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星のカービィ スターアライズ Vol.1  山梨直送インタビュー前編(2018年5月号より)

1人でも友達とでも、最大4人でワイワイ遊べるNintendo Switchの『星のカービィ スターアライズ』。ニンテンドードリーム誌上で行われた開発者インタビューを複数回に分けてお届けします。ゲーム開発会社ハル研究所の山梨開発センターにて、その統括ディレクターを始め、制作スタッフのみなさんに開発秘話や思いをうかがいました。

「集大成」を掲げる本作の魅力と制作意図を掘り下げます!

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。
・ネタバレも含んでいる場合があります。

<ハル研究所 プロフィール(上の写真左から)>
レベルデザインディレクター 遠藤 裕貴さん
レベルデザインディレクター。ゲーム中のステージ作成(レベルデザイン)をメインに、主にマップに関わる敵キャラやギミックのディレクションを担当。サブゲームの監修も行う。

ゼネラルディレクター 熊崎 信也さん
『星のカービィ』シリーズを統括するゼネラルディレクター。『スターアライズ』ではゲームデザインのディレクションを担当し、全体を取りまとめている。

シーケンスディレクター 神山 達哉さん
シーケンスディレクター。ゲーム進行全般のフローの取りまとめを担当し、主にメニューやワールドマップのディレクション、AI関連、フレンズ能力などを担当。ムービーの監修も行う。


カービィ25周年を飾る『スターアライズ』のリリース

―― まずは、『スターアライズ』の企画がどのようにスタートしたのかを教えてください。
熊崎 3DS『星のカービィ ロボボプラネット』の開発が終わってから、「星のカービィ25周年記念オーケストラコンサート」などを計画しつつ、タイトルラインナップをそろえていったんです。25周年中に絶え間なくカービィのゲームをフェアなどのイベントと一緒に楽しんでいただくことは大事だなぁと思っていましたので、『みんなで!カービィハンターズZ』や『カービィのすいこみ大作戦』、『カービィ バトルデラックス!』をリリースし、その裏で『スターアライズ』を開発していました。なのでリリースも25周年中を目標としてはいたんですが…間に合うか、間に合わないかという感じでした(笑)。
一同 (笑)
熊崎 山梨開発センターでは、HD機での開発が初めてだったんです。ハル研としては、Wii U『タッチ!カービィ スーパーレインボー』を東京開発センターが作ったので2本目になるんですけれども。なので、どれぐらいの作業工数が必要なのか、どれぐらいのスケールで作っていけばいいのか、というところから手探りでした。
―― 完成したタイミングがたまたま25周年だったのではなく、周年にあわせて作っていったんですね。
熊崎 そうですね。開発の途中段階から発売日程が決まったのは、初めてかもしれません。これまでは任天堂さんと連携して、ブランド全体を高めるために『カービィ』をどう出していくのか、完成する頃に発売時期を決めていましたので。
神山 もちろん今回も任天堂さんのご意見も合わせて、Nintendo Switchのラインナップ的にもちょうど年末年始で遊べるゲームが落ち着いてくるタイミングに決まりました。こんなにきっちり発売日が決まっている状態で作ることは、今までなかったですね。
―― 25周年のフィナーレみたいなタイミングで登場するので、盛り上げてくるなぁと。
熊崎 お客様が欲しいときにちゃんと届けるのも大事なことだと感じています。

積年の思いを果たす王道『カービィ』の決定版

―― では、開発の初期は、どのようなところから始めていったんですか?
熊崎 企画が立ち上がった頃には、まだNintendo Switchの全容が我々もわからない状態でした。徐々に明かされていく中で作っていくのですが、王道カービィには宿命があって…。お客様から「これぞ『カービィ』だ!」と思ってもらえる、頭1本抜きん出たクオリティでないといけません。いっぽうで3DSのカービィを2本作って、さらに新しい驚きをお客様に提供したいとも考えていたので、他にもいくつかのゲーム企画案や選択肢がありました。さまざまな企画案があったのですが、今回は「おすそわけプレイ」というハードの魅力とゲームデザインが合わさった形になります。テーマにしていた「みんなでわいわい」とものすごくマッチしているなと思ったので、ハードの性能が分かった頃に「この企画ならいける!」と見えてきたところがありますね。
―― テレビの前でみんなで遊べる本編のカービィが、久しぶりに登場したなという印象はありました。
熊崎 据え置き機で『カービィ』を作ることについては、個人的な思いがあるんです。ゲームキューブの時代、11年ものあいだ王道『カービィ』の新作が据え置き機で出ていない時期がありまして。そのとき世に出なかった『カービィ』の企画が3本あったのですが、そのひとつ目の企画に、難航したヘルパーシステムを使って遊ぶゲームがあったんです。

