『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』2Dモード開発者インタビュー(2020年2月号より)

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国民的RPG『ドラゴンクエスト』シリーズ最新作『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』(以下『DQXI S』)。スクウェア・エニックスの『DQXI S』開発ディレクター・八木さんと、2Dモード開発会社であるアルテピアッツァの眞島さん&杉村さんにご登場していただき、2Dモードの開発秘話についてお届け!

(ニンテンドードリーム 2020年2月号より)

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。

プランニングディレクター 杉村幸子さん(写真左)
アルテピアッツァ取締役副社長。『ドラゴンクエスト』の生みの親、堀井雄二さんの初代秘書。『ドラゴンクエストⅣ』~『ドラゴンクエストⅦ』『トルネコの大冒険3』ではシナリオ制作も担当し、リメイク版『ドラゴンクエストⅠ』~『ドラゴンクエストⅦ』ではゲームデザインにも携わった。

アートディレクター 眞島真太郎さん(写真中央)
アルテピアッツァ代表取締役社長。これまでに『ドラゴンクエストⅤ』~『ドラゴンクエストⅦ』の他、『ドラゴンクエスト』リメイクシリーズに携わり、現在は『ドラゴンクエストライバルズ』のカードキャラクターデザインも手掛ける。今作では2Dモードのアートディレクター。

開発ディレクター 八木正人さん(写真右)
1994年にスクウェアに入社。『ルドラの秘宝』『ファイナルファンタジーⅦ』『聖剣伝説 RISE OF MANA』など、スクウェア・エニックスのRPG開発に25年以上携わる。3DS/PS4版『ドラゴンクエストXI』ではチーフプランナーを務め、『DQXI S』は開発ディレクターを担当。

アルテピアッツァとは?
エンターテインメント作品の制作を主業務とする企画開発会社。数多くの『DQ』シリーズの開発に関わり、ゲームソフトの企画開発、デザイン、イラスト、シナリオなどを手掛ける。その他の代表作は、Wii『オプーナ』、DSiウェア『ピンボールアタック!』、3DS『アクセルナイツ2 フルスロットル』など。
http://www.artepiazza.com/


アルテピアッツァが2Dモードを手掛けたこと

―― 『DQXI S』の2Dモードを手掛けることになり、最初はどこから手をつけたのでしょうか?

眞島 ものづくりの考え方って2種類あると思うのですが、ひとつは「少しずつ難易度が増えていくパターン」です。今回はスケジュールを見た時に、そのやり方では無理だなと思いました。弊社のスタッフもドットを打ったことがある者はいるのですが、ちょっとしたアイコンやメニューなどぐらいで、本格的に大きなマップを打ったことがあるスタッフはほとんどいなくて。ですので、「まずは箱を描いてみましょう」みたいなところからやっていたら間に合わないと思いました。

―― それでは、どうやっていこうと考えたんですか?

眞島 若いスタッフは絵をちゃんと描くこと自体は出来るのですが、それを昔風ドットにコンバートする部分の経験値が少ないんです。どうしようかなぁと考えた時に、じゃあ最初にお城をやっちゃおうよ、と。

―― お城ですか。

眞島 お城さえできれば、あとは全部応用なんです。僕が半分ドットを打ったら、残り半分を描いてごらんって社内のスタッフに渡して。そういうところから始めていきました。とにかくお城を乗り越えられれば、後は勢いでいけますから。その代わり、これを越えられなかったらアウトだぞ、と(笑)。

―― なるほど(笑)。

眞島 にじみの表現を計算することに関しては、SFCの頃と比べれば、作っている時と実際のディスプレイに出た時の差異はほぼないですから。まずは PC上で自分が打ったドットの絵が、実際の画面に出したときにどれぐらいの差異があるのかを確認しました。

―― Nintendo Switchはテレビ画面だけでなく、携帯モードでも遊べますし。

眞島 やっぱり実機での発色が思ったのと違ったりするので、そういった部分を全部確認した上で、そこの差を埋めつつやっていきました。これをやってなかったら、限られた開発期間中には終わっていなかったと思いますよ。

―― 開発管理を行っていたのは杉村さんですが、現場ではどうやってディレクションしていたんですか?

