『大逆転裁判2』開発スタッフと回想する冒險浪漫談 Vol.1(2017年10月号より)

今回は『大逆転裁判2』の開発スタッフインタビューの再掲載をお届け。本インタビューは発売してからの全体的なお話をお訊きしていきます。また以前掲載した巧ディレクターのコラムのテーマついて、江城プロデューサーと塗アートディレクターにも同様に語っていただきました。じっくりとお楽しみください。

『大逆転裁判2』特集 開発スタッフと回想する冒險浪漫談
Vol.2 第1話 回想「弁護少女の覚醒と冒險」
Vol.3 第2話 回想「吾輩と霧の夜の回想」
Vol.4 第3話 回想「未来科学と亡霊の帰還」

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。
・ネタバレを含んでいます。

<プロフィール左から>

プロデューサー 江城元秀●シリーズプロデューサー。シリーズには『逆転裁判2 Best Price!』から参加。『逆転検事』シリーズ、『逆転裁判5』『逆転裁判6』を経て、『大逆転裁判』シリーズも本作から統括
ディレクター 巧舟●総監督にして『逆転裁判』シリーズの生みの親。『逆転裁判1』〜『逆転裁判3』をはじめ、『逆転裁判4』『ゴースト トリック』『レイトン教授VS逆転裁判』、『大逆転裁判』を手掛ける
アートディレクター 塗 和也●『逆転裁判 蘇る逆転』よりシリーズに参加。『逆転裁判4』や『レイトン教授VS逆転裁判』、『大逆転裁判』シリーズのキャラクターデザイン、アートディレクションを担当

複雑に絡み合った 事件の作り方

—— 今回のインタビューは発売後ですから、みなさんと各話を掘り下げながら振り返っていければと思っています。で、いきなり言わせていただきますけど、こんなの一回始めたら止められないですよ!

一同 (笑)

江城 止めどきがないというのは、シリーズの目指しているところなので良かったです。

—— とくに今回は、これまで以上にすべての話が複雑に絡み合っていて驚きました。

 ありがとうございます。今回は、当時の倫敦の風俗や文化を調べて、これはおもしろそうだと思ったことを軸に事件を作っていったので、独特の味になりましたね。例えば蝋人形館も、当時ベーカー街のすぐ近くに実際にあったりして。

—— 蝋人形館はマダム・タッソーが元ネタだったりするんですか?

 そうですね。ほかにも、第2話で起こる●●●●の事件なんかも、当時の倫敦で実際に起こったことなんです。そうやって、19世紀の倫敦で起こっていたことをもとに、シナリオを考えていったんですね。でも、とにかく事件が複雑に絡み合っているので、難易度の高いシナリオでした。

—— 時間軸の整理も大変そうだなぁと思いました。

江城 大変でした。チームのいろいろな部門が時間軸を徹底的にチェックしましたから。

 前作でキャラの発した一言がネックになったりしましたね。しかも、前作の時点ではその言葉はたいして重要じゃないのに、時間が特定できることを話していたりして。

 とくに漱石さんの第2話が大変でした。漱石さんがポロリと言ったセリフの整合性をとるために、大きく書き直すことになったり。前作の第4話に直接つながっている物語なので、とにかく制作の最後まで微調整が続きました。

—— よくこれがつながるなって感心しきりでした。

 そこは“覺悟”をもってやりきりました。

一同 (笑)

 真相はできていても、その配置が難しかったりします。例えば、ひとつの物語中に入れられる情報には限界がありますから。でも、なにしろ「すべての謎が解き明かされる」とポスターにも書いてありましたから、それを信じて書き上げました(笑)。

—— 江城さんはシナリオをどういった形で見ていくんですか?

江城 まずテキストで見て、それからゲームとして実装されたのを見て、といった感じでした。

 出来あがったエピソードごとにプレイしてもらいました。

江城 僕は初見ユーザーの目線でゲームをプレイして、わかりにくいポイントを「ここわからへんのちゃう」とか言っていく、さじ加減調整役でしたね。例えば「ここのヒントが足りない!」とか言うと、次のバージョンでは背景の絵やライティングが変わっていたりして、ユーザーの目がヒントにいきやすくなるような調整をしてくれていました。最終的に難易度はうまいバランスをとってくれましたよね。