4人で遊べることをコンセプトに開発された、ゲームキューブ版開発時の画面

―― 以前うかがった話によれば、たしか熊崎さんはその頃ニンテンドーDSで別のゲームを制作していたんですよね。遠藤さんと神山さんは…?
遠藤 僕と神山は同期で、世に出なかった3本目の『カービィ』で初めてゲームの開発に携わりました。その前に「ヘルパーで遊ぶ『カービィ』を作っていたけどうまくいかなかったらしい」と聞いていたんですが、僕たちは入社したばかりの新人だったこともあって、完成しなかった理由が分からなかったんですよね。実際にプレイもしましたけど、「何が悪かったんだろう?」と。
熊崎 完成しなかった理由というのは、当時の開発チームは全力で作っているわけですから一言では語れないのですが…。強いて言うのであれば、商品としてまとめあげることが難しかったのです。けれど、今のハル研ならそれを成し遂げられるんじゃないかなと思いチャレンジしました。
遠藤 確かに、これまでの開発経験が無かったら『スターアライズ』は作れなかったと思います。…実は、『星のカービィWii』の開発を終えたときに、ようやく4人で遊べるゲームが完成したのに、熊崎からは「次はヘルパーと一緒に遊ぶゲームを作るよ」と言われたんですよ。
一同 (笑)
熊崎 『Wii』のあとは会社からのオーダーもあり、2作とも携帯機だったので「次」にはなりませんでしたが、『トリプルデラックス』『ロボボプラネット』と作って、王道の『カービィ』でやりたいことはだいたいやり尽くしました。残る最後の砦が、「ヘルパーシステムでプレイヤーを自由に入れ替えられる」ことだったんです。それと「1人でもCPと一緒に4人で冒険できるアクションゲームを、HDゲーム機で」ということですね。
―― それをこの『スターアライズ』で、ついに実現したわけですか。
熊崎 はい。今までの2D『カービィ』で考えてきたシステムはこれでもう終わり! って明言できるようなゲームを、1回作りきりたいなと思ったんです。
―― 積年の思いを果たす1本ですね。
熊崎 本当に発売できるのか、疑心暗鬼でしたが。まず最初に、遠藤と一緒に一番最初の『スターアライズ』の実験版を作り、そこからはそれまで以上にこの2人と作業の分担をしていきましたが、とにかくものすごい物量で。
神山 難しい開発になるとは思っていましたけど、やってみたら本当に難しかったんです。仲間がヘルパーになるだけで、こんなにも考えることが増えるのかと。今まで積み上げた開発経験があったから、この物量でもバランスが取れたのだと思います。
熊崎 開発はまさに総力戦となりましたが、それでも25周年のお祝いをカービィのファンの方と一緒に、ソフトと同時に迎えられるのは本当にいいことだなぁと思いました。その期待に応えられる『カービィ』を、私を含めて開発チーム自体が一番脂の乗った時期に作ることができたと思います。『スターアライズ』はこれからの『カービィ』のことを考えずに、ある意味出し惜しみせず作ったところもありますので、『星のカービィ』の最終回がもしこうだったらこうデザインする、みたいな決定版です!

ヘルパーと4人での遊びに新しい驚きを

―― 神山さんと遠藤さんは、実際の制作に入ってからまずどのようなところから作っていったんでしょうか?
遠藤 ヘルパーと4人で遊ぶ『カービィ』のステージはどういうものがいいのかを、まずは新しい仕組みが入っていない状態で実験していきました。カメラアングルをすごく引いてみたり、二手に分かれて違う通路を進み、スイッチを踏んでお互いを助け合いながら進んだり。マップで新しい仕組みができないかなと考えたんですが、どうもやっぱりシステム的に新しい驚きが欲しい、という雰囲気になってきて…。そんなある日、熊崎が一緒に仕事をしているプログラマーの前で「これに挑戦してみようか!」とホワイトボードに描きだしたんです。剣を掲げたカービィに火をつけているバーニンレオの絵を。僕もその絵を見たときに、「ああ…これはいけそうだ!」と思いました。

