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ソニック30周年&『ソニックカラーズ アルティメット』オリジナルサウンドトラック発売記念 大谷智哉さんインタビュー

ソニック生誕30周年記念として、これまで数多くの「ソニック」の音楽を生み出してきた大谷さんに、ソニックとの出会いからファンとのお話、そして新作の曲のお話までうかがいました! 今回はニンテンドードリーム11月号(11月20日発売)本誌に載せきれなかった部分のお話を加えたインタビューをお送りします。大谷さんの楽曲作りのお話や2月恒例のあのイベントについても…!?


サウンドディレクター
大谷智哉 Tomoya Ohtani
セガ所属のサウンドクリエイター。「ソニック」シリーズほか、3DS『リズム怪盗R 』などの楽曲を担当した。また任天堂の『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』では、『スプラトゥーン』の「トキメキ☆ボムラッシュ」の編曲を担当した。
Twitter:Tomoya Ohtani / 大谷 智哉


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日本人が『ソニック』の曲を作っていることを個性にしたい

—— 大谷さんのゲームや「ソニック」との出会いはいつごろなんでしょうか?

大谷 僕、もろファミコン世代なんですよ。小学校6年生の時に初代『ドラゴンクエスト』が出て、当時は鳥山明さんがキャラクターをデザインしたゲームが出る!と衝撃を受けました。なので僕自身は、セガハードには馴染みがなかったんです。だけどある日、弟が誕生日プレゼントでゲームギア※1と『ソニック』を買ってもらっていまして、それを遊ばせてもらったのが最初です。色が濃いというか、色鮮やかだなという印象がありました。

—— そういった『ソニック』との出会いがありつつ、縁あってセガに入社後「ソニック」チームに参加されることになって…大谷さんが最初に関わられたのは『ソニックアドベンチャー2』※2ですよね。

大谷 そうですね。サウンドディレクターの瀬上さん※3 の下でBGMを担当しました。最初に作った曲は…ナックルズの「Pumpkin Hill」ステージの曲か、チャオレースの曲のどっちかですね。

—— 「ソニック」シリーズの楽曲はバラエティーに富んでいる印象がありますが、「ソニック」の曲作りにおいて一貫して大切にしていることはなんですか?

大谷 自分が思っていた以上に“ソニックの音楽”って懐が大きくて、どんなジャンルの曲であってもソニックが自分のものにしてしまうんですよ(笑)。基本的なことですが「今回よかったから次も同じスタイルで」ではなく、作品ごとに今回はどういう曲が良いかを毎回ちゃんと検討して作る、というのがこだわりであり信念ですかね。後は、「カッコよければOK!」って感じかな。

—— 「ソニック」シリーズは海外のファンが多いですが、日本と海外のニーズや音楽性の違いは意識されていますか

大谷 海外のニーズに合わせて作ろうとはあまり思っていないです。そもそも、僕が育ってきた音楽遍歴が、邦楽・洋楽ごちゃまぜなんです。小学生で日本の歌謡曲を聴いて、中学高校あたりは90年代のバンドブーム期の影響を経て洋楽も聴くようになり、大学生のころにはクラブミュージックに関心を持つようになり…それらを全部通ってきていて、時代時代の音楽に浸かることを楽しんできたことが自分の引き出しのベースにあります。これは理想ですが…日本人の作家が曲を作っていることが、1つの個性になればいいなと。北米が最大の市場だから、北米の作曲家が曲を作って北米で売れる、というのは普通じゃないですか。だけど日本人の作家がいろんなものに影響を受けてできた曲が、ワールドワイドに高く評価される方がカッコいいよなって思うんです。

—— たしかに日本のゲーム音楽は海外でも評価が高いですよね。

大谷 『ソニックフォース』※4 のオープニングテーマである「Fist Bump」を動画で公開したとき、海外のファンから「日本のアニメのオープニングみたいだ」という感想をもらったんです。つまり、海外の人も日本のアニメやゲームカルチャーについて詳しいってことなんですよね。僕が作る音楽の中に、英語の歌詞で洋楽っぽいけど邦楽のそういう要素も含まれてるねっていうのを、海の向こうの人も感じとってくれる。だから、日本らしさもありつつ海外の人もこれイイ!と思ってくれる形になればいいな、というのが僕の理想です。

