[前編] パラノマサイト×都市伝説解体センター|プロデューサー&ディレクターと解き明かす共通点と相違点
アドベンチャーゲームというジャンルにインパクトを与え、多くのファンを獲得した2作品に注目。『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』と『都市伝説解体センター』両タイトルのプロデューサー、ディレクターによる対談企画を2記事にわたってお届けします。
※本座談会は2025年7月に収録されたものです。現在、『パラノマサイト』2作目『パラノマサイト FILE38 伊勢人魚物語』および『都市伝説解体センター』1周年企画が発表となっています。
(本記事は「ニンテンドードリーム」2025年12月号に掲載したものを再編集したものです)
目次
タイトル紹介/プロフィール
今回の企画のために、こちらの4名に集まっていただきました。

パラノマサイト FILE23 本所七不思議
天球(パノラマ)視点の背景と、キャクター登場時の演出が特徴的です。
開発者プロフィール

ディレクター 石山 貴也さん(左)
スクウェア・エニックス所属。『パラノマサイト』でディレクターおよびシナリオを担当。過去作に『スクールガールストライカーズ』や『探偵・癸生川凌介事件譚』(株式会社And Joy作品)など。
プロデューサー 奥州 一馬さん(右)
スクウェア・エニックス所属。『パラノマサイト』ではプロデューサーを担当。過去に『インペリアル サガ』『インペリアル サガ エクリプス』などを手掛ける。
都市伝説解体センター
開発者プロフィール

プロデューサー 林 真理さん(左)
集英社ゲームズ所属、シニアプロデューサー。『都市伝説解体センター』でプロデューサーを務める。他にも『シュレディンガー・コール』『キャプテン・ベルベット・メテオ』などを手掛ける。
ディレクター ハフハフ・おでーんさん(右)
インディー開発チーム「墓場文庫」のクリエイター。『都市伝説解体センター』でグラフィッカー、ゲームデザインを担当。他グラフィッカーとして『World for Two』、アートディレクターとして『OU』にも参加している。
プロデューサー&ディレクター座談会 前編
ともに、ゲーム大賞優秀賞を受賞するなどユーザーから大きな支持を得て、近年のアドベンチャーブームを牽引した2タイトル。
前編では、まずは集まっていただいた皆さんの関係性をうかがいながら、それぞれのタイトルについて成り立ちから紐解いていきます。

両チームお互いの面識は?
―― 今回、2タイトルそれぞれのプロデューサーとディレクターが対面しての座談会となりますが、皆さん既に面識はおありでしょうか?
林 僕は奥州さんとは何回かだけお会いしています。『都市伝説解体センター』を出す前に、東京ゲームショウの会場でご挨拶したのが最初です。
奥州 『パラノマサイト』を出したあとのタイミングですね。

林 その後、集英社ゲームズのスタッフがスクウェア・エニックス(以下スクエニ)さんにご挨拶に行くというので、僕もいっしょにうかがって、「今こんなゲームを作ってます」という話をさせてもらいました。もちろん、スクエニさんにお話を通しておく必要があるとかそういうことではないんですけど。
―― では、お互いアドベンチャーゲームのプロデューサー同士という関係性からの始まりですね。
奥州 そうなります。
林 それからゲームの発売後には、うちのプロデューサーたちを連れて奥州さんと飲みに行きましたね。
奥州 はい。そこで『都市伝説解体センター』について、ざっくばらんにですがいろいろと聞けました。
―― その場には石山さんやおでーんさんは同席してなくて…と。
石山 はい。プロデューサー同士の会ということで、僕は「ヒットの秘密を聞き出してこい!」って奥州を送り出しました(笑)。
おでーん 僕もふだんは神戸にいることもあって、おふたりとは今回が完全に初対面なんです。
石山 あ。初対面ですけど、ハフハフ・おでーんさんのお名前は『都市伝説解体センター』より前から知ってまして。
おでーん そうなんですか?
石山 僕のなかではおでーんさんといえば、“『OU』の作者である幸田御魚さんがSNSに上げていたエッセイ漫画に出てきた人”という認識でした(笑)。
おでーん あそこからですか!
幸田御魚さん原作のアドベンチャーゲーム(Nintendo Switch 他)。ゲーム中のグラフィックもすべて幸田さんの手によるボールペンのイラストが使用されている。ジー・モードより発売中。