フレンズ能力が生まれた、当時のホワイトボード

―― それが「フレンズ能力」の始まりですか?
遠藤 はい。それならゲームが面白くなるっていう雰囲気が開発チーム全体に広がって、そこから一気にゲームが完成していった感じですね。そこからめちゃくちゃ忙しかったですけど(苦笑)。
―― 4人で繰り出す大技「フレンズアクション」も、驚きを入れていこうとしていった形でできたんですか?
遠藤 剣に火をつけるのは2人で成立するものですが、4人ならではの特別で楽しいことができるものもやりたいなぁと。実は剣に火をつける前から、「フレンズスター」と呼ばれる4人で合体して進むアクションも実験していました。
熊崎 4人で星になって空を飛ぶもので、現在のフレンズアクションのひとつです。
神山 僕は『すいこみ大作戦』のディレクターをしていたので、そちらが落ち着いてから『スターアライズ』の開発に合流しました。その頃はまだ、フレンズ能力はまだ原型すら無く、仲間と協力する遊びの実験として「フレンズスター」の制作真っ最中でしたね。

星型の乗り物で空を飛び、弾を撃って進む「フレンズスター」。見た目も華やか

遠藤 「フレンズスター」は感じがすごくよかったので、他にも4人で輪になって転がるとか、4人で橋を作ったりとか、映画の1シーンにあるような場面をイメージしてアイデアを考えていきました。
熊崎 けれど、「フレンズスター」をメインに据えてさまざまな乗り物や合体ポーズを量産しフレンズアクションの延長になるものを作っていくのか、コピー能力に属性を付与してさまざまに変異させていくのか。2通りの道が考えられる中で、属性付与、つまりフレンズ能力の方をプッシュしていく方向になったんです。
遠藤 ちょうどフレンズ能力のノリが見えてきた段階だったので。そこからゲーム全体の方向性をまとめていく感じでした。

フレンズれっしゃのスケッチ画

1人でも友達と遊んでいる感覚に

―― まったく新しいものより、フレンズ能力のバリエーションに力を注いでいったということですね。
熊崎 はい。まったく違うアクションゲームにするための要素って、案外考えつくんですよ。それこそ新規IPみたいな感じですね。でも『カービィ』を作るのだから、今までの『カービィ』の面白さや要素をないがしろにしてしまってはいけないと思いました。かといって、今まであった『カービィ』の延長線上だけでは驚きが少なくなってしまいます。だから「フレンズ能力」は、コピー能力の新しい変化をたくさんの仲間たちと生み出していく掛け算であり、『スターアライズ』は4人で遊ぶことによって起きるさまざまな変異を楽しむことができるゲームを目指しました。
―― 組み合わせの驚きや発見がたくさん楽しめました。
熊崎 『カービィ』はラフなゲームなので、快適に遊べることと、アクションゲームとして成り立たせる歯ごたえとが必要なのですが、そこをフレンズ能力で変化させることによってアクセントが付きました。これが『カービィ』の間口が広くて奥深いというところにつながっていると思います。一見、カービィの懐かしいゲームなんですけど、遊んでみると全く違う新しさがあると感じてもらえるはずです。
―― ところで、コピー能力と属性を組み合わせるフレンズ能力は、『星のカービィ64』の「コピー能力ミックス」を連想した方も多かったように思います。遊ぶと全然別のものですけれど、「集大成」を押し出した今作としては何らかの意識はあったんですか?
熊崎 遊んでいただけるとわかると思いますが、『星のカービィ64』単体というより『カービィ』シリーズ全体の集大成であって、フレンズのメンバー構成によって遊びが変わることを重視して考えました。
―― そんな、フレンズと楽しむステージ作りとしては、どのように考えていったのでしょうか?
遠藤 いつも考えているのは、『カービィ』を通してプレイヤーに大冒険を味わってもらいたい、ということです。それにプラスして今回は、1人で遊んでも楽しいけど、友達と4人で遊ぶ、もしくは4人そろわなくてもCPがついてくることでそれを楽しいと感じてもらえるように考えていったんです。
熊崎 コアなお客様とライトなお客様が求める『カービィ』って、差が開いていると思うんです。ゲームが得意な人にとっては、もっとテンポが早いのが望まれ、そしてかつてのヘルパーシステムのようにフレンズたちも必要無いと考えるんじゃないかって思いますし。遠藤 そういった幅広い層みんなが、フレンズ能力を楽しんでもらえるように作っていったことが、今回のステージの特徴になりますね。
―― 具体的にはどのように作っていくものなんですか?
遠藤 まず、2人の力が組み合わさって解けるものを作ってみました。紐に爆弾がぶら下がっているっていう仕掛けで、今までの『カービィ』シリーズなら紐を剣で切ればよかったんですけど、それだけじゃ解けないようになっています。フレンズとの協力が必要になるわけですが…開発チームでテストしても、誰も解けなくて(笑)。