※1 当時、国産で初めてカラー液晶ディスプレイを搭載した、セガ初の携帯用ゲーム機。数多くの移植タイトルやオリジナルタイトルが楽しめた。
※2 2001年発売のドリームキャスト用タイトルで、人気キャラクター「シャドウ」の初登場作品。チャオレースはゲーム内で遊べるミニゲーム
※3 瀬上純さん。『ソニック アドベンチャー』シリーズなどに携わったほか、ロックバンド「Crush 40」のギタリストとしても活躍
※4 Nintendo Switchほかで2017年に発売されたタイトル


“ゲームの音楽”だからこそ…ファンに伝えたい想い

—— 大谷さんが最初にファンと交流を持ったのはいつごろですか?

大谷 ちょうど『ソニック カラーズ』(以下『カラーズ』)が出た2010年3月に、Twitterを始めたのが最初です。ただ、僕がしっかりファンを“認識”したのは、同年の東京ゲームショウからですね。その年、ステージでライブを行ったんですが、ライブが終わって楽屋に戻ろうとしたらファンの子たちが待っていて「サインください」って声をかけられて。その時は結構びっくりしました。

—— 人生で初めて、いわゆる“出待ち“にあったわけですね。

大谷 そうです(笑)。SNSで感想をもらえるのも嬉しいけど、どんな人に届いているのかまでは見えないじゃないですか。こういう子たちが『ソニック』や僕の曲を楽しんでくれているんだっていう、ひととなりが見れて直接お話しできたことで、実感がわいたというか、手ごたえを感じることができました。

—— 日本のファンと海外のファンで違いを感じることはありますか?

大谷 これもSNS上の話ですが…最近は海外の方からのリプライが9割ですね。海外の方は自分の意見をはっきり伝えてくるというか。たとえば今『ソニックカラーズ アルティメット』(以下『アルティメット』)の曲をYouTubeで順次公開しているのでその感想が来るんですけど、「すごくいいです」って感想もあれば「オリジナルのほうが好きでした」ってわざわざ言ってくる人もいます。基本的には何を言われても頭の片隅に留める程度ですが、こちらが意図したことが「どうして伝わらなかったのかな」と、検証するために感想を読んだりしています。意見を参考に作る、とまではいいませんが頭の片隅には入るので、感想自体はありがたいですね。

—— 日本のファンからすると遠慮もあるのかもしれませんね。でも本人的には、意見をもらえることは嬉しい、と。

大谷 はい、反応があることは嬉しいですね。とはいえ、こちらが意見を返すことには慎重にならないといけないので、そこは難しいところですが(苦笑)。でも、僕の曲は作品ありきなんだよってことは、今後も丁寧に伝えていきたいです。僕はいろんな音楽性を持っていていろんな趣向の曲をつくるので、「この曲は好きだけどこれは好きじゃない」っていう意見がくることもあるんですが、このゲームはこういうコンセプトだったからこの音楽になっている、ということを飛び越えて、いち音楽アーティストとして見られている印象がありますね。

—— 「〇〇というゲームのBGM」ではなく「大谷さんが作った曲」として音楽単体で扱われているんですね。

大谷 そうですね。でもそれは逆に言えば、ゲーム音楽単体での影響力が強くなっている、ということで。最近ますますそういう傾向にある気はします。


あの時の曲を今もう一度作る、という新たな挑戦

—— 『アルティメット』で、ほとんどの曲をリミックスされた経緯は?

大谷 まず『カラーズ』のリメイク企画が動いているらしいと小耳に挟んだときに、リメイクであれ移植であれ、テーマ曲だけはアレンジし直させてほしい、と速攻でプロデューサーの飯塚(隆さん)に提案しまして(笑)。

—— なぜそういった提案を?

