しよう」といった概形は初期段階でデザインしていました。ただ「絶対これを入れよう」というよりは、おもしろいものを柔軟に取り入れていく形で進めていました。場所をごっそり入れ替えたことも何度かありましたね。

グランプリは「お祭り」フリーランは「日常」
—— 世界全体のスケールはどのように決めたのでしょうか。マシンに乗って移動することを考えると、相当な広さになりますよね。
矢吹 それは「ゲームをどう遊んでもらうか」とセットで考えました。ひとつながりの世界を作りつつ、従来のように3周するコースも用意していましたが、コースとコースの間が離れすぎると遊びにくくなるので、適度な距離感で配置していくことになります。コースの数をいくつにするか、それぞれの距離感はどうするかを考えていく中で、世界の広さはおのずと決まっていきました。
—— サバイバルで大陸横断レースをしようというアイデアは、どの段階で生まれたのですか?
矢吹 「コースとコースの間を走りたい」という発想と、「一気に全部をつなげて大陸横断しよう」という両方が同時にありましたね。
—— フリーランも最初から想定されていたモードだったのでしょうか。
矢吹 もちろんです。グランプリやサバイバルは、あの世界での「お祭り」みたいなもの。その一方で、ふだんの「日常」にあたるのがフリーランですね。
—— フリーランだと、ふだんのレースではあまり入らないダート上なども気にせず走れるのが新鮮です。どこを走っても気持ちいいので、ついずっと走り続けてしまいます。
矢吹 マシンの走り心地は、何年も磨き続けて今の形になっています。挙動を作るプログラマー、プランナー、マシンのデザイナーやアニメーターが協力して、「どんなふうにすれば気持ちいいか」「かっこいいか」を、トリックも含めて日々磨いていくという形でしたね。
▼フリーランでのコースの変化あれこれ
ほかにもこの世界には小ネタがいっぱい!フリーランで走ってわかった世界の秘密はこちらから読んでみてくださいね!
最大24台のレースになったワケ
—— 『マリオカート ワールド』の情報を初めて知ったとき、「1レースに24台参加」というのにまず驚きました。『マリオカート8 デラックス』では12台だったのが、16台や18台ではなく、一気に倍の24台に…!? と(笑)。
矢吹 参加人数というのは、ゲームを作るうえでものすごく大事なんです。通信を同時に行う人数にも関わってくるので、処理負荷の試算にも直結します。
最初に『マリオカート ワールド』の方向性を決めた段階で、「広い場所を走ることになる」、「いろんな分岐ができるだろう」というのは見えていました。そうなると、プレイヤーが分散しても、常に近くに誰かが走っている状態を目指す必要があります。そう考えると人数を増やすのは必然で、16や18では足りなくて、「じゃあ24台で行こう」となりました。
—— バランス的にも、ちょうどいいのが24台だったんですね。
矢吹 場所によっては、ものすごくカオスな状況になることもありますし、広いところやたくさん分岐があるところでは、ほどよくばらけたりもします。また、オンライン対戦だといつも人数がフルで埋まるわけではありません。人数が少ないときはわりとおとなしいレースに、MAXのときはカオスにと、その差も体験の幅として楽しんでいただければと思っています。
—— 24人になると、アイテムの調整などもこれまでの12人でのレースとはまったく違うものになりますよね。
矢吹 最初にお話しした「すべて作り直しています」という部分に通じますが、例えばこうらの大きさやスピード、当てられたときにどれぐらいスピードダウンして、どれくらいの時間クラッシュしてるのか…といった部分をすべて調整し直しました。『8 デラックス』に比べると、ダメージ量は少し小さめで、早めに復帰できるようになっています。