紐(導火線)を切るとともに火をつけなくてはいけない。そこでフレンズ能力!

―― 新しさが、難しさになってしまった…と。
遠藤 そうなんです。そこで、答えがバレてしまってもいいので、初めての仕掛けが登場したら一度やり方を看板で教えることにしました。でもそれだと、ゲームの深みを求めているお客様は納得できないので、答えを知ったうえでさらにそれを応用していくステージ構成にしたんです。これで初心者も上級者も楽しめるようにしていきました。だから、一見今までの『カービィ』っぽいステージに見えるのですが、今回のマップ構成ってかなり初めてのものなんです。とても苦労しましたし、これを決断するまでにも時間がかかりましたね。特に序盤ステージはかなり作り変えました。
熊崎 最初のワールドは、毎回何度も作り直しますね。中でも1-1は、3~4回作り直すことも多いのです。
遠藤 そうですね。今回もワールド1を作りきって開発チームのみんなにプレイしてもらったのですが、それでも難しすぎるんじゃないかって思って。看板で教えて経験させて、そのあとのステージを楽しめるようにしようとマップ構成の変更方針を決めてから、全部作り変えました。
神山 今回は開発中にモニターをいっぱい取らせてもらいました。つまずいたところを見つけて、何度もモニターを取って、敵の数や種類、看板の内容や設置場所、AIの動きなどのバランス調整をして積み上げていった感じです。
―― 親切なガイドもありますが、フレンズヘルパーが想像以上に利口で感動しました。導火線に火をつけてくれたりとか…。
遠藤 AI、つまりCPのフレンズヘルパーが自分で仕掛けを解いちゃうこともあるのですが、解いてくれないとプレイヤーは不満に感じますので、そのバランスには気を使いました。たとえば2人で協力する仕掛けについては、カービィが切る側にも火をつけてあげる側にもなることがあるので、どちらの場合にもちゃんとフレンズヘルパーが仕掛けを解けるように、マップを作ったら神山に相談してAIを調整していきました。
神山 プレイヤーが仕掛けを解ける能力のときはプレイヤーにゆずって待ち、CPだけが解ける能力の場合は率先して動くようにしています。どこまでAIがやってくれたら楽しいプレイ体験になるのかというこの線引きは、かなり悩みましたね。実はAIに関する部分は後から入れるので、マップが仕上がってきてから「これを本当にAIにやらせるの?」って思うような凝ったマップもありました(笑)。そういうマップは、毎回AIにどうサポートしてほしいか理想的なプレイから考え、プレイヤーがストレスを感じずに遊べるようバランスをとったつもりです。
遠藤 もっと賢いAIは作ろうと思えば作れちゃうんです。ただしあまりにもAIが賢いことをやりすぎちゃうとプレイヤー側がポカーンとしてしまうので、「きっとこうやって解くんだな!」と想像できるようなマップを作っておき、プレイヤーの想像があったうえでAIがうまく動いてくれるようにしています。フレンズヘルパーは、仕掛けを解いてくれるのは嬉しいですけど、全部解いちゃってもイヤですから。
熊崎 小学校高学年くらいの友達と考えながら遊んでいるぐらいのイメージでAIを調整しています。
遠藤 1人で遊んでいるときも、友達みんなでプレイしている感覚になってもらえればと思います。
―― 仕掛け以外にも、「持っている武器に属性をつけてほしい」というときにちゃんと対応してくれるのもいいですね。
熊崎 RPGのようにメニューから選んで細かく指示を出せば思い通りにはいくんですが、アクションゲームとしてそのテンポ感は無いなぁ、と。シグナルとしては「フレンズ能力を使いたい」に集約することができますので、フレンズヘルパーにどこまで判断して動いてもらえるかをテンポを損なわないように調整し、あとは手に入れた属性をどう使うのか考えるところをプレイヤーに残しているんです。

