バディミッション BOND 開発者インタビュー  #1 京と紅玉

「コミカル」と「スタイリッシュ」。多くの人に愛されるような作品を目指して

ゲーム製作の現場もまさに「バディ」で進行

—— 本作のストーリーはどのように作成されていきましたか。

杉原 まず、章立てのストーリー概要を考えて、エンディングまでの話の流れを大まかに決めました。次に、各捜査マップ・潜入マップの構造や、そこで必要になる情報をチームで検討し、そこからは章ごとに詳細なプロットを作って、内容を詰めていきました。本作では、章頭のシナリオパートに、後の捜査パートの答えになるようなキーワード、キャラクターの個性、プロフィールなどを盛り込んでいます。ストーリーとしての盛り上がりと、攻略ヒントの妥当性・覚えやすさを両立する必要があったので、プロットの時点で、セリフレベルまで細かく落とし込んで書いていましたね。地の文が含まれていたせいもあって、実際にできたシナリオより、プロットのほうが長いくらいでした(笑)。それをたたき台として、中山さんや、各パートの担当者が集まる会議に持っていって、相談しながら詰めていくという制作の仕方でした。

中山 制作工程としては、まず捜査マップの聞き込み施設や人物の数から逆算して、捜査パート攻略のために前段階としてどんな仕込みがアドベンチャーパートで必要になるかを話し合うことが多かったですね。主要キャラクターや主軸のストーリー描写を邪魔しないように、ゲーム攻略のために必要となる情報をシナリオに馴染ませて盛り込んでもらうのは骨の折れる作業でした。たまに逆パターンもありまして、杉原さんのプロット原案を見た後に、ストーリー進行上必須で描かれる要素から発想を得て捜査マップに登場させる施設を変更したりなど、ADVパートと捜査パートを行ったり来たりして組み立てていったというのが、本作ならではのシナリオ製作だったなと思います。

杉原 プロット原案の時点では説明すべきことやヒントの提示が不十分だったり、逆に遊びと関係のないところが長くなってしまっていたりと、いろいろバランスを欠いていましたが、中山さんや各パートの担当者の意見を受けて、研磨されていきました。チーム一同、覚えることが苦にならない、といいますか、むしろ理想としては、シナリオを楽しんでいたら勝手に覚えてた! となっていただけるような設計を目指しました。

中山 杉原さんとはかなり初期から、シナリオの詰めを交換日記のようにずーっとやっていましたね。

—— ストーリーもまさにバディを組んで一緒になって作られた感じですね。

杉原 本当にそうですね。交換日記はもちろんのこと、夏休みにシナリオ合宿にお付き合いいただいたことも、とてもよく覚えています。7時間くらいぶっ続けで相談に乗っていただいたような(笑)。

中山 杉原さんと私のバディエピソードがあるとしたら、もう50話くらい溜まっているかもしれない(笑)。あと、思っていたよりボリュームのあるシナリオに仕上がりましたので、序盤で仕込んだ伏線を後半で覚えておらず、せっかく伏線が回収されてもその実感が湧かないということも、開発中のシナリオでは普通にありましたね。杉原さんにそのたびに「なんでこのキャラクターはこんなリアクションしてるんでしょう?」とか、伏線と気づけなかった箇所はたびたびお伝えして、どう悪目立ちせずにさりげなく印象づけるかを話し合ったなと覚えています。

杉原 シナリオ制作に入ると、私は蟻の目線で細かい点を詰めていきがちになるのですが、鷹の目を持った中山さんからご指摘をいただいて、自分には見えていなかった大切なことに気づく機会が多かったですね。