杉村 グラフィックに関しては、スクウェア・エニックスさんから信頼を頂いていたので、「こういう形で進めたいんですけれど」ということには快く了承していただきました。あとはキャラクターが3DS版の時は小さかったのですが、Switch版では少しだけ大きく見やすいバランスをご提案しました。これは堀井先生にも了解をいただきました。

眞島 画面の大きさに対して、キャラクターの大きさからゲームのスケール感が決まってくるので、マップの描き方も変わってくるんですよ。ただ今回の『DQXI S』でスケール(システム)を変えるわけにはいかないので、ギリギリのバランスを見極めるため全マップを検証しました。

―― 全部ですか!

眞島 はい。最初はそこにかなり時間が掛かりましたね。キャラクターの見た目が大きくなって、それまではめり込まなかったコリジョン(衝突)にめり込んだりして来ますし、ドアとのバランスもあります。デザイナーのレベルで許容できる範囲になるまで、めり込みが調整できるマップは、(見た目としては変わらないものの)極力調整しています。

杉村 しかも今回はSFC時代っぽくグラフィックを描かないといけないオーダーですからね。最新のCG技術で表現された3Dモードに対し、2Dモードはノスタルジックな感じに置き換えて表現しなければいけないところもすごく難しかったです。

↑SFC版『ドラゴンクエストⅥ』

眞島 厳密に言えば、SFCの頃と色数はぜんぜん違います。フルカラーを使おうと思えば使えますからね。レイヤーの枚数も当時より多く使えますし。それはメリットなんですけど、逆に言うとたくさんの色数を使ってドットを打ってしまうと、今度は「普通に綺麗な2D」になってしまうんです。

―― ドットらしさがなくなっちゃうんですね。

眞島 だからあえてドットの表現というのをポジティブな要素としてとらえ、“ドット様式”で描くというふうに切り替えました。色数に関しても、最初スタッフが描いてきたものを見て「半分の色にして」と修正させたりもしましたね。

―― 半分って簡単に言えますが、それをドットでやるのは相当難しいですよね。

眞島 ドット絵って色数が少ない中で、明暗を表現するためにどう隣合わせるかが重要です。使える色数が増えると、どうしてもその意識が甘くなりがちです。例えば、SFC『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』(以下『DQⅢ』)に登場するピラミッドって、マップのひび割れはあえて極端に階調をつけています。滑らかに描くことはできるんですが、はっきり階調をつけることで存在感が出るんですよ。しかも色数に余裕が出るので、他の部分に色を使うことが出来て。当時は必然性からやっていましたが、今回はそのシミュレーションを頭の中でしなければいけないのがたいへんでした。

↑SFC版『ドラゴンクエストⅢ』

杉村 新しく作ることになったマップは、まず元が3Dだった部分を全部2Dに出来るかを検証しました。最初に手掛けたのがPS2『ドラゴンクエストⅧ 空と海と大地と呪われし姫君』(以下『DQⅧ』)に登場したトロデーン城です。

↑初めに2Dに変換できるか検証した『DQⅧ』のトロデーン城。丸いカーブの階段が特徴的

八木 最初に2Dで描かれたトロデーン城を見せていただいた時、すごく感動したのを覚えています。他の世界もこのクオリティで再現していくんだなと思いましたね。

眞島 トロデーン城の緑色の部分、3D当時の色味をそのまま使うとドット絵では映えないため、暗くなり過ぎないようにしつつ作成しています(笑)。

八木 ちょっと暗い緑なんですよね。

眞島 はい。あと実際の制作では16色以上使っていますが、カラーパレットを作るのも難しかったですね。これはSFC時代の特徴なんですが、明暗が逆のところがあるんですよ。影って寒色系、日なたは暖色系を使うじゃないですか? でもSFC版『DQⅢ』のお城って、逆のパターンが多いんですよ。

―― えっ!? そうなんですか?

眞島 よーく見ると、日なたのところは寒色系のグレーで、影になっているところは茶色っぽくしています。石のカチッとした感じと、石の天然素材としての柔らかさを出したい時に使っていました。あと、同じ色相で明暗をつけてしまうと、単調になってしまうじゃないですか? だからちょっとだけ明暗の中で色を変え、通常とはあえて逆の色の使い方をすることで、存在感を出すことが出来るんですよ。

―― この話を聞いたら、該当の場所を見たくなっちゃいますね…!

眞島 ドット絵って、本当に必要な要素だけを残していく作業なんです。デザイナーの頭の中に表示されているリアルな絵をどう省略するか、何を残せば実際にある質感が残るだろうと考え、要素を残していかなければならないんです。

―― 3Dのお城を1つ2Dで再現するというお話だけで、ここまで深い話を伺うことになるとは!

