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「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」完結記念 姫川明インタビュー後編

絵からドラマが見える、想像を喚起させる世界

リンクを描くときのポイント!

—— 「トワプリ」に限らず、リンクを描くときに心がけていることを教えてください。

本田 ズバリ、生え際と筋肉量でしょう。

長野 マンガの中ではキャラクターらしさを描く上で、顔の部分、前髪から目にかけての表現は重要なんじゃないかな。

本田 公式アートワークのリンクは筋肉に嘘がなく、体のバランスが非常に安定しているように描かれていますよね。「地」に足がついていて、体つきもすごくしっかりしているんです。自分の絵は、本来「風」に流れるような画風なので、本当は真逆なタイプなんですよ。

—— 確かにマンガ「ムジュラの仮面」の番外編に登場する旅人さんとか、そんな感じの印象を受けます。

「ムジュラの仮面」の番外編では、姫川先生のオリジナルキャラクターによる、ムジュラの仮面が創られたストーリーが描かれた

本田 リンクのようなキャラクターを描くのは、結構ハードルが高いと思いますよ。リンクは結構骨太で、男性的な感覚がデザインに入っているキャラクターなんです。

—— たしかによく見ると結構がっしりしていますね。

本田 ゲームのアートワークの方での『ゼルダの伝説 時のオカリナ』や『トワイライトプリンセス』などの緑の服の青年リンクは特に、服の下の筋肉までしっかり描かれています。ゲームでは、わざとなんですが、体の大きさに見合わない巨大な剣を持っているキャラクターがよくいますけども、ゲームの方のアートワークでもリンクは、筋肉の量とバランスに見合った武器しか持たせていないですよね。本当に嘘がないなと思います。それを上手く捉えようとすると、実はリンクは描くのが難しいキャラクターだと思います。デフォルメされたトゥーンリンクからリアルなリンクにまで、共通して言えることだと思います。

—— なるほど。リンクを描くときには筋肉を意識しつつ…ですね。

本田 ただ『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のリンクは筋肉感をあえて捉えていない感じだと思います。彼は中性的な雰囲気ですよね。実は、私たちもこっちのリンクの方が、元々の画風に近いので描きやすいデザインだったりしますね…(笑)。

姫川先生が今までに描いてきたリンクたち

「トワプリ」の他にも、姫川先生が手がけた作品の中で、剣を手にし、きりっとした表情をするリンクたちを集めてみました。姫川先生の言葉を踏まえて、作品ごとのリンクの描き方を改めて見比べてみましょう。

5巻 第32話「マスターソード」より。選ばれし剣を手にする「トワプリ」の青年リンク

「時のオカリナ」の青年リンク。「トワプリ」のリンクの雰囲気にも一番近いリンク像

「ふしぎの木の実」でのリンクは、田舎の祖父母の元で育った感情豊かな熱い少年

「神々のトライフォース」のリンクは、少年と青年の間と思われる年頃。純朴な雰囲気

「4つの剣」で描かれたリンクたちは、公式アートと大きく異なり、各自性格に個性がある

「夢幻の砂時計」のかわいいトゥーンリンク。とっても素直で勇敢な少年。純情なオイラっ子

絵を描くときに大切にしていること

—— 「ゼルダの伝説」に限らず、絵を描くとき意識していることはなんでしょうか?

本田 「生命力」と「トリップ感」かな。

—— 「トリップ感」とはなんでしょうか。

本田 見たときに、キャラクターのドラマや想像力が湧き出る絵、ということですね。動きやドラマが見えて、想像を喚起させる世界を心がけています。

—— 「ゼルダ」ではありませんが、京都での個展「四天神狼」(※京都での個展「四天神狼」… 2021年11月21日〜23日に京都で開催された、本田先生のソロ個展。)の作品もすばらしかったです。

京都ちおん舎での展示風景

本田 あれは、また絵やマンガとは違って書の世界に近い感覚です。「気」の操りに近いですね。筆の気流と気持ちで描いています。雑念が有ると描けないんですよ。動物はよく観ているし触れています。彼らの生命としての力強さを見ていると描き留めたくなりますよね。

長野 意識して描けるものではないのですが、私の目から見ても、本田は昔から、イラスト1枚に対してそのキャラクターの背後まで見てみたいなと思わせる絵を描く人でした。こういう含みのある絵を描ける人はなかなかいなくて、単に上手いとかだけじゃないんですよ。マンガに限らない話ですが。

—— お2人共、本当に素晴らしいと思いますよ!!

「時のオカリナ」の上巻より。ページ数に限りがある学年誌での連載では、絵に含む「トリップ感」がいかに大事かを思わせる

「時のオカリナ」の下巻より。長い冒険の先で、ついにゼルダ姫と再会できた場面。たった1コマの絵の中にもリンクたちの表情などから、ドラマ性を強く感じることができる

リンクとともに歩んだマンガ家人生と今後

—— 姫川先生にとってのリンクとはなんでしょうか…?