—— ゲームバランスで特に気をつけたポイントは?
矢吹 「いろいろなことが起こるバランス」にしたい、というのがいちばんですね。このシリーズは、毎回同じようなレース展開ではなくて、「今回はまさかこんなことが!」と思わず話したくなるような、そんなハプニングが起こるようなものを目指しています。最大の要素はアイテムだと思いますけど、それ以外にもプレイヤーが「あっちへ行こう」「こっちへ行こう」というような、たくさんの選択が生まれるようにしています。
—— アイテムや分岐しだいで、毎回展開が変わりますしね。
矢吹 そうなんです。それが合わさって、「ちょっと聞いてくれよ、こんなことがあった!」とか、「今回は運が悪かったけど、もう1回やれば勝てるかも」という気持ちが、プレイヤーの中に残るといいなと思っています。
—— いつもの「マリオカート」らしい感じですよね。
矢吹 そうですね。こうした点も、シリーズで大事にしてきた「マリオカート」らしさにつながる話ですね。
—— 人に話したくなるエピソード、よくあります。CPUが大胆なショートカットをしていて、「そこ通れるんだ!」と驚くことも多いです。150ccのCPUって、本当に頭がいいですよね。
矢吹 今回のCPUはかなり作り込みましたね。誤解されている方もいるんですが、CPUは「嘘」はついていないんです。
—— 嘘、というと?
矢吹 CPUのほうがちょっと速くなっている、というようなことはなくて、プレイヤーと同じ挙動で動いているんです。
—— CPUが速いのは、純粋にテクニックのおかげだというわけですね。
矢吹 そうです。そのおかげで「あんなところにも行けるんだ」と気づくきっかけ作りにもなっていると思います。

サバイバルのCPUはちょっと強い!?
—— そういえば、サバイバルのCPUってグランプリのときより賢い気がするんですけど、気のせいでしょうか?
矢吹 「ちょっと手ごわいぞ」という声はいただいています。実際、サバイバルのほうが少しだけ強くなるように調整しているんです。ほんの僅かですけどね。
—— なぜサバイバルのほうを強く…?
矢吹 サバイバルは長くて広い道が多いので、グランプリのコースに比べてプレイヤーがミスをしにくいんです。だから、CPUを少し手ごわくしたほうが、バランスがいいと考えました。オンラインのサバイバルへ挑戦する前の練習にもなるだろうと。

フリーランは文字通りの「自由」
—— フリーランのマップでは、オープンワールドのゲームでありがちな「収集要素の位置表示」はあえて控えめにしているのかな、という印象を受けました。見つけたPスイッチやピーチコインの総数、各コースのハテナパネルの枚数は表示されていますが。
矢吹 単純比較は難しいのですが、フリーランは文字通り「フリー」、自由に走れることに重きを置いています。グランプリは「お祭り」として道を封鎖して大会を開く。一方フリーランでは柵などがなく、どこでも好きに走れるんです。
—— 先ほどおっしゃっていた「日常の姿」ですね。
矢吹 オンラインではレースで走って切磋琢磨して、終わったらフリーランに戻ってきて、ちょっとゆったりできる。別に何をしていてもいいんです。写真を撮ってもいいし、練習してもいいし、何もしなくてもいい。
—— オンラインで全然勝てなかったとき、フリーランでしばらくぼんやり走ることはあります(笑)。
矢吹 あまりフリーランで「あれをやれ、これをやれ」というのを増やしてしまうと、グランプリと異なる「レースのついでに楽しめる」という部分のよさが失われてしまうな、という思いがあります。
—— フリーランに「癒し」を感じるのは、そこかもしれませんね。何にも追われないというか。もうひとつ、フリーランでは右下のミニマップが線画ではなく3Dで表示されているのが印象的でした。「どこにいるか」よりも「周りに何があって、何で遊べるか」を重視しているマップだなと。
矢吹 そうですね、そういう面もあります。場合によっては「あの屋根の上にハテナパネルがあるな」と気づけるくらいにはしていますが、そのくらいに留めています。
—— 収集要素を常にマップに表示すると、集めるのが必須みたいになってしまいそうです。
矢吹 難しいところですね。自由すぎると、逆に「何をすればいいかわからない」と迷ってしまう方もいると、改めて感じています。