前作を経たことで キャラクターが深まった

—— 前作以上にキャラたちがすごく生き生きとしているようにも感じました。

 ありがとうございます。そこについては、前作を遊んでくれた皆さんの反応も織りこんで調整しましたね。

—— とくに寿沙都がすごくかわいくなっている気がしました。

 お茶目な部分が増えましたよね。かわりに寿沙都投げが減ったかもしれません。

一同 (笑)

 こういうのは、「狙い」というより、自然に変化していきますね。やっぱり長い間彼らといると、関係性も変わって、やりとりが深まっていくし。寿沙都さんは、大和撫子とお茶目のバランスが今回で完成したのかな。バンジークスさんも、本当の彼がわかるのは本作だったりしますから、前作を経たことによる深みは増しましたよね。

—— たしかにそうかもしれないです。

 実は、正統派のキャラクターたちを書くのは難しいんです。ホームズさんとか漱石さんとか、突き抜けたキャラクターは何も考えずに書けるんですけど(笑)。

—— そのホームズも前作以上に頼れるというか、カッコいいと思いました。

 僕もそう思いました。実は前作が終わったとき、ユーザー目線で巧さんに前作で足りないと感じたところを伝えたんですよ。そのときにホームズに関しても「もうちょっと本来の頼れるカッコいいホームズ像を入れてほしい」って希望を出したんです。

—— それを巧さんがカッコよく仕上げてくれたわけですね!

 (首をひねりながら)ありがとうございます。

—— なんで首をひねるんですか!

一同 (笑)

 ホームズの見せ方に関するプランは自分の中にありました。僕としては、今回の物語の方向性に沿って、そう見えているというイメージです。

 たしかに見せ場がちゃんと用意されましたからね。

—— でも例えば“一日蝋人形”なんて、普通だと全然カッコよくないはずなんですけどね(笑)。

 それも含めてホームズさんなんですよね。本当にいろんな側面を持っていて、その核にある部分は見えないし、見せない。それが大探偵なのだと思います。

—— そういえば、前作発売後に原作のホームズファンからは何か反応がありましたか?

 ありましたね。逆に、『大逆転』をきっかけに原作のホームズを読むようになったっていう声も聞いています。本作の発売前に、待ちきれなくてホームズを読んで復習しているという声も聞いたりして、うれしかったですね。

 巧さんがゲーム中にあちこち入れ込んでる原作のホームズネタが結構あるので、事前に原作を読んでおくのも正解だと思います。

 たしかに、そうだね(笑)。

 『逆転裁判』って名前も特徴的な人が多いですが、その由来を想像して全くわからないときとかは、僕も巧さんに聞くんですけど、「原作にいるんだよ」という回答が何度かありましたし。

 ああ、あったね。ほかにも、もっと細かいマニアックなネタも結構入っています。もちろん、わからない方も普通に読めますけど、知っている人は楽しんでもらえると思います。

真実の向こう側まで突き抜ける推理を展開するシャーロック・ホームズ。本作でも大探偵として大活躍でした!

壮大な構想と新しい『逆転裁判』への重圧

—— シナリオはどのタイミングから構想されたものだったんですか?

江城 前作とも複雑に絡んでいるから気になりますよね。

 物語の構想は、前作の開発が始まった2013年の頭ぐらいから考え始めたんです。前作の開発当初「もうひとつの新しい『逆転裁判』を作る」というお題でスタートしたので、今思うと、とにかく気合が入りすぎていましたね。『逆転裁判123』に負けないもの、少なくとも並べて恥ずかしくないものにしなきゃいけないと思って、それが自分の中でどんどん大きくなっていきました。

—— 気負いともおっしゃっていましたね。

 ええ。構想もどんどん大きくなっていって。それで、当初はそれらをすべて一作に納めるつもりでいたんですが、あまりの分量に、制作途中で大きな方向転換をせざるを得なくなったんですね。ひとつのゲームとして、すべての事件を解決して、物語としてまとまったものにしようと。

江城 ただそうしたことで、事件は完結しているのですが、もともとの構想が壮大すぎたために、思ったよりも多く謎が残ってしまったんです。

—— たしかに事件は解決しましたけど、「ここで終わり!?」といった声もあったのは事実でした。

江城 ユーザーさんからの不満の声もたしかにありましたが、逆に「この続きが気になるから『大逆転2』を待っています」という期待の声もたくさんいただきました。そういった両方の声があったからこそ、プロデューサーとして『大逆転2』を立ち上げる覚悟が出来ました。