スティック上でフレンズヘルパーに対して訴えかけると、反応。その場でいい感じの判断をしてくれる

―― そのうえで、本当に「今これをやってほしい!」と思っているときには、フレンズヘルパーの能力を奪うこともできますし、「のっとりおんぶ」で操作することもできますよね。その割り切りと選択肢の多さもすごいなと。 
熊崎 おんぶはCPにはできずマルチプレイ専用にしようとか、フレンズはハートを投げられないようにするとか、倒れた仲間を救済できる仕組みとか、納期にあわせて何かカットしようか考えるところはありました。でも、マルチプレイ全体の快適さを出すうえで、何一つ欠かせないなぁと。
神山 意図せずCPにおんぶしてしまうことが多く調整に苦労しました。個性的な仲間同士でおんぶする絵はすごく魅力的なので、何とか残そうとして試行錯誤をしましたね。
遠藤 『スーパーデラックス』でいう「すっぴんビーム」っていう、ヘルパーを消す操作を、今回はボタン長押しにしたのもそのひとつです。今回「すいこみ・はきだし」「ジャンプ」「ハートを投げる」という3つのボタンを基本的に使っているのですが、4つ目のボタンでコピー能力を捨てたり仲間を消したりするあたりで混乱が生まれ、最初の頃は仲間がいっぱいいたのに気がついたら1人になってしまった、なんてこともあって。操作を失敗していろいろボタンを押している間に、みんな消えちゃうという(笑)。
―― (笑)
遠藤 そういうことを避けるために、ボタン長押しでインフォを出して、そのうえで能力を捨てて、その先にフレンズを消すというふうにしました。快適さを求めるコアなユーザーさんの為に、マイナスボタンを押すだけですぐフレンズを消せるようにもしています。ハートを投げるのも、敵だけではなく能力帽子や捨てた能力に当てればフレンズにできたり。
―― ハートを投げる位置までも手動で調整ができて。
遠藤 捨てた能力に当たって勝手に変身しちゃうと困りますからね。 
熊崎 アクションのスピード感を求めると操作ミスの起こりやすさにつながることもありますが、それでもテンポよく遊びたいですからね。ですので、あえてテンポを抑えているところもあります。物事の展開が早いと混乱するお客さんが多いこともモニター結果から分かりました。たとえば、『カービィ』を熟知している人は、地面に埋まっている杭を見たらストーン能力が必要だなってすぐ分かりますよね。
―― 『夢の泉の物語』以降おなじみの仕掛けですね。
熊崎 でも、そういうセオリーが無いものと考え、丁寧に考える時間を与えています。今作で初めてプレイするユーザーさんや、休眠層と呼ばれる久しぶりにプレイするユーザーさんが、いろんな能力の中から「もしかしてストーンとかハンマーで打つのかな?」って気づくのにも時間がかかりますし。ボスやギミックの演出も、その辺りのことを考えて一回プレイヤーを待たせるような作りをしているんです。もちろん早くクリアしたい方のニーズも考えてデモはスキップできるようにするとか、アクション以外にもテンポ感全体をかなり考えて作っています。
神山 プレイ人数もいつでも切り替えられ、シームレスに遊べますし。1人プレイでも頼もしいCPのヘルパーと協力して遊べます。できるだけお客様にストレスなく自由に遊んでいただけるように、いろいろ仕込みましたね。
―― 自由度と快適さを、とことん求めていったんですね。
神山 あとは、フレンズヘルパーたちと一緒に冒険をするムード作りを大事にしました。フレンズヘルパーも一緒に踊ったり、ワールドマップをみんなで歩いたり。なるべくフレンズヘルパーにスポットが当たるように、色々なところで登場するようにしています。遊んでいるうちに、フレンズヘルパーたちに愛着をもってもらえると嬉しいです。タイトル画面には、仲間にしたことのあるフレンズヘルパーたちが登場するんですよ。
遠藤 「フレンズヘルパーがいる状態っていいな」って思ってもらえるように、ゲーム全体を作っていきました。

フレンズヘルパーたちは、マップ移動時もちゃんと一緒!