—— マップを眺めていると、すべてのコースを地続きにしたことで、今までコース内だけで完結していた「物の大きさ」も統一する必要が出てきて、大変だったのではと思いました。
矢吹 家ひとつ取っても、屋根に登れたり、壁を使ってトリックできたりと役割があるので、それに合わせてサイズ感や高さが決まってくるというのがありますね。
—— あの世界を走っている乗用車を見ると、マリオたちのマシンより一回り大きくて、車線の広さなどもそれに合わせて決められているのかなと感じたのですが。
矢吹 開発中は、サイズを大きくしたり小さくしたりするのは簡単なんですけど、「どれぐらいの大きさがいちばん遊びやすいか」を求めて何度も試しました。
—— 世界観というよりは、あくまでゲームとしての遊びやすさを優先しているんですね。
矢吹 言い方が難しいんですけど、私たちは「リアルな世界を再現しよう」としているわけではないんです。道幅やスケールも、走っていて気持ちいいことが最優先なので、「現実を再現しよう」というのとは少し違っているかもしれません。

—— 現実と言いますか、「マリオの世界のリアル感」がいろんなところから伝わってくるのがすごく楽しかったです。
矢吹 マリオの世界ならではのリアル、というのは我々の目指すところでもありますね。現実ではUFOで飛び回ったりはしないけれど、「おもしろいだろう」っていうので入れちゃうんですよね(笑)。
—— UFOのミッションは新鮮でよかったですね。あのUFO、メインイラストで見つけたときは「見たことないUFOだけど何なんだ!?」ってなりました。
矢吹 たまにはカート以外にUFOに乗ったり、トレーラーやクルーザー、ヘリに乗れたりと、ちょっとしたアクセントにしています。

最初に完成したのは? コースのいろいろな秘密
—— 世界観のリアルさといえば、キノピオファクトリーが周囲も含めてちゃんと工場として存在していたり、チョコマウンテンでは湧き出るチョコが何かに使われているのかな…と想像できたりと、フリーランで、ふだんの施設としての姿を垣間見られるのがとても楽しかったです。リメイクコースも、より深みが増したように感じました。
矢吹 リメイクコースについては、「今作らしさ」を加えることで、さらに魅力を引き上げられるかどうか…というのがひとつの基準でした。例えば、チョコマウンテンが世界にあったら、「この一帯にもチョコまみれにしてみよう」となって、周辺まで影響が及ぶんですよね。
—— チョコレーとうのコースも再現できますしね。
矢吹 チョコレーとうに気づいていただけてうれしいです。ほかにも、キノピオファクトリーがあることによって、その周辺の工場地帯のイメージが膨らんでいく…というようなことがありました。
—— 確かに、工場があると周囲の風景も自然に頭に浮かびますね。リメイクコースの中には、まるで別物に思えるほど印象が変わったものもありました。水中ではなく水上を走るだけでも、まったく雰囲気が変わるのがおもしろかったです。
矢吹 すべてをゼロから作るのではなく、過去作の要素を今作らしくするとどうなるか、という形でリメイクしています。
—— 本当に、どれも見事なリメイクだと思います。マリオサーキットでは、『スーパーマリオカート』のコースをすべて走れたのには驚きました。懐かしい音楽も含めて、「これが最新のマリオサーキットなんだ!」と。
矢吹 そうですね。皆さんの中に残っている思い出を呼び起こしたいというか、懐かしく感じてもらいたいなという想いがありました。


—— コースを世界に配置するときは、周囲の環境も考慮されているとのことでしたが、新コースとリメイクコースはどちらから先に置いていったのでしょうか。
矢吹 そこはある程度進めながら、並行して進めていました。個別に検討していたコースを当てはめることもあれば、「この場所に入れるコースは何にしようか」と後から決める場合もありました。何回かに分けて、少しずつ埋めていく形でしたね。
—— 新コースの中で、最初に完成したのはどのコースですか?
矢吹 マリオブラザーズサーキットは、比較的早い段階で形が固まっていました。今作で最初に走るサーキットになりますからね。あとは、東のほうにある水路のコース、ソルティータウンも早くから作っていました。水上の挙動と多くのトリックが組み合わさっていて、今回のゲームプレイを象徴するようなコースです。
—— まずは基準になるコースから作っていったわけですね。
矢吹 はい。そうしたコースを基準にマシンの挙動を調整したり、ほかのコースの長さや幅を決めたりしました。
—— サバイバルとグランプリでは、同じコースでも走る場所が変わりますが、これは最初から決まっていたのですか?
矢吹 はい。「こっち側からも入れるようにしよう」といった設計を最初からしておかないと、実現できないので。
—— そうした設計の段階で、「逆走できるコース」も考えられているわけですよね。逆走できるのが本当にすごいと思いました。
矢吹 ありがとうございます。逆走できるかどうかは、実際に確かめながら作っていきました。
—— おなじみのコースとしては、やっぱりレインボーロードもありますよね。
矢吹 この号が発売される時点では、まだプレイされていない方も多いと思うので、あまりネタバレにはしたくないんですけど…。「レインボーロードはきっとあるはず」という、皆さんの期待に応えられるものを作ろう、という想いを込めました。
—— 今回のレインボーロードは、本当にストーリー性を感じるというか…。ぜひ実際にゲームで体験してほしいですね。
矢吹 グランプリを走り切って、最後にレインボーロードにたどり着くことで感じられるものがあるんじゃないかと思っています。

