【CEDEC 2023】自然の生物がいないポケモンの世界はどんな音でできている?

「効率的なサウンド実装」の仕組みも紹介!

最後に、岩本さんから「サウンド実装の効率化・最適化」にまつわる紹介がありました。
まずは、音が正しく再生されているかを判別するためのデバッガー(プログラムの不具合を探すシステム)についてです。

岩本さんは、前置きとしてこう語りました。「それ、WwiseProfilerでできませんか?」

プロファイラーとは、いわゆる解析ツールのこと。プログラムがちゃんと実行されているかを監視したり、記録してくれるといった役割を持ちます。
WwiseProfilerはとても優秀だそうで、いろんな解析が可能とのことですが、今回の理想は「解析結果をゲーム画面上で直接確認したい!」というものでした。

山の話だけでなく、Wwiseの話も二度目の登場

考えた結果、ゲーム画面上で確認できるサウンドデバッガーを自作することに。
音といった、普段は目に見えないものだからこそ「開発中は視覚化することが大事」と、岩本さんは語ります。

そして、実際に使われた4つのデバッガーによって、どのような解析が行われたかが紹介されました。

Gizmoデバッガー

・音が鳴っている位置が赤丸のオブジェクトとして表示される(発音点が可視化できる)
・再生されている音のデータ名や、プレイヤーと発音点の距離も、リアルタイムで確認できる
・距離が示されることで、距離減衰(音源から離れると音が小さくなる現象)の調整に役立つ
ポケモンとプレイヤーの足元に、発音点が赤丸で表示されている

Objectsデバッガー

・あらゆる基本情報をまとめて、リスト化してくれる
・どういった行動によって、どんな音が鳴っているのかが、常に可視化表示される
・環境音がどのタイミングで再生されているのかが目視で確認できる
足音の自動検知によって、ポケモンの足元に印が表示されている
家に近づくと屋根上が赤い表示に。同時に、飾りが風で揺れる音が聞こえ始めた

BGMManager

・どの音データがどのように再生、停止したかなどの細かな情報をリスト化できる
再生中の音をタイムライン表示できる
・タイムラインで確認できることによって、音の不具合を見つけやすくなる
再生中のBGMは赤いバーで表示されるため、音の不具合を目視で確認しやすい

History

・再生リストに入っている音の履歴を一覧表示できる
・再生に失敗した音データやカットされた音、その音が再生されなかった理由も確認できる
大量の音データが再生されている中で、気になる情報のみを確認することができる

この4つのデバッガーを組み合わせることで、音の不具合を複合的に確認することができたとのこと。

デバッガーをフローチャートのように組み合わせて、順を追って確認することで、不具合の原因やそれがどのタイミングで起こったかなどが明確にわかるようになりました。

手持ちのポケモンだけを感情豊かにする方法とは?

さらに、「手持ちのポケモンと野生ポケモンを区別したい」という意見もありました。
たとえば、手持ちにピカチュウがいる状態で、野生のピカチュウと戦ったとします。その場合、自分のピカチュウと野生ピカチュウが同じで良いのだろうか? ということですね!

そのため、状態別にグループ分けしたポケモンによって、音が出る仕組みを切り替えるといった制御システムを作ることになりました。

岩本さんがまず思い浮かべた言葉は…「それWwiseのPlayback Limitでどうにかなるのでは?」
まさかの、3度目のWwise登場です!

岩本さん「私の言いたいことが、もう予想できるのではないかと思いますが…(笑)」

これは、ソフトウェア側からすれば、どちらのポケモンも同じピカチュウになります。その中で優先度を変化させる仕組みを作るため、発音管理を行うシステム「AudioGroup」を開発しました。

音の種類をグループ別に分け、さらに音の種類を階層のように細かく分けることによって、鳴らしたい音の優先度を制御しやすくなりました。優先度が下がる音を判別することで、自動的に音をカットしたりしてくれる仕組みが完成したのです。

例えば、バトルが始まると、このポケモン同士は「バトルグループ」に切り替わります。
そうすることで、フィールドにいながらも、このバトル中のポケモンの優先度が繰り上がり、この2匹の音が強調されて聞こえるといった仕組みになっています。

手持ちのポケモンは紫色で表示されている
バトルが始まると、野生ポケモンが赤に!
手持ちと野生、両方のポケモンが赤に変化

このように音の優先度を制御することで、手持ちのポケモンの仕草がより伝わりやすくなりました。
このお話を聞いた後だと、手持ちポケモンに対して、より一層愛着が湧きそうですね…!

壮大な物語は、ポケモンだけでなく環境鳴き声開発にも宿っていた

一之瀬さん、北村さん、岩本さん3名による講演は、以下のまとめをもって締めくくられました。

環境音、環境鳴き声
・環境音を「鳴き声、自然音、時間変化」などに落とし込んだ
・鳴き声などは、ただ作るのではなく「クリエイティブ」の考えを大事にする
・ユーザーに「どうしたら喜んでもらえるか」というゲーム開発の基本に則る

効率化、最適化
・環境音の実装に「発音点の点群」を使うことで、配置作業を広範囲かつ効率的に進められた
・WwiseProfilerでは表示できなかった情報を可視化し、実装確認の効率化に成功した

全体(心構えについて)
・困った時は外に足を向けて情報を得る、識者に相談する
・わからないことを自分一人で悩まないでどんどん話していく姿勢が、よりユーザーに喜んでもらえるものにつながる

一之瀬さんは、最後に「今回の発表が、今後の皆様の制作にお役に立ち、結果としてユーザーの楽しい体験になる未来があるならば、これ以上嬉しいことはありません」と語りました。

最後はたくさんの拍手とともに講演が終了した

ほかにも、CEDEC 2023で行われた講演【ポケットモンスター スカーレット・バイオレット】 パルデア地方を描き出す――見た目の仕組みを徹底解説! についてもご紹介しています。こちらも合わせてお楽しみください。

任天堂のセッションに関する過去の記事はこちら(CEDEC)

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「前編・碧の仮面」「後編・藍の円盤」
■『ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝』
「前編・碧の仮面」「後編・藍の円盤」
発売日:2023年2月28日(火)より配信中
価格:各3,500円(税込)
対応機種:Nintendo Switch
ジャンル:RPG
プレイ人数:1人(対戦・交換など 2~4人)
通信機能:ローカル通信対応、インターネット通信対応
販売形態:追加コンテンツ(ダウンロード版)
対応言語:日本語・英語・スペイン語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・韓国語・中国語(繁体字)・中国語(簡体字)※本ソフトの対応言語「スペイン語」は「欧州スペイン語」です。
CERO:全年齢
発売:株式会社ポケモン
販売:任天堂株式会社
制作:株式会社ゲームフリーク
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スカーレット・バイオレット

対応機種:Nintendo Switch
発売日:2022年11月18日
ジャンル:RPG
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