【CEDEC 2023】自然の生物がいないポケモンの世界はどんな音でできている?

環境鳴き声の実現に成功! しかし、新たな課題が

次は実際に、北村さんの会社が所有するスタジオにてリアンプ(再録音)作業が始まりました。
距離や向きをランダムに変えたスピーカーを複数配置し、ポケモンの声を鳴らす。それを高さ4メートルの場所から収録する…といった、より良い環境鳴き声を追求するための実験が行われました。

公園で収録した時と同じ状況をスタジオで再現
マイクを天井側に向けることで、壁などに反射した音を収録

リアンプしたポケモンの鳴き声と、自然界の生物の声を極力取り除いた環境音をミックスしたところ、かなり満足度の高い音が録れたそうです!

そして、この実験で培われた技術は『ソード・シールド』に活かされました。
『ソード・シールド』の環境音は、こんなにも大変なプロセスを経て実装されていたんですね…!

『ソード・シールド』に実装した環境鳴き声が紹介された
足音、葉ずれの音に混じって複数のポケモンの声が聞こえる

『ソード・シールド』に実装された環境鳴き声は、昼用と夜用、そして昼にウールーがいるエリアの鳴き声といったセットが用意され、それぞれをスタジオ収録したものが利用されました。

北村さん曰く「音のニュアンス的には満足いくものが出来た」とのこと。ですが、スタジオ収録した音をそのまま使用するという方法ゆえに、容量の問題は避けて通れませんでした。
その結果、『ソード・シールド』では限られた環境音セットしか実装できなかったため、また新たな課題に立ち向かうことになったそうです。

さらなる目標「すべての登場ポケモンの鳴き声を鳴らす」

『ソード・シールド』の次作『Pokémon LEGENDS アルセウス』では、さらなる高みへと挑戦することになります。それは「すべての登場ポケモンの鳴き声をフィールドごとに鳴らす」こと!
今までの試行錯誤の内容が濃かっただけに、かなりハイレベルな課題に感じますね…!

・『アルセウス』に登場する全ポケモンの鳴き声を実装する
・遠距離〜中距離など、距離を変えて録った音源を用意する
・そのフィールドに出現するポケモンの声が鳴るようにする
マイキング:収録したい音源に合わせた距離でマイクを設置すること

そして、公開された鳴き声データの一覧がこちら。

実装されたポケモンの声は、なんと数百体。
しかも「ポケモンの数 × 鳴き声 5種類 × 距離 3種類(近〜中〜遠)」という、途方もない数のデータが収録されたとのことです。こ、これは気が遠くなりそう…!

数えるだけでも気絶しそうなデータ量

そうしてハイクオリティな環境鳴き声が完成した一方で、サウンドの数は一気に膨れ上がる結果となりました。

『アルセウス』ではこの方法で実装できましたが、次のタイトル『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット(以下S・V)』は、シリーズ完全新作。登場するポケモンの数が一気に増えるため、どのように実装するかをまた新たに考え直す必要があったそうです。

ポケモンの鳴き声をもっともっと進化させたい!

新作『S・V』では、クオリティを保った状態で、データ容量も抑えなければなりません。
そして、先に紹介したオーディオミドルウェア「Wwise」が、ここで再登場します。

Wwise® (ワイズ:Wave Works Interactive Sound Engine)
カナダのAudiokinetic社で開発されたオーディオミドルウェア。複雑な処理を効率的かつ素早く実行することが可能で、その多機能さから世界のあらゆる分野で活用されている。

北村さんは、スタジオでリアンプ(再録音)した音源を徹底的に解析。
そこから自社開発したWwise用エフェクトを使って、距離別に音を再現する仕組みを実装。
さらに、ポケモンの習性に合わせて鳴き声を出すことも可能になりました。

無事解決!のはずが…

「これで音響空間の問題は一旦解決」と説明しながらも、何やら含みのある様子の北村さん。
次に口にした言葉は「ポケモンのボイスを進化させる」といった、壮大なキーワードでした。

環境鳴き声を進化させるための新たな課題
・既出のポケモンの声のバリエーションが少ない
・『ポケットモンスター 赤・緑』〜新作タイトルまでの波形の性質がバラバラすぎる
ポケモンの鳴き声そのもののユーザー認知度が非常に高い(バリエーションの追加が難しい)
・『S・V』では図鑑No.が1000を突破=収録が必要な鳴き声の数が多い

さらに進化するポケモンのボイスとは…? 一体どこまで進化するんでしょうか…!

たとえば、1996年にゲームボーイで発売された『赤・緑』のポケモンや、のちに発売された各シリーズの鳴き声をすべて『S・V』仕様に調整する必要があります。

さらに、過去シリーズで鳴き声のバリエーションが少なかったポケモンを選び直し、新たなパターンを収録するといった作業。かつ、ユーザー認知度の高い鳴き声に関しては、そのポケモンのイメージを損なわない声色に留めるといった配慮が必要になりました。

「より表現を追求するなら、一律の処理では難しそうでも物量を考えると、ある程度は一律に処理をしなければならない」という、謎解きに近い究極の課題。それを、一体どうやって解決したのでしょうか…?

北村さんはアドバイスを求めるべく、ポケモンの神様を尋ねることを決意します。

関連記事