本田 多くの冒険の旅に連れ出してくれた存在です。「ゼルダ」のおかげで、世界中を回って、いろいろな文化に触れることができました。2017年アメリカのニューヨークでのコミコンにゲストに呼んで頂いて、ロックフェラーセンターにある「Nintendo NY (ニンテンドーニューヨーク)」でサイン会をさせていただいたのは特に思い出深いです。『ゼルダの伝説』というタイトルの大きさのおかげで、とても貴重な体験をさせて頂いてるといつも思っています。

—— やはり、海外の文化の影響も?

本田 そうですね。アメリカではコミックとマンガは明確に違うジャンルのもので作り方もかなり違っています。アメコミは基本分担制でシナリオ、下絵、ペン入れ、着色、表紙も別々のアーティストが担当することが多いです。それでいくと『ゼルダの伝説』のコミカライズはそんな感覚に一部近いのかも知れません。私たちは、『ゼルダの伝説』のマンガ部門を担っているという感覚ですね。

—— 『ゼルダの伝説』のコミカライズは本当に大業だと思います。

本田 世界中の『ゼルダの伝説』ファンからの期待や思いがあるので、非常にエネルギーを使います。マンガ家としての脂の乗った時期は「ゼルダ」と共に過ごしてきましたね。

—— 姫川先生に『トワイライトプリンセス』を描いてほしいと思う世界中からの期待は大きかったと思います。…ただ、正直お2人で背負うには、重すぎるものだと想像できます…。

長野 『トワイライトプリンセス』は『ゼルダの伝説』の中でも描くのが一番難しい題材だったと思います。でも描くからにはファンの期待に応えたいと、一生懸命に頑張りました。

本田 実は私、「トワプリ」の連載終了を機にアーティストとしての活動もしていきたいと考えています。自身の原点に帰り、馬と一緒に暮らす計画も考えています(笑)。「四天神狼」のような個展も今年いくつか開催する予定です。今後はマンガ家という枠に捕らわれない活動も考えています。

—— マンガの方は…?

長野 もちろん続けます。これからも『ゼルダの伝説』を描く機会はあるかもしれないけれど、今のところどうなるか、それは分からないですね。

—— 「ゼルダ」を描くのは最後かもしれない…!?

本田 『ゼルダの伝説』を自分たちと完全に切り離す、というのはありえないでしょうね。これまでのマンガ人生の長い時間を共にしていますから。今後は両輪走行ができたらと考えています。今後は、「トワプリ」のように「ゼルダ」だけに全力を注ぎ込むのではなく、自分たちのアーティスト性を発揮した表現もしたいということで、主軸を「コミカライズ」ではない方へ変えたいなとは思っています。

作家、姫川明の思いと創造・クリエイト

—— 姫川先生の考える「コミカライズ」とはなんでしょうか?

長野 私の感覚としてはシリーズものの映画を演出していることに少し近いかなと考えています。「スター・ウォーズ」にしろ、「ハリー・ポッター」にしろ、監督さんは代わる事もありますが多くのファンがいる長期のシリーズを、期待に応えて作るのは本当に大変な仕事だと思うんですよ。そういう映画を観ると、楽しむのと同時に励まされたりしています。監督がなにを描こうとしているかを考察するのは勉強になります。映画も、私たちのマンガも、それを見抜こうとしながら観るのは面白いことだと思います。

本田 大人になった読者の皆さんには、マンガを「おもしろかった…!」と思うだけではなく、『トワイライトプリンセス』という題材を、私たちがコミカライズとしてどのように考えながら作品を仕立てようとしているかを、考えながら読んでいただけると嬉しいかな。

—— まるでゲームを攻略するような感覚ですね…!

長野 マンガ家として「ゼルダ」をクリエイトしている、と理解してもらえると嬉しいですね。『ゼルダの伝説』を深く愛する人は、感性の鋭い人が多いと思うんです。ですから、私たちの手がけた「ゼルダ」に対しても、楽しみつつ、クリエイトされた含みの部分も、きっと分かってもらえるんじゃないかなと思っています。

—— 最後に読者の皆さんに一言お願いします!

本田長野 タイトルによって描いた時の世相や、誰に向けて描くかによって様々な想いを込めて描き続けてきましたが、原作ゲームを知らない読者でも『ゼルダの伝説』の世界を好きになってくれるように、そして『ゼルダ』が好きな人がマンガに触れる事で少しでも楽しんでくれるように願って、22年間頑張って描いてきました。「トワイライトプリンセス 」の11冊はその集大成です。今後はマンガや「ゼルダ」に限らず、作家「姫川明(姫川明輝)」のアーティスト性の部分にも注目していただけると非常に嬉しいです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

—— ありがとうございました!

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