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開発者と巡る『スーパーマリオ オデッセイ』インタビュー(Vol.3)(2018年2月号より)

今回はホロビアから、その国ならではの細かいところ詳しく聞いていきます。

スーパーマリオ オデッセイ』インタビュー(Vol.3)

Nintendo Switchで発売中のスーパーマリオ オデッセイ』について、月刊ニンテンドードリームに掲載された開発者インタビューを複数回に分けてお届けします。今回はホロビアから、その国ならではの細かいところ詳しく聞いていきます。

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。
・ネタバレも含んでいる場合があります。

Vol.1はこちら
Vol.2はこちら

プロフィール(上の写真左から)

青柳 範宏さん
プログラムディレクター。『スーパーマリオギャラクシー』から『スーパーマリオ3Dワールド』までプログラムやレベルデザインを担当。本作ではプログラムの取りまとめのほか、バウンドボウルの仕様を決めるプランナーの役割も。

吉田 陸斗さん
アートディレクター。デザイン全体のとりまとめ役。『スーパーマリオギャラクシー』から『スーパーマリオ3Dワールド』までキャラクターデザインを担当。

元倉 健太さん
ディレクターとして現場を統括。これまで『スーパーマリオギャラクシー』シリーズや『スーパーマリオ3Dランド』でデザイン、『スーパーマリオ3Dワールド』でディレクターを担当。

久保 直人さん
コンポーザー。コンポーザーの取りまとめ役も担当。任天堂に入って最初に関わったのは『進め! キノピオ隊長』。その後『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面3D』、『スーパーマリオメーカー』の音楽を担当。

郷原 繁利さん
サウンドディレクター。全体のサウンドの設計や効果音、HD振動を担当。『スーパーマリオギャラクシー』の頃から『スーパーマリオ3Dワールド』までマリオの効果音制作やプログラムを担当し、その後『スプラトゥーン』の効果音も担当。

奪われし国 ホロビア

かつてホロビアの民が、その優れた建造技術で築いたとされる国。しかし現在は荒廃し、崩れた塔がわずかに残るのみ。旅の途中にクッパの従えるホロビアドラゴンに襲われ、この地で戦うことになる。

青柳 最初は「雲の国」のクッパのほかに、イレギュラーなイベントとしてのボスキャラを用意しようというところから始まったんです。ボスの仕様は自分が担当したんですが、何かをたたきつけて電撃が出るという遊びが決まった時点で、「デザインはデカい足のボスがいいんじゃないか」って言ってたんですよ。
吉田 それずっと言ってましたよね。絵まで描いて。
一同 (笑)
吉田 もちろん遊びからデザインを起こしてはいるんですけど、ドラゴンにしたのには理由がありまして。ある程度国のデザインが揃ってきた段階で全体のバランスを見てみたときに、世界観の幅として西洋ファンタジーがあると良いと思ったからなんですね。ですので、ボスも足ではなくてドラゴンにさせてもらいました。今までのシリーズでは「奪われし国」のような世界観は採用しにくかったのですが、今作は世界を冒険することがテーマですし、驚いてくれる人や喜んでくれる人も多いのではないかと思ったんです。

▲イカヅチの王こと、ホロビアドラゴン。とても巨大で、戦いで見られるのは頭の部分だけ。戦いの後、一言だけ喋る

クッパの国 クッパ城

月夜に照らされた和風なお城を構えた、クッパの根城。「三の丸」から始まり、「二の丸」「本丸」「天守」と進んでいき決戦を迎える。後半は祭りばやしが鳴り響き、クッパとピーチ姫の結婚を祝うお祭りムードとなっている。
── すごい国名ですが、つまりクッパが国を持っているんですか!?
吉田 そうですね、ピーチ姫との結婚式を挙げたあとに新居として住む予定だったのではないでしょうか。
── (笑)。にしても、今回のクッパ城は和のイメージなんですね。
元倉 『スーパーマリオ3Dワールド』のときに遊園地を作りましたので、別の驚きがある世界を表現したかったんです。今までクッパ城を和のモチーフで作るということはやっていなかったですし、遊びとして屋根の上を走り回ったり、壁を登ったりするのが面白いんじゃないかと思ったんですね。ちなみにBGMは近藤(浩治さん。マリオ楽曲の生みの親)に作曲してもらい、すごくお祭りっぽく仕上げてもらいました。……僕も吉田もお祭りが好きなんですよ(笑)。
吉田 実際にお祭りに参加して、御輿を担ぎますからね。
元倉 なので後半で旗が揺れているところなんかは、御輿の揺れを再現していたりします。