石山 変わった名前だし、漫画でもおでんの姿で描かれていたのが印象的で覚えていたんです。

石山 そのあと『都市伝説解体センター』が話題になって、お名前を見かけて「あっ、あの!」と。しかも僕とほぼ同い歳だったということで、一方的にご縁を感じています(笑)。
独学でスタート!墓場文庫の制作体制
おでーん 僕たち、『都市伝説解体センター』の開発中に林さんから直々に言われたんです。『パラノマサイト』をすぐやれ、お前らみたいなもんはちゃんとこれ見て勉強しろ! って。
石山 そんな言いかたをされる関係なんですか?
おでーん そうです!
林 そんな言いかたはしていません(笑)。
一同 (笑)
林 『パラノマサイト』のヒットを目の当たりにして、なんとかこれと戦える土俵まで登り詰めなきゃって思いながら作っていました。
石山 『都市伝説解体センター』はメインスタッフが4名と聞いたんですが本当ですか? 自分も携帯アプリを3人ぐらいで作ることはありましたが、4人体制で家庭用ゲームを1本作るってすごいことだよな、と。
おでーん 墓場文庫としては、僕と、プログラマーのMOCHIKIN(モチキン)と、シナリオ・キャラデザインのきっきゃわー、音楽のあだPの4人という構成になります。けど制作自体はいろんな人にお手伝いしてもらっていて、フリーのドット絵クリエイターさんとか、総勢5人くらいが参加してくれました。


林 それも集英社ゲームズが開発者を見つけてくるわけではなくて、墓場文庫から直接声を掛けたり、クリエイター同士の飲みの席で話したら仲間内に広がって手伝ってくれることになったり、そういう墓場文庫の交流範囲でお願いした方たちですね。
おでーん はい。できるなら自分たちが好きな人といっしょに仕事したいっていう気持ちがあるので。
石山 インディーズ業界には詳しくないんですが、「ちょっと手伝って」っていうことはよくあるものなんですか?
おでーん そうですね。僕らはなんだかんだで2017年ぐらいから活動しているんで、横のつながりが増えてきました。ディスコード(※)やSNS上で仲良くなることも多かったですし、ドッターさんのネットワークがあったりもするんです。
※ディスコード:ネット上に仲間と共有のスペースが作れるコミュニケーションツール。テキストメッセージによるチャットや音声通話、画面共有などができる
奥州 オンラインツールを活用されてるんですね。
林 おでーんさんが『OU』を手伝っていたのもそういう流れですよね。
石山 なるほど。それも、個人的に頼まれて参加してたんですか?
おでーん はい。『OU』を開発したroom6さんとは、僕たちがインディーの開発を始めたころからずっとお付き合いさせてもらっているんです。なので『都市伝説解体センター』の制作も手伝ってもらっています。
奥州 集英社ゲームズさんといっしょに始めたのはどこからなんですか?
おでーん 『和階堂真の事件簿 – 処刑人の楔』をリリースして、それをエントリーしたGoogle Play | Indie Games Festival 2021で賞をもらったことがきっかけですね。
『和階堂真の事件簿』シリーズ第1弾。ドット絵で描かれたポイント&クリック形式ミステリーアドベンチャーゲーム。iPhoneならびにAndroid版が2020年9月に無料でリリースされた。その後Switchなどに移植されている。