—— で、江城さん自ら今回は制作に入ることにしたと。

江城 プロジェクトを立ち上げるのは社内調整なども含めて本当に苦労しました。多くの方の協力のおかげで、命題として“すべての謎が解ける”を掲げて立ち上げることができました。だから、チームには何度も「絶対にすっきりさせてくれ」って言い続けましたね。結果、ちゃんとチームが仕上げてくれたので本当に良かったと思っています。

メインビジュアルについて

 前作のメインビジュアルは、“新しい『逆転裁判』”としてまずナンバリングと違う時代感や舞台、世界観を紹介する目的があり、背景も重要視して描きました。本作は続編なのと、“すべての謎が解ける”というキャッチコピーに象徴されるように、キャラクターに紐づくドラマの部分を主軸に押し出すべきだと思ったので、登場人物たちに焦点が当たるよう、群像劇的にキャラクターメインで構成しました。

江城 映画のポスターっぽいよね。

 そうですね。昔の映画ポスターが持っていた大作感をイメージしてます。あと地面から舞い上がる桜とか、ドラマを感じさせる要素を多層的に重ねて描きました。

—— 前作は散る桜でしたし。言えないですけど、キャラの構図も実は意味深なんですよね。

 クリアしてからじっくり見てもらっても新たな発見があったり、見え方が変わったり、楽しめるものになっているかなと思います。

—— 巧さんからは何か指示されましたか?

 いや、全面的に塗くんにお任せしていました。

 はい。仮面の従者を入れるかどうかを最初に江城さんと話したぐらいで、あとは僕の方で自由に描かせてもらっています。

—— 仮面の従者ですか。

 本作の物語的にはいないとどうしても不自然だったので「こんな感じで構図に入れたいんですけど」って言ったんですよ。

江城 露骨な入れ方は少し違うかなと思っていたので、そこだけは事前に確認しました。そうしたらバンジークスと対になる構図にしてくれたので、これだったらアクセントになっているんじゃないかなと思い、OKした記憶があります。


ここからインタビューは各話の回想・キャラクター誕生秘話に入っていきますが、今回は『大逆転裁判』時に巧ディレクターが書かれたコラムのテーマについて、江城さんと塗さんにもお聞きした内容をお届けします。


第1回 巧さんと“物語” を受けて
江城さんと塗さんの原点とは

—— 巧さんの物語の原点は「ドリトル先生」ということですが、塗さんの絵を描くことの原点は何でしょう?

 以前もお話ししたことがあるかもしれませんが、小さい頃、絵の上手いイトコが年賀状に当時流行っていた漫画のキャラクターを毎年描いて送ってくれていたんです。それがめちゃくちゃ上手くて。目の前にいるときなんかは、その場の僕のリクエストに応じて「アラレちゃん」であったり何でも描いてくれたりしたんですね。それが僕にとってはすごい魔法に見えたんです。

—— そのいとこは今、何をされているんですか?

 美術教師をしていますね。だから両親も絵とは関係ない仕事だったんですけど、そのイトコがオリジナルとそっくりな絵を目の前でサラッと描いてくれたという経験が、僕が絵を描くことに興味を持つ原点だったんじゃないかと思うんです。その後、真似して描き始めましたから。

—— 江城さんのゲーム作りの原点は?

江城 僕はこの業界に入った理由が、ゲームが好きでしょうがなかったからなんですね。で、最初にゲームと出会ったのは子供の頃で、テレビゲームもない時代のアナログゲームなんですよ。

—— 実際に玉を打ち出す「ピンボール」とか?

江城 そう。そのへんなんですよ。ピンボール台って、実際にギミックが動きますよね。小学校のとき、家の近くにピンボール台がたくさん置いてある店があって、銭湯帰りにそこに通っていたんです。そのギミックを見たときに、ゲームっておもしろいなぁと思っていたので、今思うと遊びを作るとかゲームを作る原点はそこちゃうかなぁと思います。


第2回 巧さんと“ホームズ氏”を受けて
江城さんと塗さんの出発点とは

—— お2人の「道」となる出発点は?

