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開発者と巡る『スーパーマリオ オデッセイ』インタビュー (Vol.1)(2018年1月号より)

スーパーマリオ オデッセイ』誕生経緯や音楽、HD振動の実装といった開発の全体像に迫っていきます。

スーパーマリオ オデッセイ』インタビュー Vol.1

Nintendo Switchスーパーマリオ オデッセイ』について、月刊誌ニンテンドードリームに掲載された開発者インタビューを複数回に分けてお届けします。Vol.1は誕生経緯や音楽、HD振動の実装といった開発の全体像に迫っていきます。

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。
・ネタバレも含んでいる場合があります。

Vol.2はこちら
Vol.3はこちら

プロフィール(上の写真左から)

青柳 範宏さん
プログラムディレクター。『スーパーマリオギャラクシー』から『スーパーマリオ3Dワールド』までプログラムやレベルデザインを担当。本作ではプログラムの取りまとめのほか、バウンドボウルの仕様を決めるプランナーの役割も。
好きな衣装:水着
「ちょっとふざけているところがいいですよね」

 

吉田 陸斗さん
アートディレクター。デザイン全体のとりまとめ役。『スーパーマリオギャラクシー』から『スーパーマリオ3Dワールド』までキャラクターデザインを担当。
好きな衣装:ピエロ
「マリオの顔自体が変わるんですが、それでいてちゃんとマリオであることがわかる部分がお気に入りです」

 

元倉 健太さん
ディレクターとして現場を統括。これまで『スーパーマリオギャラクシー』シリーズや『スーパーマリオ3Dランド』でデザイン、『スーパーマリオ3Dワールド』でディレクターを担当。
好きな衣装:ウエディングマリオ
「今、その帽子もかぶってますしね!」

 

久保 直人さん
コンポーザー。コンポーザーの取りまとめ役も担当。任天堂に入って最初に関わったのは『進め! キノピオ隊長』。その後『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面3D』、『スーパーマリオメーカー』の音楽を担当。
好きな衣装:ビルダー
「『マリオメーカー』に関わった愛着がありまして」

 

郷原 繁利さん
サウンドディレクター。全体のサウンドの設計や効果音、HD振動を担当。『スーパーマリオギャラクシー』の頃から『スーパーマリオ3Dワールド』までマリオの効果音制作やプログラムを担当し、その後『スプラトゥーン』の効果音も担当。
好きな衣装:宇宙
「小さいころの夢が宇宙飛行士だったので」

 

インタビューに入る前に、3Dマリオの歴史をおさらい。

●1996年「スーパーマリオ64」(NINTENDO 64)
▲初の箱庭探索型3Dアクション。絵の中の世界を冒険する

 

●2002年「スーパーマリオサンシャイン」(ニンテンドーゲームキューブ)
▲放水アクションで南の島を綺麗にする箱庭型アクション

 

●2007年「スーパーマリオギャラクシー」(Wii)
▲舞台は宇宙へ。ゴールまでの道のりが決まっているコースクリア型アクション

 

●2013年「スーパーマリオ 3Dワールド」(Wii U)
▲3DS『3Dランド』を経て、最大4人で遊べるようになったコースクリア型アクション

 

それではインタビューをお楽しみください!

ひとりでがっつり遊べる3Dマリオを

驚いてもらえる要素を詰め込んでいく

── まずは制作経緯からお聞かせいただけますか?

元倉 2013年の『スーパーマリオ3Dワールド』(以下『3Dワールド』)の制作が終わってから、宮本(茂さん。マリオの生みの親)と小泉(歓晃さん。本作プロデューサー)から「ひとりでがっつり遊べる3Dマリオを作ってくれ」という話があったんです。

── ひとりでがっつり遊べる3Dマリオですか。

元倉 はい。さらにその後にまた小泉に呼ばれて「もっと驚かせてくれよ。心に刺さらないと」というようなことを言われまして……もうその発言が驚きですよね。

一同 (笑)

元倉 『3Dワールド』は共感をテーマに作っていたんですが、「共感できるのはわかったので、共感のさらに上に驚きをテーマに作ってほしい」というお題をもらった形になりました。そこでまずは少ない人数で「どんなものが驚くのか?」というテーマで、試作をどんどん作っていくことにしたんです。

吉田 スタッフ各々が思う驚きというものを、端的にどんどん実装してテストすることになったんです。

── 驚きをテーマにしたアイデアをとにかく出してみると。

元倉 ええ。マリオに限らない驚きを作って、遊びをストックさせていたんですね。それを繰り返し行うことで面白いものは残り、つまらないものは消えると。その中には恐竜なんかもあったり。

吉田 大陸を出現させるとかいうのもありました。

── 大陸を出現させる!?