眞島 トロデーン城はもともとが3Dで作られた複雑な構造のお城なので、それをどう2Dに落とし込んでいくかは大きな課題でした。必要な要素を押さえ、歩けるルートがちゃんと確保されているというのを検証し、まずはざっくりとしたマップのレイアウトを作っていきました。あとは…トロデーン城の外にある階段をどう表現するかが悩みましたね(苦笑)。

―― あのツタが絡んだ、カーブ掛かった階段はどう再現していったんですか?

眞島 開発ツールに階段の滑り設定というものがあるんです。それはプレイヤーが歩いてくると「階段」と認識すると、方向キーを横に入れても斜めに歩いてくれるんです。最初はこれを使って再現するか、もしくは階段を八角形みたいな形にしてしまえば問題なく出来たんですけど…、トロデーン城の階段は丸くなければダメですよね? 結局、階段ツールは使いませんでした。

―― それはどうしてですか?

眞島 階段入力を使うと、カーブがある所にちょっとでもキャラクターが行っただけで当たっちゃって…。デザイナーの中には絵を描くだけで仕様の事を考えない方がいると思うんですけれど、弊社ではデザイナーが当たり判定の仕込みまでを全部やった上で、操作性がOKかどうかの確認も取り、そこから絵を描いていく流れで作っています。

『DQXI S』の世界をもう一度2Dで作り直すという仕事

―― 八木さんからアルテさんにはどんなことをオーダーしたんですか?

八木 基本的には、もともとあった3DS版の2DモードをSwitchに移植してほしいとお願いしました。さらに、3Dモードにも『DQXI S』で追加要素があったので、作っていただきたいことをリスト化して、できるだけ2Dモードでも再現してほしいとオーダーさせていただきました。あと、3DS版では3Dで作っていた冒険の書の世界を2Dで作る話になったので、イメージを伝えて依頼しました。

―― 簡単に言えば『DQⅦ』~『ドラゴンクエストⅩ オンライン』(以下『DQⅩ』)の世界が2Dになるということですよね。

八木 はい。例えば、『DQⅧ』のラパンハウスだったら、キラーパンサーに似た建物がふかん視点で見ても迫力がある形状にしてほしいなと思いました。原作や3DS版ではキラーパンサーの顔が真正面から見える配置だけど、ふかん視点では背中ばかり見えてしまいますからね。

↑冒険の書の世界のラパンハウス。顔から背中の方までしっかりと見える

↑3DS版『DQⅧ』のラパンハウス。キラーパンサーの顏が正面向き

―― 素直にそのまま2Dにするとそうなっちゃいますね。

八木 そうなんです。トロデーン城も、全体的に荒れ果てていて。無雑作にいばらに覆われているようすを見せたいとは思っていますが、無理にエフェクトなどを乗せてまがまがしくする必要はなくて。静かな状態が出せればいいですよみたいなことをアルテさんにお伝えしました。

眞島 トロデーン城のツタの処理は、まず壁につけるんですよ。でもそれだと面白くないじゃないですか(笑)。そこで、通路の上や床にもツタを置いて立体的なイメージで作り、空間として面白くしていきました。その場に自分がいて、歩いてる時にどういう風景が見えているのかということを上から見た感じで描くんですよ。

―― 杉村さんはアルテ側のディレクターとして注力したことは?

杉村 『DQ』に関しては、特別な気持ちで制作させていただいています。私は堀井先生の弟子(※)だと思っていまして、最初にこのプロジェクトで決めたのは、画面の見え方や2Dのドット柄を活かす部分など、途中でブレないように見守ることが自分の役目だと思ってやっていました。開発中はさまざまな困難に遭遇し、どうしてもブレることがあるんですよ。そんな時、「あの時の堀井先生だったらどうしていたか」ということに神経を集中していましたね。

※杉村さんは堀井さんの秘書をしながらシナリオも書いていた。

―― 3DS版から変えなかった点や変えた点についてはいかがでしょう?

八木 そもそも3DS版は2画面だったのと、画面サイズが違います。イベントシーンは3DS版と基本的には同じですが、見える範囲が広くなっているので、画面のサイズに合わせて演技の幅を調整しています。

―― 広くなった分、調整をされていったんですね。

八木 はい。あと3DS版の冒頭は上画面が3D、下画面が2Dで同時に表示されていたじゃないですか。2Dモードの歩く間って、3Dモードの間に合わせて動いているから、2Dモード単体で見ると、妙に間が長いところがあって。そういうところも調整しました。

↑3DS版『DQXI』の序盤は、上画面に3D、下画面に2Dが表示されて遊ぶ

―― 今回『DQⅦ』~『DQⅩ』の世界が2Dで描かれましたが、気をつけた点やこだわった部分は?