江城 僕の場合は『スペースインベーダー』が日本中でブームになったときに、パソコンでゲームをやりだしたんですね。当時、雑誌にプログラムのソースコードが書かれていたので、ゲームを遊びたいがためにそれをパソコンに打ち込んだりしていました。

—— 江城さんはプログラマー出身ですし、それが原点になると。

江城 ですね。プログラマーって「アルゴリズムを書くのが好き」みたいな、始めるきっかけがあると思うんです。でも僕の場合はただひたすらゲームをやりたいがために、プログラムを覚えだしたっていう。だから「道」となった原点は「ゲームやりたい!」それだけ(笑)。

—— ゲームが大好きだったんですね。

江城 カプコンに入った新人時代は、家に帰りたくなかったです。だって各フロアに開発中のゲームが置いてあるわけですよ。自分の好きなものが見放題だし、遊び放題なんで、こんな夢のような場所はないと思ってました(笑)。

 たしかに、僕も新人の頃は絵を描いているだけでお金がもらえるなんて、ずっと会社にいれるって思ってましたね(笑)。学生時代は、何より勉強をしなきゃいけないじゃないですか。好きなことだけずっとやっていてもいいんだと、幸せを感じていた時期はありました。

—— そんな塗さんの「道」の原点って何でしょう?

 自分の絵の基本として大きかったのは、やっぱり小学校のときに描いていたオリジナルの漫画かなぁ。

—— たしか、漫画を描いてはクラスで配っていたんでしたっけ?

 回し読みされてました。全13巻でちゃんと完結したんです。

 それはかなり長編だね。

 学校の図書館に「入荷してほしい本」ってリクエストがあるじゃないですか。そこに僕の漫画の名前がずらっとあったんです(笑)。だから、出発点はそこなんじゃないかと思います。


第3回 巧さんと“マジック”を受けて
江城さんと塗さんを彩る趣味とは

—— 巧さんを彩る濃い色のひとつがマジックというお話ですが、お2人を彩る趣味はなんでしょう?

 旅行だったんですけど、ここ数年忙しすぎて……完全に失われた趣味に。

一同 (笑)

 ヨーロッパが特に好きでチェコとかアイルランドとか、過去には倫敦にも行きました。実際体感するとやはり自分の絵にもすごく影響するんですよ。だから空気感や文化とか、そういった特徴のあるところに行きたかったんです。バリ島もそうですけど、レジャーとかバカンスというよりは、その国独自の文化や歴史の重みなどを感じられるところを中心に旅行していました。

—— めっちゃアーティストで、カッコいい理由じゃないですか!

江城 ほんまや(笑)。

 でも、最近の気持ちは、疲れた〜バカンスしたい! です。

一同 (笑)

—— 江城さんはいかがですか?

江城 僕は最近始めたゴルフですね。それまでゴルフだけはやるのを避けていたんです。ゴルフって、スポーツというよりも、接待とかの仕事臭がしていたので。ただ仲間うちにやっている人もいて、話をしていくなかで「そろそろ始めないとな」と。やりだしたら、すごくハマってしまいました。

—— プロデューサーの趣味がゴルフって、なんか字面は完璧ですね。

一同 (笑)

江城 ゴルフはすべてに理屈があるところがいいんです。「置いてある小さいボールを打つなんて楽勝」って思っていたんですけど、全然違っていたんですよね。ゲームでいう攻略じゃないですけど、突き詰めていくと奥が深いんです。って、まだまだその域まで達していないんですけど(笑)。めっちゃいいですよ。


第4回 巧さんと“ゲーム”を受けて
江城さんと塗さんがハマったゲームとは

—— 皆さんの好きなゲームジャンルであったり、ハマったゲームの原点は?

 僕はファミコン版の『ロードランナー』ですね。というのも、当時はこれ1本あれば一生遊べると本気で思っていたので(笑)。

—— どんなところが?

 コースエディット機能ですね。自分で無限に面を作れるんだったら、一生遊べるだろうと。同時にその頃から何か作って、人に遊んでもらう喜びみたいなものも感じてました。そういえば、わりと最近になってからも『ロードランナー』を久々にプレイしてクリアしたんですが、グラフィックや音楽を含めてあらためてよくできてたんだなぁって思いました。だから僕にとってファミコン版『ロードランナー』は大きいですね。それから、その後に「ファミリーベーシック」を買ってもらいまして。

 あれ、買ってもらったんだ。

 親もそういった“お勉強系”はすっと買ってくれたんです(笑)。江城さんがゲームを遊ぶためにプログラムを打ち込むという話をしていましたけど、僕はグラフィックというか、なにより世界を作りたかったんですよね。マリオが走るお城とか、そのために一時期、熱中してプログラムとかも勉強していました。

—— 巧さんはコラムでカセットビジョンの『きこりの与作』についても書かれていますね。

江城 懐かしいなぁ。僕も移植版じゃなくて、オリジナルのアーケード版『与作』をやってましたよ。

 それはすごいですね!