吉田 あるポイントまで行くと大陸がせりあがってくるだけ、っていう驚きなんですけど(笑)。

青柳 僕はツックンやバウンドボウルなどのプログラムも担当したんですが、これらもこの試作段階では全然違うものだったんですよ。例えばツックンはマリオじゃない姿で、ただ突っついてビヨーンって跳ねるキャラだったんです。

吉田 それが元で、最終的に「ツックン」というキャラクターになりました。

青柳 ええ。バウンドボウルも試作ではただの四角が転がっているだけでしたしね。

元倉 ただの四角でタイムアタックをしていましたから。

── ただの四角で?

青柳 ただの四角になったらどんな気分なんだろう、という試作で。

一同 (笑)

青柳 挙動が面白かったので、跳ねるのに最適なデザインということで、ボウル人になりました。だからもうプログラマーとかデザイナーとか関係なく、スタッフ全員でそうした驚きを考えては形にしていったんです。

吉田 で、その中にさまざまなものに乗り移って操作ができるというものがあったんですね。

── つまりキャプチャーですか。

青柳 はい。それがキャプチャーという形にできれば、マリオの世界に取り入れることができるという話になりました。

元倉 いちばん面白かったのがキャプチャーだったので、本作はそれを軸に作っていこうということに決めました。

 

帽子と組み合わせて広がる、マリオのアクション

Joy-Conから生まれた帽子投げアクション

── キャプチャーは数ある驚きの中から生まれたもののひとつだったんですね。

青柳 でも、プログラム的にキャプチャーってものすごく大変なんです。プレイするキャラクターの実装って難しくて、一種類作るだけでも苦労するんですね。キャプチャーをやるのはいいんですけど、それはキャプチャーをできる数だけプレイヤー性能をたくさん作らないといけないことになりますので、僕は最初「ちょっと……」って渋りました。

一同 (笑)

青柳 ただ、普通のゲームではプレイヤーのプログラムを担当できる人間は一作につきひとりなんですが、今回はキャプチャーの種類によって複数のプログラマーで割り振って担当できましたので、プログラマーの経験としては良かったと思います(笑)。あと、人によって特徴が出るので、それがバリエーションにもつながりました。

── そのキャプチャーと新しいアクションである帽子投げはどう結びついていったんですか?

元倉 キャプチャーとは別に、試作の中でJoy-Conを使った性能を試していたんです。物を投げる動作とJoy-Conの相性が良さそうだとなったところで、何を投げるかを検討したんですね。マリオの身に着けているものだったら自然で共感を得られるし、マリオの帽子はアイコンとしては有名だけど、ゲームとしてはまだ使っていない要素だったので帽子投げになりました。あと3Dゲームは少し敷居が高いので、自分と敵との間にもうひとつ補助的なものがあると遊びやすいとも考えて、帽子をくるっとまわしたりとかもできるようにしています。そこから、マリオの帽子とキャプチャーを組み合わせたんですね。

吉田 マリオの帽子って、不思議なもので帽子を乗せるだけで何でもマリオに見える、すごいアイコンなんですよね。主役としては使っていなかったので、「これはいける!」と元倉とよく話していました。

── ワープするときなんか帽子だけになりますもんね。

元倉 アイコンだけになる。

一同 (笑)


▲帽子だけになって目的地へ飛んでいく姿はなんともユーモラス

 

吉田 なので、マリオの帽子が起点となって、キャッピーをはじめ、さまざまなものを帽子のイメージでまとめていきました。

── なるほど。オデッセイ号をはじめとした帽子的なデザインは、そのタイミングから生まれていったんですか?