林 まだ集英社ゲームズができる前なので集英社として賞を出していたんですが、その担当が僕と森(通治さん)で(※)。受賞した墓場文庫さんが後日集英社に来られたときに「なにかいっしょにやりましょう」と言ったのがスタートですね。
※森通治さん:集英社ゲームズ 執行役員 事業推進/経営管理統括
おでーん ですので、まだまだ僕らはひよっこだ、と思いながらやってます。そもそも墓場文庫には、ゲーム開発会社出身の人間がいないんですよ。
石山 えっ。ゲームの作り方をどこかで学んだとかではなく、全部独学で?
おでーん はい、見よう見まねで作りました。
石山 へええ。プログラマーの方も、ゲームプログラムをイチから覚えたんですか?
おでーん そうです。僕らは2016年のBitSummit(※)に初めて行ったんですが、そこで知り合いがゲームを作っているのに触発されて、軽はずみにゲーム開発を始めたんです。モチキンと2人でやってたんですけど、付き合いが長いので馴れ合いになっちゃって、頓挫することも多かったんですよ。
そんなころ、「墓場」っていうディスコードのスペースがありまして。そこに集まっているクリエイターのなかから知人がお手伝いをしてくれたんです。それで『和階堂真の事件簿』(スカシウマラボ名義)というゲームを完成させることができました。
※BitSummit:毎年京都で開催されている日本最大級のインディーゲームの祭典
石山 初めてで、そこまで作ったんですか!
おでーん そうです。それ以降、スペースの名前をとって「墓場文庫」の名義で活動しています。僕がドット絵を描くようになったのもそこからなので、開発歴はまだ10年未満なんです。
想像を絶する少人数体制
林 『パラノマサイト』のおふたりはどんなきっかけの出会いなんですか?
石山 僕が新しいプロジェクトをやるって話になったときに、担当プロデューサーを指名することになったんです。
奥州 プレゼン会じゃないですけど、何人かの候補で石山さんと会ったんですよ。
石山 話すなかで、一番やりたいことができそうだったのが奥州さんでした。
林 社内でそういう会があるんですね。
奥州 通常はあまりないですけどね。
石山 そもそも「これぐらいの期間で新しいゲームを1本作れ」と言われてプロジェクトが立ち上がるのも、だいぶ珍しかった気がします。
林 なるほど。
石山 それで、短い期間で作るのであれば、自分にノウハウのあるアドベンチャーにするしかなかった……という流れです。
おでーん そのプロジェクトが『パラノマサイト』になるわけですね。何名ぐらいの体制で作られているんですか?
奥州 最初は5人でスタートしてるんです。そのうち2人はプロデューサーの僕とディレクターの石山なので、開発スタッフは3人で。そこに外部のメンバーを含めても、全部で10人いくかいかないかくらいですね。
石山 スクエニとしてはだいぶ小規模で珍しい体制ですね。自分はその昔、携帯電話のアプリを数人で2〜3か月に1本作ってきた経験があったんで、そのときのノウハウでやりました。
奥州 いっぽうで僕は初めて携わるジャンルだったので、どれぐらいの規模感で作るのが適切なのか全然わからなかったんですよ。それで「このくらいの予算感でやろうと思ってます」って言ったら、皆さん口をそろえて「アドベンチャーでそんなにリッチなもの作ろうと思ってるんですか!?」って反応をされて…。危うく、だいぶ大きな予算感で開発会社を探してしまうところでした。
石山 自分もそれを言ったひとりです。アドベンチャーにそんなにお金をかけちゃダメ! って。早く安く作るためには、人数を削って自分でやれることは全部やる、決断も早くする必要がある。それでやっとできるんですから、と。
『パラノマサイト』では予算を抑えるために、テキストとスクリプトをほぼほぼ自分で書いて、キャラクターのグラフィックはコバゲン(小林元)さんが差分から塗りまですべて1人でやってます。
奥州 なので石山さんには、ディレクションに加えて2、3人分のタスクが乗っかってる感じですね。
石山 人がいないからできない、とか言ってる場合じゃないですからね。
おでーん ……。
―― あの、おでーんさん、なにかコメントがあれば…
おでーん いや、無理です。(衝撃のあまり)泣くかも。
林 え!?(笑)
石山 でも、同じようなことはやっているんじゃないですか。多分インディーの開発って、このぐらいやるのが当然の世界だろうと思ってるんですけど。じゃないと進まないじゃないですか。
おでーん 本当にそうです。でも、『パラノマサイト』が10人程度で作られたっていうのは驚きです。
石山 いやあ、実際に遊ぶと、ここは省略してるなーとか、ここはコストカットしてるなーっていうのがわかっちゃうと思いますけども。
林 むしろ遊んだうえで、もうふたまわりぐらい大きいチームだと思っていました。
おでーん 僕だってそうですよ。すごい丁寧に作られているって印象でしたから。かゆいところに手が届くというか、不足してるって感じるところもなんらかで補える要素があって。そこの部分がちゃんとできているので、プレイヤーの満足度は相当高いゲームだと思いました。
石山 そう言っていただけると嬉しいです。限られたリソースでやりくりしながらもうまく見せられたってことなんでしょうね。
例えば、コバゲンさんの絵のうまさとキャラの顔のよさで画面を持たせる、とか。とりあえずアップで出しておけば大丈夫だ! って(笑)。

おでーん 『パラノマサイト』のキャラデザと特徴的な表情の魅力はとんでもないですよね。大好きです。
でもそれだけじゃなくて、僕はシナリオがすごく好きなんです。めちゃくちゃ丁寧に作られてるし、ちゃんと説明もされていてわかりやすいので、本当に最高だなと思いました。
石山 ありがとうございます。読みやすい、わかりやすいっていうところはすごく気をつけてる部分です。
奥州 そこは石山さんのノウハウですね。メッセージ表示を2行までにしたり、なるべく短いセンテンスでつなげたり。
石山 文字がいっぱい出てくると、読み飛ばす人も出てくるじゃないですか。そうなると「よくわからん」ってなっちゃって、「おもしろい」と感じるところにまで到達してもらえなくなっちゃうんで。
おでーん そうなんですよね。
石山 なので、長いセリフは合間に別の人の合いの手を入れたり、重要なワードが出たときは復唱させたり。細かく気を配っているので、シナリオが丁寧で好きって言ってもらえると、よかったなと思います。
おでーん はい。それから僕はオカルトが好きで、とくに80年代が大好きなんです。
奥州 じゃあ『パラノマサイト』はドンピシャですね。
おでーん ドンピシャです。最高でした。