大谷 新作のための新曲はそれとして、「前に作ったものをもう一回作り直す」というのもどこかでやりたいとは思っていたんです。10年も経てば音楽制作環境もかなり違いますし、その間に「ソニック」シリーズでトライしてきたことの蓄積もあります。自分のセンス的にもアップデートされている…と思いたいですし(笑)。同じ曲をもう一度作ったとしたら今の自分ならこうする、というのをやるためにまずテーマ曲だけはアレンジさせてほしいという話をしまして、それならステージやボスの曲も、という流れになりました。あと、『カラーズ』の時は1エリアにつき3バージョンの曲を用意して、それを2回ずつ使う形でしたが、今回はオリジナルとリミックスバージョンを3曲ずつアサインしたハイブリッドの形にしています。さらに、今後配信予定のアップデートでは、BGM再生モードの切り替えが実装されますので、オリジナルバージョンの曲のみのモード、リミックスのみのモード、両方がミックスされたモードに切り替えて遊ぶことが可能になります。

—— オリジナルも残した意図は?

大谷 当時『カラーズ』を遊んだ人が『アルティメット』を遊ぶとして、オリジナルの印象って、やっぱり大きいと思うんですよね。作り手としてはリミックスを聞いてもらいたい一方で、当時のプレイ体験に対して思い入れが深い人もいるはずなので、オリジナルもないがしろにはできない。「当時体験したあの感じが好き」っていう気持ちがあったときに、それが変わってたら複雑に思う人もいるかも、と。

—— 新旧イイトコ取りをしたんですね。

大谷 そうですね、曲が増えた拡張版と受けとっていただけたら!

—— 9月29日発売予定のサントラ「Re-Colors」で注目してほしい部分は?

大谷 全編ノリの良いリミックスが詰まった楽しいアルバムだと思います。オリジナル版のデザインを踏襲したアートワークも気に入っているので2つ並べて飾ってほしいですね。あと実は、ゲーム本編では未実装の曲もサントラに入っています。『アルティメット』ではメタルソニックと競争する「ライバルラッシュ」という新モードが実装されていて新曲が使われていますが、いくつかの候補の中で使われなかった曲もありました。ただ開発のほうから、ゲームの中にBGMを試聴できるモードがあるのでそこには残したいという要望があり、その流れでサントラにも収録することになったんです。レコーディングを実施しようとしていたタイミングに緊急事態宣言が出てスケジュールを変更したり、収録時のガイドラインなどができていく中で不安もありつつ手探りで進めていきましたが、結果、何ひとつ妥協することなく仕上げることができて本当によかったと思っています。


『ソニック』シリーズやゲームにおける楽曲制作について

—— 大谷さんが「ソニック」シリーズの楽曲を制作してきた中で、印象に残っているタイトルや楽曲はありますか?

大谷 なにしろ数が多いので難しい質問ですが…強いていうならば、いわゆる「生みの苦しみ」を味わったのは、初めてサウンドディレクターを担当した2006年の『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』※1でした。当時はPlayStation3が出て次世代機への切り替えのタイミングでもあったし、作品のスケール的にもより大きいものを描いていく、という課題も出されていたので、それに見合う曲が作れるのだろうか、と本当に苦しみました。でもそういう苦しみがあるかどうかも、曲やタイトルによってまちまちで…その次に作った『ソニック ワールドアドベンチャー』※2のテーマ曲「Endless Possibility」は逆にすんなりとできたことも記憶に残っています。休日に家でギターを弾いてたらいつのまにかほぼ曲が完成…って時もあるし、ずっと「ゔ〜〜〜ん…」って唸ってる、って時もあるんですよね。

一同 (笑)

大谷 すんなりとできた時は、何を作るべきなのかという役割と目的が明確に分かっていたような気がします。でも最初は、曲の役割を見つける作業すらも手探り状態だったんですよね。だからなかなかできなかったのかも。

—— 作曲する際は当時の音楽的なトレンドを意識されたりもするんですか?