元倉 はい。オデッセイ号は帽子と月というキーワードですすめました。低重力の試作も行っていましたし、本作の舞台は地球なので、衛星の月が出てくるのも必然なんですよね。

吉田 帆を張ったときに三日月から満月になるというのも含めて、元倉が最初に出してきた草案に要素はすべて用意されていました。内装についてはキャンピングカーのイメージで、狭いけど物がいろいろ置いてあるというような、旅をするのにふさわしい方向にデザインしていきました。

▲オデッセイ号の中には、各地で買ったお土産も飾られていく

 

── ちなみに地球儀を踏み続けるとオルゴールが鳴るのはなぜですか?

郷原 サウンドスタッフの遊び心なんです。地球儀はふだんはゆっくり回っているのですが、踏むと速くなって、止めるとゆっくり止まるんですね。あの感じがオルゴールを連想させるということで入れてみたら楽しかったんです。何かに対して反応があるのがマリオの世界ですし、ちょうどいいなって。

久保 最初はボーカル曲の「Jump Up, Super Star!」のオルゴールアレンジだけだったんですが、都市の国「ニュードンク・シティ」に行く前にそれが聴けるのはおかしいという話になって、滝の国「ダイナフォー」のオルゴールアレンジ曲も入れることになったんですよ。

元倉 しかも彼らは、それをすごく忙しい時期に実装しましたからね(笑)。


▲オデッセイ号に備え付けられた地球儀。踏み続けるとオルゴール調の曲が鳴り始め、止めるとゆっくりと鳴り止んでいく

 

『マリオ64』に近づけたマリオの操作感

── すべては驚きの遊びありきで制作されていったことがよくわかりました。

元倉 ですので、今回のキャプチャーに向いている遊びに、溜めていた驚きのアイデアを上手に使うことを考えたら、ステージ型ではなく、箱庭型がベストだったんです。各国の特徴も濃く出すことができますし。

── それが『スーパーマリオ サンシャイン』以来の箱庭探索型アクションの復活になったと。そういえば、マリオのアクション自体も3段跳びなどが復活していますよね。

元倉 『スーパーマリオ3Dランド』と『3Dワールド』はアスレチックのようなコースでしたので、3段跳びといったものは連続した足場を飛ぶのに合わなかったんですが、今回はもう少しおおらかな遊びだったので復活させることにしたんです。本作の地形を気持ち良く遊べるように、『スーパーマリオギャラクシー』(以下『ギャラクシー』)よりは『スーパーマリオ64』(以下『マリオ64』)当時の操作感覚の遊びに近づけたかったんですが、実は幅跳びだけは当時の感じをどう表現したらいいか、最初はわからなくて。

吉田 グググッて伸びていく独特の浮遊感の表現が難しかったんです。そこはもう実機で『マリオ64』を遊びながら、作っていきました。

元倉 最終的には、最後にグイッと加速するアニメーションを入れることで当時のような感じになったんです。だからよく見ていただくと、『ギャラクシー』の幅跳びと今回の幅跳びはアニメーションが違っているんですよ。

── 『マリオ64』といえば、今回のマリオはパワームーンを取るときに『マリオ64』以来となるピースサインをしますよね。

元倉 今回はパワームーンがたくさんあるので、それを取ったときにちょっとだけ楽しんでくれる人がいるといいなと思って入れたんです。グーとパーもあるんですよ。

── あ! あれはチョキでしたか!

元倉 そうなんです。じゃんけんなんですよね。ですので、パワームーンを取るときにマリオとじゃんけん勝負をしてもらえたらと思います。

一同 (笑)


▲マリオの手に注目。マリオが何を出すのか、じゃんけんで勝負!?

 

クッパとブルーダルズの関係は?