怪しいものを作れ!?『都市伝説解体センター』の誕生
林 『パラノマサイト』はアドベンチャーにするしかなかったとのことでしたけど、うちと墓場文庫での最初期は、集英社のミステリー小説家さんにお話を書いてもらってゲームを作りましょう、という話をしていたんです。
奥州 ええっ。
林 3年前くらいからミステリーや謎解き、ホラー、怪異、都市伝説みたいなものの流れが、徐々に盛り上がってきたと感じていたんです。
奥州 わかります。我々もそうですね。
林 そのときはゲームを2年後に完成させる予定だったので、2年後でもこの流れはあるだろうから、ミステリー系のジャンルの方とご一緒できれば大きな話題になりそうだと思ったんです。でも、作家さんのスケジュールがうまく取れず…実現することはできなかったんです。
石山 あー、なるほど。
林 なので、墓場文庫に「やりたいものをペラ1枚でいいから企画書として出して」って言ったところ、出てきたひとつに『都市伝説解体センター』って書いてあったんですね。
石山 そこから始まったんですね。そのアイデアはどういう経緯で生まれたんですか?
おでーん 僕たちは、せっかく集英社ゲームズといっしょにやるなら、幅広い人に遊んでもらえるようなものを考えよう、ってなったんです。
石山 はい、はい。
おでーん それで僕とプログラマーは、きっと感動ものだろうと思ってキラキラした企画を1本ずつ用意したんです。
いっぽうでシナリオ担当のきっきゃわーが出してきたのが、『都市伝説解体センター』でした。この3本の企画を、概要とモックを作って提出したんです。
林 モックっていうのは、1枚絵の画面サンプルみたいなものです。
石山 そこまで作れるのもフットワークの軽さですね。

おでーん で、僕とプログラマーの企画は、林さんから「はあ?」って言われました。
林 時代にあわせてひよっていて。キャラがぜんぜん違うじゃん! と。
一同 (笑)
おでーん 「墓場文庫が感動!? 笑わせるぜ。イキろうとしてるやん。もっと怪しいもの作ったほうがいいよ、君たち怪しいもの作るの得意だから」…って言われて。それで『都市伝説解体センター』を作ることが決まりました。
林 きさらぎ駅が書いてあって、ロゴもほぼ今の形ができてたんですよ。主役は廻屋くん。絶対チームに合うからこれをやろう、とスタートしました。
石山 怪しいものを作るのが得意だからって言われて、おでーんさんはどう受け止めたんですか?
おでーん たしかにそうだな、と思いました。
石山 腑に落ちたんですね(笑)。そういうもののほうがやっぱり好きだったりするんですか? 不思議とか怪異とか。
おでーん あとはミステリー的なものとか。好きかどうかというより、僕らはそういうものしか作れないんじゃないかなと今は思います。結局のところ、根っこの部分にあるものから生み出すしかないんだろうな…って。
都市伝説解体センターって何!? 廻屋とあざみの立ち位置
奥州 『都市伝説解体センター』でセンター長と遠隔でやりとりするのは、初期から今のような設定があったんですか?
おでーん いえ。最初は廻屋が動いて直接捜査する内容でした。
奥州 そうなんだ。
おでーん でも、ミステリアスで達観したキャラクターが怪異に巻き込まれていっても、あんまり怖くなさそうだし、プレイヤーの感情と一致しないなと思ったんです。なので彼を安楽椅子探偵にして、別のキャラクターを立てたほうがいいだろうなって変えたんですよね。