八木 3Dで描かれた世界を2Dに落とし込んでいく際、 実際の形からは変わっているところがありつつも、あくまで2Dとして遊ぶものとして遊びやすさを大事にしています。だけど見た時に「これはあのシーンだな」 と分かるように気をつけました。私が言わなくてもアルテさんはわかってくださっていましたね。

眞島 イベントシーンを作る時もそうなんですけれど、ユーザーさんが「『DQⅧ』って元から2Dだったよね」って思わせるぐらい、ユーザーが気が付かないところまで親和性を高めるというところは染み付いてますからね。

八木 『ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人』(以下『DQⅨ』)の天使界は「こういう感じだったよね」という風景になったな~と思いました。

眞島 FC時代は単に壊れてる町しか描けなかったけど、SFC時代になったら表現力が上がって、絵が細かく描けるようになったじゃないですか。例えば壊れた村を作る際、「なぜ壊れたんだ」って考えるんです。崩れたのか、朽ちたのか。それによって、草の生え方も変わりますし、石の断面も違いますからね。

―― 石垣の崩れ方ひとつ取っても、地震で崩れたのか人為的に崩したのかでまったく違いますし。

眞島 だからそこで何が起きたのかを再現しますね。下から崩れるとか。そこはイメージしていかないと嘘の表現になってしまいますからね。フォトリアルなCGをやっていたらはっきりと出てしまうと思いますし、ドット絵でもそういう部分って象徴的に描いていかないといけないと思ってます。なので、スタッフが何も考えず壁にヒビを描いてきたらボツにしますよ。「このヒビは何で出てきたものなの?」って考えさせ、描いてもらいます。

八木 そういった部分が反映されてるからこそ、本当はないはずの2Dがもともとあったような錯覚におちいるのですね。

眞島 そもそもドットだからといって、レトロ的な感覚に甘えるのもどうなんでしょうと思っています。地面の草の根っこのところが鮮明であれば、最近生えた感じになるじゃないですか。柔らかく馴染ませてやると生えてからずいぶん経っている感じになりますし。そういう違いを意識して作っています。

八木 この話を聞いた後、2Dモードのグラフィックを全部見たくなりますね!

杉村 こういう話をすると、面白く聞いていただけるんですけど、実際にドットを描くとなると大変なんです!

眞島 雑草の影の1ドットのことなんて、言わなきゃ気付かないかもしれませんしね(笑)。

一同 (笑)

―― そういうことに細かく気を遣われて冒険の書の世界が2Dで再現されているんですね。

説得力のあるマップ設計とウソをつくマップ設計

―― 続いてはマップについて聞いていきたいと思います。

八木 SFC版『DQⅢ』もそうですけれど、もともと眞島さんはずっと2Dの『DQ』シリーズ本編をリメイクを含めて作ってこられたじゃないですか。たくさん考えて作ってきた積み重ねがあったからこそ、『DQXI S』で新規に2Dで作っていただいた場所にも説得力が出たのでしょうね。もし適当だったら「もしかしたらあったのかもしれない世界」という気持ちにはならなかったと思います。

眞島 もちろん、嘘もついて作っているところはあります。外観と中があるマップだったら、中のマップは外観のスケールを感じさせるために少し嘘をついています。そういうことを地道にやるんですよ、ゲームの開発って!

一同 (笑)

八木 私もマッププランナーをやっていた頃は、自分で方眼紙にマップを描いていましたね。あまり考えず階段を配置すると、デザイナーに「この建物の構造おかしくない?」ってツッコまれました(笑)。

―― これはRPGを作ったことがある人なら、だれもが経験する話ですね(笑)。

八木 2Dで階段の交差を作ろうとしたら難しいので、どう誤魔化すかを考えるんですよ。だからといって、後ろに長いまっすぐな階段にすると「どんな斜めの建物なんだよ」ってことになっちゃいますよね。あまりにも極端な嘘をつく構造はよくないなと思いましたね。

眞島 かといって、嘘をつかないわけにもいかないですしね。外観と屋内の広さってぜんぜん違いますから、そのスケール感の倍率の違いをどこかで埋めてあげなければならないんです。屋内はアップで外よりも寄った世界なんだって感じさせる描き方をしないと、嘘の表現になってしまいます。プランナーは完成形の絵がない白紙の中でこれを考えていくわけですから、大変ですよね。

―― ゲームクリエイターのみなさん、すごいです!