大谷 そういうこともありますね。2010年の『ソニック カラーズ』(以下『カラーズ』)でいえば、その当時のテイストが少し入っていたりもしますし。だけど完全にその時の流行に乗っかるということはしないです。作品のイメージの範囲の中で、相性の良さそうなエッセンスがあれば取り入れるという程度にしています。

—— 2013年の『ソニック ロストワールド』※3のインタビューの際には「ゲームハードによる制約がなくなったことで、ゲーム音楽家はアプローチやアイデアの質を問われている」とおっしゃっていましたが、そこから約9年経った今はどう感じていますか?

大谷 方向的には変わらないですよね。作曲家や音楽担当がやりたいと思ったことは、ほぼなんの制約もなく実装できるわけで。たとえば海外で収録したオーケストラの曲だってほぼそのまま入れ込めるし。そこからさらにプラスとして加えるならば、ゲームならではの状況に合わせて変化するBGMなど、インタラクティブな要素や作り込みが細かくなってきているなと感じています。これは音楽ではなくて効果音の話ですが、たとえば任天堂さんの『どうぶつの森』でいえば、雨の音ひとつとっても、どんなものに当たっているかによって反射音が違う、ですとか。トタンに当たっていたらパラパラと軽い音だし、対象のた材質による変化が仕込まれていたりする。そういうものがいろいろ蓄積されてゲームの中の世界が作られているんですよね。ユーザーが気づかないレベルの細かいアイデアでさえも実現できるような、凄まじい時代に進化してきているなと思います。

—— ゲーム音楽は、昔は文字通り「ゲームについている音楽」という認識が強かったですが、今はゲームの中から音楽だけを切り取って、ゲーム外でも活躍している印象があります。

大谷 そうですね。制約がなくなったことで音楽単体で切り取っても、他のエンタメの音楽と相違ないほど質も上がっていますから。ね
—— ここ数年における変化について、ゲームに限らず音楽業界全体で考えるといかがですか?

大谷 そうですね…音楽も「数字」になってきているな、という印象はあります。「動画やサブスクでの再生数の回数の多い曲=すごい曲」という、誰にでも見える数字が評価のものさしになっているなと。もちろん、心を掴むような何かがあったからこそそれだけ再生されているんでしょうけど、一極集中が加速してますます数字の強さが大きくなっている感覚があります。

※1 2006年の『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』:PlayStation 3およびXbox 360にて発売された、シリーズ生誕15周年タイトル。本作が初登場となるシルバー・ザ・ヘッジホッグを含めた、3人のキャラクターの物語が交錯するストーリーが展開。
※2 『ソニック ワールドアドベンチャー』:2008年にWiiで発売されたタイトル。昼のステージのソニックと夜のステージのウェアホッグ、2つの姿を駆使してステージを進んでいく。
※3 『ソニック ロストワールド』:2013年発売。Wii Uと3DSで同時発売され、それぞれで異なるステージ構成やミニゲーム要素などが楽しめた。


『ソニックカラーズ アルティメット』の楽曲とサントラについて

ーー『ソニックカラーズ アルティメット』(以下、『アルティメット』)は、すべてのステージやボスバトルBGMのリミックスが収録されています。各ステージの曲は、それぞれオリジナル版を制作された方がリミックスも担当されていますよね。

大谷 僕と同じように、その当時一緒に作ったウチのサウンドのメンバーも10年の間にさまざまなタイトルでいろんな経験をしていて、制作環境も変わっていますから、本人がリミックスを施すのが面白いかなと思ったんです。でも全部がそれだと面白くないので、のボスバトルBGMのリミックスに関しては、オリジナル版には参加していなかった瀬上さん※4にお願いしました。それによってそこだけ“違うカラーが加わる”感じになるのですが、それがまた良いアクセントになっていると思っています。