結婚を阻止するため世界を旅する

── 物語はこれまでどおりクッパがピーチ姫をさらうわけですが、今回は結婚という大きな軸がありますよね。

吉田 それも驚きというテーマのひとつなんです。たださらわれるだけじゃなくて、もう一歩踏み込んだ結婚というキーワードがあれば、遊ばれる方にも驚いていただけるのではないかという。元倉も同じことを考えていて、自然とそうなっていきました。こういったフラッシュアイデアは毎回話には出てくるんですが、なかなかゲームとしてまとまらないんです。でも今回は旅というテーマと新婚旅行の相性が良かったので入れられたということになります。

元倉 結婚をはじめ、いつもさまざまなアイデアがあるんですけど、最終的に遊びと関係ないものは消えていくんですね。

▲ピーチ姫と式を挙げるため、いつになく張り切っているクッパ

 

── たくさんあるアイデアをその都度ゲームに合うか考えて、まとまりそうなものを選択していくと。

元倉 さっきのキャプチャーと帽子もそうですが、それは世界観みたいなものも同じ考え方なんですよ。例えば『ギャラクシー』と同じようなスケール感を出すにはどうすればいいのかを考えたときは、まだ地球上に行ったことのない場所があるわけだから、そこをちゃんと描ければスケール感があるものにできるんじゃないかと、舞台が地球になりました。そして地球といえば月も重要ですから、今回はムーンを集めようとなり、ムーンを集めたらオデッセイ号が満月になっていくよね、といったようにアイデアがつながってまとまっていく感じです。

── とはいえ、宇宙の舞台に匹敵する壮大さって、なかなか表現するのは難しいところですよね。

元倉 でも『ギャラクシー』は宇宙だけど国内旅行っぽいところがあったんですよね。壮大ではあるんですが、デザインのラインは近かったので、遠くを旅しているんですけど、どこか近い空間の中にいると言いますか。

吉田 でも地球だったら自分たちが住んでいる場所ですから、みなさんも海外旅行などのイメージで国によって特色や違いがあるのを意識しやすいですよね。そこで感じる距離感というのは、『ギャラクシー』で表現していた距離感よりも大きく描けるんじゃないかと思ったんです。

元倉 ただ、その海外に行ったときの違和感をわかりやすく表現するには、各国のデザインにかなりの差をつけなければならないなというのはありました。

 

ブルーダルズは仕事熱心なだけ?

── 新キャラクターである、ブルーダルズについても教えてください。

吉田 最初は帽子を使ったアクションで遊べる中ボスの試作をしていたんです。で、4種類の遊びが生まれたので、それを落とし込む中で物語とも絡められて、かつ月だったらウサギなんじゃないかという方向でまとまっていった形です。

── つまり遊びから考える方針は変わらないと。

吉田 そうです。「ウサギのキャラクターを出したい」というスタートではないんです。

── クッパ7人衆じゃダメだったわけですか?

吉田 新しいキャラクターとしてまとめた方が本作の方向性とも合いますし、より良いのではと考えました。

元倉 あとブルーダルズには共通のアイコンになってもらいたかったというのもあります。国のテイストがさまざまなので、クッパ以外にも世界をつないでおくキャラクターが欲しかったんです。ブルーダルズが各地に行き、世界をつなげる役割を担っています。

── ちなみに、設定的にはクッパがブルーダルズに結婚式の準備を依頼しているんですよね?

元倉 そうです(笑)。

── つまりクライアントのために、ブルーダルズはマリオと戦っているんですよね。

吉田 はい。単なる仕事としてやっているだけです(笑)。

── クッパの戦艦もブルーダルズがブライダル仕様に変えて。

吉田 あれはクッパが自ら白く塗装して、ウェディング仕様の戦艦にした、というイメージで制作しています。ブルーダルズも関わっているかもしれないですね。

── クッパ自ら! じゃあ、あのポスターはどうなんですか?

吉田 クッパ自ら作っています! こちらも誰かにやらせているのかもしれませんが…

一同 (笑)

 


▲ブルーダルズ。左から順に、スプワート、トッパー、ランゴ、ハリエット

 

幅広いバリエーションのコスチューム

過去から新作まで豊富なデザインを用意

── 豊富なコスチュームについても教えてください。

元倉 昔のマリオって、2Dイラストの頃はお正月には袴を着たイラストだったり、いろいろありましたよね。昔見ていた2Dマリオはいろんなことができたわけだから、3Dマリオだってできていいんじゃないかな、というのが出発点ではあります。

── これまでの3Dマリオではコスチュームを入れるという議論はなかったんですか?