▲和風なクッパ城。クッパらしいカラクリもたくさん用意されている

月の国 ハニークレーター

とある地球を離れ、旅の舞台は空に浮かぶ月へ。重力が小さく、辺り一面真っ白な不思議な世界。結婚を阻止するため、教会へと急ぐ。旅を進めるとラビットクレーター(月の国 裏)などにも行ける。


── 最後の場所を月にしたのはなぜですか?
元倉 パワームーンやハネムーンといった、オデッセイ号の帆など、本作のいろいろな理由が合わさった結果ですね。月の教会って到達点としてイメージしやすいですし、重力によって操作性が変わる遊びも面白いですし。
青柳 重力変化の遊びは今までのシリーズでも案としては出ていたのですが、ジャンプが変わると敵やオブジェクトなどの遊びも調整する必要が出てくるので、なかなか実現するのが大変で……。本作でようやく実現できました。
▲体が軽くなり、ジャンプ力もアップ。ほかでは体験できないアクションが楽しめる

── それにしてもラストの展開はとてもアツかったです!
元倉 ありがとうございます。クッパをキャプチャーする案はスタッフの間でも要望がとても多かったネタなんです。
吉田 みんな「クッパを操作したい! 」って。
元倉 そんな流れもあり、ボスを倒した後にさらなる驚きを用意するという点にも合致しますので、終盤の構成に取り入れました。遊びはマリオの原点に戻って、ジャンプアクションを基本にしています。
青柳 制作中もスタッフはノリノリでした。新しいアイデアが出たらすぐにプログラマーが実装するぐらいで、どんどん出来上がっていきましたね。
▲クッパをキャプチャーし、ハニークレーターから脱出する

── そしてここでもうひとつのボーカル曲が流れます。
久保 フェスティバルの曲(「Jump Up, Super Star!」)を作ったときに、いろいろな可能性を見たかったので、ロックな曲も作っていたんです。で、元倉に「Jump Up, Super Star!」をプレゼン披露するときに、「一応、こういうのも作ってみましたけど、こっちじゃないですよね?」って、ロックの曲も聴かせたんですよ。そうしたら……
元倉 これも良いじゃん! と。
── (笑)。「Jump Up, Super Star!」の方向性のひとつとして制作していた曲だったんですね。
元倉 「Jump Up, Super Star!」はジャズですけど、ジャズってちょっと敷居が高いものだと思うんです。多くの人に届くという意味では、ロックの方がよりポピュラーですから、こっちもありですよね。ノリがいいし、どこかで使いたくなって、こっちも何とかならないかなって。
郷原 で、ラストシーンの試作プレイをしている動画に試しにロック曲を当ててみたんですよ。シリアスなシチュエーションに違う文脈の曲で、合うかなと思いつつだったのですが、クライマックス感が出てすごく良かったんです。
元倉 うん。シーンとエンディングが上手く繋がる点にもこだわったよね。この曲のおかげでエンディングも軽やかにまとまったんじゃないかと思います。
久保 最後のシーンで使うことが決まってから、クッパのフレーズも入れたりして調整していきました。間奏で『スーパーマリオ64』のクッパのフレーズに続けて今作のクッパのフレーズも流しているんですよ。
── ゲーム中では「ハニークレーター(脱出)」という曲名でしたが、正式な曲名はあるんですか?
郷原 「Break Free(Lead the Way)」です。歌詞全体のテーマや音楽の雰囲気からこの曲名に決めました。日本語版だと歌詞の最後に出てきますね。
── 月の裏にはドットのロゼッタがいますね。
元倉 良くお気づきで! 今回はポリーンが登場しますので、ロゼッタを出すとお互いの印象が薄れてしまうことが予想できました。ただ、ちょっとだけ繋がりがあるというところを見せたくて、ドット姿のロゼッタを入れることにしたんです。

キノコ王国 ピーチ城

緑が広がる平和な国。中央に建つピーチ城ではキノピコたちが働いており、屋根の上にはヨッシーがいる。国の中には20年前を彷彿とする懐かしの場所も……? なお、この国で入手できるパワームーンはスターの形をしている。