眞島 あと、RPGを途中で挫折する大きな理由はだいたい2つで。「レベルアップのバランスが悪い」と「目的地が見つからない」です。だからマップの部分は「さっき入った家どこだっけ?」 ってなっちゃったらダメなんです。

八木 杉村さんに以前お話をうかがった際、『DQⅣ』の開発時はモニターで見える範囲以外を紙で隠しながら、次に期待させるものは何かを意識しながら作っていたと聞いて、すごいなぁと思いました。

眞島 今回もやりましたね。弊社のマップ班に厚紙を用意させ、画面のサイズに切るんです。で、ここに必要なものが入っていなかったら配置を詰めようって。「ゲームの絵はインフォメーション(情報)」なので、キャラクターが立っていて、それが敵かどうか分からなければダメです。イベントシーンならいいんですけど、例えば町を歩いていて商人のおじさんが敵だったら嫌でしょう?

―― それは嫌ですね(笑)。

眞島 マップの絵は自然に見えて、迫力があって、楽しめて、懐かしく感じられなければならない。だけど情報という部分を忘れたらアウトです。壁の装飾をすごく凝りたくもなりますが、凝りすぎちゃって逆に何かありそうに見えちゃったり…。「何もなさそうで凝ったものにして」みたいなリテイクを出したことも(笑)。

一同 (笑)

八木 「ゲームの画面はインフォメーションだ」という言葉はしっくりきますね。

眞島 今、弊社が制作している『ドラゴンクエストライバルズ』(以下『DQライバルズ』)のイラストもそうです。カードに描かれたキャラクターたちは単純にポーズを取っているのではなく、前後がある映像の一部を切り取った感じにしたいと思って描いています。逆にいうと、切り取り方が悪いとなんだか分からなくなってしまうので、そこに心を配るようにしています。


↑『DQライバルズ』のカード。前後のシーンを想像しながらイラストを見るとさらに楽しめる

2Dモードで一番力を入れたカミュの追加シナリオ演出

―― 皆さんの2Dモードオススメのシーンは?
八木 私はトロデーン城と、カミュの新シナリオのイベントシーンですね。カミュ編の邪竜軍王ガリンガの戦闘シーンがあるんですが、仮に作ったものを見せていただいたときに、すごいカッコいいなって思って感動しました。

杉村 カミュのイベントシーンは目標にしたものがあって、SFC版『DQⅢ』のオルテガの戦闘シーンです。

杉村 最初にこの方向性だと決めてからは、スムーズに制作が進んだと思います。

眞島 かつてのオルテガのシーン、全フレーム1ドット単位で描いたような…(しみじみ)。

八木 その感動はこのイベントシーンを見せていただいた時にありました。「2Dでここまで出来るんだ!」って。 大乱戦シーンを果たして2Dでどこまで出来るんだろう? という気持ちは少なからずやっぱりあったのですが、こんなにすごくカッコよく表現していただいて…感動しました。

杉村 先に3Dモードの方が出来ていたので、それを見ながら2Dにするという感じですね。もう割り切りって、あのオルテガ戦をカミュでやろうと(笑)。

眞島 3Dモードが映画の演出だとすると、2Dモードは舞台なんですよね。映画だとズームアップをして表情やいろんな動きで見せられますけれど、2Dは固定カメラなんです。体の動きとか全体の流れで、何が起きているかの置き換えをするという感じです。敵がワッときて、バンって散らすなんて、ある意味舞台演出の典型ではないでしょうか。だから僕たちも舞台を作るつもりでコンテを切っています。

―― そうだったんですか…!