石山 そうですよね。キャラクターの立て方がよくできてるなと思ったんですけど、集英社ゲームズさんからはアドバイスとかしてるんですか?
林 集英社ゲームズでは、制作中のゲームをほかのプロデューサーやマーケティング担当にもプレイしてもらうんです。ほとんどはゲーム業界からきてる人なんですけど、なかには集英社の元漫画編集の人もいて。その人から出てきたアドバイスで的確に刺さったものがありました。
石山 へえ。具体的に聞いてもいいですか?
林 始まりが弱いって言われたんです。最初は、呪いの椅子の部分はまるまるなかったんですよ。元漫画編集者の集英社ゲームズの社員には、1話で理解させてフックをかけないと連載が終わってしまうかもしれない、っていう観念があるんですね。それで導入部分を作り直しました。
奥州 なるほどね。椅子のところはチュートリアルとして適切な作りをされてますよね。
林 その修正でキャラクターの役割がはっきりしましたし、都市伝説解体センターが探偵事務所的なところであることも明確になったと思います。それまでは市役所みたいだったり、ちょっとぼやっとしていた感じがあって。
奥州 プロデューサー目線だと、アニメ化とかを考えて林さんがこうしてくれ、ああしてくれって言ってるのかと思っていました。
石山 アニメにするにはこうしておいたほうがいい、とかね。キャラクターの表情もすごく多いですし。
林 もちろんストーリーものにしてキャラクターも立てましょう、ということは最初の段階でお願いしました。なので『和階堂真の事件簿』よりもキャラクターを際立たせよう、という部分はいっしょに作ったと言えますが…
奥州 そうですよね。
林 基本的には墓場文庫の4人で話し合って、週1のミーティングで客観的な意見を返して、また揉んでもらう…の繰り返しでできています。「ドラマ化されたら俺たちの勝ちだ」みたいなことを言ったりはしてましたけど(笑)。
奥州 そういう気概が、意外と大事だったりしますよね。
思い切ったキャラクター!?ジャスミンの成り立ち
石山 メインキャラクターとして、ミステリアスな安楽椅子探偵役の廻屋渉と、ユーザーの目線に立ってびっくりしてくれる素直な主人公・福来あざみ、はわかるんですけど、ここにジャスミンがいるのがすごいなと思いました。あの子はどんな流れで生まれたんですか?

おでーん ジャスミンは最初に主要人物を作った段階からいまして、要はサポート役です。
石山 ワトソン役ともちょっと違う感じですよね。
おでーん そうですね。なにも知らない福来あざみに対して、いろいろ知ってて説明してくれるキャラクターがいるだろうっていうことでジャスミンを作ったんです。
『パラノマサイト』も、基本的にはバディで動くじゃないですか。
石山 そうですね。でも普通、ガイド役をあの子にしようとはならないですって。
一同 (笑)
石山 ちょっと気だるい感じでやる気あるのかないのかわかんないような子に、急に車で連れていかれて……。ビックリするくらい思い切ったキャラクターだと思います。とりあえずジャスミンをガイドにしようって決めてから、性格や口調を決めていったんですか?
おでーん そうですね。福来あざみとの対称性を持たせていて。それに、もしジャスミンが自分でなにもかもできるなら、福来あざみといっしょには行動しないですし。
石山 なるほど。そうしてるうちに、ああいう性格の子に。

奥州 彼女の裏設定も後から作っていったんですか?
林 1話2時間ぐらいで終わる話が続いていくスタイルは最初から決まっていて、そのうえで最終話まで大きな話がつながるのも決まってたんです。すると全体を通したガイド役が必要になって、それがジャスミンの役割になりました。
おでーん それでジャスミンは各話で怪異とは別の事象に対応したり、ゲームの始まりからエンディングまで動いている立ち位置にいたんで、彼女を裏の主人公として仕上げたんです。
林 途中、ジャスミンとバトンタッチする形で富入というキャラも出てきますけどね。富入といえばあの特徴的な口調ですけど…、実は僕はイヤだったんですけど、おでーんさんがやりたいっていうので了承しました(笑)。
おでーん サブキャラのなかでとくに気に入ってるのが富入です。僕的にはかっこいいキャラクターだと思っています。

絵の多さの秘密はシナリオベース
石山 『都市伝説解体センター』は、キャラクターの表情の多さにびっくりしたんです。
うちは限られた枚数の絵を使って、寄ったり引いたり、あとは表情差分をうまく使って、退屈しないようにどうにかこうにかやっていたんですよ。なのに、これだけの絵の枚数と動きがあるのがスゲエ! と思いまして。
奥州 まったくそう思います。
石山 絵の枚数の部分で省略したりコストカットしているようには感じられなかったんで、こんなに入っていいなって思いました。ドット絵であること自体がもともとローコストなのかもしれないですけど…。
おでーん それはありますね。
林 描いてはゲームに組み込んで、違和感があったらまた描き直す、というのをちょいちょいやってた感じだったよね。
おでーん そうなんですよ。
林 たとえば、あざみの表情も日に日に増えていって…。結果的に、あざみの表情は50枚以上になりました。表情変化が豊かと思えるのは、そういう作り方をしていたからかもしれないですね。
石山 すごい! それはフットワークの軽さがなせる技ですね。それに、描き込んだキャラクター絵だと簡単には増やせないですけど、ドット絵なら口元を変えるだけで違う表情にしたりもできますもんね。
おでーん おっしゃる通りですね。
石山 それから、ファミコンより低い解像度で全部の絵を描いてて、それでこれだけ表現していることにも驚きました。ドット絵ってこんなに表現力あったのか、と。色も10色ぐらいしか使ってないんですよね?
おでーん はい。暗めと明るめの背景で各4色と、念視用など2色の、計10色です。
奥州 そのくらいの色数なんだ。