カッコいい少年漫画の世界と村田雄介先生のデザイン

—— 本作のキャラクターデザインが村田雄介先生に決まった経緯を教えてください。

襟川 男性同士の熱い絆を描くということで、私たちがキャラクターデザインに求めたものは「少年漫画的なカッコよさ」でした。両社で検討するなか、任天堂さんから、村田雄介先生のお名前が挙がりまして。勢いのあるキャラクター描写とずば抜けた画力にとても強く惹きつけられましたね。本作が目指すカッコよさにぴったりだ、ということで、ほぼ満場一致で決まったと記憶しています。

中山 任天堂としてはより多くの人に親しみやすい、受け入れていただけるだろうと思える絵柄を探していました。 何か奇をてらったような方向性よりも、王道感があって愛せるデザインを目指していたので、ほんとうにぴったりでしたね。

—— コミック風の演出が印象的でした。

中山 最初からマンガにしようと思っていたわけではないのですが、KTさんから、造語で「コミカリッシュ」というビジュアルのキーワードをいただきましたよね。

杉原 はい。弊社のCGディレクターが、企画の立ち上げの際に提示した造語で、「コミカル」と「スタイリッシュ」を組み合わせたものです。中山さんがおっしゃるとおり、ダイレクトに「マンガ」を意味する言葉ではなかったのですが、のちに、村田先生がキャラクターデザインを引き受けてくださったことで、CG側もパワーに満ちあふれた村田先生のイラストを、最大限に生かせるような見せ方をしたいと考えていたようです。

襟川 最初は、メッセージウィンドウがあって、その上にキャラクターのバストアップが表示されるという、オーソドックスな画面構成だったんですが、村田先生が描かれる立ち絵がどれも動的かつパワフルだったので、この見せ方ではもったいないなと。動きのある画面にするにはどうしたらいいのかと考えて、コミック風の画面作りをすることが決まっていきましたね。ゲーム自体、少年漫画的なテイストを目指していたので、ちょうどはまった感覚がありました。

中山 あとは、何かビジュアル面での特徴が欲しいという思いはありましたね。数あるアドベンチャーゲームとは違う、『BOND』らしい画面作りを一言で簡単に言えた方が良いなと思っていました。結果、ストーリーにもぴったりで、村田先生の絵の魅力を一番引き出すデザインになったと思います。

セリフを元に描かれたというコミカルな表情が印象的なしょんぼりモクマさん

村田先生の美学による『BOND』のチャームポイント

—— 『BOND』のキャラはカッコよさがありながら、みんなどこかに愛嬌を感じるデザインに感じます。

杉原 ルークは最初ツーブロックではなかったのですが、先生からのご提案で今の髪型になりました。先生は「今のルークの顔部分は、たとえば子供がルークを描いた時に、それがルークだと一発でわかるような特徴に欠けている。たとえ平凡さがウリのキャラであっても、キャラらしさは大事にしたい」と仰っていました。幅広い年代から愛される少年漫画を描き続けてきた村田先生の美学が見えるようなご調整だったと思います。また、キャラクターの立ち絵の発注の際、CGディレクターがちょっと変わった発注資料を作っていました。白紙の空間に、漫画の吹き出しのセリフだけ書かれたもので、「先生ならこの時どういうコマにするかというイメージで描いてください」とお願いしていたんです。漫画家である先生の魅力的なキャラクター表現を最大限発揮していただく目的であったようです。結果、私たちでは予想もつかない大胆なポーズや表情をたくさん描いていただけました。

—— メインカラーの色でもあるグリーンの使い方や表現も素敵でしたね!

杉原 ありがとうございます。CGディレクターいわく、村田先生の既存の作品を拝見していたところ、キャラクターの影に、ネオングリーンの照り返しの光をカッコよく使って、立体感を出しているイラストがあったそうでして。それを参考に、『BOND』でも、ネオングリーンのリムライトをキャラクター表現に取り入れたとのことです。ゲームのパッケージにもこの色が採用されており、お客様にも「BONDといえばこの色」というイメージをお持ちいただけるのではと思います。

—— ルークとアーロンの瞳の色にもグリーンが使われていて、なにか特別な色なのだという意図を感じました。

杉原 メインカラーと2人の瞳の色は、別々に設定されたもので、奇しくもそろったというのが実情です(笑)。ルークとアーロンの瞳の色が同じなのは、最初期の設定において、2人が兄弟だったためです。設定が変わって以降も、大切なものを分かちあっていることの象徴として、そのままにしていただきました。

BeastおよびOutwitter、NinjaならびにDoggie

—— チーム名の『BOND』は、それぞれのキャラ要素もしくはゲームタイトルの、どちらから先に決まりましたか?

