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マリオ映画公開記念!宮本茂さんインタビュー 制作の始まりから驚きの設定まで

マリオ劇団が織りなす、キャラクターとドラマ性

Q 制作を始める際に、宮本さんもしくは任天堂から「ここは必ず守ってほしい」と伝えたことや、リクエストしたことはありますか?

宮本:
凝ったストーリーを作ろうとすると、新しいものをたくさん作る必要があったり、設定が増えたりしていきますよね。
だから、できるだけシンプルな脚本からスタートしようと。

そこに加えて、縛りを入れたんです。“任天堂タレント事務所”って僕は呼んでいるんですけど(笑)。

お話を作るうえでは、どうしても新しいキャラクターを出したくなるんですけど、他の事務所から引っ張ってくることは抑えてくださいと。できるだけ任天堂タレント事務所のメンバーで固めて、そこにいる人たちで作れるお話を仕上げていくという方針でいきました。

── 映画の内容について多くは語れませんが、配管工からキノコ王国へ行って…というスーパーマリオ誕生のようなものが描かれていますよね。ここにはどんな意図があったんでしょうか。

宮本:
これはね、映画化とは関係なく、もともと裏設定として決めていたものなんですよ。だから昔ライセンスで作られたマリオの映画も、けっこうそういう筋書きになっているんですね。
関係者らの共通認識としてあるんです。

もともと『マリオブラザーズ』は、土管がいっぱいあるニューヨークの地下で活躍する兄弟、ニューヨークのなかでもたぶんブルックリン、というところまで勝手に決めていて。
『ドンキーコング』は舞台がニューヨークですし。

『ドンキーコング』パッケージ

宮本:
その土管が不思議な森(キノコ王国)につながったのが、『スーパーマリオブラザーズ』なんです。

自分が作ってきた『マリオ』のゲームの歴史なので、今回の映画にもそこは入れたいと思っていたんです。
だから最初のころにクリスさんにそれを話したんですが、ただね、「ゲームの映画化って面白くないんですよね」っていう話もして(笑)。

だってゲームはインタラクティブ(双方向)で、自分からどんどん積極的に考えて遊ぶから面白いわけで。だから僕らは、遊ぶ人が次あれをしたいこれをしたいと思えるように、ネタを仕込んでいくんです。

── たしかに、『スターフォックス』なら輪っかをくぐる遊びだったりとか。ゲームならではの体験や手触りにこだわり続けてきたと感じています。

宮本:
だから、ゲームそのものは基本わかりやすいように作っているんですよ。
お姫様も、ただ助けてもらう女性でいいのかと言われるかもしれないけど、お姫様が勝手に抜け出して活躍したらゴールがなくなってしまうんで困るわけです。
ゲームは、プレイヤーの中でお話ができあがっていくものですよね。

映画はまったく逆で、受動的なメディアです。
能動的に働きかけるためには、意外な展開にするとか、考えさせるような話をバンバン振るとかして、「ああ面白かった」って思えるように揺さぶる必要があるじゃないですか。

だから、ゲームのあらすじを追ってもたいして面白くないということは、想像つくわけですよ(笑)。
それで、何をしましょうかって、ああしてこうして…といろいろやって。
出来上がってはたと気づいたら、結果的にゲームの内容を追ったものになったという。わかんないもんですね(笑)。

ゲーム的な筋書きを目指そうとしたんじゃなくて、むしろ避けようと思っていたことだったんです。
映画とゲームのアプローチ両方が上手く結びついたというのは、こんなことはないっていうくらい、自分でびっくりしました。

Q これまでなるべく設定づけを避けてきたというマリオですから、ブルックリンで家族と住んでいたのは驚きました。どのように決められたのでしょうか

宮本:
将来に向けてもやっておくべきこととして、マリオの家族はほしいと思ったんですよね。

もともとマリオというキャラクターは、イタリア系の移民でブルックリンに住んでいる、ブルーカラーのキャラクターというイメージで作っています。
移民としてアメリカに来ているわけで、マリオとルイージが二人だけでニューヨークに住んでいるというのは成り立たない。これもまた僕のステレオタイプかもわかりませんけど、家族がたくさんいて、みんなでご飯を食べたりするようなイメージがあったんです。

そういうこともあって、マリオの家族を作るっていうのは昔からの課題でした。じつは、お父さんとお母さんにかんしては20年ほど前に、小田部羊一さん(※)と一緒に描いたスケッチがあるんですよ。今回の映画でも、それをもとに、お父さんとお母さんを作りましょうと。

※日本を代表するアニメーター、キャラクターデザイナーの一人。任天堂に在籍し、アニメーションやキャラクターデザインに関わり、現在のマリオキャラクターのデザインをまとめあげた
(参考:社長が訊く『ニンテンドーDSi』

宮本:
お父さんとお母さんと、おじいちゃんと、それから親戚が何人もいたほうがいいよなと、と。
ただ、「じつはちっちゃくてかわいい妹がいる」みたいなことになると、妹がすごく背が高いほうがいいゲームを作るときに、縛りになるじゃないですか(笑)。そういうところは絞って、まとめていきました。

この映画で新しいキャラクターが出てくるのは、じつはそこだけなんです。それ以外はほぼもともといる任天堂キャラクターばかりで。

それだけではなく今回、いろいろ映画のなかで発明があって。
キノコ王国って、姫がいるということはキングダムなので、王様がいるのかって疑問が湧くじゃないですか(笑)。
『スーパーマリオ3』なんかではあちこちの国に王様がいたりするけど、じゃあキノコ王国の王様は? 亡くなったってことにするのも難しいな…とか思っていたら、脚本家のマシューさんが、うまく説明づけてくれたんです。
ピーチ姫のセリフの一言で、僕らも腑に落ちました。

── 今後そのあたりがゲームに反映されたりもするんでしょうか?

