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マリオ映画公開記念!宮本茂さんインタビュー 制作の始まりから驚きの設定まで

映像コンテンツにこめた作り込み

Q 脚本は英語版のローカライズではなく日本語版の脚本も同時に制作したということですが、その点を詳しく教えてください

宮本:
せっかく日本とアメリカで作るわけですから、日本語版を作ろうよということではあるんですけど。

[参考:ジャパンプレミア]

僕がよく言っているのは、ゲームって“嘘のような本当の話”を大事にしようと思っていて。完璧に嘘の話なんですけど、どこかにリアルなことがあることで、まるで本当かのように見えると思っているんです。
それはドラマとかでもそうで。一番大事な、“本当のことのように見える部分”をいい加減に作っているのを見ると、がっかりするんですね。

それで今回の映画を作るときに、「最初から日本語の脚本を作りたい」って話をしたんです。英語の脚本を見せられても、細かいニュアンスがわからないですから。

僕は社内では、“NHK朝ドラ評論家”っていう肩書で(笑)。
毎日朝ドラをチェックして、いろいろ批評するわけですよ。素晴らしいってべた褒めしたり、なっていないって話をしたり。だんだんとうるさくなってきて、嫁さんなんかには「私に言わんといて、どっかでしゃべって」って言われたり(笑)。

そういうことをもう10年、20年と繰り返しているうちに、ドラマを作るということに興味を持ったんです。

自分が面白いなと思う朝ドラは、セリフ回しが生き生きしているんです。アドリブを重視している監督のほうが面白いなとか。
撮影監督か監督が現場に入って、「はいOK!」って誰かが言うわけじゃないですか、よくこのセリフでOKって出したなって思うこともたくさんあって。
ドラマを作るうえでは、そういう生き生きした会話が大事なんだなと。

宮本:
今回の日本語版は、クリスさんに対して恥ずかしくない日本語版を作ろうとして、収録までいろいろと立ち会いました。
だからここ十数年のなかでは、ドラマを意識した日々を送ってきましたね。

Q 映像や音にゲーム的な気持ち良さがありましたが、宮本さんや任天堂から意図的に仕掛けたものがあるのでしょうか?

宮本:
これは、やっぱり監督が素晴らしいんです。それから音楽監督のブライアンさんも素晴らしい。
本当に彼らの力で、ブレイクスルー的なシーンが作れたなと思うんですけども。

クリスさんを含めて最初に相談したのは、マリオの映画って何を期待されて見に来るのか? という点です。やっぱりアクションシーンを見たいよね、と。自分が経験したあのアクションを本当のように見せてくれるシーンがほしい、という点を第一にしました。

香港のアクション映画と同じで、観ていて爽快で、嘘のような動きを本当のようにするっていう。それが命なんです。
けれど、脚本じゃ全部は書けないんですよね。脚本を読んでも動きがよくわからないけど、あいだあいだに入ってくるアクションシーンが一番大事になるので、そのシーンをどうやって作ろうかっていろいろ模索したんです。

最初は、肩に力が入っていて。映画なんだから、リアルなセットを用意して、そのなかでゲームのようなアクションをどんどん積み上げていくって言うんですけど、どうも画が見えないんですよ。
なので、とりあえず工事現場にマリオが乱入して横スクロールのようにアクションをするのを作ってもらって。それを見てみんな「ああ!(こういうのもアリなんだ)」って。

むかし横井さん(※)も言ってたんですけど、横で見ている人が「俺に代われ」って言いたくなるようなところが、任天堂のゲームの大事なところだなって思うんです。
そのためには横で見ている人もよくわかるっていうことがすごく大事なので、横で見ていてもわかるように作る、という点をものすごく意識してゲームを作ってきたんですよね。

※横井軍平さん:「ウルトラハンド」や「ゲーム&ウオッチ」「ゲームボーイ」などの生みの親として知られる、任天堂のヒットメーカー

宮本:
3Dになってからも、できるだけそれに努めてきたんです。
景色をリアルに作り込んで複雑なカメラワークをすると、見ているほうがわからなくなるじゃないですか。
それは映画も同じで。見ていてよくわかる、っていうことをやろうとすると、自然とゲームの表現と近くなる。
だから、実際にそういうシーンを見てみて、「ゲームに近くてもいいんだ」ってみんなも割り切ったんですね。

いくつかド派手なシーンはあるんですけど、湖の上に浮かんでくる『マリオメーカー』のコースも、ゲームをしている人が見るとわかりやすく見えているし。
最後のほうのアクションシーンも、「なぜあんなコースがあんなところにあるのか」「こういう感じで見せると、本当にありそうに見えるかな」ということをけっこう考えて、わりとゲームのシーンに近い仕上げ方で作っていきました。

映画になっても本当にあるように見えるという手応えがわかってきて、楽しく作ることができましたね。

キノコ王国やピーチ城の周辺もそうですよね。どんな街並みになっていたらいいのかとか、階段はいくつくらいあるのかとか、いろいろ議論して。最初はバスが走っていたりしたんですけど、いやーキノコ王国で車には乗らんよな〜みたいな(笑)。

そんなふうにいろいろ作ってきた結果が、本当にありそうというイメージで見てもらえたので、良かったなと思います。

Q 1時間半の間ずっと、アトラクションやテーマパーク的な楽しさがありました。徹底的に楽しさを詰め込んでいるあの感じは、どのような意識で取り組んでいるのでしょうか

宮本:
大人と子供がね、一緒に映画館にいるじゃないですか。
なんとなく僕のイメージでは、お母さんにとっては「別にいいや」って内容だけど、子供に付き添って大人が一緒に行くものなのかなと。

いっぽうで大人が子供といっしょに楽しもうとして連れて行っても、子供のほうが退屈して走り回ってたり。

やっぱり家族で行ってもらったら、子供が連れてってくれって言った場合でも、大人が連れて行こうとした場合でも、どちらの場合でも大人も子供も「けっこう楽しかったよ」って言ってもらえるように作りたかったんです。
1時間半気持ち良く過ごして、わぁって明るくなったみたいな。

マリオってどんなキャラクターなのか、あらためて考えたときに、「根っから明るい」というのが大事なところです。

今は、影の部分を求められるじゃないですか。でもそういう影の部分って、あえて表に出さなくてもみんな持っているわけなので。
だから、こっちが影の部分を描かなくても、根っから明るいように作ったら納得してもらえるんじゃないかと。

「スーパー・ニンテンドー・ワールド」を作るときも、ARなんかの技術を使ってインタラクティブに楽しませるっていうのが僕らの仕事なんで、一所懸命やるんですけど。
それよりまず、行ったら子供が床をゴロゴロ転がったと。しょうがないので親も付き合って転がったらなんか楽しかった、みたいな。
そういう感じのする場所にしたいっていうのがありました。

映画もそうですよね。行ってみたらその場所自体が楽しいみたいな、そういう感じにしてくれて。
結果的に出来上がった1時間半が、100回くらい観ている僕ですら退屈じゃなかったっていう(笑)。そういうものになりました。

── 気に入っているキャラクターやシーンはありますか?

宮本:
ありきたりですけど、「全部」です(笑)。

この間ね、「この映画の見どころを教えてください」って言われて、それも「全部です」って答えて。けれど全部って言うと答えにならないんで、「エンディングです」って言ったんです。

嘘じゃなくて、なんでこんなに最後のスタッフクレジットロールが楽しいかっていうと、音楽が素晴らしいんですよ。
マリオのゲームを知っている人たちは、あのエンディングクレジットの音楽が流れるだけで嬉しいと思います。そのうえアニメーションまで付いているっていう。

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