『大逆転裁判』“巧ディレクターの出会いのコラム” 第1回「巧さんと物語」(2015年9月号より)

『逆転裁判』『大逆転裁判』シリーズの生みの親であるカプコンの巧舟さんが、『大逆転裁判』発売時にニンテンドードリーム誌上で連載していたコラム「タクミさんのササヤカな冒險」を再掲載。
巧ディレクターの“出会い”をテーマにした全6回、どうぞお楽しみください。

・記事は修正している箇所もありますが、基本は掲載時と同じものになります。

第2回 巧さんと“ホームズ氏”
第3回 巧さんと“マジック”
第4回 巧さんと“ゲーム”
第5回 巧さんと“逆転裁判”
最終回 巧さんと“逆転裁判 その2”


第1回 巧さんと“物語”

 こんにちは。《大逆転裁判》チームのタクミです。
これからなんと6回にわたって、これまたなんと“作り手”としての自分の「ルーツ」あれこれについて(あくまで“ためらいがちに”)お話しするという、かなり思い上がった企画を始めることになりました。おつきあいいただけるとサイワイです。

 さて。ついに先日7月9日《大逆転裁判》が発売になりました!
コチラ、手にとっていただけると、さらにサイワイなのですが…それはともかく。《大逆転》の“原点”は、今から15年前に作った《逆転裁判》。7人という少人数の制作チームだったので、ひとりでゲームの仕組みを考えて、脚本を書いて、監督をして…そんなスタイルが“必然”だったのですが…その作り方が定着して、今回の《大逆転裁判》まで(一部例外はありますが)基本的にゲームデザインと監督、シナリオ、ひっくるめて担当しています。そのため、ぼくには「ゲームを作るヒト」「物語を書くヒト」の2つのカオがあり…しかも、どうやら「書くヒト」のほうが強めに認識されているような気がします。ありがたいことですが、不思議な気分でもあったりして…というのも、カプコンは“ゲーム”を作る会社であり、ぼく自身、物語を書くために専門的な勉強をしたことがありません。だから、いまだに自分が“プロの書き手”である実感がないような…。
そんなぼくに「物語のなんたるか」を教えてくれたのは、小さい頃から読んできた《物語》の蓄積であり…今回は、ぼくの“書く”ことに大きな影響を与えた、その《原点》についてお話ししてみたいと思います。

 今から100年ほど前に書かれたイギリスの児童文学「ドリトル先生」というシリーズをご存じでしょうか。主人公のドリトル先生は、あらゆる動物の言語を独学で習得、全世界のあらゆる動物たちから猛烈に慕われている、変わり者のお医者さん。動物の仲間と一緒に船に乗って大冒険をしてみたり、動物たちのサーカスやオペラをやってみたり…長編から短編まで、全12作の物語。なんのキッカケで手にとったのかは忘れてしまいましたが、これがぼくにとって、最初の物語体験でした。当時、小学生だったタクミ少年は、この世界をすっかり気に入って全巻を読破。忘れられぬ《原体験》になったのです。
ちなみに、古い作品のため、すでに著作権が切れたようで、最近、さまざまな出版社から新訳などが刊行されているのですが…あくまで個人的には、岩波書店版の全集…井伏鱒二訳の、古めかしいけどあたたかい文章と、原作者自身が描いた独特なイラストに彩られたあの世界だけが本物の「ドリトル先生」である…という、強烈なコダワリがあります。

 じつは去年の11月、《大逆転》最終話の執筆が佳境のとき。いわゆる“心労”も頂点に達していた時期だったと思われるのですが…突然思い立って、子供の頃に買えなかった「ドリトル先生」ハードカバー版の全集を衝動的にオトナ買い、数十年ぶりに読み返してみました。中央刑事裁判所の大法廷で繰り広げられる複雑な怪事件と格闘したあと、寝る前のヒトトキ、装丁も美しい本を開いて、子供向けの他愛のない物語に夜な夜な癒されていたという…そして、それとともに、やはりここに自分の《原点》があるのだな…と、改めて感じました。
たとえば、ぼくの文章は「言葉づかいが独特」「なんとなく古い感じ」「読みやすい日本語」なんて言われるようですが…ここにも「ドリトル先生」の影響を感じます。ぼくが読んでいた当時、すでに“古典”だったのですが、なんというか、古風な言い回しには、それ以上は古びることのない揺るぎない安心感があって…何度も読むうち、その文章のリズムが体内に刻みこまれていたようです。そういえば、《ゴースト トリック》に登場するポメラニアン、ミサイル氏のセリフまわし…「ボクこそ、かのミサイルですとも!」…なんかも、そのルーツはこのへんにあるような…。

 また、思えばこの「ドリトル先生」には、その後のぼくの人生を決定づけるキッカケが潜んでいました。言うまでもなくそれは“ミステリー”なのですが…どうやら、原作者のヒュー・ロフティングさんは、“推理もの”…もっと言えば、「シャーロック・ホームズ」が大好きだったのではないかしら…と思われます。「ドリトル先生」のエピソードには、見逃せない“本格ミステリー”要素がチラホラ見受けられ、しかも、これがなかなかよくできているのです。ドリトル先生は、動物と話せる、いわば“特殊能力者”。そのチカラを使って、ふつうの名探偵とはマッタク違うアプローチで真相に迫ります。たとえば、「ホームズ」「ドリトル先生」の両方で、名馬が失踪する事件が起こるのですが、その解決方法はマッタク違います。

◎ホームズさんの場合
名馬が失踪→事件現場を調査→手がかりから犯人を推理→犯人の供述から名馬を発見→解決

◎ドリトル先生の場合
名馬が失踪→世界中の小鳥に頼んで空から捜索→名馬を発見→名馬本人から事情を聞く→犯人を特定→解決

 …ドリトル先生、探偵としては反則ぎみです。引き出しに隠された小さなカギを白ネズミが盗み出したり、フクロウの夜目や犬の嗅覚を駆使したり…なんだかこれでゲームが作れそうな夢とアイデアが詰まっていたりして。ともあれ。はじめて“怪事件の謎を解く”面白さと出会い、いずれ“ミステリー”の世界へつながる、その《原体験》が、ここにあったという…やはり、最初の出会いは、思った以上に影響力が強いようです。これがキッカケとなって、小さい頃は、とにかく本をよく読んでいたのですが…まさか、それが将来“おシゴト”として役に立つ日が来るとは。人生、何が起こるかわかりません。

 さて。今回は“物語との出会い”ということで、いろいろな作品についてお話ししようと思っていたのですが…なんと、「ドリトル先生」を紹介しただけでオシマイ。ジックリ語ると、こんな感じなのか…そんな感触を胸に、連載第1回は“ようす見”ということで終わりたいと思います。それでは、また次回。お会いしましょう!

巧さん私物の「ドリトル先生」シリーズ。両脇を「シャーロック・ホームズ」で挟んでありますが、どちらも同じ本のようにも見える…。巧さんのTwitterを見ればその理由がわかるかも!?

 


第2回 巧さんと“ホームズ氏”
第3回 巧さんと“マジック”
第4回 巧さんと“ゲーム”
第5回 巧さんと“逆転裁判”
最終回 巧さんと“逆転裁判 その2”

 


関連リンク
大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險- 公式サイト
大逆転裁判2-成歩堂龍ノ介の覺悟- 公式サイト
逆転裁判シリーズ 公式サイト


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