石山 背景も、色数が少ないのに明暗の表現がちゃんとしているし。それが独特の世界観にもなって、ドット絵であることがネガティブ要素じゃなく、全部プラスに働いていますよね。大正解だなあ。
林 おでーんさんはもともとウェブデザインをやっているので、色数やデータを絞りながらデザインするのがうまいんです。
奥州 なるほど、それでなのか。
林 仕事の手も早いので数多く描いてました。でも、「これでいいんじゃない」って言ったところにいつの間にか絵を増やしたりもしてましたね。
石山 いやー、わかります。自分が手を動かせばクオリティがよくなるんだったら、動かしちゃうよね!
林 クリエイターの意地ですよね。
おでーん 林さんに反対されると嫌だったので、ポストクレジット(スタッフロール後に流れるシーン)は内緒で作りました。
石山 あのシーン、最初はなかったということですか?
林 なにかやりたいという話は出ていたんですが、そのまま立ち消えになっていたんですよ。だからスタッフロールで終わるはずと思っていたんですが、開発終了間際に勝手に入ってました。
石山 ほへー。ふつうはそういうことをしようと思ったら、あのシーンは世界観も変わるし、新たなアートワークも必要になってくるじゃないですか。
林 土壇場になって、5話の終わりから最終話までを一気にひっくり返したりもしてるんですよ。墓場文庫の4人が、納得いかないところが結構あると言うんで。
おでーん はい、大きく作り直しました。
林 こういうときチームの規模が小さいと、小回りがきく利点はありますよね。墓場文庫は4人が「いいよ」ってなれば、計画変更ができちゃうんで。
石山 仕様は4人で話し合って決める感じなんですか?
おでーん そうですね。なんならプログラマーと僕とか、シナリオ担当とプログラマーとかが「どうする、やる?」「じゃあ、やる」って感じで決まっていきました。
石山 なるほど。作りながら仕様を決めていったんですね。
林 仕様というか、シナリオベースの作り方なんですよね。シナリオが変わるとキャラクターも変わってくるので、キャラクター設定を変えるだけでなく出番自体がなくなることもありました。描き直す苦労がないわけじゃないんですけど、ドット絵でそこまでハードルが高くなかったので。
石山 ほう! じゃあ、もしかして使わなかったリソースとか結構あったりします?
林 かなり捨てたよね。
おでーん そうですね。相当変えたんで。

石山 ええええ、すごい! 『パラノマサイト』は一切無駄にはできないというか、作ったものは使わなきゃもったいないっていう貧乏根性で作っていました。
おでーん それにしては絵と話がしっかり合っていますよね。途中で話の変更をするようなことがなかったんですか?
石山 もちろんありました。なので、使える場所とキャラクター、ポーズや表情といった、絵のなかで表現できる展開を考えていった感じです。

おでーん 墓場文庫はそういうのできないですね。作っては捨て、作っては捨て、でした。
石山 それももはや、うらやましい。
奥州 うちは、開発の最初にパターンのリストと総点数を決めていましたもんね。
石山 そうなんです。今回の期間はこれぐらいだから、キャラクターは何体まで、それぞれ表情は何パターンまで、っていう総枠をまず決めたんです。それ以上、点数は増やさないという前提でコバゲンさんに絵をお願いしました。だから、追加で必要になった場合は…
奥州 “入れ替え”をするんですよ。
おでーん 入れ替え、ですか。
石山 「やっぱりあのキャラが死ぬことになったので、このキャラのそのポーズはなしにして、あのキャラの死体を追加してもらえますか」とかね。
奥州 必要な絵を2点、3点って増やすんじゃなくて、不要にする絵との入れ替えなんです。もちろん、なしにしたい絵に取り掛かる前に指定しないといけないですが。
石山 だから『パラノマサイト』には、死体の絵があるキャラとないキャラがいるんですよ。
林 たしかに!

