【CEDEC 2023】自然の生物がいないポケモンの世界はどんな音でできている?

ポケモンの神様に直接相談! 感動の原点回帰

まず、鳴き声のバリエーションを増やすために動き出した北村さん。限られた時間とリソースの中で、とある助っ人に協力を求めました。

初代タイトル『赤・緑』からサウンドに携わっている、株式会社ポケモンの増田順一さんと、北村さんに相談を持ちかけてくれた一之瀬さんです。

北村さん「非常に貴重な機会をいただきました」

単刀直入に「『ポケモン赤・緑』の鳴き声って、どうやって作ったんですか?」と質問した北村さんへ、増田さんと一之瀬さんからこんな回答があったそうです。

増田さん&一之瀬さんからのアドバイス
・ポケモンは“ふしぎな生き物”であって“動物”ではない
・クリエイティブされた生き物である
・ライオンからインスパイアされたポケモンに、ライオンの声を使うのは違う
クリエイティブが挟まっていることが大事!
その音になってユーザーが喜ぶかが大事!
恐縮したような面持ちで「神々の言葉」と表現した北村さん
北村さん「大事なことなのでもう一度言います」

「この言葉に全てが詰まっている!」と感じた北村さんは、今後の方針をこのように再構成します。

サウンドチームが表現したいこと
・声のバリエーションを増やして、ポケモンの表現力を上げたい
・オリジナルのニュアンスを残したまま、バリエーションを作りたい
・大量のアセットを効率的に生成したい
・『赤・緑』〜新作タイトルまでの鳴き声を、同じ手順で作りたい

さて、方針が決まったところで、ポケモンの鳴き声はどのような進化を遂げたのでしょうか?

ポケモンの鳴き声が無限に作れる 夢の生成ツールを開発

これらの課題解決のため、ゲーム効果音生成ツール「GameSynth」を開発した株式会社tsugiに技術協力を仰ぎました。
そしてなんと、その「GameSynth」をベースに、ポケモンの鳴き声を生成するツール「PokeSynth(ポケシンセ)」を開発してしまったのだから驚きです…!

「PokeSynth」の特徴
・ポケモンの声を比較的自由に変化させることが可能
・ツール上に線を描くと、その線の軌道を再現した音域の鳴き声が生まれる
人の声をポケモンの鳴き声に変換できる
・バッチ機能によって、大量の音声データを一括処理できる(尺も自動調整可能
画像中央に描かれた線に合わせて、ピカチュウの鳴き声の音程が変化!
「ヘァッ!」という男性の声が流れた直後に、ピカチュウの鳴き声が似た音階で再生された

例に挙げられたこのピカチュウは『赤・緑』に登場したポケモンなので、声が5種類のみでした。それが「PokeSynth」を使うと、鳴き声を無限に作ることが可能に! これは大発明ですね!

それによって、重要なシーンなどに使われるポケモンの声を、より感情的に表現できるようになりました。実際に『S・V』では、コライドン・ミライドンといった重要な役割を持つポケモンの声に、この「PokeSynth」が使われているシーンもあるそうです。

北村さん「冒頭でコライドン・ミライドンがサンドイッチを食べるシーンの鳴き声は、僕の声から生成されています」

ということで、ポケモンの鳴き声バリエーション問題はこれにて解決!
素材が揃って準備万端といったところで、次は「鳴き声の鳴らし方」のプロセスに続きます。

準備は整った! けど、環境鳴き声をどんな風に鳴らすべき?

鳴き声の種類を一気に増やすことができましたが、その声は一体どのような仕組みで鳴らされたのでしょうか? その話は『アルセウス』の開発段階に遡ります。

まず、フィールドを自由に歩き回れる『アルセウス』に合った表現を目指すべく、環境鳴き声をどう活かすかが議題に上がりました。

『アルセウス』で行いたい演出
・ポケモンの生態に合った鳴き声を鳴らしたい(天候・時間帯を含む)
・数ある声の中から、そのフィールドに適した声を自動で鳴らす仕組みを作りたい

そして、実際に開発された環境鳴き声の仕組みがこちら!

プレイヤーからの距離を、近距離〜中距離〜遠距離の3つにエリア分け。さらに、前後左右といった向きの情報も設定されており、ポケモンの声の方向を判別できるようになりました。

近距離(プレイヤーがモンスターボールを投げられる範囲内)では、その場にいるポケモンに実装されている声を直接再生。中距離以降は、プレイヤーから離れていて目視できない(けど存在している)ポケモンの声が鳴るようになっているそうです。

ポケモンの「習性」を調べるため、ふたたび山へ

環境鳴き声のバリエーションは格段に増えたものの、北村さんとしては心残りな部分もあったそうです。これらを踏まえて、『S・V』ではポケモンの生態をリアルに表現することに着目しました。

『アルセウス』で表現しきれなかったこと
・ランダムに選ばれたポケモンの声を鳴らしている状態だった
・「天候や時間帯による生態の変化」といった表現が機能(スポーナー)に頼る形だった

ポケモンが活動するであろう場所、時間帯、天候、習性を直接コントロールするといった、理想的なシステムを追求することになった訳ですが、「習性をコントロールする」とは、一体どういったことなんでしょうか?

表現をより深く追求するうちに、「そもそも生き物はどんな習性で鳴くのか?」 といった疑問が浮かび上がります。
その答えを知るために、北村さん一行はふたたび山に向かうことにしました。
ま、また山…!?

本日二度目の「山」が登場
「朝から晩までずっと山にいました」
「東武動物公園にも行きました」

「聞く」という体験がとても大事なポイントだったと語る北村さん。
鳥、虫、哺乳類などの動物の声や息づかいを観察し、体の大小といった特徴も含めて注意深く観察。それによって新たに発見したことがあったと言います。

生き物を観察して分かったこと
時間帯について
・基本的に、夜は虫の鳴き声しか聞こえない
・朝は、鳥と虫の声が混ざる時間帯
・日が昇るにつれて、鳥の鳴き声のみになっていく

体の大きさと鳴き声の関係
・体が小さいほど、鳴く頻度が高い
・中型哺乳類はあまり鳴かなかった
・体格が大きくなるほど、鼻を鳴らすなどのバリエーションがあり、鳴く頻度が増えた

ついに「環境鳴き声の定義」が完成!

この観察結果をもとに、『S・V』での鳴き声システムの構築がスタート。
まずは、鳴き方をジャンル分けするための「種族の定義」が行われました。声だけで時間帯を表現できる鳥・虫系ポケモンや、夜行性のポケモン、大型のポケモンなど、すべてのポケモンをジャンル別に分類します。

さらに、鳥を観察した際に発見した鳴き方のルールも取り入れることにしました。
一方で鳥が鳴くと、もう一方で別の鳥が鳴くといった「コール&レスポンス」の体系です。

鳥系ポケモンは、鳴き声だけでなく羽ばたき音も発していた
視界の外から聞こえるポケモンの声に、ワクワク感が高まる

そうした過程を踏まえて『S・V』の環境鳴き声の概要部分が出来上がりました。
私たちの日常で無意識に聞いているような動物の鳴き声が、ポケモンの環境鳴き声のヒントにもつながっているんですね…!

ここからは岩本さんにバトンタッチ。
環境鳴き声を実装するためにどういったシステムを構築したのか、より専門的な解説が行われました。

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