『大逆転裁判』“巧ディレクターの出会いのコラム” 第2回「巧さんとホームズ氏」(2015年10月号より)

『逆転裁判』『大逆転裁判』シリーズの生みの親であるカプコンの巧舟さんが、『大逆転裁判』発売時にニンテンドードリーム誌上で連載していたコラム「タクミさんのササヤカな冒險」を再掲載。
巧ディレクターの“出会い”をテーマにした全6回、どうぞお楽しみください。

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。

第1回 巧さんと“物語”
第3回 巧さんと“マジック”
第4回 巧さんと“ゲーム”
第5回 巧さんと“逆転裁判”
最終回 巧さんと“逆転裁判 その2”


第2回 巧さんと“ホームズ氏”

 こんにちは。今回のお題は“ホームズ氏との出会い”…これはぼくにとって“ミステリーとの出会い”であり、つまるところ、現在の自分につながる「道」の出発点となった、まさに運命的な事件だったりします。

 シャーロック・ホームズといえば、その名前を知らぬ者はない“有名人”。今から100年以上も前に書かれた小説の主人公ですが、いまも映画化されたりドラマ化されたり、ある時はイヌのアニメになってみたり、またある時はゲームに出演してビミョーにズレた名推理を繰り出してみたり…とにかくいつの時代も、異様な大人気っぷりのキャラクターですね。オリジナルの「シャーロック・ホームズ」の物語は、全部で60編。長編が4つと、短編集が5冊。19世紀末の全世界に、ミステリー…いわゆる「推理小説」の魅力を知らしめた、偉大な作品群。

 そこには、“意外な犯人”はもちろん、“意外な犯行方法”“意外な凶器”“不可能犯罪”“暗号解読”“日常に潜む謎”“犯人のウラをかく逆転劇”…などなど、あらゆるミステリーの原型が網羅されていて、とにかく幅が広い。そして、その魅力の核にあるのは言うまでもなく、ホームズさん自身のキャラクター。依頼人を一目見るだけで、その職業から生活まで、すべて推理で見抜いてしまうという神のごとき名探偵なのに、実は社会不適応者スレスレの奇人っぷりという意外性…いやもう、これは読むしかありません。ちなみに長編は、個人的にちょっと退屈だったので、オススメは短編集…それも、年代順がよいと思います。

 さて。ぼくが、この驚くべき社会不適応者スレスレの奇人氏と運命の出会いを果たしたのは、中学1年生のことだったのですが…思えば、その“出会い”は、ストレートなものではありませんでした。今回は、そのあたりのハナシをしてみたいと思います。キッカケは、小学生のころ…今ではどうか知らないのですが、ぼくが小さいころは、学校の図書室の本棚に、江戸川乱歩の「少年探偵団」と、南洋一郎訳の「怪盗ルパン」のシリーズが意味ありげにズラリと並んでいるのが定番で、本好きな少年にとって、非常に気になる存在でした。

 でも…タクミ少年は、乱歩さんの本を手に取ることはできませんでした。なにしろ表紙の絵が不気味。題名も《怪人二十面相》《蜘蛛男》《電人M》《仮面の恐怖王》…ヤケにオドロオドロしく、不用意に表紙を見て、くだんの怪人やら電人と目が合うのが非常にイヤだったという…一方ルパンのほうは《奇巌城》《怪盗紳士》《813の謎》と、題名がカッコよかったのと…当時「ルパン三世」が大好きで、もしかしたら出てくるかも…と、意味不明の淡い期待を抱いていたタクミ少年は、ある日、両親に連れられて本屋さんへ。そこで選んだ最初の1冊が、シリーズ第9巻「怪盗対名探偵」でした。今でも大切に持っている、まさに“思い出”の1冊で…怪盗アルセーヌ・ルパンと、イギリスの誇る名探偵シャーロック・ホームズが対決するという、夢のような物語。当時のタクミ少年も「ホームズ」の名前は知っていたので、両方出てくるのは“お得”だと思ったわけです。

 残念ながら“三世”は出てこなかったものの、ワクワクしながら読んだ物語はトテモ面白かったのですが…ひとつ、問題が。怪盗と名探偵の、胸おどる死闘の物語…それを書いたのは、ルパンの作者。したがって、ココロなしか…というかアキラカに、物語はルパン有利に展開。ホームズ氏は他の「ルパン」シリーズにも顔を出して、怪盗を追いつめるのですが…、最後に思わず手元が狂ってルパンの恋人の美少女を撃ち殺してしまうというヘマを演じて、ルパンに馬乗りで殴られ、「すまない、ルパン」なんてショゲてみたり…とにかく、いいところがありません。タクミ少年も「なにしてんだホームズ」と舌打ちするばかり。

 …どうやら当時、ルパンの作者が、ホームズの作者に無断で名探偵を登場させていたそうで…「怪盗の作者は、やっぱり怪盗」という、なかなか味わい深いエピソードが隠されていたようです。恐らく当時、そんなカタチでホームズさんを知った子供たちは多かったのではないかと思うのですが…ともあれ。「ルパン」シリーズをひととおり読んだ後、大人向けの文庫本で読んだホンモノのホームズさんは、ホンモノの輝きでタクミ少年を圧倒することになったのです。

 ホームズさんがらみの思い出をもうひとつ。じつは、ぼくが人生で初めて書いた“物語”は「ホームズもの」でした。中学3年生の夏休み、宿題の課題で「自由作文」があったのですが…まわりのみんなが家族と遊びに行った思い出とか、読書感想文なんかを書く中…当時のタクミ少年は何を思ったか「そうだ、ホームズの物語を書こう!」となったのです。平穏な天国での生活に退屈した名探偵ホームズが、友人ワトソンを連れて天国を脱走、現代のロンドンに舞い戻る…という原稿用紙5枚の短編で、タイトルは「名探偵の犯罪」。…どうも当時から、ぼくのホームズさんの扱い方にはモンダイがあったようです。それはともかく、担任の先生が気に入ってくれて、「優秀作品」として推薦されることに。当時、県内の小・中学校から選抜された作文をまとめた文集が、年に一度、刊行されていたのですが…優等生的な作文が整然と並ぶ中、アキラカに毛色の違う「ホームズもの」だけ異様に浮いていたのが、個人的には“してやったり”の感じもあって、いい思い出です。

 …それ以降、物語を書くのが趣味になって、今に至る…とはならず、なぜあのとき、突然あんなものを書く気になったのかは永遠のミステリー。でも、今思えば、やはり「書く」ことが好きだったのかもしれません。そういう意味でも…やはりホームズ氏は、自分にとって《原点》なのだろうな…と思います。

巧さんが今でも大事に持っているという「怪盗対名探偵」と、右上に中3の文字が輝く文集「かりがね」

そして巧さんの処女作!?「名探偵の犯罪」。続きが読みたい!


第1回 巧さんと“物語”
第3回 巧さんと“マジック”
第4回 巧さんと“ゲーム”
第5回 巧さんと“逆転裁判”
最終回 巧さんと“逆転裁判 その2”


関連リンク
大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險- 公式サイト
大逆転裁判2-成歩堂龍ノ介の覺悟- 公式サイト
逆転裁判シリーズ 公式サイト


©CAPCOM CO., LTD. 2015 ALL RIGHTS RESERVED.

トップへ戻る