襟川 「BOND」って「絆」という意味ですので、最初からその言葉を使ったタイトルにしたいと考えていました。

中山 なので、タイトル名を先に決めたのが経緯ですね。言葉の響きも、チームで気に入ってました。でも、『BOND』をタイトル名にしようとなった時に、絆って意味だけじゃ弱いかも…とは思いまして。ルークの「Doggie」、アーロンの「Beast」という呼称は、開発初期から存在していたものの、チーム名やタイトル名にするつもりで決めた呼称ではなかったんです。だからBONDの頭文字に偶然にも当てはまると気づいた時は、当事者ながら「え! こんな事ってある!?」と驚いてしまいました(笑)。

杉原 そうですね。「Beast」と「Doggie」、それに「Ninja」までそろっているから、あとは“O”だけだなとなりました。

—— 「忍者」は当てはめるために用意したようにも感じたのですが、そうではないのですね…!?

杉原 はい、忍者の方が先でした(笑)。“O”については、中山さんたちとかなり議論しましたよね。

中山 チェズレイは、最終的に「Outwitter」になってはいますけど、この単語みんなわかるかな? という議論はけっこうしました。もっとわかりやすい呼称がないかどうかを模索している中で、何がチェズレイらしいだろうってところで、「御曹司の“O”とかじゃダメかな」って、ジョークと真剣半分ずつになってて(笑)。ギリシャ神話の神様の名前とか、オペラとかも考えたのですが、チェズレイだけ最後まで本当に悩んでいました。どれをとっても一人だけ浮いてたので、最終的には彼らしいものに決着したと思います。偶然か奇跡か、BONDに当てはまってよかった!

#2 テーマ曲「I SHI KU RE」にまつわる裏エピソード

—— 「I SHI KU RE」の歌詞にまつわるサイドエピソードもぜひ!

中山 そうですね、歌詞についても作詞家さんや杉原さんとご相談したことを覚えています。当初、作詞家さんからご提案いただいた内容に「ひとつにはなれないけれど 大丈夫」といったフレーズが含まれていたのですが、杉原さんから、本作はむしろ、「一つになんかなるのはごめんだ」というコンセプトであるとご説明をいただきました。それで、「違う二人だから これからも上手くいくよ」というフレーズに置き換わりましたね。

杉原 たしかにそこはわがままを聞いていただきました。「異なる個性のぶつかり合いと磨き合い」という要素を、ぜひ入れたいとお伝えしました。

中山 杉原さんからのご説明を改めて聞いて、ルークの台詞を思い出しました。「ひとりひとり、違った石です。綺麗だとは限らない。曇ったり汚れたりもする。僕もそうです。でも、お互いが触れあって、ときにぶつかりあって、研磨されて——それぞれが、輝きを増していくんだと思います」と。確かにチームBONDの4人…というか本作に登場する人物は皆、ダイヤのように美しくカットされているような整った状態の宝石ではないし、それ自体で何億円にもなるような価値を呈した石ではないと私も解釈しています。BONDたちは宝石ではない石くれの集まりで、凹凸のようにぴったりとはまらない不揃いな石たちだからこそ、ぶつかり合い、その時に火花が散る。その眩しい火花の輝きは、「ひとつになったら」生じない輝きです。まさに「違う二人だから」こそ、何者でもない石くれが相棒と共に放つことができる光なんですよね。

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