—— 確かに、ボスバトルになるとテンションが上がるというか、気持ちも引き締まるような感覚がありました。そして、9月29日発売の『アルティメット』のオリジナルサウンドトラック「リ・カラーズ」ですが、パッケージイラストはゲームロゴのカラフルな印象とは異なり、どちらかというとブルーの単色系でスタイリッシュなデザインですよね。

大谷 そうですね。アレンジやリミックスって聞くと元のものをいろいろいじくって派手にする、というイメージがあるかと思うんですが、今回僕は「もう一回同じ曲をやり直す」というイメージで考えていました。テーマ曲の「Reach For The Stars」は“もう一度色塗り直す”という意味で作品名にも引っ掛けて「リ・カラーズ」というリミックス名にし、それをそのままアルバム名にもしました。今の色でもう一回刷新したんだよ、という意味も込めて、CDのジャケットもソニックのイラストなどの配置構成はオリジナル版のものを踏襲しつつ、『アルティメット』の基調色である紫や青をベースにデザインしてもらっています。オリジナルのほうはカラーパワーを纏う、と言うコンセプトに沿ってレーザーやドリルの色をソニックがまとっている…というデザインでしたが、それとはまた違い、10年経って洗礼された感じを表現できていたらいいなと思います。

—— 6月24日にYoutubeでライブ配信された「Sonic 30th Anniversary Symphony」でも、本作のオープニングテーマを演奏されていましたね。。

↑「Sonic 30th Anniversary Symphony」での大谷さん

大谷 はい。あのコンサートもコロナ禍でなければリアルで開催したかったものですが、アーカイブとして何度も繰り返し見て楽しめるクオリティーに仕上がっているので、結果としてはよかったんじゃないかとも思います。ただ、『アルティメット』用にアレンジしたテーマ曲を、フルコーラスでお披露目することになったのは想定外だったんですよね。
—— 配信当時はまだゲームは発売前ですからね。

大谷 テーマ曲がトレーラー(宣伝用の予告映像)でどの部分が使われて、どのように発売前に世に出ていくか、っていうところまでいつも気にしているんですが、今回はいきなりライブでフルコーラスをる演奏する流れになったから…不都合があるわけではないのですが、前例がないことなのでちょっとびっくりしましたね(笑)。でもSNSでの反響はすごかったです。あとあの映像って、僕のパートに関してはほぼおまかせだったんですよ。SOA(Sega of America, Inc.)から「何曲か演奏して欲しい」「撮影した映像を納品してください」というふうに、要点だけの依頼をもらいまして(笑)。でも、僕としてはでトータルプロデュースをしたいタイプなので任せてもらえるのはとてもありがたくて、カメラの画角だとかカット割りだとかも全部こっちで作り込んだ映像になっています。

—— じゃあ、大谷さんのバンドシーンは「演出:大谷智哉」なんですね。

大谷 もちろん撮影/編集チームと相談しつつではありますが、自分の声が届きやすいというか、「こういう風に撮りたい」というところまで意見させてもらえたので、そういう点はオンライン公開となって良かったと感じています。

—— バンドメンバーの方々は、皆さんで揃うのは久しぶりでしたか?

大谷 そうですね。キーボードの長﨑祥子さん以外、ギターの西川進さんとドラムのMASUOさんはオリジナルの『カラーズ』の時に初めて集まったメンバーで、以降のソニックタイトルにも参加してくれている人たちです。『アルティメット』のレコーディングでは各メンバーと顔を合わせましたが、レコーディングはパートごとにバラバラにやるスタイルなので、全員が集合したのはあの時が久
しぶりですね。撮影すら危ういかなという状況もあったので、感染予防を気をつけつつではありましたが揃って演奏できて本当に良かったなと思います。

『ソニックカラーズ アルティメット』オリジナルサウンドトラック 「リ・カラーズ」
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オープニングテーマ「Reach For The Stars」に新たなアレンジを施し、新録レコーディングによりリニューアル。全てのアクションステージや、ボスバトルBGMもアレンジ、リミックス、リワーク、追加レコーディングなど、よりカラフルに鮮やかなサウンドへとアップデート


アーティスト大谷さんに聞くショートクエスチョン

「ソニック」シリーズだけに留まらずさまざまな音楽活動(+α)を積極的に行っている大谷さんに、アーティスト活動について質問してみました!