—— ところで、舞台になっているこの大陸に名前はあるんですか?
矢吹 つけるとしたら「マリオカートワールド」でしょうか。
—— ああ、なるほど! これ以上ないほど腑に落ちました(笑)。
矢吹 キノコ王国に似てはいるけれど、ちょっと違うんですよね。
「リワインド」は大昔からあった!?
—— 新テクニックである「リワインド」についてお聞きします。レースゲームで時間を戻せるというのは、かなり掟破りな印象を受けましたが、このテクニックが生まれたきっかけは何だったのでしょうか?
矢吹 きっかけというより、実はもうずっと以前から、コースを作る際に開発メンバーが当たり前のように使っていた機能なんです。
—— 開発中のテストプレイでは、リワインドのような機能を使ってさまざまな検証をしていたと。
矢吹 そうですね。昔のシリーズから存在していた機能で、それを今回、プレイヤーの皆さんにも使ってもらえるように整えたのがリワインドですね。なので、「生まれたきっかけ」としては、本当に昔からあったものなんです。
—— それを今回、プレイヤーも使えるようにした理由は何だったのでしょう?
矢吹 「この場面をもう一度練習してみたい」「今のところをやり直したい」と思う場面が、今作では特に増えるだろうなと感じたからですね。
—— 「ここで確実にウォールランを決められるように練習したい!」みたいなニーズですね。
矢吹 そうですね。そういった需要はきっとあるだろうと。また、「掟破り」とおっしゃっていましたが、ちょっとズルいことって、やっぱり楽しいんですよね。
—— 確かに(笑)。
矢吹 オンラインでは使えないようにしていますが、オフラインでひとりで遊ぶときや、フリーランのようなモードでは、ちょっとくらいズルいことをしてもいいんじゃないかなと。

レースをより多彩にする数々のトリック
—— 「開発者に訊きました」では、ウォールランやレールスライドなど、いわゆる「トリック」についても紹介されていました。これらのコンセプトについて教えてください。
矢吹 「いろんなことが起こるゲームにしよう」という思いが根底にありました。プレイヤーの皆さんに「あっちに行ってみよう」「こっちを通ってみよう」とか、「今は上位だからリスクは避けよう」「このままじゃどうしようもないから賭けに出よう」といった、さまざまな選択肢を提供したかったんです。
—— コースでできることが格段に増えましたよね。
矢吹 今回は広くて長い道も作れるようになったので、そこにあるガードレールや家、崖や壁といった要素も活用できるようにしたいと考えました。そうした思いや課題意識から生まれたのが、各種のトリックなんです。
—— いろいろなことをできるようにしようという過程で、自然と生まれてきたと。
矢吹 そうですね。「こんなこともできたらいいんじゃないか」と、後から追加されたものもあります。例えば、空中で柱や電柱にぶつかるとくるっと回って加速する、といったトリックですね。
—— トリックに使えるものが本当にたくさんありますよね。直線を走っていると、チャージジャンプを溜めてどこかに乗れないか、つい考えてしまいます。
矢吹 最初はただの障害物に見えたものも、プレイを重ねるうちに見方が変わってくるという。
—— 「あの壁も走れる!」「ここでも加速できる!」といった発見がどんどん増えていきます。
矢吹 繰り返し遊ぶ中で、「次はあれを使ってみよう」「ここは自分だけが知っているルートだ」といったように、多様な選択肢が生まれるゲームにしたいと考えていました。
—— フリーランで登場するPスイッチのミッションも、いい練習になりますよね。
矢吹 そうですね。あれはちょっとしたチュートリアルというか、各機能の紹介も兼ねています。