元倉 今回が初めてだと思います。というのも、これまではマリオが変身しますから、コスチュームと性能が対になっていたというのが大きいです。今回はコインの違った使い方であったり、各国を訪れたときに何が印象に残るんだろうというのを考えました。やっぱり旅行したときに残るのって食べ物であったりその国の衣装だったりしますので、そこで結びついて各地にマリオが旅しているという遊びとして、コスチュームを変えることにしたんです。

吉田 完全新規に発想した衣装は、各国のお土産としてその国の特色を生かしたものになるようにデザインしています。そして複数の候補の中からその国に合う衣装を選んだり、逆に衣装からその国に合うものを決めたりしていきました。

元倉 バランス良くね。

吉田 はい。ボードにX軸とY軸を書いて、かっこいい、かわいい、真面目、面白い、というような分類をして、ひとつひとつの衣装の画像をそこに貼っていったんです。人の服装が違うように好みがわかれるのは最初からわかっていましたので、より多くのお客さんに楽しんでもらえるようにとまず分類をして、誰かしらにささるようにまんべんなくバランスをとって作っていきました。

── しかし過去作系のコスチュームは、マニアック度もすごいですよね。

吉田 キャラクターデザイナーたちが昔のマリオにも、すごく思い入れがあるということも大きいですね(笑)。

元倉 ただコスチュームをやるのは初めてだったので、突飛なものよりは知っているものを大事にしていきました。それだけでもちゃんと驚きを感じてもらえるし、新しいものも昔からあってもおかしくないようになっていると思います。


▲博士帽と博士服は「スーパーゲームボーイ」のCM時にマリオが着ていたもの。知ってた!?

 

壮大な世界を盛り上げる音楽作り

国ごとに特色の異なる音楽を

── 音楽についてお聞きします。サウンドはゲーム開発の後半から入れていくことが多いですが、本作はいかがだったのでしょうか?

郷原 たしかに試作の段階から音楽を入れることは希ですよね。でも任天堂の開発スタイルとして、マリオが踏んだときやジャンプしたときなど、手応えの部分での効果音は欠かせませんから、効果音自体は早い時期から付けていました。それでゲームの絵的な部分が見えてきた段階で、久保をはじめとしたコンポーザーたちと本作の音楽の方向について話し合っていきました。

── 方向性として最初に指針となったのは何でしたか?

郷原 砂の国「アッチーニャ」がはじめにできていたので、そこの音楽をまず検討していたのですが、それとほぼ同時期に、今回の指針として全体のテーマ曲を作ることになりました。

久保 社内向けのプレゼンのためにムービーを作ろうという話で、そのムービーに合わせた形で作ることになりました。それが1stトレーラーで使われているテーマ曲です。滝の国「ダイナフォー」でもアレンジして流れています。

── どんなイメージで作られたんですか?

久保 世界を壮大に駆け巡る話だと聞いていたので、まずオーケストラを使おうと考えました。ただオーケストラというと『ギャラクシー』でもやっていますから、本作ならではの違いを出す必要がありました。そこで、今回はもっと大地を駆け回るイメージがあったのでアレンジ的にパーカッションを入れてみたりとか、世界のさまざまな国を巡るということで、地域色を感じさせる民族楽器や、エレキギターなども入れた曲にしてみました。

郷原 『ギャラクシー』の空を気持ちよく飛んでいる感じとは違って、大地を冒険しているところを意図して作曲されています。ただやはりテーマ曲だし、制作に時間はかかりましたね。

久保 はい。最初はオーケストラだけで作っていたんですけど、浮遊感のようなものが出てしまって本作らしさが足りなかったんです。そこをどう違いをつけるのかには結構悩みました。

元倉 でも、そうして最初にスケールの大きい曲ができてきて、今までの3Dマリオとは違うということが表せたと思いましたね。

久保 カットシーンやラストバトルなど、ストーリーに関わる部分ではテーマ曲のモチーフを積極的に使い、またオーケストラで演出することで、トータルで壮大な冒険であることが感じられるようにしています。