眞島 最近の舞台は、それこそHDリマスター版『ロマンシング サガ3』もそうなんですけど、プロジェクションで演出できます。仮に舞台でやったとしても、役者さんが飛ぶシーンで爆発の映像を重ねれば、近いものができるはずです。2DのRPGを作りたい人は、舞台で勉強するといいかもしれませんね。

↑こちらがカミュの新シナリオのイベントシーンのコンテ。この設計図を基に作っていく

眞島さんが『DQ』の開発で大事にしていること

眞島 絵だけじゃないですけれど、「ユーザーが嫌な気分になるゲームにだけは絶対にしたくない」と思っています。マップを作るときも、そこに来た時にユーザーさんが楽しいものに出来ないかと。楽しいと思えなければ『DQ』ではないんじゃないかという気がしています。過去にいろいろなゲームをやってきて、作品に裏切られた感じがする時って嫌な思い出になりますよね。お金払ってもらっているんだから、思いっきり楽しんでいただきたいですよね。…だって楽しいかも分からないものに、お客さんはお金を払ってくれているんですよ。しかも前払いで!

一同 (笑)

生まれ変わった『DQⅦ』から『DQⅩ』の世界

―― ここからは冒険の書の世界の開発エピソードを聞いていきます。まずは『DQⅦ』の世界からですが、アルテさんはPS版も3DS版も手掛けたので、自分たちが作ったものを再々リメイクする感じに?

↑3DS版『DQⅦ』カラーストーン採掘場

眞島 これはねぇ~…正直言ってカラーストーン採掘場のマップは二度と見たくない! …と思うくらいです(笑)。

一同 (笑)

眞島 カラーストーン採掘場はもともと3D空間でパズルをする内容でした。3Dというのは、2Dに比べれば座標の認識に個人差が出ますから、手前の壁は低くしたり、物が隠れないように気を使いました。だから本来は2Dでやるほうが向いているパズルを、3Dマップでどうやってうまくできるかを考えて作ったんですよ。今度はそれを2Dにしなくちゃならないわけで…。

―― 真逆になっちゃったんですね。

眞島 2Dになると、当時苦労した3D要素が、逆にネガティブ要素として働いてしまうんです。だから全部2Dに翻訳し直して、パズルを成立させなくちゃいけなくて…。橋があって、橋の欄干のところに石があって、橋は渡れないけど橋の横のブロックには入れる…とか、特殊条件を出して、当たり判定をどう作るかを検証していったので、とても苦労しました。

八木 そう聞くと…、こちらとしては軽々しく2Dにしてくださいと言ってすみませんでした(笑)。

眞島 絵としての苦労というよりは、2Dに落としていく翻訳が一番大変だったところですね。

杉村 石が動きますからね。どの位置で押したらどう動くとかもありますし。

眞島 2Dのマップの絵って、実は視点の位置をごまかしているんです。人物は垂直に立っているけれど、マップは寝ているんです。石もそこにあって、押した時に位置関係も全部理解できなければならない。そういうところが2Dならではの苦労ですね。

↑こちらが『DQⅦ』のカラーストーン採掘場。3Dだったパズルが今度は2Dに

―― それを聞いて『DQⅦ』を全編2Dで遊びたくなっちゃいました(笑)。

八木 私は『DQⅧ』を2Dで遊んでみたいなぁ。

眞島 確かに3Dのゲームを2Dでリメイクするという路線はあるかもしれないですよね。

―― 例えるならPS2版『ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』がニンテンドーDS版で2D風テクスチャの3Dになったみたいな感じで?

眞島 ドット絵はやると面白いですよ~。実は2D絵の醍醐味は、出来上がったパーツでどう構成するかなんですよ。パーツの組み方でマップが変わるので。ここはやってみると面白いですよ。

八木 プランナーが作って、それをデザイナーがチェックしてね。デザイナーがノッてくると、限られた容量の中でも新しいパーツを追加してくれて、それを受け取ってエディターでぽちぽち作って。

眞島 デザイナーはそれを見て、「あ、こういう組み方が出来るんだ!」って思うんですよね。

八木 そうなんです! その逆のパターンで「こんな組み方するんじゃないよ」 みたいなこともありますが(笑)。

眞島 プログラマにそう言われちゃうタイプですよ、僕。

一同 (笑)

眞島 お城の飾り壁のパターンって、すごい使い方をしているんですよ。細かくデータを分割して見てみると、「これここに使っていたの?」 というのが結構あります。だからパーツがある程度揃ってくると、マップ作る作業って「レゴブロック」に近くなります。ある素材で作った時、足りないところだけちょっと描き足したりとかして。

杉村 真面目な人ほどゲシュタルト崩壊しますね。

一同 (笑)

―― 『DQⅨ』と『DQⅩ』の世界について聞いていきます。『DQⅨ』といえば、世界樹の樹が生えている天使界ですね。

↑『DQⅨ』の世界樹

八木 もともとが3Dとは言え、DSの小さな画面で描かれたグラフィックだったので、ハイスペックな3Dから2Dにする作業とはまた違う苦労があったのではないでしょうか。