宮本:
たぶん、もともと反映されているものとして、どう説明づけようかというところが決まってスッキリした感じです。この映画によって、すごい設定が明らかになりましたね(笑)。いやあ、マシューの発明やなあと。

Q どのようにキャラクター性を深めていったか、今回の映画ならではのエピソードがあれば教えてください

宮本:
先ほど「マリオが人間になった」って言いましたけども、たぶんノコノコとか、キノピオとか、全部1レベル上がったと思うんです。カメックもすごく良くなったし。
ノコノコはどういうヘルメットが良いかとか、何十回やり直したかっていうくらいスケッチのやり取りをして仕上げました。
それぞれが生き生きして仕上がっていると思います。

けどやっぱり、大きく進化したのはピーチとクッパですね。
ピーチはやっぱり、ゲームでは助けてもらうシンボルです。たまに、『スーパーマリオUSA』なんかではプレイヤーとして登場しているし、パラソルを持って冒険するピーチのゲームとかもありますけども。

どちらかと言えば守られるほうのお姫様なんですけど、今回はキノピオのために戦うピーチにしましょうと。エレガントなお姫様でありながら、凛々しいピーチというのを目指しました。

── ピーチ姫がファイアフラワーに触るシーンにも驚きました。服の色もちゃんと変化しますね。

宮本:
あれは、変わったことわかってもらえるかなってちょっと不安だったんですが、気付いてもらえたならよかったです(笑)。

マリオも、恋愛感情があるのかないのか微妙なところで収めようということも表現できて、生き生きしたキャラクターになったと思います。

クッパについては結構、イルミネーションと議論をしました。
“任天堂タレント事務所”のなかの、さらに“マリオ劇団”って僕は呼んでいるんですけども(笑)。
クッパだって“マリオ劇団”の一員なので、次回はどっか良いとこの旦那をやるかもしれないじゃないですか。
だから完全な悪役じゃなくて、どこか愛せる部分があって、また違う役割で出てきてもいいようにしておきたかったんです。

けれど1時間半の映画を初めてのお客さんが満足するように作るには、ヴィラン(悪役)はとことん極悪じゃないと観客が入り込めない…というのが、一般的な映画の作り方らしいんです。

そう言っていたのに、いろいろ試して作っていくうちに調子が乗ってきたみたいで、クッパを個性づける印象的なシーンができあがっていました。

現場もノリだして、ハの字眉毛で目が点になったクッパの絵のシーンが増えてきたりして。いやちょっと緩めすぎなんじゃないっていうくらい、かわいいところのあるクッパになっていっちゃったんで、最終的には逆にこちらからまた怖めのクッパに演出し直してもらったりしたくらいでした。

Q マリオの元祖ライバル、スパイク(ブラッキー)が登場した経緯や意図を教えてください

宮本:
あれは、イルミネーション側から提案をしてくれたんです。だから僕らは「懐かしい〜!」って言いながら、採用することになりました(笑)。
日本での名前は「ブラッキー」だったんですが、これを機にアメリカでの名前である「スパイク」に統一しています。

── かなり昔のタイトルの小ネタも詰まっていて驚きました。

宮本:
今回、マリオのファンの人たちが世界中でいろんな仕事をしているんだということを、本当に痛感しました。
IT業界にもアミューズメント業界にも、たくさんいるんですよ。マリオが大好きという人から、ちょっと詳しいですよみたいな人まで。

「スーパー・ニンテンドー・ワールド」のときもそうなんですけど、僕らから全部説明するというより、僕らよりもマリオのことを知っているスタッフがいっぱいいて。
クリエイティブのトップにあたるような人が、「新しく作るならマリオの世界をやりたい」と言ってくれたことから始まったりしているくらいです。

宮本:
今回の映画のチームも、監督もそうですし、脚本家も、パリのアニメーターの人たちも、みんなマリオのことに詳しいので、いろんな提案が出てくるんです。
今日も監督としゃべっていたら、僕の知らないネタがあって。「どうやった?」っていうから「それ気が付けへんかった」って話をしてたんですけど(笑)。

しかも、マリオのファンというより任天堂のファンなので、僕の知らない任天堂のゲームとかも知ってたりして(笑)。それらを脚本のなかにどんどん取り入れてきてくれるんですね。
それを僕らがあとから調べ上げて確認する、というようなこともたくさんありました

こういうものが作中にたくさん詰め込まれていて、僕らは“トリビア”とか“イースターエッグ”とか呼んでいます。

たとえばピザのお店は『パンチアウト!!』が店名になっていて、至るところに『パンチアウト』のイラストがあったり。
『お料理ナビ』(※)に出てきたシェフの絵の入った胡椒入れとか(笑)。

※『しゃべる!DSお料理ナビ』:実際に作れるレシピを写真と音声でガイドしてくれるソフト。音声入力に対応しており、「オッケー」「詳しく」と声で合図することでページをめくることができる

宮本:
さぁ、いったいいくつ詰め込めるか…っていう挑戦をしているくらい、皆さんからどんどん提案があったんですが、さすがに収拾がつかなくなるので、8bit(ファミコン)のころまでにしておきましょう、と。

── では『お料理ナビ』のシェフはいなくなってしまった…?

宮本:
卓上の胡椒入れみたいなところにあることはあるんですけど、見えないかもしれません(笑)。ただ、8bitのころより新しいネタもいくつか残ってはいるので、ぜひ探してみてください。

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