大谷さん流! 楽曲の作り方についてのお話
—— 大谷さんはどういうシチュエーションで曲を思いつくことが多いですか?

大谷 人によっては、突然降りてくる…とか聞きますが、僕の場合は、作ろうとしている曲の役割を明確にしてあげることで、初めてフレーズを呼び寄せられる状態になります。ゲームの中にはいろいろな曲が入りますが、それぞれに役割があるんですよね。テーマ曲は主役だから華がないといけないとか、個別のステージの曲であればどういうシーンで流れるか、とか。そういうキーワードを挙げていくことで、だんだんフレーズが浮き上がってきます。

—— 部屋を掃除すると物が見つかりやすくなるように、情報を整理することでフレーズが見つかりやすくなるんですね。

大谷 そうですね。それに考え方だけでなくリアルの面でも、質のいい音楽を作り続けるには、自分の気持ちや体調のコンディションを整えておくことも重要だとは思います。

—— なるほど。制作する時間とそれ以外をきっちり分けるタイプなんですね。

大谷 はい、分けますね。20代のころのように徹夜したり、いつまでもがむしゃらに集中できるような持続力はなくなってきました(笑) 。ゼロから新しい曲を作り始めるのは、いつも午前中です。午後は打ち合わせも多かったり、合間で雑務作業とかをこなしていることが多いです。ダークでハードな曲であっても、鳥がチュンチュン鳴いているような朝イチにそういうモードに入って作っています(笑)。


ほかの分野のプロに学ぶ。大谷さん流インプットの話

—— 創作活動について、大谷さんはどのようなところで影響を受けたり、インプットを行ったりするのでしょうか?

大谷 もちろん、かっこいい音楽を聴いて…というのはありますが…。音楽以外の分野のクリエイターの方の考え方や作品に対する姿勢についての話を聞くことが、自分が音楽を作るときの考え方の参考になっています。つい最近では、「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明監督のドキュメンタリー番組を見まして、その中で映像を作るときに「いいアングルを探せ」という指示をされていました。。いいアングルさえ見つかれば、アニメーションしなくても成立する、というお話をされていて、その考え方を音楽の演出に当てはめてみても面白いなとか思いながら観ていました。作品のテーマに対して、オーソドックスではない新鮮なアプローチがないか、いつも考えているので、いろんな分野の方の考え方の話はとても刺激になりますね。


大谷さんと推しのアーティストの話

—— 大谷さんご自身が、今注目しているアーティストを教えてください。

大谷 「ソニック」シリーズの音楽を担当している影響もあり、グローバルに通用するもの、ついてはやはり意識しているのですが、「BLACK PINK」という韓国の4人組女性アイドルグループです。アジア発で、世界基準で成功しているのがすごいなと思います。ダンスや歌の表現の仕方など、PVを見ていても「韓国のグループだな」という感じがなく、世界基準のかなり高いレベルでかっこいいドアーティストとして仕上がっていますよね。休日にNETFLIXで「BLACK PINK」のドキュメンタリーを見まして、カッコいいな…と思ったんですよね。圧倒的な存在感があり、ワールドワイドで成功するべく徹底的に努力しているということが感じられて感服しました。


大谷さんとファンミーティングと個人制作のグッズの話

—— 東京ゲームショウで行っていたファンミーティング「#オオタニッターを探せ」を始めたきっかけは?