── テーマ曲ができ、それから各国の曲を作られていったと。

久保 そうですね。ただコンセプトとしてテーマ曲は作ったんですけど、今回はデザイン的に各国が写実的だったりデフォルメされた世界であったり全然バラバラですよね。だったら楽曲も各国で全然違う感じにしてしまおうとなりました。なので、滝の国のような壮大なオーケストラもあれば、料理の国のようなコミカルでかわいい曲もあり、都市では軽快なジャズが流れる。それぞれの国に着いて曲を聴いたときに、これまでと全然違ったところに来たということを感じていただきたいですね。

── 本作は無音の場所があったり、音が遠くなったりと、場所によって音が変化することも多いです。

久保 今回は探索もメインの遊びなので、ずっと音が鳴っていると疲れてしまうのではと考え、BGMに緩急をつけています。

郷原 森の中などは効果音のみで演出したり、砂漠では遠くから聞こえるケーナ(ボリビアなどが発祥の縦笛)のメロディーと風の音だけにしたりしています。

 

繊細な振動まで再現できるHD振動

うるさすぎず手にも自然な振動を

── HD振動にも驚きました。

郷原 ありがとうございます。ただ操作に対する手応えが重要という意味では、プレイヤーが関わる部分が振動の中心なのはこれまでと変わっていません。でも、HD振動になったことで、例えばプレイヤーのアクションに振動している場面でも、周りでキラーが飛行していたら、そこにも振動を入れられるようになりました。

── 左右差があることも含め、繊細に振動しているのがわかります。

郷原 これまで振動は手応えを出したいところに入れてきましたが、今回はHD振動ということで、手応えはもちろん、手触りといったことまでを表現できないかと頑張ってみました。ただHD振動は我々にとっても新しいデバイスだったので、最初はどういうことができるのかという実験をしていましたね。

── どんな実験をしていたんですか?

郷原 どういう振動の変化をさせると手に気持ちいいのだろうかとか、コインに振動を当てるのは今回良いことなのだろうかとか。やはり振動する場面が多いと、手にもうるさい感じになってしまいますから、長時間プレイしていても飽きずに、いろいろなところで気持ち良さを体感できるバランスを探っていたんです。

── そういった実験を経て、こんなに気持ちいい感触になったんですね。

郷原 HD振動って本当に自由度が高いんです。従来のモーターによる振動は、フワッと上がってフワッと鳴り止む感じなんですね。ですので、どうしても感触がヌルッとしてしまうところがあったんです。でも、HD振動はパキッと始まってパキッと終わることができるんです。これがあると、例えばコインを取ったときもコツッという振動ができるようになるんですよ。今回、釣りのコツコツっていう繊細な振動もできるようになりましたから、そこは本当にHD振動の大きな特徴であり強みだと思っています。

── ほかにもHD振動で驚いたのがバイクです。

郷原 バイクは元倉のこだわりがありましたので、結構検討を重ねました。

元倉 僕、昔バイクに乗っていまして。

郷原 白状しますと僕、バイクを運転しないもので。

一同 (笑)

郷原 でもエンジンを回した瞬間にググっと振動が強くなる気持ち良さにはこだわりました。また、左右に曲がっているときには片方のコントローラの振動が強くなったり、ジャンプ中は振動が弱くなったりと、振動をさまざまに変化させていますが、この「変化」が非常に効果的でした。バイク以外でも、ラジコンで速度が上がると振動の強さや振動の音程が上がるようなことをしています。特に自分のしたことに対して振動が変化するのは、手応えとしてもすごく良いんです。

元倉 鉄板にヒップドロップをするとシビれる感じとかね。

郷原 はい。マリオのヒップドロップにも振動を当てているんですけど、鉄板の上だとビィーンとした振動になるんです。そういった素材による変化も付けていますので、ぜひ試してみてください!

▲振動ととともに車体がググッと一瞬持ち上がり、発車する一体感が気持ちいい


いかがでしたでしょうか? 次は各国の話に入っていきます!

Vol.2 へ続きます。

 


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スーパーマリオ オデッセイ


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