食べ物、マシン、看板…世界観を彩るあれこれ
—— ダッシュフードは地域ごとに個性があって、見ているだけでも楽しいですね。例えば、同じバーベキューでも1本から3本セットまであって、バリエーションがとても豊かだと感じました。
矢吹 真面目な話をすると、バランスを取るために、上位には串1本、下位には串3本にして、ダッシュ時間に違いを出しています。

—— ほかのアイテムと同様、順位が低いと強力なものが出やすい仕組みなんですね。
矢吹 はい。ただ、バランスを取ることだけが目的なら「順位でダッシュ時間を変えるだけ」でもよかったんです。ですから、やっぱりフードをたくさん作っていくこと自体が楽しかった、というのがいちばんの理由です。「ハンバーガーは1段にする? 2段にする?」、「どうせなら両方作っちゃおう!」と。
—— 「開発者に訊きました」を読ませていただいたときは、食べ物に限らず、この世界のあらゆる要素がものすごく楽しそうに作られていると感じました。道路の看板や標識ひとつとっても非常にこだわりがあり、すべて違うデザインになっていますよね。
矢吹 そこまで気づいていただけると、とてもありがたいです。そういった要素をひとつひとつ作り込むことで、より世界に実在感が生まれてきますし、ゲームプレイの観点でも、描き込まれた看板のグラフィックがあることで、壁などの構造物が立体的に見えてわかりやすくなるんです。
—— なるほど。看板のグラフィックひとつにも、さまざまな意図と機能があるんですね。
矢吹 そうですね。
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—— そういえば、今作ではマシンのカスタマイズ要素がなくなり、シンプルになっていますね。
矢吹 『マリオカート7』や『8』ではタイヤやグライダーをカスタマイズできましたが、今回はその選択肢を省いています。その代わり、砂の中に入るとタイヤが大きくなったり、水の上を走るとボートに変形したりと、1台のマシンが環境に応じて変化するようにしました。この1台でどこでも走れるように、と仕様を変更した形です。
—— カスタマイズしなくても、さまざまな状況に対応できるマシンであると。
矢吹 そのほうが世界中のあらゆる地形、オフロードや森の中、水の上などを走破するマシンであることを表現するには適していると思いました。
—— 今回はマシン性能のパラメータ表示もシンプルになっていますが、陸地や水上での曲がりやすさなど、細かい性能差はやはりあるのでしょうか。
矢吹 はい、ほんのわずかですが差はあります。ぜひいろいろと検証してみてください。
—— パラメータ表示が簡略化されているのは、「あまり細かいことを気にせずに選んでほしい」という意図もあるのかな、と思っていました。
矢吹 見た目や乗り心地で、お気に入りのマシンを見つけてほしい、という思いはあります。また、砂漠のほうへ行くときはこのマシンで、雪山はこちらで、と場所に応じてマシンを使い分けていただくのも、気分転換になるのではと思います。
読者へのメッセージ
「『マリオカート ワールド』は後からでも追いつけるゲームです」
—— 最後に、現在『マリオカート ワールド』を楽しんでいるユーザーの皆さん、そしてこれからプレイされる方々に向けて、メッセージをお願いします。
矢吹 まず、プレイしてくださっているみなさん、本当にありがとうございます。先ほどの話にもありましたがけど、どこを好きになっていただいているかは人それぞれで、いろいろな楽しみ方があるんだなと改めて感じています。「あ、この部分に気づいてくれている方がいるんだ」とか、「こんなふうに遊んでくれているんだ」と知ることができるのはとてもありがたいですし、励みにもなっています。まだまだ、このゲームには皆さんが知らないこともあると思いますので、ぜひいろいろな場所を走り回ってみてください。
それから、これからプレイされる方、Nintendo Switch 2 自体をこれから手にされるという方には、「まったく遅くありません!」とお伝えしたいです。このタイトルは、後からでもじゅうぶんに追いつくことのできるゲームです。ですので、ぜひ新しい「マリオカート」を体験していただければと思います。

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