大谷 2012年、僕が「会場に向かってま〜す」みたいなツイートをしたら、なぜか瀬上さん(Crush40のアカウント)が「大谷が会場に向かっています。オオタニッターを探せ!」というツイートを投稿したんです。僕も「え、どういうこと?(笑)」とは思ったんですが、それを見て実際に集まってくれた人が何人かいました。そうしたら翌年に「また今年もオオタニッターを探せの開催はありますでしょうか?」って訊いてくる子がいたんです。「開催とかじゃないんだけどなぁ(笑)」と思いながらも、自分も会場には行くし、話をしたいと思ってくれる人がいるなら、と「何時くらいにセガブースの裏にいるよ」ってツイートしたりして。それがいつの間にかタグ化されたりして、2019年まで8年続いていました。まさかこんなに続くとは驚きですよね(笑)。そのまま続けられていたら今年10周年になるはずだったので、途絶えちゃったのはちょっと寂しいですね。

—— ファンの方からも残念がっている声がありましたね。

大谷 そうですね。東京ジョイポリスで開催していたサイン会とかでもお話する機会はあるんですが、あれは限られた時間で一瞬だけ喋る感じで。TGSでの「オオタニッターを探せ」は、会場を観て回る隙間時間とかにタイミングが合う人が集まってきて、「どこ見てきたの~?」とか、友達かよ!!って感じのかなりフランクな立ち話をする場になってます(笑)。大人数が殺到するようなものでなかったのも、長く続いていた要因かもしれません。いろいろな人とのふとした会話からアイデアが生まれてくることあるので、コロナ禍で雑談の場が少なくなってしまって、そういう芽がなくなっちゃっているのは悲しいですね。

—— 「おおたにったーくん」と題したオリジナルグッズの個人販売もされてますよね?

大谷 自分のキャラクターグッズを作ってみたいなという気持ちがありまして。もちろん、ニーズがあるとは思ってないんですけど!(笑)、グッズってどうやって作るのか、プロセスに興味があったんです。ちょうどタイミングよく、、「描きましょうか?」と言ってくれるイラストレーターさんがいまして。その絵を使って自分で制作して、オンラインで出品し、注文がきたら手作業で台紙などを封入して発送して…という感じで個人で販売していました。気になったことはとりあえずやってみよう精神ですね。最初はネット販売だけだったのですが、ずっとソニックのイベントでお付き合いがあるジョイポリスさんに「グッズをJP STOREで取扱いできますか?」と訊いてみたら快諾してくださって、2019年に一回置かせてもらったこともありました。実は今年も9月から3ヶ月間だけもおおたにったーくんグッズを委託販売させていただいておりましたた。購入してくれたみなさんありがとうございます!(※2021年12月17日で取り扱いは終了)


大谷さんとDJ活動のお話

—— 大谷さんといえばDJの活動も積極的に行っていらっしゃいますよね。

大谷 はい、昨年には「ソニック」の曲だけのノンストップDJミックスアルバムをリリースしましたし、今年3月にはセガ設立60周年記念として、セガ関連の60曲をDJミックスしたCDも発売しました。曲順によって既知曲も違う聴こえ方に感じたり、ちょっとマイナーな曲でもこういう流れで聞いたらすごくかっこよく聞こえない?というような提案を盛り込んでいます。

—— 『スマブラSPECIAL』でも編曲を担当されていましたが、リミックスとDJ ミックスとでは感覚も違うのですか?大谷 そうですね、わかりやすく言うとリミックスは曲のパートをバラバラの状態にして、もう一度再構築するという手法です。対してDJ ミックスは、音源自体は基本そのままで、複数の曲をどういう順番で聞かせて流れを作ってい
くか、曲と曲の繋がりで演出していきます。新しい音楽を作るだけでなく、過去の音源を再構築し、違う聞かせ方で楽しませるよ! という活動もしているんです。

—— 作曲やリミックスによるアレンジとはまた違う魅力があるんですね。

大谷 DJ ミックスのノウハウやテクニックが音楽制作のほうに還元されることもあるし、なにより選曲のためにたくさんの曲を聴くことになるので、曲の良さを発見する目(耳)も養われていると思います。


大谷さんとYouTubeチャンネルのお話

—— 今年立ち上げられたご自身YouTubeチャンネルを始めたきっかけは?