── クリア後にキノコ王国に行けるのには感動しました。
元倉 やっぱりこれは必要でしょう!(笑)。旅をして、知っているところへ帰ってきたときの安心感もありますし、箱庭マリオのひとつのシンボルでもあると思うんです。
吉田 ですので、ほかの国とは対照的にマリオらしさをすごく意識して作っています。ただ、いつもどおりの印象なだけで終わらないように、ピーチ城は今の技術でディティールアップをさせて、城壁のレンガの感じとか、昔よりもちょっと豪華になっているんです。
久保 絵を豪華にしていることに伴い、BGMも『スーパーマリオ64』のピーチ城の曲を原曲のイメージは損なわないようにアレンジしつつ、オーケストラで生収録してリッチな響きにしています。ピーチ城の曲を生収録するのは今回が初めてです。
── ヨッシーの登場もうれしかったです。
元倉 僕が好きなんです。
一同 (笑)
吉田 元倉のスマートフォンの待ち受け画面もヨッシーのたまご柄ですし、机にフィギュアもいくつも置いているんですよ。
元倉 うん。そう言われて気付いたんです。僕、ヨッシーが好きなんだって(笑)。
── では元倉さんが好きだから出したと?
元倉 もちろん、それだけではないですよ。ヨッシーをキャプチャーすれば、マリオとは違う遊びを楽しめることが大きいです。で、ヨッシーを登場させるとなるともちろん場所は屋上ですよね。『スーパーマリオ64』のオマージュで。
── キノコ王国には『スーパーマリオ64』のネタが多いですよね。
吉田 はい。もうどんどん入れていこうとなりました。『スーパーマリオ64』の見た目になれる「64服」もキャラクター担当のデザイナーが作ってくれました。アニメーションは『オデッセイ』のマリオのものなので昔の動きとは少し違うんですけど、動かしてみたら当時の印象のままで驚きました。あとは、その「64服」で入れるあの部屋ですね。
── 見た目も当時とそっくりに見えましたが、これはまったく同じものなんですか?
元倉 いえ。当時のデータは持ってこれなかったので、実は今回用にそっくりに描き直しています。

▲豪華になったピーチ城。ステンドグラスも輝きが増している

▲ピーチ城の屋根にいるヨッシー。キャプチャーすれば舌を使ったアクションができる

▲「64衣装」で入れる部屋には、『スーパーマリオ64』にあった城の裏庭が再現されている。そっくり!!

── クリア後にピーチ姫がいろいろな格好をして旅に出ているのは新鮮でした。
吉田 マリオが着替えるならピーチ姫もいろいろ着替えさせたいと思ったのですが、エンディングまではずっとさらわれているので、機会がなかったんですね(笑)。今作ではエンディング後にエピソードがあるので、実現できた形です。今までの3Dマリオでは、僕も含めて男性のデザイナーがピーチ姫の担当をしてきたのですが、今回は初めて女性のデザイナーが担当になったので、とても女性らしいデザインになっていると思います。マリオと対になる衣装にもなっていますので、ぜひ一緒に写真を撮ってもらいたいですね。
▲旅をするピーチ姫の衣装は6種類ある

最後にメッセージ

青柳 本当にスタッフ全員が考えたたくさんのネタが詰まっていますので、隅から隅まで遊びつくしていただけるとうれしいなと思っています。あと、お助けモードは難易度が低いんですけど、サポートがありながらも達成感があるものになっていますので、3Dマリオが今まで苦手だったという人もぜひ試してほしいと思っています。

吉田 幅広いデザインのバリエーションを楽しんでもらいたいという考え方はそのままに、本作では今までと全く違う世界観や表現を取り入れてデザインをしました。さらに広がったバリエーションの中で驚きを感じ、マリオと一緒にとある地球を旅した気持ちになってもらえるととてもうれしいです。

久保 BGMはオーケストラ、ビッグバンド、民族的な曲、さらにはボーカル曲まであるという、これまでにないバリエーションがありますので、さまざまな曲を楽しんでいただければと思います。ほかにも2Dエリアに入ったときに流れる8bit版のBGMも、音楽があって2Dエリアに入れる場所はすべて用意してあります。気付きにくいところですと、アッチーニャのさかさピラミッド外壁エリアではケーナの音が8bitになっていたり、シュワシュワーナのボス戦中に海に潜って2Dエリアに行くと、ボス戦が8bitで聴けたりもします。ニュードンク・シティのフェスティバルもある条件を満たせば8bitバージョンで遊べますので、ぜひ挑戦してみてください!

郷原 効果音や振動を通じても、これまで以上に世界をどっぷりと味わっていただけるような音作りを目指しました。旅の途中、ときには立ち止まってみたりして、ぜひ世界を見回してみてください。振動や音からも新しい発見が必ずあると思います。

元倉 15年ぶりの箱庭アクションとなりましたが、今回のゲーム構成は各国のストーリー通りじゃなくてもある程度は進められるようになっていますので、進め方は自由です。エンディングまで、そしてその先もありますのでじっくり楽しんでいただければと思っています。また、ひとりでがっつり遊ぶのもいいですが、お子さんであったり、友達を誘ってお2人でおすそ分けプレイをしていただいて、そこから生まれる会話であったりも楽しんでもらえるとうれしいなと思っています。


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スーパーマリオ オデッセイ


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