—— 江城さんのジャンルの原点って、大枠だとアーケードなんでしょうね。

江城 ですね。ただ具体的にいうと、昔のアーケードってシューティングゲームがすごく多かったんで、ジャンル的にはシューティングになるんでしょうね。それで、パソコンを自分でやるようになってからは、僕もアドベンチャーなんじゃないかな。『MYSTERY HOUSE』ももちろんやりましたし、自分で打ち込むテキストアドベンチャー系はひと通り遊んでいたように思います。


第5回 巧さんと“逆転裁判”を受けて
江城さんと塗さんにとって『逆転裁判』とは

 『逆転裁判』は、シナリオ面はもちろんですが、おもしろい動きや感情表現といった表情部分も含めてキャラクターの絵に対してもすごく注目を集めるゲームですよね。例えばアクションゲームなら、キャラクター以外にも操作など、爽快感やエフェクトであったりと、ゲームとして重視されるところがいろいろとあると思うんですけど、『逆転裁判』はアドベンチャーゲームなので、それらよりも純粋にキャラクターの絵自体から得る情報の責任が大きいと思うんです。そういう意味でも、デザイナーとしては、大変ではあるんですけど“やりがいのあるゲームである”と。現在はコンシューマではこういったゲームも少なくなってきているので特にそう思います。

—— 巧さんと塗さんのタッグも長いですよね。

 2005年に発売した『蘇る逆転』からなので、10年以上だもんね。

—— 巧さんが「塗くんにお任せ」って言えるのは、そういった長年の蓄積からくる信頼の部分も大きいんでしょうね。

 それは本当にそうです。

 今はもう任せてもらっていますが、『蘇る逆転』の頃は、それこそ鞄などの小物ひとつでも山ほどパターンを描いて、チェックしてもらっていました。

 ああ、茜ちゃんの鞄とか。

 ええ。そういったお互いの信頼関係も含めて変わってきたのかなと思います。だから、絵描きとしてはやりがいのあるタフな仕事です。……大変ですけど。

 「大変です」が必ず入るのね。

一同 (笑)

江城 僕は『逆転裁判』って、ある意味カプコンだからこそできたのかなって思っているんです。カプコンはずっとアクションを作ってきたので、ゲームのレスポンスとか手触りを重要視するんですね。でも、アドベンチャーってあまりそこと近しくないものじゃないですか。でも、『逆転裁判』はそれが融合されている。アドベンチャーなのに気持ち良さにここまでこだわって作っているのは、社風や作り方の考え方がないとできなかったんじゃないかと思うんです。


最後に『大逆転裁判2』での挑戦とメッセージ

—— コラムの最終回で『大逆転裁判』はさまざまな挑戦をしたというお話がありましたが、『大逆転裁判2』での挑戦を含み、最後に読者へのメッセージをお願いできればと思います。

 僕たちは『大逆転裁判』『大逆転裁判2』と、4〜5年かけて作ってきました。先ほども話しましたが、新たな『逆転裁判』を一から作るチャンスだったので、それこそ『逆転裁判123』に恥じない、自分の中での最高のゲームを作りたいと考えていました。その思いが強すぎて、前作ではそれが暴走してしまったり、そのぶんの苦しみも味わいました。でも今回はチーム一同、サブタイトルどおり、“覺悟”を持って臨んで、僕としては今作れる最高の形のものになったと思っています。企画当初は、「原点回帰」と考えたこともあったのですが、やはり元には戻れないし、戻るべきでもないなと思い直しました。そして、今だから作れるもの、今しか作れないものを、という気持ちで、作り手としてやりきったつもりです。みなさんに楽しんでいただいていることを祈っています。

—— 巧さんの口からそういった達成感のような言葉をお聞きするのは久しぶりのような気がします。

 あれ、そうですか(笑)。最終的にいつもそうなんですけど、今回も、当初自分が想定していたものを超えた完成形になったな、と思っています。本当にいろいろあったんですけど、その結果、作り手としては幸せというか、達成感というか……もはや「業」ですね、これは(笑)。