おでーん 絵の数に上限があるから、うちみたいに勝手にシーンを追加するととんでもないことになるんですね。
石山 基本的にはそうなりますね。
それでも、どうしても必要になったら、テキストアドベンチャーには暗転という必殺技がありまして。暗転中にテキストを出せば、どんな場面でもなんとなくごまかせるという…。
おでーん ああー、あのシーンとか…。
―― 気づかなかったことにしましょうか。
おでーん そもそもうちのシナリオが、ちょっと特殊な作り方をしているんです。
『都市伝説解体センター』の場合は、プログラマーから「こういうアイデアはどう? ラストはこういうオチでやりたいから、それをもとに1話から最終話までを考えてほしい」って言われて、僕がそれぞれ都市伝説やテーマを決めてシナリオの構成を考えるんです。その後、キャラクター同士の会話とかキャラクター性をつけていくのが、きっきゃわーの担当で。分業で回していくんですよ。
石山 話の大筋を決めて、細かいところへ受けわたす形ですね。
おでーん しかも僕が各話の構成を考えているあいだ、きっきゃわーはイラストレーターとしてキャラデザを進めているんです。
石山 効率的だ(笑)。
林 墓場文庫のメンバーは会社勤めを経験してからゲーム業界に来てるんで、仕事が早いんですよ。しかも在宅でバラバラにやっていて、なおかつひとりは神戸でなく東京にいるのに、それでもこうやって連携できているのはおもしろいですよね。
石山 そうなると、そこにもうひとり加わるとか、考えにくいですよね。
おでーん 僕は入れたいなと思っているんですよ。今のままだとプログラマーの負担がちょっとでかいんで。
石山 なるほど。ゲーム会社の作り方とインディーチームの作り方の違いはあるものの、墓場文庫じたいがわりと特殊なバランスで成り立っているチームなんだろうなって感じがしましたけど。
愛されるキャラクター作りとその広がり
おでーん 『パラノマサイト』って、各パートによって刑事ドラマだったり、学園ものだったり、全然違うテイストのドラマが楽しめるじゃないですか。あのあたりが幅広い層に受けているポイントなのかなと思ったりするんです。僕が特に好きなのは、私立探偵の利飛太と依頼人の春恵のふたりで。
林 うれいのあるマダムですね。

おでーん 一番セクシーなパートだなと思っているんですけど、これってどういうふうに生まれたんでしょうか?
石山 最初の興家編は呪詛バトルにして、そこから刑事編・探偵編・学園編のような物語が展開するというふうに初めからイメージしていたんです。
けど個人的には、探偵とマダムの話が一番つまんねえなと思っていて…
おでーん ええっ、そうなんですか!?
石山 刑事編は既に事件が起こっている状態だから、その捜査から話が進められます。学園編は夜中に学校でこっくりさんをするところから始まるから、あとは脅かすだけ脅かして学校から退出させればお話的にも持つだろうと思ってたんです。
だけど探偵編は、過去の暗い事件のことをとつとつと語るだけの展開から始まって…
おでーん “つまらない”というのは、シーンとして見せ場がなくて、ってことですね。なるほど。
石山 で、ずっと家にいても絵的に変化がないんで、お前らちょっと外へ出ろって外に出してみたら、意味もなくふたりで隅田川に行ったりして…
おでーん 駄菓子屋へ行って「なめどり」のくじを引いたりするのもそうですか?
石山 あ、そうですね。なんとかおもしろくしなきゃと考えながら作っていたら、“こんななりで実は血の気の多いマダム”と、“こんななりで実は常識人の探偵”っていうところに落ち着いた感じです。

おでーん 確かに味付けが相当濃い感はありますよね。僕はこのパートが一番好きで、めちゃくちゃしびれるんですけどね。マダムの危うさが怖えぇって、ドキドキするんです。
石山 キャラクターのおもしろさで引っ張るしかないなと思ってたんで、そう言ってもらえてよかったです。
おでーん “探偵とマダム”っていうコンビも、天地茂が名探偵・明智小五郎役を務めた昭和のTVドラマ「江戸川乱歩の美女シリーズ」(※)に近い関係性だなと思ってて。誘拐事件というのも昭和っぽい味わいですよね。
※「江戸川乱歩の美女シリーズ」:推理小説家・江戸川乱歩の原作をもとにしたTVドラマ。名探偵・明智小五郎が妖艶な女性の関与する事件を解き明かしていく
石山 そうですね。本当は「逆探知だ!」とかやりたかったんです。誘拐事件で、犯人から身代金要求の電話がかかってくるシーンとか昭和っぽいし、物語に起伏も出せると思ったんですけど。でも今作の流れで同時に誘拐事件を展開させるのはさすがに無理だったので、今のような過去を振り返る構成になりました。そしたら退屈になっちゃったんですけど。
おでーん そうでしょうか? 僕は大好きです。
石山 そう言ってもらえてホッとします。
おでーん 実際、あのふたりは人気キャラじゃないですか。
石山 そりゃもう、ビジュアルが強いですからね。『パラノマサイト』はビジュアルを見てからキャラクター設定を決めたんで、どこかに意外性を持たせるようにしていました。利飛太も、こんな派手な格好をしてるから、一人称は「僕」にしてみようかなとか、そんなふうに。
林 そういう意味でいうと、キャラクターの表と裏があるのはミステリーならではだし、2作品に共通するキャラクターの魅力なのかもしれないですね。
石山 どんなキャラクターを設定するときも、どこかに意外性というか、実は何々みたいなところは持たせたいなとは意識していますね。
林 しかも、どのキャラクターでもスピンオフ漫画が連載できそうですよね。
おでーん そうですよね。人気トップはミヲちゃんなんでしたっけ。
奥州 ミヲちゃんですね。アンケートの取り方で結果はだいぶ変わってくるんですが。
おでーん 僕もミヲちゃん好きですね。