快適でキャッチー、フレンズハート

―― そもそも敵にハートをぶつけてフレンズヘルパーにすることは、どのように出てきた発想なんですか?
熊崎 4人同時プレイを快適にしていこう、という流れで誕生しました。最初の頃は「きびだんご」と呼ばれていたんです(笑)。
―― きびだんご!?
熊崎 任天堂さんと話していたとき、たとえばキャンディとかの食べ物をあげたらお礼として仲間になるのはどうですか、と言われたんです。ほかにも、網で捕まえて仲間にするとか(笑)。
一同 (笑)
熊崎 さすがにもうちょっと『カービィ』の世界に合うようなものにしようと考えまして。その頃ストーリーのプロットがもうできていたので、物語と合わせれば理解しやすくなるかなと思い、「フレンズハート」が生まれました。「銀河の彼方から邪悪な心が飛んできて、カービィの元には善の心が飛んでくる」という。ゲームデザインとストーリーがマッチし、世界観に馴染みが出れば美しくまとまりますし。
―― もともとは、快適に遊ぶために生まれたものということですか?
遠藤 そうですね。僕は、「敵を飲み込んでコピーして、その能力のヘルパーを生み出す」のって、操作としてはわかりづらいんじゃないかなって思っていたんです。
熊崎 敵をすって、下ボタンを押して「のみこむ」のって、これまでプレイしていた人にはおなじみですが、新しく始める人には直感的じゃないんですよ。カービィの口が膨らんだときにすぐ吐き出しちゃうんです。いっぽうで、瞬時にヘルパーが登場する快適さは捨てられない。
遠藤 そこで、まだハートのデザインも決まっていないときに、カービィらしいものを投げたら敵が仲間に変化するようにしたんです。いろいろ試しているうちに、違和感が無くなってきました。
熊崎 気が付きにくいんですけど、「ハートをぶつけて敵を仲間にする」ってかなり大胆なことなんですよ。すって飲み込んでコピーする『星のカービィ』のアイデンティティーを脅かすようなことですから。
―― 確かに…!
熊崎 だから、実際はすごく悩みましたね。すいこみをしない王道カービィってどうなんだろう、って。なるべくすいこむチャンスも出そうとか、ハートをぶつけて仲間を増やしながら遊んでいったときにも「ちゃんとカービィしているな」と思わせる説得力は絶対出していきたいと思いました。
―― ハートをぶつけるのは、見た目でもとても分かりやすいです。
熊崎 はい。しかもゲームデザインとマッチしたものが見た目のキャッチーさにもつながるという、こんなに恵まれたことはなかなか無いんです。驚きを優先して派手なものにすると、子供たちにはキャッチーだけど、舌の肥えたゲームユーザーさんには「大味に見える」という懸念があったり…。その点、ハートはカービィの可愛らしいイメージとも、アクションゲームの快適さともマッチしました。これまでの4人同時プレイのゲームでも、4人ですってはいてというテンポ感が議題になっていたので、どうにか今回そのあたりを克服できないかなと考えていましたので。
―― カービィがコピー能力を持っている状態でも、別の能力のフレンズヘルパーを増やせるのが嬉しいですね。
遠藤 自分の能力からフレンズヘルパーを生み出していくと、4人そろえようとするだけでもすごい大変になりますからね。
―― ハートがいろんな問題を解決してくれたんですね。
熊崎 ただ、ハートを振りまいてるカービィを見たら、人によっては恥ずかしさもあるかな、と思って。
―― (笑)。最初の発表以降は「ハート」を押し出しているイメージがなかったんですが、あまり恥ずかしくないようにハンドリングしていったということですか?
熊崎 『カービィ』の強みは、女性や小さなお子さんも楽しめるアクションゲームとは思っていますが、一方で深いストーリー設定や、後半のクライマックス感などを支持してくださる方もいらっしゃいますからね。全年齢どんな方にでも楽しんでいただけるゲームとして、入口は可愛らしくして、けど可愛らしさに釣られて入ったら、とんでもない世界を救う大冒険をしているという(笑)。


関連リンク
『星のカービィ スターアライズ』 公式サイト
星のカービィ ポータル


ⓒ2018 HAL Laboratory, Inc. / Nintendo

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