眞島 天使界って、実は要素が少ないんですよ。お店はないし、川は流れていないし、石畳と芝だけなんですよ。だから立体物の部分で存在感を見せたいと思いました。

―― なるほど。

眞島 外観の厚みの部分を隠してみていただくと分かるんですけど、全体的にシンプルなんですよね。天使界で一番面白い部分が「神殿状の建物が宙に浮いている」ことなので、ここでしっかりと面白さを出さないとなって思いました。その面白さを出すために、背景の雲の処理をきちんとしようと考えた際、広さを決定するのに時間が掛かってしまって。空が見えない広さにしちゃったらつまらなくて。中央から外側へ歩いていけば必ず空が入ってきますが、狭すぎないようにしようと思ったので、基本設計の再構築に時間を掛けました。あとは円形の建物って一生懸命ドットで描いていくだけです。それから、この背景の雲は多重スクロールを使っています。速度の調整も苦労しましたよ。

↑『DQⅨ』の天使界。真ん中に聳え立つ世界樹が特徴的で、空に浮かんでいる

八木 雲に立体感がありますよね。

眞島 この影は一段の上の影が落ちているのですが、結構パターン数を使うんです。でもここに立体感を出しておかないと、空と対比すると手前の立体感が負けてしまうんですね。あとは中央の柱の影を斜めに落としたりして、光を感じさせないと駄目だろうと考えました。そういうところをちまちま詰めていきました。あとは根気で!

八木 この場所、私好きなんですよ。

眞島 世界樹の根っこをドット打っていくと、『ファイナルファンタジーⅤ』(以下『FFⅤ』)に繋がったりしますよ。崖の上に飛竜が飛んできて、崖の上に雲が落ちているあの感じ、あの空気感ですね。

八木 『FFⅤ』の飛竜の谷については、当時のデザイナーリーダーが描いていて、ふもとは雲の影しかなくて頂上に行くにつれ雲が見えてくるというのを表現したいと言って作られたと聞いたことがあります。



↑『ファイナルファンタジーⅤ アドバンス』の飛竜の山

眞島 これは素晴らしいディレクションでしたね。後に与えた影響は計り知れないと思います。

↑『DQXI S』2Dモードの世界樹

―― 『DQⅩ』の世界はいかがでしょう?

↑Wii版『DQⅩ』の目覚めし者の祭壇

眞島 丸いですね!

一同 (笑)

八木 目覚めし者の祭壇はもともと3Dで作られたものだから、どうしてもそうなってしまうとは思います。

眞島 単純に丸をドットで描くというのは手間がかかるんですけど、ここもやはり視界の問題がありました。プレイヤーが端っこに寄った際、どこまで画面が入るかということと、絵としてのカッコよさを両立させないといけないですからね。これも視点の嘘は盛大についています。

↑『DQⅩ』の目覚めし者の祭壇。全体的に丸みを帯びているオブジェクトが多い

―― 本来は種族神が神殿の中央に向かって向いているシーンですからね。

眞島 そうです。だからこの辺の後ろに見えている柱は、こちらで盛大にアレンジしているんですよ。2Dで見せる面白さと3Dで見せる面白さは違いますから。3Dを見るときの面白さは遠近ですが、2Dの場合は上下なんです。だから雲海の中から生えている柱と、これらを一つの画面に入れることで底知れぬ深さを感じさせて雰囲気を出すみたいなことに特化したマップになっています。あと、この階段は階段設定をしていません。斜めをどう設定したらいいのかを考えた時に、「これは普通にした方がいいや」と思ったので。

八木 こんなこと言ったら『DQⅩ』開発チームに怒られるかもしれないですけれど、2Dで作られた『DQⅩ』の世界を見たら、この世界でも冒険したくなっちゃいますね(笑)。

眞島 2Dのいいところって、迷わないところなんですよね。

杉村 新規で2Dで作るならやりやすいのですが、既存の3Dのマップがあるものを2D化するのはかなり工夫が必要ですね。

八木 斜めの表現は特にそうですよね。本当は5種族をモチーフにしたモンスターたちは、中央に向かっていないといけないんですが、それを2Dでやると何がなんだか分からなくなっちゃいますし。