大谷 新型コロナの影響で昨年4月あたりからほぼ在宅作業となったことで、通勤の往復に要していた1日あたり3時間弱が自由に使える時間になったんです。そうやって時間ができた時に「仕事以外でももっと音楽を作りたい」という欲求が芽生えてきたんです。仕事で作りたい曲を作れているから音楽制作の欲求は満たされていると思っていたので、自分でも驚きでした。仕事では作る機会のない曲を作ろうと思い、「ローファイ・ヒップホップ」というジャンルに取り組むことにしました。その雰囲気が好きなのと、自分の中にもそういうリラックスBGM的な引き出しもあったので、Chillmo(「くつろぎの」などの意味を持つ「Chill(チル)」+エモいの「エモ」)という造語を作ってコンセプトにし、アニメーションはデザイナーさんにお願いして動画を作成しました。作業用BGMにはもってこいだと思いますので、ぜひ一度聴いてみてほしいです。

↑BGMとして聴くと心落ち着くような「Chill×Emo」がコンセプト。ぜひ聴いてほしい!
YouTubeチャンネル「Tomoya Ohtani」


大谷さんが未来のサウンドクリエイターに伝えたいこと

—— これから音楽制作やゲームサウンド制作をやってみたいと思っている人たちに向けて、伝えたいことやアドバイスを教えてください。

大谷 基本的には“好きにやってほしい”ですね。たとえばゲームには草原のステージや火山のステージなどのよくある題材と、それに対する楽曲アプローチの通テンプレートみたいなものもあると思いますが、正解は一通りではないので、自分なりの解釈を交えていろんなアプローチにトライしてほしいです。それによってその人の個性や他にはないものが出てくると思いますから。さまざまな音楽ジャンルが持つ様式美も柔軟に解釈して自分になりに崩していき、自由にやってほしいですし、自分もそうしていきたいと思っています。

—— 『ソニックフォース』の時にお話をお伺いした際も、「型を作っていきつつもそれを崩すシーンがあるのが大事」とおっしゃっていましたね。

大谷 そうですね。それもなかなか不思議なもので…。作品に合わせて明確なコンセプトを打ち出すことは大事なんですが、とはいえそれだけでは型にはまりすぎてしまう部分が出てくるんですよね。なので、どこかでそれを壊さないと新鮮さが失われてしまう。次から次へと驚きがあるものにすべきだと考えると、打ち立ててきたコンセプトもどこかでは崩すところがないと、予定調和になって予想がつくものになってしまうので、そこは自分も注意しているポイントです。すべての音楽には役割があり、その役割分担の中で異端の子もどこかに散りばめておくのがいいアクセントになるんですよね、そういうことをいろいろ考えるときに、先ほどの映画の話のように他の分野の方の考え方が参考になったりするんですよね。

2017年発売『ソニックフォース』のときにも、大谷さんのお話を伺いました!チェックしてみてね


2/2「ツインテールの日」についても…気になる?

—— 大谷さんのトレードマークといえばロングヘアですが、「ツインテールの日」の大谷さんは必見ですよね。

大谷 ある朝、会社に行く時にTwitterを見ていたら、セガ公式アカウントが「今日はツインテールの日です」って、セガのいろんなツインテールキャラの画像をアップしていたんです。その時はすでに髪が長かったので、「そういえば自分もツインテールにできるじゃん?」って気がついて、出社後なんとなしにさっと結んで画像を投稿してみたのが最初です。で、そこからは毎年、引くに引けなくなっている感じです、誰に頼まれているわけでもありませんが(笑)。 

↑渾身のツインテール自撮り群!! 実は毎年、一番可愛く撮れるまで何枚も撮影し直し、アプリで加工して…と女子高生さながらの涙ぐましい努力を重ねて作り上げているんだとか…


『ソニックカラーズカラーズ アルティメット』 公式サイト

©SEGA


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