奥州 僕は正直、そんなに心が跳ねなかったんです。
おでーん あー、本当ですか!
石山 僕は、「絶対いける、ミヲちゃん人気出ますよ」ってずっと言ってたんですけど。
奥州 なので僕は意外だったんですが、蓋を開けてみたら本当にミヲちゃんで。
おでーん いや、そうですよ。すごいし、めちゃくちゃかわいいじゃないですか。絶妙なキャラデザですよね。
林 ふっくらして。なのに印を結んでね。
おでーん でも霊能者ってちょっとふっくらしてる印象ありますよ。
林 そうかな。でもあの設定はいいよね。それもビジュアルから設定が生まれたんですか?
石山 そうですね。絵を見て、これは霊能者だけど割と優しい女の子なのかなーと。だけど、なにもしてないと暗いと言われてしまうのを本人はちょっと気にしている、という感じに。
おでーん 『パラノマサイト』は本当に愛すべき人々ばかりなのがいいんですよね。『都市伝説解体センター』はどちらかというと、ろくでもない人間って感じのキャラクターが多いじゃないですか。
石山 でも1話完結物のゲストキャラって、いくらでも尖らせられるじゃないですか。ガスマスクつけるくらい。
おでーん (笑)。
林 あれはおでーんさんのユーモアかな。最初はガスマスクをつけてる理由がない、と思ったんですよ。でも、いいよね。
石山 山田ガスマスクはビジュアルから入ったんですか?

おでーん そうですね。3話は登場人物がたくさん出てくるんです。キャラを覚えてもらえないのが一番よくないんで、それぞれにキャラ付けしようということでああなりました。
石山 なるほど。小道具は便利ですよね。
林 藤原が頭の左右に懐中電灯をつけてるのも、最初上がってきたとき笑ったね。どっかの映画で見たなって。
おでーん そういう感じに作っちゃいましたね。
林 しかも最近はファンの人たちがキャラ付けを増やしてくれているんです。
松田っていうごついキャラがいるんですけど、ちょうどSNSでマッチョの人がポメラニアンを抱えてるっていうのが流行ってたんですよ。
おでーん そしたら、いつの間にか松田がポメラニアンをペットで飼ってるっていうのが都市伝説になってて…
林 作ってない設定が勝手にできていた(笑)。ああいうのはおもしろいですね。
石山 そんなふうに愛してもらえるのは光栄ですよね。
おでーん ありがたいことです。
林 松田とポメラニアンはもうセットだね。ゲームでは1回も出てこないけど。
『都市伝説解体センター』ゲーム大賞受賞、その模様をコメント共にもう一度お届け
9月23日に東京・内幸町のイイノホールで開かれた日本ゲーム大賞2025授賞式で『都市伝説解体センター』が優秀賞を受賞。集英社ゲームズを代表して林P、墓場文庫を代表してハフハフ・おでーんさんが壇上に上がりました。途中、感極まったおでーんさんが墓場文庫の仲間を見ながら涙で声を詰まらせる一幕もありました。

この度は名誉ある賞を賜りまして、誠にありがとうございます。数名で開始したこのプロジェクトがここまで大きく成長したのは、応援して頂いたファンの皆様のおかげだと心から感謝しております。これからも集英社ゲームズは、作家性や作品性の魅力を最大限大切にし、皆様に届けるべく邁進して行きます。また墓場文庫との次のプロジェクトも検討しております。引き続きのご支援宜しくお願い致します。

皆様のおかげでこの度『都市伝説解体センター』は日本ゲーム大賞優秀賞という賞を受賞することができました! この賞は2023年には『パラノマサイト』も受賞した栄誉ある賞で、本当に光栄なことだと思っております。この賞は我々が敬意をこめて「怪異」と呼ぶファンの方々が獲った賞です! 本当にありがとうございました!
後編へ…
まだまだ続きます!後編はこちらをご覧ください。
製品情報とその他の記事

対応機種:Nintendo Switch 他
発売日:2023年3月9日
価格:ダウンロード版 1,980円(税込)
ジャンル:ホラーミステリーADV
CERO:17歳以上対象
▶︎公式サイト
▶︎マイニンテンドーストア購入ページ

対応機種:Nintendo Switch 他
発売日:2025年2月13日
価格:パッケージ版 3,740円(税込)/ ダウンロード版 1,980円(税込)
ジャンル:怪異を解き明かすミステリーアドベンチャー
CERO:15歳以上
▶︎公式サイト
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