杉村 デザイナーからは、像をどちらに向けたらいいのかという相談はあって、これは正面の方がいいよ、と話して今の形に描いてもらいました。

八木 そういった細かい部分はアルテさんにお任せでしたね。僕も完成デザインを見て、そうだろうと思っていたから。そこに関しては違和感はなかったですね。

眞島 頭を一度まっさらにして考えると、「最初から後ろ向きに絵が書いてあったら分からない」というシンプルな答えにたどり着きますが、それがなかなか難しいんです。あと、全体的に青いマップだったので、いかに中間色を入れて絵として単調にならないようにするかということにもこだわりました。よく見ると、ちょっと緑の要素を入れてみたりもしています。

―― 手を休めて、じっくり見たいですね。

八木 そうですね。追加シナリオの新マップも2Dで作っていただいているのですが、それらも3Dモードの方から作っていったので、2Dに落とすにはややこしいマップになっちゃったかもしれませんね。そこはアルテさん、とても苦労されたと思います。

眞島 今って、じっくり歩くRPGって昔よりは少ないですしね。その過程を楽しむというところがドラクエの特徴としてあると思います。

2Dモードで遊ぶ勇者たちへメッセージ

八木 3Dモードだけだと気付かなかったことが、2Dモードをプレイすることで気付くことが多数あると思います。ぜひ3D モードだけで止まっている方は2Dモードも遊んで、そういった部分を感じてほしいです。ぜひプレイしてください!

眞島 表現としては3Dモードとは別のものなので、まずはそこを楽しんでください。また、僕もそういう気持ちって分からなくもないのですが、3Dってどうしても動体視力が必要になるじゃないですか。ちょっとゲームに疲れてきてしまった人は、2Dモードでじっくりとやってもらえたらいいかなと思います。噛めば噛むほど味が出ると思います!

杉村 3Dモードはさまざまな情報を与えてくれて、綺麗な画面で、楽しく遊びやすいと思うのですが、2Dモードは自分で想像しながら遊ぶモードです。どんな世界が自分の中で見えてきたかを考えながらプレイしていただくと、すごく楽しんでいただけるのではないかと思います。

2Dモード開発スタッフに訊く 一問一答

最後に編集部が気になったことを御三方に伺った。ニンドリ恒例の質問にも答えてもらった。

Q.お気に入りの冒険の書の世界は?

八木 僕は最初に見せていただいて衝撃を受けた『DQⅧ』の世界ですね。やっぱりトロデーン城の再現に感動したので!

眞島 どの世界も見せ場があるからなぁ…。(かなり迷って)『DQⅠ』と『DQⅡ』の世界かな。色数が増えて表現力が上がった『DQⅠ・Ⅱ』の世界はどう変化するんだろうという試みを、今回いい形で出せたので!

杉村 私は『DQⅥ』の世界のライフコッドですね。最初にSFC版『DQⅢ』のドットの感じがいいとおっしゃっていましたが、実際はSFC版『DQⅥ』の方に近いのではないかと私の中で思っていました。

Q.最近食べた美味しいものは?

眞島 今朝、自分で作ったジンジャーポーク

↑眞島さん特製ジンジャーポーク弁当!

八木 絵を描かれる方って料理が趣味の方が多いですよね。

杉村 会社が浅草橋に引っ越して、周囲に洋食屋さんがいっぱいあるんですよ(笑)。私は「大吉」で食べたビーフシチューです!

八木 前回のインタビューで言った「娘の誕生日の時に奥さんが作ってくれたご飯」から変えたくないけど…(笑)。

一同 (笑)

八木 スクエニカフェで食べた『DQXI S』コラボメニュー「ヨッチのぷかぷかデミオムライス」です。これはもう写真も撮らなければいけないなと思いまして(笑)。

ドラゴンクエスト開発チームからプレゼント!

ヨッチ族「クルッチ」のかわいいマスコットぬいぐるみに、八木さんのサインを入れていただきました。これを抽選で1名様にプレゼント致します。
応募方法は、下記のニンドリ編集部の公式ツイッターアカウントをフォローし、こちらのつぶやきを「ツイッター」で「RT」してください。
・ニンテンドードリーム編集部(@nindori
・締め切り:5月31日(日)23時59分
締め切り後、当選候補者にDMにてご連絡します。期日中にその返答をいただくことで当選が確定となります。
※5月21日20時更新 ツイート先のURLに不備があったため、下記ツイートに変更致しました。
https://twitter.com/nindori/status/1263422411581476864

ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S 公式サイト

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