 僕も『逆転』シリーズは長くやってきましたが、その中でも今作は集大成というか、全部を出しきったものになったのかなと思っています。「新しい『逆転裁判』の地盤を作る!」という気概で、僕としては『大逆転裁判』という1と2を併せたひとくくりの大きなコンテンツとして、全体で考えて作ってきた数年間でした。ただ前作では絵的には想定したものをなんとか達成することができて、やりきりはしたんですけど、コンテンツとしての全体のまとまりという意味では足りなかったのか……という想いがあったのも事実だったんです。ですので、今回の『大逆転2』は、前作で支持された部分はその期待を上回るように伸ばしつつ、弱い部分は重点的につぶして、世界観としてはさらに拡がりを持たせたいと思ったんですね。今作はこんな要素もこの世界にはあるんだよ、という新要素も含めてなんとか詰め込むことができたので、今はほっとしているという気持ちが強いです。前作と合わせて『大逆転裁判』という大きなコンテンツを存分に楽しんでいただけるんじゃないかと思いますし、本作を遊んでから前作に戻ってもらっても、また楽しめるような深みが増したとも考えています。

 自分で言うのもなんですが、絶対、前作もやりたくなると思います。

—— 今まさに、前作をやり直している人もいると思います。そして、前作がより深くなるような盛り込みが本作にはたくさんありました。

 やっぱりクリエイターとしては、気持ちの面で前作よりも上回ったものを作りたいので、必然的に前作がハードルとして立ちはだかるんですよね。

 そうだね。それを越えていかなければならない。

 とはいえ、年々大変な側面も増してるんですけど。

江城 歳もとってきてな(笑)。

 加えて、取り巻く環境的にむしろどんどん厳しくなってきてますし。でもそういう事情は期待して待ってくださっているユーザーさんにはまったく関係ないことなので、逆にそうした部分を微塵も感じさせないように、もっともっと盛ってクオリティ上げてやる! と外圧に抗うような気持ちで魂を削ってやってきました。……ほんとギリギリでしたけど。

 たしかに、いつもギリギリですね。ここまでキャリアを重ねてくると、もはや「好き」とか「楽しい」なんて超越していますね、個人的には。

 だから本当に「業」なんだと思います。「もしかして終わらないんじゃないか!?」「描くの辛くなってきた」って何度思ったことか(笑)。

—— 新人の頃は「好きなことをずっとやっていていいんだ」って思っていたけれどと。

 大人になってしまいました(笑)。

一同 (笑)

 でも今回は、そんな制作環境の中でも前作を越えて、僕らがいちばん良いと思えるものをお届けできたのではないかと思っています。

—— では江城さんお願いします。

江城 彼らは「業」とか言っていますが、『大逆転裁判』というのは、それぐらい大きなチャレンジだったと思うんです。「新しい『逆転裁判』を作れ」と言われ、しかもそれを作った本人がやるというのはすごいプレッシャーだったと思うんです。僕は前作には関わっていませんが、プレイヤーとして遊んでみたときに、やっぱり巧たちの想いが詰まっているゲームだなと感じたんです。その思いをゲームを通して受けて、これは絶対に『2』を作らないといけないと思ったし、ユーザーさんの気持ちとしても必要だなというのがありました。どうにかしてタイトルを立ち上げたい、でもそれにはチームの作りたいという思いだけではどうにもならなくて、さまざまな承認を得たり、クリアしなければならないハードルがありました。僕はそれを実現すべく、担当として立場的に本当にいろんなところにアクションをしていき、結果ほかの部署のいろいろな人たちが協力をしてくれて、このタイトルを出すことができるようになったんです。制作中もチームに「いろいろな人たちの思いがあるから頑張ってくれよ」と言い続けたほどです。ただ、そういったギリギリのなかでしたから、チームには厳しい制限をかけることになったんです。

 (小声で)大変でしたよ。

 (小声で)ええ。

一同 (笑)

江城 あまりインタビューなどでは話していないんですが、スケジュールはもちろん本当に厳しい制限をかけたんです。おそらく巧や塗は、これまで受けたことのないような制約の中でゲーム作りをしたんですけど、そこをいろんな工夫で乗り越えてくれました。だから僕はタイトルを出すための挑戦、チームは制限のなかでの制作といった挑戦があったんです。なので、もうクリアしたユーザーさんにも、ぜひ2周目、3周目と遊んでいただけるとうれしいです。そして、本当に自信がありますので、まだ手に取っていらっしゃらない方がいるのなら、可能なら前作と合わせて遊んでいただけると、より『大逆転裁判』の世界を楽しめると思います。ぜひ、よろしくお願い致します!


関連リンク
大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險- 公式サイト
大逆転裁判2-成歩堂龍ノ介の覺悟- 公式サイト
逆転裁判シリーズ 公式サイト


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